第十八章 盲点
ミラがオレと話せた理由はごく簡単なものだった。こんなことを見落としていた自分が少々情けない。
「オレだけがスキルを持ってるわけじゃないもんな」
ミラが言語スライム族のスキルを持っていたからという、実に単純な理由だ。敵を倒してスキルを得られるのだからそういう可能性も想定できたはずなのに、オレもまだまだ視野や考えが狭いと反省させられた。
ただ、その事を聞いた肉屋の反応はオレとは違っていた。
「ほう、これは珍しい。人の身でスライム語のスキルを身に着けているとは」
「そんなに珍しいのか?」
肉屋は大げさなぐらい大きく頷く。
「本来、人型の種族では基本的には獲得不可能なスキルの一つですね」
だったらなんでミラはそんなスキルを獲得しているのか。
「ここから先は対価がいりますが?」
「ドケチ商人め。わかったよ、ゴブリンの肉で余ってる分がまだあるだろ。それで足りるか?」
「そうですね、残っている内の半分程でいいでしょう。承りました」
肉屋は一礼して嬉しそうに骨を鳴らして笑う。ぶれない奴だ。
「まず、どの種族にも獲得不可能のスキルは存在します。例えば白骨のような骨であれば筋肉を強化したりするスキル、スライムのあなたであれば骨格を強化したりするスキルなどそもそも体に存在しない器官や属性的に相性が悪いスキルは普通、獲得できません」
ただし、と白骨が続ける。
「これにもいくつかの例外があります。一つ目は本来獲得できないスキルを獲得できるようにするスキル獲得した場合です。わかりやすく言えばあなたの持っているスキルの一つ、簡易液状化がそうですね。本来スライムなどのモンスターしか液状体操作などは獲得できませんが、液状化を覚えれば人間でもスライムのような体になれるようになり、液状体操作などのスキルを獲得できるようになります」
なるほど、オレが簡易液状化なんて得ても意味ないと思っていたがそれはスライムだったからで他の種族からしたら意味あるものになるのか。
「二つ目が職業による補正です。例えば魔獣調教師という職業があるのですが、その名の通りのモンスターを捕まえ調教する職業でして、その職業を持っているか適性が生まれながらに高い者は稀にその職業でしか得られないスキルを生まれながらに持っていたり、補正効果で本来獲得不可能なスキルを獲得できたりすることがあります。今回のミラ嬢の場合、エルフ族が元々動物や精霊などと心を通わせることが得意な種族なのでその影響もあるでしょうな」
ミラがその職業に適性があるというのか。まあ、エルフ族の特性とかオレにはまったくわからないし、肉屋がそう言うならそうなんだろう。
「残る最後の一つが前世の影響です」
「っ!?」
この言葉にはオレはつい声を上げかけたが肉屋は気付かずに話を進める。
「前世の魂が何らかの形で多く残ったまま転生を果たした場合、前世の能力か性格、またはその一部を引き継いでいることがあるとされています。例を挙げれば二百年前に現れた覇竜皇帝と呼ばれた人間は竜の転生体と呼ばれ、スキルもなしに口から地獄の業火を吐いて一万の敵軍を一晩で滅ぼしたとされています。まあ、伝説に近いですし真偽も不明、事実でも滅多にあることではないでしょうが」
「……じゃあオレが人間のような心を持ってたり、スキルもないのに人間の言葉が分かったりしたのは人間の転生体っていう奴だからってかの可能性はあるのか?」
よくよく考えてみれば、迷っていた子供と出会った時にオレが言葉を理解できたのはおかしいのだ。
異世界だし、みんな日本語で話しているわけじゃないだろうからスキルもないあの状態ではオレは人の言葉が理解できるわけがない。それなのに理解できたと言う事はその前世とやらが影響していると考えれば説明がつくかもしれない。
「その人間の言葉というのは詳しい内容は見てないのでわかりませんが、その可能性は確かにありますね。ただ、こればかりは真偽判定はそれこそ神のような存在でなければわかりません。白骨ごときのスキルでは到底不可能でしょう。ただもし、あなたが転生体であるならばその存在価値は計り知れない。ゆえに白骨があなたにこうしてついて行っているという訳です」
この言葉振りからして肉屋もオレが人間から転生だってことに確証までは持っていないらしい。ただでさえ普通に人間からの転生でも存在価値が計り知れないという厄介そうなのに、これが異世界からだって事が発覚した日にはどうなるか想像もできない。
今後もこのことは他言無用に決定だ。ばれたらヤバすぎる。
「あ、あの!」
「「ん?」」
オレと肉屋は同時に声の主の方に振り向く。そこには当然この場でまだほとんど言葉を発していなかったミラが困った顔して座っていた。
そう言えばスキルの話を聞いた後から完全に放置状態だった。ついつい肉屋の話に集中してしまったのだ。
「今の話は本当のことなんですか? 私に、その、魔獣調教師の適性があるって」
って、気になったのはそこかい。まあ、自分の事だしそりゃそうか。
「確証はありませんが高確率であり得ると思いますよ。万に一つの可能性であなたがスライムの転生体なんてこともなくはないですが、他のスキルなどを見る限りそれはないでしょうし」
「え! 何で私のスキルがわかるんですか!?」
「白骨の特技の一つですので。悪用はしませんのでご安心を」
「……そ、それならいいですけど」
ミラが渋々と言った様子で納得する。というかそうするしかないのだろうが。
今のところ、ミラが教えてくれたのは言語スライム族を持っているということだけ。スキルがばれれば大体の戦闘能力も把握されるのだから、その警戒は正しい。実際オレもスキルついては肉屋だろうがほとんど話してない。
けれど肉屋の方が一枚上手だったようだ。どういう方法かは知らないが相手に適した肉を売っている肉屋が相手のスキルと見抜けないと商売にならない。それにスキルなどが見えてなければオレと会っときに迷いなく進化するであろう肉を差出せないことからもそれは明らかだ。
どうせオレのスキルなども筒抜けに違いない。
「ん? ってことはお前、ミラがオレと話せるってこと最初からわかってたはずだよな。 何で言わなかったんだよ?」
「他のお客様の情報をそう簡単にお教えすることは出来ませんよ」
「あ、確かに」
こっちの世界でも少々内容は違えどそういう意味ではプライバシーはあるみたいだ。
まあ、肉屋の口ぶりからして簡単ではないだけで教えてもらうのが不可能ではないらしいが。どうせそれに見合う対価を請求することはわかりきっている。
今はそんなことよりミラとの話だ。まだ、スキルを一つ聞いただけしか話していない。
「……本当にあなた達って何者なんですか?」
ミラが額を押さえて溜め息を吐きながら聞いてくる。困らせているようで申し訳なかった。
「何って言われてもなあ?」
「白骨は白骨でしかありませんし」
「オレはスライム、または生きている間はゼリーで死んだら色の付いた水になる謎の生命体だし」
「いや、そう意味で言ったんじゃないんですけど」
もちろんわかっている、ボケただけだ。
しかし、そう言われてもオレ自身自分が何者かもわかっていないのが現状であり、他に言いようがないのもまた事実である。
「オレ達のことは変わったモンスターだとでも思ってくれ。危害を加えないのは約束するけど、言葉だけじゃ信頼できないだろうし無闇に近寄ったりもしないから。それで出来れば話をしてからその判断をしてくれると嬉しいけどな」
「はあ」
ミラが分かったのか分かってないのか、間の抜けた返事をする。最弱モンスター筆頭であろうスライムにこんなこと言われたらそうなるのも当然か。
オレは今まであったことを簡単に説明する。もちろん異世界から転生したことなど言えないことは黙ってだが。
一通り話し終わった後、ミラは考え込むように黙ってしまう。まだ判断が付かないのだろう。
こんなモンスターの戯言と切り捨てずに真剣に考えてくれるのは嬉しいが、いつまでも待っていられないので、オレは別の話題を提供することにした。
「こっちが話したからってわけじゃないけどミラのことも話してくれないか? 何であの場所にいたのかとか」
「私の話ですか?」
「ああ、お互い相手のことを知らないと色々わからないこともあるだろうし」
個人的にミラがどうしてあの場にいたのか気になるのもそうだが、話をさせることでこの世界の情報を得られるだろうしオレに損はない。何か肉屋みたいな考え方で申し訳ないがそれはそれ、これはこれだ。
「……わかりました。私は」
ゆっくりと話し始めたミラの言葉にオレは耳を傾けた。




