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スライム転生物語  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中
第二部 妖精編

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第二章 妖精 チャット

 そうして見張りを続けること数時間、交代の時間が近づいてきた時だった。

 

 たいして風もないというのに近くの茂みからガサガサと葉が揺れる音がする。空耳なんかではない以上、何者かがそこにいるという証だ。


 眠気で緩んでいた気を引き締めて、戦闘態勢になる。ミラ曰く、夜に活動するモンスターは凶暴で力が強い傾向があるとのことなので昼のゴブリンのようにはいかないだろう。


 しかも今まではすべて昼間の戦闘だったので、これが初めての夜での戦いだ。当然、昼と違って光源はたき火しかないし視界は圧倒的に悪い。そこまでの強敵が現れることは滅多にないとわかっていても、初めてという未知の部分がこちらに緊張を強いてきていた。


 音はどんどん大きくなり、こちらに近付いてきている。遭遇しないという幸運は期待できそうにない。


「肉屋、ミラを起こしてくれ」

「はいはい、承りました」


 ぐっすり眠ったままのミラを肉屋に任せてオレは戦いに意識を集中した。


 万が一の場合に備えて肉屋にミラを逃がすようになどの幾つかの条件を課しており、既にグーラの肉で対価は払ってある。そうそうグーラのような強敵が現れるとは思えないが念には念を入れて、だ。

 

 肉屋がミラに声を掛けたところで音が一際大きくなる。もうすぐ傍だ。


(来る!)


 そう思ったと同時に小さな黒い影が茂みから飛び出して来たのを視界に入れたと同時にオレは触手を解き放った。何者かわからないが先手必勝、これで終われば相手がなんであろうと関係ないのだから。


 だが、暗闇のせいもあって相手の輪郭しか見えないことで狙いが甘くなったのか、攻撃はわずかに外れてしまう。躱されたのではなく、明らかにこちらのミスだ。


 現に相手はいきなりの攻撃に驚いたのか、動きを止めている。先手必勝とはいかなかったが好都合だ、動きを止めた今なら外しはしない。


 好機を逃すはずもなく、すぐに追撃を放とうと。


「ダメです、オズさん!」


 したのだが、ミラの静止の声で思いとどまった。


 普通なら何と言われようが敵に容赦するようなことはしないが、あまりにも迷いないはっきりした声だったので思わず体が勝手に反応してしまったのだ。


 黒い影の目の前に触手を突きつける形で攻撃を止めた後、振り返ってミラの意図を問いた。


「何で止めたんだ?」


 別に責めているわけじゃない、単純に不思議だっただけだ。ただ、理由もなくミラが邪魔をするとは思えないし何か事情があるのだろうが。


「今、オズさんが攻撃しようとしていたのはモンスターじゃないんです」

「え、マジ!?」


 だとすれば人間だろうか。だとすれば勘違いで危うく人殺しになるところだったがそれは頭の中で否定する。さすがに人間だったら輪郭だけでもなんとなくはわかる。


 だが、この相手は明らかに赤子よりも小さい姿をしているので、てっきり小型のモンスターだと思ったのだ。だからこそ僅かの躊躇なく攻撃できたのだし。


「エルフって種族的に人間より五感が優れているんです。この程度の闇だったら障害にもなりませんから」

「精霊の加護と狩りを生業にする種族的特徴のせいでしょうな」


 そう言われたら反論できるはずもなくオレは素直に触手を引っ込めた。いつまでもこれを突き付けているのはよろしくないし。


「ミラ、後は頼んだ」

「わかりました」


 モンスターと勘違いしたとは言え、攻撃を仕掛けてしまったオレが近くにいたら警戒されてまともに話せないだろうし、何か心当たりがありそうなミラに任せるに限る。


 ミラはその影に駆け寄って何やら話をした後、手のひらにそれを乗っけるとこちらに戻ってきた。


 その手に乗っているのは背中から透明な羽が生えた小人。間違いない、少し前に話題にもなったあれ以外ありえないだろう。


「これが妖精か?」

「はい、チャットっていうらしいです」


 妖精ことチャットはミラの手の上でこちらを明らかに怖がっていた。まあ、自業自得なので何も言えない。反省するばかりである。


「あーその、悪かったな。いきなり現れたしモンスター思ったんだ」


 しっかりと頭を下げるように動かして謝るが、チャットは何も反応を示さずに怖がり続けるだけだった。


 そうそう許してもらえないかと思ったら、


「チャットはまだ妖精としては子供みたいでオズさんと会話は無理だと思います。私も精霊を介して会話してるだけですし」


 とのことでそもそも言葉が通じてないらしかった。


 仕方がないので恒例となってきたミラの通訳で再度謝ると相変わらず怖がられてはいたもののこちらの目を見てくれるようにはなった。仲良くなるには時間がかかりそうだが、そこは気長に行くしかないだろう。


 それにしてもフラグが立ったと思ったらすぐにイベントが起こるとは驚きである。まだ妖精の話を聞いて一日も経ってないというのに。


「それでこれからどうしようか?」


 妖精を発見できたことは良かったのかもしれない。これで街の噂とやらの真偽は確かめられたし、ミラの当初の目的は達せられたのだから。


 だが、見つけた後どうするかを聞いていなかったのだ。これで捕まえて売り払うとか言われたら若干なんか悪いことしている気がしてしまう。見た目からして怖がっている子供だし出来れば乱暴なことはしたくなかった。我ながら甘いとは思うが。


 そんなオレの考えを読んだのかミラは苦笑していた。


「取って食おうとか思ってませんから安心してください。でも、どうしてこんなところにいるのかくらいは聞かせてもらいます。子供の妖精が人里近くにいるなんて危険過ぎますから。最悪、捕まって見世物として売られるなんてこともありますし」


 レアな存在なら人間たちが躍起になって探し出しそうだしな。しかもネームドモンスターとかと違って明らかに弱そうだし格好の獲物っぽい。


 話すのはミラに任せることにしてふと、肉屋のほうを見ると様子がおかしかった。死体のように静止しているのはまだいいとして、雰囲気がいつもと違う。これは警戒している?


「オズ殿、警戒を」


 前もって危機が近づいたら教えるように言っといたのがさっそく役だったようだった。それにしても、対価を払えば頼んだ仕事をきっちりこなしてくれるのは本当にこいつのいいところだ。


 こんな真剣な声はグーラが現れて決断を迫られた時以来だった。それほどにやばいというのだろうか。


「何があった?」


 触手を出して戦闘態勢を取りながら問いかける。


「わかりません。ですが魔力を持った何らかの群れが急速にこちらに接近してきています」

「時間は後、どれくらいだ?」

「この速さから言って三十秒ほどかと。明らかにここを目指してきています」


 この時にミラもはっとした様子で顔を上げた。どうやらこちらから注意を促す前に気付いたらしい。


 ミラはチャットを抱えたままこちらのそばまで下がってきた。二人の視線からして相手は正面からやってきているようだ。


「二人ともどうやって敵を察知したんだ?」


 さっきチャットが現れた時は二人ともそれらしき様子はなかった。だが今回はオレよりも早くその気配に感づいているということは何か違いがあるはずだった。


「先ほども申しましたが気付いた理由は魔力ですな。チャット殿のように一体では微弱すぎてそうそう感知はできませんが、こうまで数が集まればいやでも気付かされるというものですよ」

「私も精霊が気付いてくれたっていう違いはありますけど、理由はそれと同じです」


 ということは相当数の敵がこちらに向かっているということか。

 肉屋の示した時間ではこの場から離れる暇もない。


(となれば迎撃するしかないか)


 今度こそ本当に初めての夜間での戦闘ということか。しかも相手は相当数いるらしい。

 それにチャットをどうするか決める暇もない。少しだけ迷ったが、


「ミラは自分とチャットを守るのを最優先にしてくれ。基本的に敵はオレが相手をする」


 これが最善だと思う作戦を口にした。


「でも、オズさんだけを戦わせるわけには」

「もちろん一人で格好つけるつもりはないって。余裕があるならどんどん援護してほしいってのが正直なところだし」


 それにミラは貴重な回復役でもある。多少の傷を負ったところでミラがいれば回復してくれるが逆はそうはいかない。オレが生成できる回復薬など気休めレベルでしかないのが現状なのだから。


 もう少し考える時間が欲しかったが茂みが揺れてすぐ近くから音がしてきたことからして時間はない。


「来るぞ!」

「は、はい!」


 その言葉とほぼ同時に茂みから無数の影が飛び出してきた。


 オレはその影に向かって炎を吐き出す。広範囲にまき散らすように吐かれた炎は壁の役目を果たし影達はたたらを踏むようにその壁の前で急停止した。


「そこだ!」


 動きが止まったところにミスリル化した触手を鞭のようにしならせて解き放つ。威力は下がるが鞭状の攻撃のほうが範囲は広い、多数を相手にするならこちらが最適だ。


 空中に浮かぶ影どもを触手で薙ぎ払っていく。自分が吐いた炎に触れる形になるが多少の熱なら耐性があるしミスリル化した体にはこの程度、屁でもない。


 攻撃は成功して相当数の敵を薙ぎ払うことに成功する。だが、その攻撃の後に炎に照らされたその姿を見て体が驚きに固まった。


「これは、妖精?」


 背中に透明な羽が生えた小人。


 間違いない、妖精だ。ただ、チャットと違って目の部分が黒い布か何かで覆われていて表情が読めないし、それを差し引いても全員が無表情だった。

 

 妖精というか人形とか動く機械とか言われたほうが納得できる感じだ。


「って、まず!」


 驚いたせいで攻撃の手も止まっている。これじゃ格好の的だ。


 案の定、妖精達は片手をこちらに向けるとそこから色々な光の玉をこちらに向けてはなってくる。これが魔力による攻撃だろうか。


 当たっていいものかわからないのでひとまず回避するしかない。どんな効果があるか分かったものではないし、これらがスライムの弱点でないとも言えないし。


 幸い光の玉の速度はたいしたことはなく一発一発ならよけるのにも苦労はない。だがいかんせん今回は数が多過ぎた。

 まるで弾幕を張るかのような攻撃ですべてをかわし切るのは明らかに不可能。


 咄嗟に作った盾で防御はするとは言え、数発くらうのもやむを得ないかと思ったが、


風精霊(シルフ)の矢!」


 そのミラの声と同時にミラから放たれた矢が迫って来ていた光の玉を吹き飛ばしながら飛翔していく。そして、矢の風に吹き飛ばされていった玉は逆に妖精達に牙をむくことになった。


 これはグーラを仕留めた時と同じ技だ。威力はための時間が少なかったせいかそこまでではなかったが感じる波動は覚えているし間違いない。


「今です、オズさん!」

「おお!」


 幾つかだが自ら放った攻撃を食らうことになった妖精達は動揺することはなかったものの攻撃の手がかなり緩むこととなる。


 ミラの声に応え、そこを逃さず二本の触手をフル稼働させてありったけの敵を薙ぎ払った。チャットとは違って相手が止まることなく襲ってくるのだ、躊躇している場合ではない。そう自分に言い聞かせて。


 そうして攻防を繰り返すうちに妖精達が明らかにミラを狙うかのような動きをしていることに気付く。オレを排除しようと攻撃を仕掛けてくるには来るのだが、それ以上にミラ達に対しては攻撃だけでなく接近しようとする奴がいるのだ。


 これまでの光の玉を放つという攻撃方法からしても接近戦が得意とは思えないのに。

 この状況で思いつく選択肢は二つ。だが、ほぼ答えは分かっている。


 ミラ達に群がる奴らに再度炎を吐いて牽制して時間を作ると、


「ミラ、借りるぞ!」

「え、は、はい!」


 ミラの背後で隠れるようにして震えていたチャットを触手で掴んでその場から離れる。ミラが狙いならそのまま変わらずに戦い続けるだろうがそれはない。


 恐らくこいつらの狙いはチャットだ。いきなりこんな事態になる原因なんて、それ以外思いつかない。


 予想通り、他の妖精達はミラのことをほとんど見抜きすることはなくなりオレに殺到してくる。だが、これでいい。狙い通りだ。


 オレとて相手の狙いを図るだけでこんな行動をしたわけじゃない。さっきまでだと、どうしても攻撃が二手にわかれるかオレの方が手薄になっていまいちタイミングが計れなかったが、今みたいにほとんどの奴がこちらに向かってきてくれているのなら射程範囲内だ。


「ミラ、耳塞いどけ!」


 方向的に巻き込まないように注意はしている。


 チャットの方は言ってもわからないだろうから触手を使ってやっておく。ミラも慌てた様子で耳を塞いだしこれで準備は整った。


 大きく息を吸い込んで、向かってくる敵に向かって


「がああああああああああああああ!」


 全力で吠えた。


 周囲が発生した衝撃波にされるようにビリビリと震え、風が巻き起こるように周囲の草木が激しく揺れる。


 グーラを倒すことで強化された中鬼の威嚇の鳴き声だ。声とそれによる衝撃の両方をもろに食らった妖精達はそのほとんどが弾き飛ばされるように吹っ飛んだ。そうはならなかった奴らも体を強張らせて地面に墜落していく。想像以上の威力だ、これなら追撃する必要もないだろう。


 こちらの完全な勝利だった。


 若干の誤算は威力が強力になり過ぎていたのか耳を塞いたはずのミラまで少し痺れている様子なことくらいか。どうやら音をシャットアウトしても衝撃だけで結構な効果があるらしい。


「まあ、結果オーライってことで」


 オレは不満がこもったミラの視線は気付かないことにして地面に倒れる妖精達に向き直った。

 本来ならここで身動きできなくあった敵を片付けるべきなのだろう。だが、


「……そんな目で見るなって」


 そうしようかと触手を妖精達に向けるとチャットがこちらの体を縋るように掴んでくるのだ。まるで殺さないで、と言うように。


 元々敵が、サイズは置いておくとして、人型だったこともあってかなり戦うのには躊躇いがあったのだ。こんな目で見られると非常になんてなりきれないではないか。


「わかったよ。乱暴はしないから安心しろって」


 言葉は通じないだろうが触手を引っ込めたことでチャットもこちらの意図を理解してくれたらしく、笑顔になって頭を下げてきた。どうやら子どもと言ってもそういうことがわかるくらいの齢らしい。


 そこで気を抜いたのが間違いだった。


「オズさん!」


 ミラの声で気付いた時には既に地面に落ちた一体の妖精がこちらに向かって手を向けている。ミラが弓を放とうとしているが痺れが残っているのかその動きは遅い。


 だが、まだ躱すのには十分間に合う。そう思ってチャットを掴んで飛ぼうとした瞬間、


「な!?」


 敵の手から放たれた眩い閃光が視界を完全な白に塗りつぶした。

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