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……――所で、と言えば、当の本人はまた別の意見を持っていた様である。
等と脅かして見ても、別にソフィとスティカの仲が険悪だった訳では無い。どちらかと言えば、その逆であり、傍目には、ルイクには、寧ろ仲睦まじく見えた程――聡明なソフィに懸命なスティカ――学校に通えなかった歳月を、辞めて行った教師達の人数を埋める様、補う様、熱心に机へと向かい、良く質問していた――答える先生もまた、時に驚き、時に微笑み、教えるという行為を、仕事を、心底楽しんでやっていた様に思え――色彩を抜かせば、それは文句無く、純粋に喜ばしい光景であったと言えよう。
ただしそれは、ルイクとの場合の様に、外へ向けては拡がらなかった――勿論それは現実的な、空間的な意味でもあればしかし、重要なのは比喩的な方で、二人の関係は、良き教師良き生徒以上のものとは成り得なかったのだ――色彩を加味すれば、妥当であろうに。
その事に関して、兄は一度妹に尋ねた事がある――些か勢いの強い雨の中、エナメル質の肌を照からせて消えて行く馬の陰を窓辺に眺めながら、ルイクはスティカに何故と問うたのだ――やがて去り行く馬車の姿を、何とも言い難い表情で見送っている彼女へ向けて――そうである方が自分に取って都合良い事は御首にも出さないままに、
――例えば兄さんは珈琲が好き……それも例のあの引揚品で淹れたもの……何と言ったかしら、蒸気仕立てのとっても濃くて苦い奴……まぁ、何でもいいんだけど、さ……
と、答える彼女の褐色の手に握られているのは、並々と紅茶の注がれた青磁のカップであり――自体もまた引揚品であれば、少々値の張る誕生日祝いの品なのだが、本人はまるで意に介しておらず――それが? と訝しがるルイクの方を見もしないで、くぴり一口、薄い唇を付けてから、スティカは灰緑の瞳を紅い水面へと落とし、
――そこにミルクを注いだら、それはもう別の飲み物じゃないか、って話よ……良し悪しは別にして、苦手ではあるけどね……あの牛って生き物、本で見た、けど……牧場に一杯、一杯、ぷかぷかうぞうぞ漂ってる感じが……でも……
と、振り返り掻き上げた髪は、一度も雨に濡れた事の無い波打つ豊かな黒髪であり、
――良く解らない、が……でも……でも、何だい、スティカ……
――でも……兄さんには見分けなんて付かないんでしょうね……一目見れば直ぐに解るわ……気付いている? 兄さんったら、ほら、眼まで真っ赤っ赤なんだから……
――……お生憎と、これは産まれ付きさ……悪かったね……真っ赤で……
あえて避けている身体の話に、そして突かれた図星に、ルイクは思わず視線反らせるや、憮然とした様子で返したものである――クスクスという笑い声に頬を染めて……
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