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スライム転生物語  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中
第一部 転生編

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第二十八章 称賛なき決着

 あれから少なくとも三十分は経過したが未だに決着はついていない。


 もう数え切れないほどの攻防があった。まともにやり合ったら敵わないのはわかりきっているので、木の上の死角から鞭で打つような攻撃をしたり、近くの木を切り倒してその下敷きにしようとしたりと、まともにやり合わずに搦め手だけで攻め続けた。


 多種多様な攻撃を仕掛けてきが、残念ながらほとんど意味はなかったようだ。細かい傷はあれどピンピンしている。


 逆に無造作に振るわれた腕や棍棒の反撃で何度死に掛けたことか。

 今のところは躱せている。だが、着実にその時は近づいていた。


 何度目かわからないが隠れて次の攻撃の機を窺う。


「はあ、はあ、くそが。若干痩せてきてるけどどういう体してんだよ、あいつは」


 グーラの体はなぜか戦えば戦う程、時間が経てば経つほどどんどん痩せていっているのだ。しかもそれに比例して速度は上がるのに体力はまだまだあるらしく理不尽にも程がある。


 やはり地力と言うか体力が違い過ぎるのか、既にこちらは限界が近いというのにまだまだあちらは元気そうだった。奇跡に近いが努力と集中力のおかげか未だに一撃もまともに食らってはいない。二、三発かするギリギリなこともあったが軽い一撃だったし戦闘するには問題ないのでセーフだろう。


 問題なのはそのかすった攻撃がなんてことない一撃だったことだ。最初の方ならしっかりと躱せたはずの攻撃が当たりそうになってきているという時点でヤバい。集中力がなくなっている証拠だ。


 なにせこちらは一撃もくらってはいけないのだ。必死になって避けないといけないのに対してあちらは攻撃が当たってもほとんどダメージを負わないので気にせず攻撃してくるだけ。同じ三十分でも中身が全く異なるのだ。


 もちろん最初のカウンターのように相手に傷を負わせる攻撃を放つ方法がない訳じゃない。全力のミスリル化をした最速の刺突なら貫通はしなくても、深く突き刺して相当なダメージを負わせることも可能だろう。だが、それをしてしまったら次がない。


 今度は触手を斬り落とす時間なんて与えてくれないだろうし、他の攻撃もどう頑張っても次に隙が出来る。それだけ一撃に力を籠めないとダメージを与えられないくらいにそもそもの力の差があるのだ。


「でも、これを後一週間続ければあっちの時間切れだろ、楽勝だっての」


 そうだ、後これまでの流れを数百回繰り返せばこっちの勝ちなのだ。そう思って頑張ろう。


 無理だとわかっていてもそう思わなきゃ心が折れる。この打つ手がないという状況は凄まじい早さで精神を蝕んでいく。何でもいいから希望を見出さないと簡単に折れてしまいそうになるくらいに。


(でも、いよいよ打つ手がなくなってきたな)


 この三十分で必死に頭を捻り続けて戦ってきたがだんだんそれも底を尽き始めてきたし、何よりグーラがこちらに対応し始めているのだ。何度も裏をかいたりしていれば相手もバカじゃないし読まれるのは当然だった。


 そろそろ本気で死ぬ覚悟を決めなければならないかもと思っていると、そこで視界に何か動く物が映る。グーラではない、そこまで警戒を怠たったりはしない。


 金色の髪、そう思った瞬間に思わず乗り出しそうになった。そんな髪でこの場にいるとしたら一人しかにいない。


(なんでまだここにいるんだよ!)


 ミラがゆっくりと慎重にグーラの背後から近づいて行く。手には弓を持っているし、攻撃を仕掛けるつもりなのだろうが正直、止めてほしい。たかが弓矢程度でダメージを与えられるならこんなに苦労していないだろう。


 そう思ってどうにかして止めようかと思ったが、ミラが弓に矢をつがえた瞬間その考えは改めさせられる。弓に何か知らないが力が集まっているのがわかるのだ。かなり大きな力だし、これならグーラにも通じるかもしれない。


 既にグーラは長い間オレだけと戦っていたのでもう他の奴を警戒なんてしていない。オレだけを警戒している。ここで姿を現せばミラに気付くことは万に一つもないだろう。


 このままだと勝算はないし、賭けてみるしかない。


 覚悟を決めて、オレはわざと隠れていた場所から出るとグーラの正面に立つ。これでミラは完全に背後を取れる位置になったはず。狙うなら最高のポジションだろう。


 後はここでオレが凌ぐだけだ。ただし、それが無理難題なのだが。


 触手の形を操作して今できる最高サイズの剣と楯の形にする。この三十分で随分と触手の操作も上達したものだ。やはり実戦に勝る訓練はないらしい。


 その楯で棍棒の攻撃を防ぎ、その隙に剣で今度はこちらが攻撃するのを繰り返す。もちろんこれらはあくまで触手なので楯で防ぐ度にだけでなく、剣が棍棒で弾かれても激痛が走る。目立った傷はないが着実にダメージが蓄積していくのでさっきまでだったら絶対に選ばなかった方法だ。


 でも、自分の身を削るだけあってやはり効果はある。先程とは比べ物にならない傷を負わせられるし、グーラが最初のカウンターを除けば初めて苦しそうにしている。もっともそれでもどれだけの体力があるのか動きは鈍らないし、全く死にそうにもなかったが。


 これが名付き、ネームドモンスター。卑怯にも程がある身体機能だ。


 何度目かの攻撃を防いでなんとなくだが防ぎ方のコツというものもわかってくる。単に正面から受け止めると衝撃をすべて受け止めることになるので、若干斜めに受けてそのまま受け流すようにすると痛みが少なくなる。痛みが増えればダメージも増える、つまりそれだけ死が近くなるわけで必死だった。


 同じく剣も下手な当て方をすれば自分自身がダメージを受けてしまうので、そうならないようにする。


(これってもしかしたら最高の鍛えた方なのかもな)


 ミスると痛みで思い知ることになるから嫌でも直さざるを得ない。最適の動きを無意識の内に探すことになるようだ。


 こんなことを考えているのはふざけているわけじゃない。ただ、意識が痛みとダメージの蓄積で朦朧として来て自分でも思考をコントロールできないだけだった。


 朦朧とした意識の中で無心にただ攻撃を防ぎ、その後でこちらから放つことを繰り返す。時間の流れもあいまいになってきて、だんだん視野が狭まってくる。


 三十を超えたところでもう相手の姿も見えなくなった。ただ、棍棒だけをなんとか見据えて頭ではなく体が命じるままに動き続ける。


 もう四十を超えただろうか、数えることも難しくなってきた。


(オレは、なんでこんな辛いことをしているんだ?)


 楯に攻撃が当たるたびに意識が激痛で掻き消えそうになる。剣が相手に当たるたびに鈍い手応えと肉を断つ気持ち悪い感触が戦意を奪っていく。


 それでも何故かオレは戦うことを止めなかった。もう、何で戦っているのかもわからないのに。


 ただ、来た攻撃を防ごうとして楯が動かないことに気付く。というか楯その物がなくなってあたりに銀色の液体が広がっていた。どうやらダメージをため込み過ぎたようで形を保っていられなかったらしい。


 仕方ないので剣で防ぐが、やはり痛いことには変わりはない。楯に形を変えてしまいたいのだが、もう自分の意志では形を変えることもままならないらしい。まったく変化することがない。


 だからその剣で攻撃を防ぐしかない。けど、防いだところでダメージを受けることには変わらないのだ。だったら抵抗なんて止めてしまえばいい。そうすれば苦痛は一瞬で済む。


 わざわざ辛い思いをして苦痛の時間を長引かせるなんてバカげているじゃないか。そうだ、終わらせてしまえばいい。


 そう思って剣を降ろそうとしたのだが体が勝手に動いてまだ防ぎ続ける。痛い、もう嫌だ。楽になってしまいたい。


 けれど体は言う事を聞いてはくれない。まるでもう自分の体じゃないかのように勝手に動き続けている。


 だが、それも限界が来た。遂に耐えきれなくなった剣が棍棒の一撃を受けてバラバラに砕け散る。そのまま欠片は地面に落ちると楯と同じように液体に還ってしまった。


 当たり前のことだが、剣が砕けた瞬間これまでにない激痛が体中を走り抜ける。自分で斬った時なんて比べ物にならない。全身が引き裂かれたかのようだった。


 でも、その痛みが半ば意識を現実へと引き戻す。


 ミラの力が溜まったのを感じる。あと少し、それでこれに賭けた意味ができるのだ。


(もう嫌だ!)

「くそったれ!」


 これらの心の声はまぎれもなくオレ自身の物だ。正直な気持ちだ。だけど、それでもオレは最後に一撃を放った。自分でも何故そんなことが出来たのかわからない。


 ただ、このまま負けるのが我慢ならなかったのだけはわかる。


 折れたと言ってもそれはあくまでオレの触手、形を変えればすぐに攻撃の手段になる。すぐに先端を尖らせるようにしていつもの槍のような触手を作り出してオレは捨て身で攻撃を放った。狙いなんてつけず、ただがむしゃらに。


 だがそれが功を奏した。今までデカい剣ばかりだったせいでその攻撃に慣れていたグーラは目測を見誤ってしまう。何とかオレが狙うと予想して片手で顔を守るが生憎こちとらそんなことすらできないのだ。


 腹にその鋭い先端が突き刺さる。捨て身のつもりだったのでそのまま引き抜こうとはせずに体重を乗せて奥に押し込んだ。


 肉が焼ける音がしたと同時についに待ち望んだ瞬間がやって来た。


 背後から飛来した矢がこれまでの苦労はなんだったと言うくらいあっさりとグーラの左胸、心臓部分を貫く。そして何かわからない力が弾けるのがわかった。


 凄まじい風が吹き荒れてオレは抵抗することも出来ずそのまま吹き飛ばされて近くの木にぶち当たる。もう色々と限界だった。


 なんとか顔を上げると、グーラが棍棒を構えたまま後ろ向きに倒れていくところだった。ゆっくりとオレの視界の中でグーラは倒れていき、大きな音を立てて倒れ伏す。


「……あれ? 勝ったのか?」


 そう呟いた瞬間に完全に意識が現実へと回帰した。


「あ、が、ぐ」


 声にならないとはこういうことを言うのだと初めて理解した。激痛が体を走り、それで体が動けばまた激痛が走るという最悪のループだった。


 しばらくの悶絶の後どうにか痛みを堪えられるレベルに落ち着いたところでミラがこちらに駆け込んできた。


 慌てた様子でオレの体を抱き上げようとしたので、謹んで遠慮させてもらう。この状態でそんなことされたらそれこそ痛みであの世に行きかねないし、そうじゃなくても今触られるのは非常に不味いのだ。


 ミラはすぐに小瓶を取り出すと、オレの口に流し込んでくれる。回復薬の効果がすぐに働いてどうにか全身の痛みが我慢できるくらいには落ち着いてくれた。


「ふう、死ぬかと思ったな」

「本当にその通りですよ! 何であんな無茶したんですか! そもそもなんでここに来たんです!」


 わずか一言呟いただけで説教の嵐が飛んできた。ただ、こうして助かったのにこの物言いにはさすがにカチンときたので言い返す。


「オレが来なきゃ死んでたくせに威張ってんじゃねえよ! 無茶しなきゃ勝てなかったんだし、そもそも一番初めに命を懸けるって無茶言い出したのはお前だろうが!」

「私の場合は仕方ないからいいんです! そうしなきゃミナ達が助からないんだからそうするしかないじゃないですか!」

「はあ!? 一人で全部背負い込んでかっこいいなあ! そんなに自分の事をないがしろにして楽しいかよ!」

「楽しい訳ないじゃないですか! 私だって死にたくなかったし、でもそんなこと言える状況じゃなかったじゃないですか! あそこで死にたくないっていっても迷惑なだけじゃないですか!」

「迷惑でもなんでも言えばいいだろうが! 十代のガキが大人ぶってんじゃねえ! ガキは大人に頼っていいんだよ! それが当然なんだよ、わかったボケ!」

「そんなこと言ってあなただって取り乱してたじゃないですか! 頼りにならなそうだったくせに偉そうなのはどっちですか!」

「悪かったな、頼りにならなくて! 言われなくても自覚はしてるっての!」


 勝ち目がないと思っていた戦いにせっかく勝利したのになんだこれ。でもこの際だ、言いたいことは言ってしまうに限る


「そういや最初の質問の何でこの場に来たのか答えてなかったな!」

「ええ、聞いてませんね!」

「んなもん心配でいても経ってもいられなかったからに決まってるだろうが! そうじゃなきゃ誰がこんな死ぬことほぼ確定の場所に来るかっての! それと、辛い時に作り笑顔してるのもバレバレなんだよ! むかついたから意地でも死なせねえから覚悟してけ、このバカが!」

「そんなこと!」


 反撃が続くかと思ったらそこで止まってしまう。一体どうしたのかと思って顔を覗き込んでみると、


「そんなこと、言われたって、どうしたらいいのかわからないじゃないですか……」


 泣いていた。それもかなりの号泣。


 言い負かせてやるくらいのつもりだったが、やっぱり女に泣かれるのは困る。卑怯だとすら思うがこうなったらこっちが謝るしかないのだ。前の世界でも嫌というほど思い知らされてきたのでよくわかっている。


「な、泣くなよ。悪かった、言い過ぎたよ」

「だ、だって、私がやらなきゃ、いけないって。そうじゃなきゃ皆、死んじゃうって。だから必死に、頑張ったのに」


 もはやミナが泣いている時と大して変わらない状態だった。ここまで泣かせると流石に罪悪感があるな。


「わかったって。よく頑張ったな」


 これじゃあ完全に子供だ。頭を撫でてあげたいのだが生憎理由があってそれは無理なので必死に説得を続ける。


「でも、今度から一人で無茶せずに周りの大人をもっと頼れ。最悪、オレでもいいからさ。まあ、オレじゃ頼りにならないかもしれないけどな」


 無言で頷かれたが若干傷つくな。まあ、こんな状態だし忘れよう。こんな状態だからこそ本音だという意見は脳内裁判で却下しておく。これ以上メンタル攻撃は受け付けない。


「とりあえず、こんなところいつまでもいたら危険だし村に戻るか」

「そ、そうですね」


 お、どうやら元の言葉遣いに戻る程度には冷静になったらしい。顔を赤くしてこっちと目を合わせようとしないのは恥ずかしいからだろう。


 その若々しさと言うか初々しさにオレが思わず笑いかけたところで、


 後ろからガサリ、という音がした。


「ミラ!」


 ただ風で木が揺れただけかもしれない。だけどオレは悪寒を感じて、その衝動のままにミラを庇うような位置に立ちはだかった。


 振り返った視界に入ったのは最悪の光景だった。


 心臓部分から大量の血を流しながらもゆっくりと、緩慢な動作でグーラが起き上がって来ていた。その体は明らかに先程より痩せている。そしてなにより感じる力があり得ない程に高まっている。さっきとは比較にもならないくらいに。


「まさか、痩せれば痩せる程強くなるっていうのか?」


 この死に掛けの状態で力が増すなんてそうとしか考えられない。思えば最初の太っている時に弱く感じたのは間違いじゃなかったのだ。この期に及んで、しかもそんなわけのわからない方法で、まだ強くなるなんてふざけているとしか言いようがない。


 だが、そうなるとこの状況は絶望的だった。オレはもう限界だし、ミラも同じだろう。心臓を貫いているはずなのでそう長くはないはずだがこれだけの力だ、邪魔者二匹仕留めるくらい訳ないだろう。


「ミラ、走れるか?」

「い、行けます」


 そう言って立ち上がろうとしたミラだったがよろめいて倒れこんでしまう。さっきの一撃は凄まじかったし力を使い切ってしまったのだろう。これでは逃げることも出来そうにない。


 グーラが軽く棍棒を振るとすさまじい風が舞い起こり、飛ばされないようにするので精一杯だった。あれでまた地面に叩きつける技をされでもしたら衝撃だけで確実に死ねるだろう。時間はない。


 オレはほんの一瞬迷ったが、すぐに覚悟を決めた。


「仕方ないか」


 命を捨てる覚悟を。


 この状況で二人とも生き残るのは今度こそ不可能だ。まともにやったら殺されるし、逃げられもしない。オレだけだったら逃げられるかもしれないが、ミラを置いて行くことは出来るわけがない。


 だったら残る選択肢は一つだけだ。


「ミラ、そこでじっとしてろ」

「どうするつもりなんですか?」


 正直に答えればまた怒られているのは目に見えているので誤魔化すしかない。


「まあ、奥の手があるから見てろって」


 グーラはまるでこちらを待っているように動かない。決着を望んでいるのだろうか、こちらとしてはありがたい。


 だが、いつまでそうしていてくれる保証はないのであまり時間を掛けてもいられないだろう。どうにかボロボロの体に鞭を打ってどうにかグーラの前まで到達する。


 こうして近くで見るとグーラも辛そうだ。心臓を貫かれているのだから当たり前か。


 ただ、まだ目に宿る力は消えていない。オレやミラを道連れにしようとしているのが手に取るようにわかった。


「させねえよ」


 お互いに一撃放つ事さえ困難なのだ。勝負は次の一撃で決まる。


 時が止まったかのように静寂が流れ、次の瞬間にはグーラが片手で棍棒を振り上げる。最後はやはり自らの最強の一撃に賭けるようだ。


 こちらは前と同じようにカウンターを狙って触手を放つ。というかグーラが動く前から既に攻撃をしていた。今のこいつの状態ならわかっていても避けられないはずだ。


 その予想通りグーラは避けなかったが、前と同じように左の掌で触手を受け止めた。


 そしてそのままオレの事を引っ張って棍棒を叩き付ける。無理矢理引き寄せられていれば威力は倍増するし躱せない。強化された攻撃が当たればオレは今度こそあっけなくくたばるだろう。


 だが、それは当たればの話だ。

 オレはその前に自らグーラに向かって飛び込んでいた。


 結果的にグーラが更に引っ張ったことでオレは加速、そのまま腹の中心に突っ込んだ。咄嗟に尖らせたもう一本の触手が体を貫く。


「お前、勘違いしてるだろ?」


 結果的に裏をかくことになったがグーラが引っ張ったりしなければ、オレは振り降ろされた棍棒に叩かれて終わりになるはずだった。実際、オレ自身そうなると思っていたし、これは断じて狙ったわけじゃない。


 正直、この期に及んで更に強くなったグーラの攻撃を躱せるとは思ってなかった。実際、棍棒なんて速すぎてほとんど視界にすら捉えられなかったし、カウンターも勘で、ぶっちゃければ適当にやっただけ。だからこそ捨て身の攻撃を敢行したのだが相手にとっては予想外だったようだ。


 考えてみれば、散々せこい手でも何でも使って生き残ろうとしていた相手がいきなりそんなことしてくるなんて思わないか。まあ、オレがそうやっていたのにはとある理由があったのだが。


 オレの本命の攻撃はこれからなのだ。というかさっきの攻撃による衝撃で発動する予定だったのだが。色々と狂いはしたが、いい方向なので問題はない。今回、オレが狙ったカウンターとは触手による刺突じゃないのだから。


「お前の敗因は色々あるが、一番はオレが生き残ることを最優先に考えてないってことに気付かなかったことだよ」


 それに、これだけ圧倒的な力を最初から出し惜しみせずに出していたならこんなことになることもなかったろう。きっと一瞬でオレはやられていたに違いない。だが、そうはならなかった。こいつが所詮スライムだと思ったのか侮ってくれたおかげだ。


 ここに来る時点でオレは死ぬ覚悟はしていた。もちろん生き残れるものなら生き残りたいのが正直なところだが、最悪の場合は自らの命を懸けるつもりでいた。というか、そうじゃなきゃこんなところに来れやしない。


 だから初めからその場合に備えて、こいつを道連れにする方法をあらかじめ考えておいたのだ


「最初の方でオレがお前の棍棒を壊しにかかった時に何で火を吐かなかったと思う? まあ、お前はオレが火を吐けるなんてしらないだろうけど」


 いくら固くても木なら火で燃えるはずだが、オレはわざと試さなかった。気づかなかったわけでも余裕だったわけでもない。ただ単純に火を吐くことが出来なかったのだ。


 なにせ、


「そんなところで無駄に熱を消費するわけにはいかなかったからな」


 オレの体が当たっている部分は漏れ出してきた熱によって猛烈に焼けただれていることだろう。なにせ戦闘が始まってからずっとため込んできた熱だ。スキル自体の発熱効果は小さくてもこれだけ長く貯め続ければ並みの温度ではなくなる。


 この状態だったからこそ先程ミラに接触されるのを嫌がったのだ。抱き上げでもしたら腕全般がやけどでしばらく使い物にならなくなるのは目に見えていたし。


 熱暴走したあの時、オレゼリーのような体であったというのに溶けることなく爆発しかけた。あの時はその体力もなかったし、自ら思い止まったけれど、あの時オレは確信を得ていたのだ。限界以上まで熱を生成して放出せずに溜め込めば爆発するだろうと。


 そしてこれは使えるかもしれないと。


「要するに自爆ってやつだ。奥の手っていうかやったら死ぬわけで最後の手段にするしかなかったんだよ、これが。出来るなら死にたくなかったし、なによりこれでお前を仕留められるかも、わからなかったしな」


 けど、と続ける。


「ただ溶けて水になって死ぬより全然ましだし、今のお前ならこれで充分だろ。いくら痩せて体を強化しても弱ってはいるし、運よくこうして体内に刺さってる。この状態で爆発すれば内部から破壊できるし、さすがにこれならさっきみたいに死にぞこなうことなく、くたばるだろ?」


 この言葉を聞いて、更に抵抗が激しくなってきたのでへばりつくように体に密着して、穴が開いているところに体をねじ込んでいく。液状の生命体であるスライムが本気で纏わりついたらそう簡単には剥せるものではない。


 もう周りのことを考える必要もないので全力で熱を作り出す。


 下手に衝撃与えたら爆発するのがわかっているらしく、抵抗はそこまで激しくできない。それでもすさまじい力だが。


 やはりまともにやり合わなくて正解だった。この状態の相手にそうしていたら十秒ももたなかったろう。

 これ以上時間を掛けても、ミラを巻き込む可能性が増えかねないのでさっさと終わりにしよう。


 それにしても方法は違えど、またしてもこうして少女を庇って死ぬことになろうとは。転生しても魂が変わらなければ死に様も変わらないらしい。


 けど、やはり満足だ。自己満足だろうが独りよがりだろうが、こうして他人を守れることはやっぱりいいものだ。しかも今回は金髪の美少女エルフ、男のロマンを守れるのだからスライム一匹の命では十分過ぎる成果だろう。


(さて、ここらでお別れだな)


 ミナとの約束も屁理屈で言えば守ったことにはなる。あくまで迎えに行ってきて早く帰ってくるとしか約束してないし、ミラだけでもそうできたのだから問題はない。


 きっと何も知らない他人から見たら変なスライムが都合のいい事をしてくれた程度にしか見られないのだろう。誰にも誉められないのは少々寂しいが、ミラが見ていてくれているし、それで十分か。


 そう、だったら何も問題はない。


「じゃあな、ミラ」


 ミラが何かを言おうとしていたがオレはその前に溜め込んでいた熱を解放した。


 体が溶けるような奇妙な感覚の後、すべてが白くなっていき、意識はゆっくりと闇に沈んで行った。


 何の後悔もなく、満ち足りた気持ちで。

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