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スライム転生物語  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中
第二部 妖精編

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第七章 悲しい迎撃

 ミラが取った行動は言葉にすれば簡単だった。風の力で相手の目を潰して、その間にオレとチャットを抱えて撤退。

 

 怯えて何もできないチャットに呆然として動かないオレだったがどちらもほとんど重さという重さがないのが幸いだったのだろう。実に鮮やかな手際だった。


 だが、それでも追っ手を完全に撒くことはできなかった。


 あの結晶から離れたことであたりが闇に覆われたせいか正確な数はわからないが、追ってきているのは数体、ただ突然何ないところから現れる例もあるし、見たままを鵜呑みには出来ないだろうが。


 いくらミラが旅をしていて体力があるとはいえ、空を飛んでくる妖精と比較になるものではない。息が上がってきている様子からすると、追いつかれるのも時間の問題だった。


(迎撃するか?)


 そう考えた時にさっきの光景がフラッシュバックする。小さな体を貫く、その体から力が抜けるその感触も。しかも今は視界が悪い。ミラならともかくオレに夜の闇を見通す目はないのだ。


 答えが出せないままでいると、


「チャットをお願いします」


 ミラが小声でこちらにささやくのと同時に勢いよく前方にオレ達を放り投げた。


 咄嗟に触手を伸ばして近くの木に張り付いて落下は免れる。チャットも宙に浮いているので問題ない。

 そして、そのままミラは弓を構えると。


(な、まさか!)

「ごめんね」


 そう言って素早く矢を放った。

 当然、放たれた矢は飛翔し、狙い通り対象に突き刺さった。相変わらずの腕前だ。


 そしてその矢に貫かれた一体はそのまま弓と一緒に地面に落下する。先ほどと同じように胴体を完全に貫通していたし、致命傷だろう。


 そこで急に闇が薄れ相手の数がわかった。残るは四体、妖精達もミラを排除すべく光の球を放ってくる。その光の球が、運がいいのか悪いのか、周囲を照らしてくれていたのだ。


 ただ、この程度の数では弾幕にはならない。速度があるわけではないので躱すのは容易だった。

 ミラはそのままの調子で動きながら矢を放ち更に二体を仕留める。


 そのまま決着がつくかと思ったが、ここで流れが変わる。残った二体の妖精は遠距離船を不利と判断したのか一気にミラに向かって突進するかのように接近してくる。


 これまでの戦いでかなり距離も詰まったし、空を飛べるというアドバンテージが向こうにある以上その接近を阻止するには邪魔をするしかない。


 それがわかっているミラは下がりながら矢を放つ。だが、妖精達はその矢に向かって光の球を放ち軌道を逸らすことでそれを回避。


(まずい!)


 恐らく妖精達の狙いは自爆だ。接近戦が得意なようには見えないし、現に体から妙な光が溢れ出始めている。


 このままではミラは自爆攻撃を食らって少なくないダメージを覆うだろう。下手すれば相打ちなんてこともあり得る。


 助けなきゃ、そう思ったのに体が動かなかった。先程の出来事がフラッシュバックするように脳裏に映し出される。それが体の動きを止めていた。


 威嚇の鳴き声を使えば動きを止められるだろうが、ミラも巻き込んでしまう。隠れている敵がいたことを考えたらこれは使えない。

 そしてミラは、


「甘いよ」


 悲しそうにそう言うと、弓を強く引き絞って力を溜める。


「本当に、ごめんなさい」


 そして放たれた矢は纏った風で光の玉ごと二体を飲み込んで吹き飛ばした。こうしてミラが万全の状態でまともに戦うのは初めて見たが想像以上の強さだった。伊達にこの年で旅をしているわけではないらしい。


 けれど、この場においてその強さは弱いものいじめをしているような印象を与える結果になってしまった。仕方なかったとはいえ、だ。


 ミラを責めることはできない。やらなければこちらがやられていたのだから。オレのように情けなく震えていることのほうが間違っているのだ。


 そもそもオレがそんな状態だからミラはこうして一人で相手をしたのだろう。自分が手を下すことも承知の上で。

 この状況はそうなるようにミラに強いたようなものだった。その手で妖精達を殺すように。


「すまない、ミラ」

「謝らないでください。オズさんのせいじゃないですから」


 ミラは悲しそうに笑った。ミラだって殺したくて殺したわけではない。そうしなければならない状況だったから、オレやチャットを守るためにそうしたのだ。


「ごめんね、チャット。あなたの仲間を……助けられなくて」


 ここでオレは自分の愚かさに気付かされた。確かに人を殺したことはショックだった。だが、それ以上に仲間を目の前で殺されたチャットはもっと辛いはずだ。


 だが、チャットはオレ達を責めることなくただ涙目で首を横に振った。


「ごめんなさい、だそうです」

「なんで、お前が謝るんだよ」


 チャットにしてみれば仕方がなかったとはいえ、オレ達は仲間を殺した仇になるっていうのに。


「たぶん、巻き込んだことを謝っているんだと思います。この子は本当に優しい子ですね」


 確かに見方によってはチャットが助けを求めなければ、こうなることもなかっただろう。でも、それはチャットが捕まってあのアベルとかいうクソ野郎に何かされるということに他ならない。


 その方がよかったとこの子は言っているのだろうか。


「そんなの、違う」


 何が初めて人を殺しただ。今までだって散々モンスターとはいえ命を奪ってきたではないか。


 結局、オレは自分が嫌なことを避けたかっただけに過ぎない。それだけならまだしも、そのせいで二人を危険な目に合わせ、辛い目にも合わせることになった。


 いつまでも子供ばかりにいやなことを押し付けるのが正しいわけがない。覚悟を決めるべきだった。


 甘さを捨てる覚悟を。


「ひとまず身を隠せる場所を探しましょう」


 ミラの言葉に頷く。このままここでじっとしていても敵に見つかるだけだから。ミラが武器をしまって先へと進む。


「そうだな、行こう」


 無理矢理にでも気持ちを切り替えるしかない。これ以上ミラに迷惑をかけるわけにはいかないのだ。


 遺体となった妖精達を埋めてやりたいところだが、そんな時間はない。グズグズすればまた戦いになってその分多くの死者を出すことにも繋がりかねないのだ。


「ん?」


 そう思って遺体を眺めると、その体から光の粒が溢れ出ていって、結晶のある方向に飛んで行っている。しかもそれが溢れるほど妖精達の体はまるで消えるかのように透明になっていった。どうやらスライムとは若干違うが死んだ後に消え去る運命なところは一緒らしい。


 だからと言ってこのまま放置していい理由にはならないが、少しだけ心が軽くなったのも事実だった。偽善とわかっていても。


「……すまない」


 妖精達から視界を外すと、先に行ったチャットを抱えたミラに追いつくためにオレは先へと急いだ。

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