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スライム転生物語  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中
第一部 転生編

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第十九章 お人好しの選択

 オレ達は明日の備えて眠りに就くことにした。そんな中、オレは洞窟の入り口で考え事にふけっていた。


 ミラは世界を見てみたくてエルフの里を出て旅をしており、現在はこの近くの村で世話になっているとのことだ。

 

 そこで最近、その村のある子供がモンスターの毒を受けてしまい薬が無ければ後三日ももたない状態らしい。解毒魔法を使えるような高位の魔法使いは村にはいないし、かと言って解毒剤は高価でとても村人の収入で買えるものではない。


 唯一の可能性がこの近辺に稀に現れ、その薬を生成できるスキルを持っているエンジェルラビットという訳だ。ミラはそいつを生け捕りにして薬を作らせようとしていて、そこであの場に、オレと鉢合わせになったという事らしい。


 なぜ生け捕りかというと生成系のスキルは人型の種族では獲得不可能だからとのこと。モンスターであるオレは簒奪できるが彼女は倒しては意味がないのだ。


 期限は明日まででもう時間がない、気丈に振る舞いながらも泣きそうになって話すミラにオレは自分がそのスキルを持っていることを言い出すことが出来なかった。


 ミラはオレがエンジェルラビットを倒したところは影になっていたのか見てないらしく、逃がしたけど逆にこの辺りにいることは分かったから明日中に何としてでも捕まえると言っていた。それが不可能だと知っているのはオレと肉屋だけ。


 肉屋は対価をもらったわけでもないし、それはオレの情報を売ることにもなるので確実に黙っているはず。ミラに真実を告げるかはオレ次第だった。

既にそいつはオレが仕留めてしまっていることだし、そんな珍しい奴が二匹もこの近辺にいるなんて都合のいい展開はないだろう。


 単純に考えればオレがその子の為に治療薬を作ればいい。それで万事解決だ。


(ただ、単純に済むことなんて滅多にないんだよなあ)


 あそこで薬を作ればミラには感謝されるだろうし、その子も助かる。これは間違いなく良い点だ。出来ればそうしてあげたいと思う。


 だが、良い点ばかりなんてことはもちろんありえない。エンジェルラビットはそのスキルなどの希少性から冒険者などのモンスターを狩ることによって生計を立てている奴らにとっては垂涎ものの逸品らしい。現に肉屋もわざわざオレに狩らせるようにしていたことからもそれがわかる。


 そのスキルを持っていると他人に知られればオレが狙われる危険性も否定できない。というかその可能性は高いだろう。


 今のオレはエンジェルラビット程の速度は出ない。強さ的にどうなのかは知らないが狙いやすいがどちらかは言うまでもないのだ。


 ミラに口止めするとしても絶対じゃない。肉屋のような強制力のある契約でもない限り人の口に戸はたてられないし、それに仮に肉屋の力を借りられたとしても意味はない。肉屋の契約も完全とは言えないからだ。

 

 意図的かは知らないが肉屋の契約には穴を残している節がある。


 オレとあいつが交わしていた意図的に相手を騙す嘘を吐かないという契約、一見して完全な物に思えるが実際は穴だらけだったのだ。


 まず、嘘を吐かないだけで本当のことを話すわけではない。肉屋のやったこともある通り言わないという手段がある。加えて意図的にという部分で咄嗟に口から出た場合もセーフだろう。


 可能性で言えば騙すとは悪意があることと仮定した場合、悪意がなければ嘘を吐けるという事も考えられる。この場合で言えばオレは自分の身を守るために仕方なくという風に。


 オレが少し考えただけでこれだけ穴が出て来るのだ。全てをカバーするなんて不可能に近い。それに完璧な契約を作れたとしても、オレはそれを信じきれない。どこかに穴があるかもしれないという恐怖に苛まれるかもしれないのだ。


 命を狙われる危険を覚悟で人を助けられるかと聞かれれば、オレには無理だ。オレはどこぞのヒーローでもなければ聖人でもない。


 ただの冴えない元サラリーマン、それがオレだ。そんな自分の事でも手一杯のオレが分不相応な他人の物まで背負い込んだら潰れるに決まっている。耐えられるわけがない。


 だったら答えは決まっている。このまま黙っているべきだ。


 だというのに、


「くそ!」


 心にかかるこのモヤモヤした感覚はなんなのだろうか。いや、本当は分かっている。

 罪悪感、そして偽善者以外の何者でもない自分への憤りだ。


「随分とお悩みのようですね?」

「ったく、何の用だ。今はお前の冗談に付き合う暇はないぞ」


 その声に振り返ると、いつも間にか肉屋が背後まで忍び寄って来ていた。


「あなたの悩みの大体は理解できていますので、ご忠告をと思いまして」

「頼んでない」


 肉屋はこちらの言葉を聞かずに話を続ける。


「確かにあなたはエンジェルラビットのスキルを簒奪したことにより、狙われる危険が上がった。これは半分白骨の所為でもありますので対価はいりませんし、これは本心からの忠告です。命が惜しいならあなたは今回の件、ミラ嬢やその村の件に関わるべきではありません」


 肉屋がこうまで言い切るとは意外だった。また、はぐらかしたり場合によってはかき回しに出るかと思っていたのだが違うらしい。


「どうしてだ?」

「どうしても何もあなたはそれを正確に理解しているはず。だからこそこうして一人悩んでいたのでしょう」

「……」


 お見通しという訳か。


「あなたがごく一般的な人間の心を持っているのはこれまでの行動でわかっています。人間であるミラ嬢をわざわざ助けたことからもかなりのお人好しでしょう。ですが、今回そのお人好しを発揮した場合、あなたは間違いなくここら一帯にはいられなくなる。どんなに情報を隠そうとしても無駄、何事もばれるのは時間の問題ですからね」

「その別の場所に行くって手はないのか?」

「はっきり申しまして、今のあなたでは厳しいでしょう。ここから行くとすれば東西は海で塞がれ南の街はモンスターであるあなたにはまず無理ですし、残るは北の砂漠地帯ですがあなたはスライム、乾燥した場所での体力の消費は今とは比べ物にならない。ここはスライムに適した環境だから数日水を飲まなくても生きていけますが、砂漠では人間以上に水が必要になってくる。恐らく数日も持ちません」


 聞く限り絶望的だった。そんな過酷な状況で生き抜けると過信できるほどオレは楽観的じゃない。


「ですから、今回の事は聞かなかったことにするべきです。白骨としても貴重なお客を無駄死にさせたくはありません」

「大事なお客ね。まあ、気持ちは受け取っておくよ」


 あの肉屋がこうまで真剣に言うのだ、恐らく高確率でその未来は実現するのだろう。


 だったら答えは決まっている。オレは死にたくない、それは間違いない。

思えばオレは体もそうだが、なにより心が弱い。この弱肉強食の世界で生きるには精神が脆弱過ぎる。自分の事だけで精一杯、それがまぎれもない現状だ。


 だから、


「なあ、肉屋」

「何でしょう?」

「お前が水をアイテムボックスに収納してくれれば問題なくなるんじゃないか?」

「何を言っているのですか? その問題を解決したところでそもそもの環境に適していないという事をよく考えてください。あなたの力は今よりずっと発揮しづらくなり、敵も増えるのですよ?」

「それもお前が協力してくれればどうにかなるだろ?」

「ですから」


 肉屋が珍しく声を荒立たせる。明らかにイラついていた。


「白骨は商人としてしか協力は出来ません。エンジェルラビットの肉を対価にしたところでそれらすべてを賄うことは不可能ですよ。そんなことあなたなら分かっているでしょう。それとも何ですか、あなたにそれに見合う対価のものが支払えるとでも」

「一応、考えはある」


 屁理屈に近い、バカげた案だが。


「……それは一体なんですか?」


 もったいぶることでもないのでオレは正直に話す。


「オレの肉だよ」

「はい?」

「いや、だからオレの肉」

「……あなたは白骨をバカにしているのですか? それともあなたは予想と違って愚か者だったのでしょうか?」


 静かに怒る肉屋にオレは慌てて説明する。


「いや、バカにしてるわけでも自棄になっているわけでもない。オレの肉を進化するたびにお前に渡す契約をするっていうことだよ」

「……ほう?」


 肉屋の態度が変わって商人の物になる。利益を計算しているのだろう。


「約束する代わりにお前にはその分に見合った商品や情報を貰いたいんだ」

「悪くない考えですがそれだけでは到底足りませんよ」

「少し先までの分だけならな」


 ここからが勝負だ。


「オレがお前に望むのは先行投資、つまりオレが進化することを見越して先にサービスを受け取らせてほしいってことだ。もちろんオレがその分の対価を支払わずに死んだらお前はかなりの損をする。だからお前にはオレが死なずに対価を、借金を返せるように協力して欲しいんだ。前にお前言ってたろ、強大な魂の持ち主は残りカスですら凄まじい力を得ることもできるって。それってつまり肉を食うだけでもレベルがバカみたいにあがったり、もしかしたらスキルも得られたりするとかじゃないのか?」

「……」


 肉屋は答えない。後者は完全に当てずっぽうだし勝算はないに等しい。けどここまで来たら止まれない、前に進むだけだ。


「お前にはオレがそんな存在になるまで支援してもらいたい。それまではお前に頼ることになるかもしれないし、ある意味大博打だが成功すればお前は強大な魂の持ち主の肉を好きなだけ手に入れることも可能になるはずだ」

「……なるほど」


 肉屋はそう呟いたきり黙ってしまう。どっちに転ぶか、こればかりはオレも見当もつかなかった。


 しばらくして肉屋が口を開く。そして、


「いいでしょう。その提案を受け入れましょう」


 快く頷いてくれた。


「ほ、本気か?」


 良い事のはずなのにオレはついそう聞いてしまう。こちらとしては好都合だが相手にとってはリスクが大きいはず。だというのにこんな簡単に許可していいのだろうか、そう思ったのだ。


「ええ。理由を言うとすれば、素晴らしいアイデアだったという事もありますが決め手になったのはあなた自身ですよ」

「オレ自身?」


 一体どういう意味だ?


「この弱肉強食でいつ死ぬかわからない世界ではどうやって今、力や利益を得るかが重要になってきます。モンスターや戦いに身を置く者は尚更その傾向が強いでしょう。先のことを考えても死んだらそれでおしまいですから。ですがあなたはそんな世界の中で先を見据えてなおかつ今を生きるための方法を考え、それだけでなく実行しようとしている。これはモンスターでは、いや、人間ですらこの世界では考えつかないかもしれない、考えても実行に移そうと思う者はいないであろう革新的な考えであり行動です。そうしたことをこうも簡単に実行しようとするあなたに白骨は他にない可能性を感じました。あなたの将来性を見込んだ、といったところですかね」

「そ、そうか」


 考え云々はこっちに来て数日のオレには分からないがなんにせよ話がまとまるなら構わない。これでオレは生き残るかも知れない道を繋ぐことが出来た。


 細い糸のような可能性かも知れないが、それでも零じゃない。


「ですが、そこまで考えられるあなたが何故こうも人を見捨てたがらないのかは不思議でありませんね。狡猾になればあなたはもっと安全に圧倒的強者になる道もあるでしょう」

「ああ、その理由は簡単だよ」


 実にくだらない、どうしようもない理由だ。


「オレは人を見捨てられないんだ」

「そうですか、これはまた高尚な精神であらせられる」

「いや、そういうのとは全く違うんだ。場合によってはオレが人を見捨てることも十分あり得るし」


 首を傾げる肉屋にオレは先を続ける。


「オレは死にたくないって思ってる。これ以上ないくらいにみっともなく死を恐怖している。けど、それと同時に普通の善良な人を見捨ててしまうことも同じくらい恐ろしいんだ。オレを殺しに来たとか明らかな屑ならきっとオレも容赦はしないし仕方ないって自分自身に言い訳できる。けど、きっと弱いオレは普通の人を、しかも子供を見捨てたりしたらその罪悪感とかに押し潰されてしまう。意味のない後悔して、結局耐えきれなくて死ぬだろうってことが簡単に想像できるんだ。オレが弱いことはオレ自身が一番よく知っているしな。見捨てても見捨てなくても結果が変わらないなら、まだ自分らしくいた方がマシだろってその程度の奴だよ、オレは」

「弱いからこそ助けずにはいられない、何とも奇妙な結論ですな」

「確かにな。でも、それがオレだ」


 答えは出た。だったら後は迷わず進むしかない。

 今回は助けることを選択したが、相手次第で次はその逆を選ぶかもしれない。


 それは矛盾した生き方かもしれないが、生きている内に一度も二律背反的な事柄を経験しない生き方なんてありえない。

 

 それこそヒーローのような特別でもない限り。

 オレは特別なんかじゃない。いくらでも迷うし、矛盾した生き方をする。みっともなく逃げる場合もある。でもそれでいい、そうじゃなきゃオレはオレじゃない。

 

 オレの中にある譲れない物、それを失ってしまったらオレはきっと前の世界のすべてを失ってしまう気がする。それがなによりオレには恐ろしいのだ。


 もう名前も思い出せない自分というものを失ってしまうことが。


「と、いうわけで早速肉をくれ。とびきりいい奴な」

「お断りします」


 普通に断られた。一体何故。


「あなたに効率的に強くなっていただくために何の肉が良いかしっかり考えた上で配分させていただきます。白骨の所持する肉とて有限ですので」


 しっかり考えてくれるなら文句はない。時間がないのは変わらないのだから。


「今はやるべきことは一つ、明日に備えて休むことですよ」

「そうだな、そうするか」


 疲労は溜まっている。これならすぐに眠れるだろう。


 オレはもう少しこの場に残るという白骨を残して洞窟の中に入った。そこには当然ミラが寝ているのだが、眠りながらも寒そうに体を縮こませている。寝相のせいか毛布から体も出ているし、寒くて当然だ。


「ったく、しょうがねえな」


 毛布を触手でしっかりと整えてやるが、それでも寒そうに震えるのは変わらない。この世界に四季があるのか知らないが少なくとも夏ではなさそうだ。朝と夜はかなり冷え込む。


(寝ながら使えるかは分からないが試してみるのも悪くないか)


 新たに手に入れた熱放出のスキル、これは熱生成のスキルと組み合わせて使うもので、具体的には後者のスキルで体内に熱を発生させて前者のスキルで周囲に放出できるようになるのだ。


「これぐらいかな」


 攻撃にも使えるスキルなので、温度を調節には注意して熱くならない程度にキープ、これでスライム式簡易暖房の完成だ。


「ん……」

(あれだけ寝たのによく寝れるな)


 寒いからか顔を歪めていたミラの表情が和らぐのを見てから、オレも眠りの世界に落ちて行った。

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