第二十六章 決戦
体が軽い、まるで羽が生えたかのようだ。
死に掛けだとはわかっていたが、自分で思っている以上だったらしく完全回復した体は別人のようだった、
しかも今は全身ミスリル状態。種族はミスリルスライムと言うらしいがなんて贅沢なのだろうか。
肉屋に回復薬を要求したあの時、オレはミスリルのナイフを食う事を選択した。鉄を食ってアイアンスライムならと思って賭けに出たのだが、結果はこの通り大成功。
食って何もなかったらそれこそすべての手段を失いかねなかったので緊張したがリスクに見合うリターンは得られた。
進化によって得られたのはミスリル生成とミスリル化、このうち前者のスキルを使って生成したミスリルを肉屋に提供することでどうにか回復薬を買うことが出来たのだった。
その後は特に挙げるべき点はない。強いて言うならミラが殺されそうになっているところを遠目から発見したので、間に合わせるために触手を使って自らをパチンコで発射する弾のようにして飛んでいったことくらいだ。
思った以上の速度が出ていい攻撃になったのだが、それでもホブゴブリンにはたいしたことないらしい。現に顔を痛々しげに押さえて呻いているが所詮その程度だ。こちとら全身ミスリル状態なのに、一体どういう体をしているのやら。
だがこれで改めて確信させられた、こいつに生半可な攻撃は効かないということを。
ミラが驚いているようだが、あまり話している時間はない。言いたいことは山ほどあるがまずは謝罪をして、それ以外は生き残ってから言うとしよう。
「色々言いたいことはあるがまず謝っておく。ミラがくれたナイフ食っちまった。すまん」
出来るならもっと話をして状況の確認に努めたいが、そんなことを許してくれる相手ではない。
ホブゴブリンは怒りの声を上げると、起き上がってこちらを睨みつけてくる。どうやら今回は腹も減ってないのか、敵として認識してくれたようだ。
それにしてもこのホブゴブリン、本当に前にあった時の奴なのかと思ってしまう。いや、オーラとか顔や体の特徴や力の感じからして間違いないのだが明らかに前よりデカいし、太っている。前が中年のおっさんくらいだとしたら今は超太ったアメリカ人並だ。太るにしても限度があるだろうに。
太って動きが鈍ってくれればいいが、そこまで都合よくはいかないだろうし気を引き締めていかなければならない。
「ミラ、村の人達を連れて離れていろ」
このまま戦うになっても巻き込むだけで、はっきり言ってしまえば邪魔だ。彼らがあちらこちらにいられると周囲を気にして戦いに集中できない。当然、そんな甘いことが許される敵ではない。
周囲には血だらけになった人が少なくない。倒れて動かない人もいた。全員助けたかったが、現実はそんな都合よくはいかないか。
嘆いていても何も変わらない。それに今は、一歩間違えればオレもその仲間入りなのだ。
「おい、そこのホブゴブリン。いや、グーラ」
それがこいつの名前らしい。肉屋にミスリルの余り分だと教えられたのだ。
名付きのホブゴブリン、グーラ。名付きなんて呼ばれる、それだけ特別な奴だ。会話できるかもと思って声を掛けてみたら、
「オマエ、ハナセルノカ?」
返答がある。スキルでゴブリン族の言葉は話せるからもしかしたらとは思っていたが正直、まさかである。
「ああ。お前に一つ頼みがある」
「ナンダト?」
「今すぐ人間を襲うのを止めてくれないか。そしたらオレもこの周囲の人間達もお前を襲うことはしない。このままだとお前はオレ達に勝っても負けても死ぬぞ」
どちらにしても討伐隊とやらが来たらこいつは終わりだ。村の奴らやミラがそいつ等さえ来さえすれば生き残れるのは確定と言い切っているし、そのことに疑いはないだろう。
だとすれば、こいつの運命は死だ。それが遅いか早いかの違いだけでしかない。
「お前が生き残るには討伐隊が来る前にここから逃げ出すしかない。それでも生き残れるかオレには分からないけど、そうしなきゃ確実に死ぬぞ」
必死に説得した。けれど、グーラはそんなこと歯牙にもかけなかった。
「ソレガ、ドウシタ」
そう言って棍棒を振り上げる。
「オレタチハヒトヲオソウ。ソレダケダ」
変わらない、前にスライムAと話したときと何も。結局モンスターとわかり合うなんて不可能なのだろうか。
でもこれで答えは出た。
「そんなことはさせねえ。あくまでそう言い張るなら」
触手を伸ばしてこちらも臨戦状態に移行する。
「ぶっ殺す!」
「ヤッテミロ!」
そうして火蓋は切られた。
こちらに限りなく勝算のない戦いの。




