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スライム転生物語  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中
第一部 転生編

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第二十章 縁

 オレが目を覚ましたのは早朝だった。スライムの習性なのかこっちに転生してからというもの目覚めが快適そのものだ。前までは起きて布団を出るのが物凄くきつかったのに、スッキリと起きられるというのは中々に快感だった。


 ミラは毛布に包まったまま寝息を立てている。気のせいか寝ている表情が柔らかくなっている気がした。何かいい夢でも見ているのだろうか。


 肉屋は相変わらず死体状態で起きているのかも判別できない。そもそも睡眠が必要なのだろうか。


「おや、おはようございます」

「何だ、起きてたのか」


 肉屋はオレが起きたのに気付いて顔をこちらに向ける。その顔は一晩経っても変わらぬ骸骨だ。目覚めにこれは中々にきついものがある。


「スッキリした表情で。昨日とは別人ですな」

「腹括ったからにはやるしかないだろ」


 実際、他に言いようがない。


「なるほど。では早速これからのことを話させていただきますが……特に変わりはありません。今まで通りスキルを手に入れながら進化するようにしてください」

「おいおい、何もなしかよ」


 先行投資の話はどうなったんだ。


「今の方法が一番強くなるのに最適だからです。白骨の所有する肉にはあなたを数段階高みに上げる肉もない訳ではありませんが、それは数が限られてますし、後で使った方が効果的ですので。それにまだ、一先ずの段階ですので様子見をさせていただきます」


 要するに今のオレだと力不足だということか。まさか、肉を食うのにも値しないレベルだと言われるとは流石に思ってもみなかった。


「もちろん進化の条件などの情報はこれまで以上に提供させていただくつもりですよ。あくまで商人として範囲で、ですが」

「まあいいさ。そこはお前に任せるしかないし、どうこう言ってもしょうがないんだろ?」


 肉屋がオレを見捨てればそれまで、考えても意味ないし今はやるべきことをやるだけだ。その行動で肉屋にオレの有用性を示して、見捨てられないようにするしかないのだから。


「とりあえず、今日はミラの用件を済ませてしまおうか。今日までだって言ってたし、一番時間がないからな」

「それが妥当でしょう」


 今後の方針が決まったところでミラを起こしに行く。朝早くて申し訳ないがいつまでも待っている余裕はオレにはないので仕方ない。


 ミラは体が目覚めても意識が起きるまでは時間が掛かるタイプらしく、昨日と同じしばらくの間ボーとしていた。

 意識まで覚醒したミラにオレが薬を作ることを約束すると、


「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!」


 疑うことなく頭を下げられお礼まで言われてしまった。見捨てることも考えていただけにこれには罪悪感が刺激され、オレは慌てて頭を上げるように言った。


「ただの善意ってわけじゃなくてオレにも目的があるから言ってるんだ。だから感謝する必要はないって」


 実際その通りなのだが、謙遜だとミラは勘違いしたらしくより礼を言われてしまった。なんだか昨日と比べて随分と信用されている気がするのだが気のせいだろうか。


 まあ、特別なことをした記憶はないし気のせいだろう。


 この場で話していても問題解決にはならないのでオレ達は早速ミラの案内でその村へと向かうことにした。

 その途中またしてもゴブリンの群れに遭遇したが瞬殺、レベルアップもなかった。


 それにしてもやけにゴブリンに出会うがこの地域にはどれだけのゴブリンがいるのだろう。肉屋の話だと生息地ではあるがここまで活発的なのは異常だと言うし何か原因があるのだろうか。


 興味は尽きないが考えても答えは出ない。その後も何回かゴブリンに遭遇しながらも順調に進み続けてオレ達はミラが世話になっている村とやらを目視できるところまで到着した。


 ……非常に既視感(デジャビュ)を覚えるのだが気のせいだろうか。いや、そんな訳がない。


 既視感(デジャビュ)なんかじゃなく実際にこの村は見ているのだからそう感じるのも当然だった。迷っている子供二人を送り届けた村、そこがミラの言う世話になっている村だったのだ。


 こんな近くに村が幾つもあるわけないし、よく考えればわかったものをやはりオレはどこか抜けていると言わざるを得ない。

 まさかと思ってその子供の名前を聞いてみると、


「アリスっていう私と同じ金髪で可愛らしい女の子です。詳しくは分かりませんが、一人で倒れているところを発見されたそうですけど、それが何か?」


 との返答をいただきました。こうまで偶然が重なると運命とか縁とかってのも信じていいのかもしれない。


 それにしても、オレが助けた時は平気そうだったのにあれから毒を受けることになったのだろうか。運が無さ過ぎる。襲われて、その次は毒を受けるなんて。


 もしくは一人でいたようだし、自分からまた危険な所に行ったとかも考えられる。迷子らしくなかったし、何か目的があって森にいたなら、また勝手にいなくなるなんてこともあり得るか。

 

 何にせよ、あんな別れをした子達とこんなに早くまた会うことになろうとは。人生何が起こるかわからないものである。


 普通に行ける訳もないのでオレはミラが持っていた道具袋の中に限界まで収縮して隠れる。


 肉屋は姿隠しの指輪とやらを使って家の前で待機するとのことだ。透明人間化できるとは便利なアイテムを持っているものだ。

 ちなみにオレがその指輪を使わないのは指がないからって、言わせるな。

 

 準備を終えたミラがゆっくりと歩きだす。袋の仲なので音と振動でしか判断材料がない。今、村のどの辺りにいるのだろうかすら不明だ。

 そうして黙っていることしばらく、ミラが立ち止まり扉を叩く音がする。どうやら目的の家まで来たようだ。


「……はい」


 この声はミラの物じゃないし家の主のだろうが、異様に暗かった。言葉だけで憔悴しきっているのがわかる。娘が死に掛けているのだからそれも当然だが。


「ミラですけど、開けてもらえませんか? 薬が手に入ったんです!」


 ドタドタという慌ただしい足音がして勢いよく扉が開く音がする。


「み、ミラちゃん、今の話は本当なの!?」


 声からして女性、母親だろうか。さっきとは打って変わって声が大きい。


「はい。ただ解毒は時間との勝負ですし詳しい話は後でしますから、とにかく今は一刻も早くアリスちゃんの治療をさせてください」

「わ、わかったわ!」


 また足音がして揺れが激しくなる。ヤバい、この状況で不謹慎とはわかっているが乗り物酔いしそうだ。

 幸なことにすぐに揺れが収まると袋の口が開かれる。助かったし、どうやら出番のようだった。


 ミラによって袋から出されると通常サイズまで戻る。予定していた通りこの場にはミラとベッドで眠るアリス本人しかいなかった。どうやらうまくやってくれたらしい。


「薬の生成方法が特別で見せられないって言い訳しときましたから誰も入って来ないはずです」

「ナイスだな。さてと、じゃあ早速取り掛かるとしますか」


 さっきミラが言った時間との勝負ってのは嘘じゃない。子供だし場合によってはタイムリミットが早まる可能性は十分あり得るのだ。


「ふー」


 触手の先端をアリスの傷口に持っていく。肉屋から最適な治療法は聞いているので後はオレが成功させられるかどうかにかかっているのだ。


 集中して先端に意識を集中させる。間違えて別の回復薬ならともかく毒を生成した日には目も当てられない。必要なスキルを意識してじっくり先端に体からそれに必要な何かを集めていく。


 すると触手の先端に液体が滲み出てきて、それが一つ二つと滴となりアリスの傷口にしたたり落ちた。

 その効果は劇的だった。ドス黒い緑色に変色していた傷口付近の肌が、滴が落ちるたびに消え去っていく。


「成功か?」


 見た感じではそれっぽいが安心はできない。ミラがテキパキとアリスの体を触ったりして診察をしていく。


 そして、


「……よかった、もう大丈夫です」


 歓喜の感情がこもったその一言でオレも大きく溜め息を吐いた。どうやらオレの行動は無駄じゃなかったらしい。今はそれだけで満足だった。


 この瞬間、オレもミラも完全に気を抜いた。そして肉屋も外で待機中でありこの場のことを見てはいない。つまり、隙だらけになったということだ。


 一瞬の油断、その代償は大きかった。


「おかえりなさい、ミラおねえちゃん!」


 元気一杯の言葉と同時に扉が開け放たれる。隠れる暇もなかった。


 後でわかったことだが、ミラは両親にしっかりと部屋に入らないと言っていたのだがお昼寝中の妹には大丈夫だと思って注意を払わなかったらしい。まさかこのタイミングで目覚めてそのことに親が気付くことなく、しかもミラの声を聴きつけてこの場に来るなんて誰が想定できるだろうか。


 ばっちりオレと目が合うミナ。時が止まったかのように誰もが動きを止める中、


「あー、スライむぐ!」


 咄嗟にオレがミナの口を塞ぎ、ミラが開けっ放しの扉を閉める。この間一秒もかかってないだろう。


 ってどうすんだよ、これ。

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