第八章 裏切り
巣穴に戻ったオレはまた狩りについて行った。
もちろん人間を襲う気になったわけはない。一回見ただけではわからなかった役に立つ情報が見つかるかもしれない。
そう考えたからこそオレはその為にこうしてノロノロと移動する集団について行っているのだった。
スライムAのように僅かでも親しくなった相手はいないので、一番形に変化がある奴、つまり一番レベルが高そうな奴に付いて行くことにした。
今のところこのスライム達を倒すつもりはないが、万が一にもそうなった時に得られるものが多い相手の方であればある程、効率がいい。
前に見たスライム達の戦闘とゴブリンを相手にした感じからみて、オレがこのスライム達を集団で相手にしてもやられる可能性はないと判断したからできることだが。
そうじゃなきゃ一番強い奴を狙うなんて怖くて出来やしないっての。
ノロマな行進について行くことしばらく、先頭の奴らが急に跳ねるように進んで行く。どうやら獲物を発見したようだ。
オレは跳躍のスキルを手に入れていることもあってか他の奴らを軽々と追い抜かして戦闘の集団に簡単に追い付く。そこで獲物を視界に入れることに成功した。
この時までオレはスライム達が獲物である人間に襲い掛かって返り討ちにされても、それを陰で見ている気でいた。まだ人間の相手を出来る程力が付いているかはわからないし、それ以上に人間を相手に戦う覚悟も出来ていなかったから。
戦うと言う事は殺すこともあり得るのだ。元人間として出来る限りそんなことはしたくない。
ただ、そんな甘い考えを嘲笑うかのように事態はオレの予想を裏切り続ける。
「マジかよ……」
今度の獲物、それは前のように戦闘が出来そうな相手ではなかった。それどころか大人ですらない。
幼い子供、それが今回のスライム達の獲物だった。
二人いるがどちらも女の子のようだ。
一人はまだ前の世界風に言うなら幼稚園児ぐらいで綺麗な金髪を頭の左右で止めていた。もう一人も小学生低学年がいいところで、同じく金髪を腰に届くくらいまで伸ばしている。
小さいというより幼いと言った方が表現としては正しいだろう。
そんな子供がこんな森で何をしているのか。二人とも泣きそうな顔をしているところからして来たくて来ているのではないようだが、だとしても危険なことには変わらない。
現に今こうしてスライム達に目を付けられているのだから。
そんなことをわずかな時間で考えている内に他のスライム達が茂みから飛び出して、偶然だろうが子供達を囲むように着地する。
いきなり現れたスライム達に子供達は泣き出しそうな顔を更に歪めるものの、恐怖から声も出せない様子だった。これじゃあ逃げ出すなんてことも出来そうにない。
それ見た瞬間にオレも飛び出していた。考えている時間はない、やることは決まっているのだから。
「せい!」
勢い付けて飛び出すと、そのまま肥大化して落下する。さっきのゴブリンを倒した技だ。
ただし、今度は新たに得たプレスアタックの効果により威力が増しているし、体の動きも流れるようにスムーズにいく。耐久力がゴブリンより劣っているであろうスライムがどうなるかは言うまでもなかった。
今にも襲い掛かろうとしていた先頭集団を押し潰しながら後続の奴らと子供たちの間に落ちるようにして現れたオレにさしものスライム達も動きを止める。当然ながら下敷きになった奴らは濁った液体に還っていた。
「オマエ、ナニスル!?」
「ペッ!」
プレスアタックから逃れた一匹のスライムがそう言ってくるが無視して毒をその体に向かって吐き出してやった。
毒に触れたスライムは何か言い返すこと暇もなく、ドロドロに溶けてあっけなく死ぬ。そして、その周囲にいた数匹も巻き込まれて同じ末路を迎えることとなった。
やると決めたからには容赦や躊躇いは余計な物以外何物でもない。
まさかこんなに早く先程考えた万が一の可能性が起こるとは思っていなかったが、こうなってしまった以上オレはこいつらを全滅させることを決心した。
こんな幼い子供を見殺しに出来るならそもそもオレはあんな風に死んで、スライムに転生なんてしてないのだから。
その明らかな敵対行動で他のスライム達はオレの事を敵と認識したのか、もう話しかけて来る奴はおらず我先にと飛び掛かってきた。
今回は群れがそこまで別れる前だったこともあって数が多い。先程倒した奴らを差し引いて上で少なく見積もってもまだ三十匹はいる。その全部がほぼ一斉に飛び掛かって来られるとダメージがほとんどないとはいえ気持ち的に押されるものがあった。
ただ、いくら数がいようとオレはこいつらの倍以上のスキルがありゴブリンだって単身で倒した自信がある。何よりここでオレが負ければ後ろの子供たちがどうなるかを考えれば怯えてなんていられない。
オレはすぐに次の毒を作りだし吐き出す。今度は先程のように狙いは付けないで、出来るだけ拡散するように、だ。
思った通り、毒に僅かでも触れたスライムは溶けるようにその体を崩し、勢いを失くして地面に落下していく。レベルの差か、種族の差か、それともこれまで敵を倒してきて得た力のおかげか、効果は絶大だった。
地面に落ちたスライムはピクリとも動かない。死んでいるのだ。
もちろん、それだけですべてのスライムを撃墜できるはずもなく残った奴らが唯一の攻撃方法である体当たりを敢行してくる。
ネオスライムになり、その上スキルでわずかながらも速度が上がっている今のオレにしてみればこんな攻撃を躱すことは容易い。だが今そうするわけにはいかないのだ。
後ろいる子供を庇っているというこの状況はオレがこの場から一歩も動けないという事を意味していた。
万が一にも後ろにいる子供に被害が及ばないように、オレは限界まで肥大化して壁になる。そのサイズは自分でも驚くべきことに通常時の十倍近くまで膨れ上がっていた。これなら壁としては完璧だ。
体が大きくなったというとは当然的が大きくなったという意味であり、オレは次の瞬間には十数匹のスライムによる一斉体当たりをモロ受けることになった。
ただ、いくらしょうがないとはいえただ攻撃を受けるのは癪なので攻撃が当たる瞬間に目一杯、口を大きく開ける。
突然、現れた大穴を避けられるはずもなく半分近いスライムがオレの口の中に自ら飛び込んでくる形になった。そうなったら次にすることは決まっている。
オレは容赦なく口を閉じて一気に飲み込んだ。スライムには歯に当たる部分は存在しない。若干口の上下が固くなりそれでものを噛むことも出来るようだが、噛み砕けるほどの威力は出ないのだ。
どうやらスライムとは液体がかろうじて形を保っているようなモンスターらしく、飲む込む時も水を飲むように簡単だった。
こうするのが最善だと判断したが思った以上に敵の数を削げたようだ。既に残っているのは十匹にも満たない。
運よくオレの体に体当たりをかました奴らだったがオレの体にはダメージはほとんどなかった。針で刺された程度の痛みしかない。力の差は歴然だった。
次の攻撃を仕掛けようとしたら、突然力が流れ込んでくる。その力の供給先は食ったスライム達からだった。食ったことで更なる力得たようだ。
さっきゴブリンを食った時は得られなかったのに一体どういうことなのか、そう思ったが今はそんなことを考えている場合ではない。考えるのは後回しだ。
数が減った今、恐れるものは何もない。
オレは毒吐きを駆使してその場から動かずに次々に数を減らし、偶然か必然か最後に残ったあのレベルが高そうな一体を突進によって吹き飛ばして勝負はあっけなく決着を迎えることになった。




