第三章 ナキリと記憶の奔流
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しばらくはそちらを毎日更新していくつもりです。
少しでも興味が湧いた方はブックマークや評価、感想をください。よろしくお願いいたします。
アイクによってその存在を教えられた名前を斬る剣。ナキリと呼ばれる特殊な装備が俺の目の前に鎮座していた。
「こうして鞘に収まってると全く脅威に思えないから不思議だよな」
この状態は封印されているに等しいのだろうか。そうでもなければあれだけ嫌な感じを覚えるものがこうまで何もない状態になるとは思えない。
この剣はアイクが急に斬りかかった詫びだと言って差し出してきた物だ。別にあったら便利だがなくても問題ということなので一応貰った形である。その詳細な性能など色々と調べてみたいことはあるし。
自分で手に取って鞘から抜いてみる。するとその瞬間に手放したくなった。
まるでいつ爆発するか分からない風船を持っているかのようだ。危機感やら手放したくて離れたい気持ちが湧き起こるのが止められない。
だがそれで終わっていてはいつまで経っても調べられはしない。最終的に可能ならこれは俺の中に取り込めないかとも考えているのだからここで逃げる訳にはいかないのだ。
(対名付きの魔物の装備として最適だからな、これは。どうにか少しだけでも性能とかを取り込めないものかね)
そう思って耐えて剣を観察し続けていると頭の中でクロの声が響いてきた。
だがいつもと違って不鮮明で何を言っているのか分からない。
(なんだって?)
「これは……彼の……残した……滓」
やはり何を言っているのか分からない。
どうやらこの剣がクロにまで悪影響を及ぼしているようだ。
何かあったら不味いので俺はすぐにナキリの剣を仕舞おうとする。だけどその前にその刀身の光が目に入った瞬間、
俺の中にあったオズワルドの記憶が制御を失って奔流した。
◆
「来月が予定日だろ? 名前は決めてるのか?」
「まあな。散々悩んだけど妻とはようやく合意ができたよ」
「はは、親バカだな」
「うるせえ。まあでも母親の腹の中で動き回る腕白さからして男の子だろうよ。だから名前はこうしようと思ってるんだ」
「おいおい、お転婆なお姫様な可能性もあるだろ?」
「茶化すなよ。それならそれでいいさ。とにかく元気ならそれで」
「まあ、そうだな。それが一番だ」
「ああ、だから無事に母子ともに健康で生まれてきてくれよ。可愛い我が息子、オズワルド」
◆
声が聞こえた。誰か分からない。けれどオズワルドはその声を主のことを確かに知っている。
「今のは一体……?」
いや本当は分かっている。
あれはオズワルドの記憶だ。
これまで現れたどのオズワルドの記憶かまででは分からない。だけどあの記憶はオズワルドという存在にとって大切な物なのは感覚で分かった。
何故か分からないがナキリの剣に反応して奥底に隠されたその記憶が浮上してきたのは間違いない。だけど何故だ。
(命の危険を感じたから? それとも他に何か要因があるのか?)
それはまだ分からない。けれどこの封印されていた記憶を見ていけばその答えに辿り着ける気がする。
だとしたらまたナキリの剣を見れば、あるいはそれを取り込めばいいのではないだろうか。
「……いや、駄目だ。少なくとも肉屋や仲間に相談してからだな」
危険な行為になるかもしれない以上は勝手に動く訳にはいかない。
相変わらず気付いた時にはどこかに行っている肉屋などこういうことには詳しそうだし、行動するのは奴に聞いてからでも遅くはないだろう。
(でもあの声の主はオズワルトを息子だと言っていた。ってことはつまりあれはオズワルドの父親ってことか?)
答えの出ない問いに俺は頭を悩ませるのだった。




