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スライム転生物語  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中
第二部 妖精編

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第八章 アベルの情報

 そうして移動することしばらく、偶然見つけた川の側で休むことにした。もちろん身を隠しながらだが。


「これから、どうするか」


 そう言いながら溜息しか出てこない。結局肉屋の手がかりも手に入ってないし、あの結晶に閉じ込められた女性が何者かも不明。敵だけは、はっきりしているが何故チャットを狙うかもほとんどわかっていない。


 研究者とか言っていたが何の研究をしているのやら。


「ってミラは何してるんだ?」


 熱心に荷物から取り出した本を捲っている。そんなものを持っていたのも意外だがこの状況でそこまで必死に何を探しているのだろうか。


「あった、ありました!」

「だから何が?」

「これです!」


 勢いよくそう言ってミラが差し出してきたのを読んでみようとしたが、


「……読めん」


 文字に対してスキルが効果あるのか知らないが、人語がわからない今は全く分からないのが当たり前だった。


「要約するとたぶんですけど、あのアベルっていう人が起こした事件についてかいてあるんです」

「本当か!?」


 まさかこんなところから敵の情報を得られるとは。人生何が役に立つかわからないものである。


「アベルって人物が少し前に、私達が目指している場所でもある南の街で禁忌に当たる研究をしていて、捕まりそうになると街から逃亡して身を隠したみたいです」

「あいつもそんなようなこと言ってたな。愚か者には理解できないとか何とか」


 実験動物とか言っていたし、チャットを狙うのもその研究のためということか。肉屋も珍しいだろうし、だから捕まえたのだろうか。


 そんな危険なことする同名の奴がこんな近くに二人いるとは考えにくいし間違いないだろう。


「それであいつは何の研究をしていたんだ?」

「えっと、詳しい内容はわからないですけど魂の研究をしていたみたいです」

「魂ねえ」


 漠然としすぎていてさっぱりわからない。


「それにしてもよくそんなことが書かれた本を持っていたな。どこで手に入れたんだ?」


 普通に考えてそんなことが書かれたものが必要になるケースはそうそうないだろう。


「ギルドは各支部でその周辺で起こった出来事や事件を記録しているんです。それを時折本にして情報として売っているので、前に南の街に行ったときに買っておいたんです。何が起こったか知るのは私の旅する目的に近いものがありますし。さっきの口ぶりからして追われている感じだったから、もしかしたらと思って調べてみたらビンゴでしたね」


 世界を見てみたい、その一つの方法がそうして情報を得ることだったということか。気になった情報を調べたりしたのだろう。


 それにしてもギルドと来たか。ファンタジー世界の定番の存在だし、それ系のはあるだろうなとは思っていたが、ミラもそれに参加しているとは。

 色々話を聞いてみたい気もするが今はそんな状況じゃないので我慢して、


「それで、これからどうする?」


 さっきと同じセリフになったが、結局のところそこ行きつくのだから仕方ない。


 チャットは泣き疲れたのか眠ってしまっているし、ぶっちゃけた話をするにはいい機会だった。


「このままあいつと戦おうにもどっかに隠れて出てくる様子はない。そこを見つけるのは難しいよな」


 たとえそうじゃなくても、その捜索中に何回妖精達と戦うことになるのだろうか。余計な被害を出したくないのもあるが、こっちの体力が持たないなんてことにもなりかねない。そうすれば結果は言うまでもないだろう


「幸いあいつはこの通り悪い奴みたいだし、通報か何かしてしかるべき手段で捕まえてもらうのもありじゃないか?」


 チャットには悪いがここで無理するつもりはない。肉屋も戦闘禁止の力がある限り殺されることはないはずだ。少しくらい助けが遅れても何か起こるとは考え難い。


 問題はあの女性なのだが、あれだけ強固な結晶に囚われているということはそうそう危害を加えることもないということの証だろう。でなければあんな厳重に捕えたりはしない。


「はっきり言えばこのまま逃げて南の街に行くのもありだろって話なんだが、どう思う?」


 自分が関わっておいて人任せにするというのはやはり居心地が悪いしできればしたくないが、生死かかってくるとなればそうも言ってられない。確実な手段を取るべきだ。


「……私はそれには反対です」


 だが、ミラは首を横に振った。


「どうしてだ?」


 ここで善意云々の話をするなら無理矢理にでも連れて行こうと決めていた。すべてを救えるほどオレは強くも偉くもないのだから。


 でも、ミラの答えは違った。


「逃げ切れるとは思えないからです。確かにあのアベルって人にとってもそれが一番やられたくないことだと思います。居場所を知られれば追っ手を差し向けられるはずですから。それなのに敵は私達に正体を隠すわけでもなく、ペラペラと自分のことを話していました。たぶん、逃がさない自信があるんです」

「む、そう言われればたしかに」


 あの態度は完全にこちらに眼中がないといった様子だったし、騙していることはないだろう。そもそも騙すなら最初からあんな現われ方をしないはずだ。


 ミラの言葉はまだ続く。


「それに、時間が経てば経つほどチャットが弱ってきている気がするんです」

「え!?」


 チャットを見るが眠っているし外見に異常は見当たらない。


「それは間違いないのか?」

「はい。魔力が明らかに減ってきているんです。もしこれがあのアベルって人の仕業だとしたら最悪、チャットは魔力が空になって死んでしまうかも。敵にとってチャットは何かしら意味を持っていそうでしたし、そうそうそんなことになるとは思えませんけど」


 それじゃ危ない橋は渡れないということか。死ぬかもしれないとわかっていて逃げるのを強行するのは得策とは言えない。それにチャットがいなきゃ妖精を見たと言っても信じてもらえないだろう。


「もしかしたらそれがあいつの自信の元の一つなのかもな」


 他の妖精達に自爆させる力を持っていたのだし、同じく妖精のチャットにだけそれがないとは考えづらい。今はまだ必要だから生かしているだけで、我慢の限界を超えたらなんてこともあり得なくはない。


「でも、そうなったら方法はあいつを倒すしかないな」


 どうやってという最大の問題は置いておくにしても、アベルを倒してチャットの無事を確保しなくては何をするにしても安心できない。


 アベルに化けた妖精達といくら戦ってもキリがないし、犠牲を増やすだけだ。狙うなら親玉を一気に叩くことだろう。


 だが、さっきも言った通りそれが一番難しい。何より相手の本拠地に乗り込む時点で危険度が高い。それを除いてもそもそもそこがどこかすらわかっていないではないか。


 まさに八方塞がりとはこのことだった。

 今まで得られたスキルはほとんど戦うためのものばかりで、探索に役立つようなスキルはない。あてになる肉屋は行方不明。


 頼りの綱のミラは、


「もしかしたらなんですけど、精霊を使って敵の居場所を見つけることは出来るかもしれません」


 普通にイケた。


「てか、だったら最初からそうしておけばよかったんじゃないか?」


 そもそも精霊がそんなに便利ならわざわざ自分達が危険を冒す必要はなかっただろうに。森の探索も精霊に頼めばよかったのだ。


 だが、そんなことをミラがわかっていなはずもなかった。


「魔力が十分に満ちているところじゃないと出来ない方法ですし、魔力をかなり消費するからその後の戦いに支障をきたすと思います。少なくともその後一日は私の戦力は半減すると思ってください。しかもこの方法はあくまで魔力が満ちている場所を見つけ出すだけなので、魔力が関係していない場合は効果がないんです」


 なるほど、リスクも高いというわけか。探索に力を使いすぎて何もなしだったら無駄に力を消費することになる。あの場において何が起こるかわからなかったし力の温存を選択したのは正しい判断だ。


「今回の場合、あの人は魂の研究をしているみたいですし、まず間違いなく大きな魔力を使っていると考えられます。というかそうじゃなきゃ魂なんて研究できるはずありませんし」

「なるほど。変なこと言って悪かったな。それじゃあ頼めるか?」

「もちろんです」


 少し離れててくださいとの言葉に従って、距離を取りいまだに眠り続けるチャットの隣まで下がる。


 ミラは近くにあった棒切れを拾うと、それで地面をなぞって何かを描いていく。そして、漫画とかでよくありそうな魔法陣のようなものがミラの足元で完成した。


「いきます」


 ミラが大きく息を吸い込んで、


「大気に宿る精霊達よ」


 詠唱を開始した。


「我、風の精霊の契約者にして、汝の寵愛に感謝する者なり。世界を流れる大いなる風の意思を持って、あらゆる不正を暴き、豊穣の地を見つけたまえ」


 詠唱が先に行けば行くほど、魔法陣とミラの体から光が溢れ始める。その光は先程の死んだ妖精たちの体から出てきたものと同じだった。これが魔力なのだろうか。


風精霊(シルフ)の導き」


 そしてその光は氾濫した川のように周囲に飛び散った。あまりの眩しさに目を開けていることも困難なくらいに。


 数秒して光が収まった時に視界に入ったのは膝をついて額に汗をにじませているミラの姿だった。どれほどの力を消費したのか、その疲労した姿から想像できるだけでかなりのものだろう。


「大丈夫か?」


 駆け寄ると、ミラは頷く。


「ちゃんと見つけましたよ」

「わかったからとにかく休めって。話はそれからだ」


 なんだかんだ野宿の途中だったこともあってかなりの時間、十分な休息を取れていない。ここらで一つ休むべきだろう。


 敵の本拠地に乗り込むのに疲労困憊で行くなんて馬鹿なこと出来るわけもないのだから。万全で挑む必要がある。


 そうしてその日はそこで夜を明かすことになった。

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