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……――繰り返し過ぎる日々と蘇る日々の中で、満ちる想いは熱く滾った。
その勢いは緩やかに膨れ、やがて音高くも沸き立てば、遂に瞬間が訪れる。
古き、懐かしき言い回しに曰く、水面が王冠を被る、その時が……
……――方法を発見した、というルイク・ヴェヌスバーグの報告は、ソフィエル・ネイトからオーソン・ジュマノルへと通じ、瞬く間に他の信奉者達へと広がった。
ただし、方法を発見する方法を発見した、というのが本当か――結局の所、『天使の光輪』には、天候管理のやり方なんて、そのものずばり載ったもの等無かったのである。彼が見付けたのは、それを見ている管理機械を使用する者達の姿であり、それを見様見真似した結果が発見へと繋がったに過ぎない――結局、求めるものは外には無く、内にこそ存在した――冗句の落ちとしては、なかなかどうして、悪くあるまい。
それに、聖テル=テリ・ボルスの信奉者達にとっては結果が全てだった。過程になんて興味無ければ、如何様にという手段も知らぬままに、彼等は聖域へと集合する。
外は晴れ、それも天気巫女が慌てる程に雲一つ無い禍々しき晴れの日で、その陽光の容赦の無さに、防護服の所為でいや増す暑さに、ルイクの顔には疲労と汗が浮かんでいたけれど、彼を囲う者達は全くの逆だった――長にして祖を中心に、ずらりずらりと甲蜘蛛の卵の様に集う事、百人を超えるか超えないか、という数は、首都の全人口に比べれば大したもので無いけれど、それでも黒子ばかりが、ここまで揃うとは珍しい、いやありえない事態である。尤も、全員が全員そうという訳では無く、ルイクの傍らにはソフィが微笑んでいるし、黒い顔に混じって、白い顔もちらほらと目に付く。彼等にも何か理由があるのか、と打刻しながら見渡せば、何時か何処かで見た事のある、と考えて思い出す、かつての自身の同僚が居て、期待と羨望の入り混じった視線を投げ掛けている――生きていた事に、ここに居る事に、喜んでいいのか悪いのかで、ルイクはかつて彼が言っていた台詞を思い出し、視線から逃れ様にと、投影へ向けて意識を集中させるが、しかし余り効果は無かった――期待と羨望の入り混じった視線、なんてものは、この場に居る彼以外全ての人間が持ち合わせているのだ。それは愛しい人間ですら例外で無ければ、ルイクは何とか早く終わらせようと、十本の指を駆使して管理機械を、偉大なるノアを弄繰り回す――後ろめたさを覚えぬ様、一打一打を強めて行き、そして、
――これで、終わりだ……
誰とも無く呟かれた台詞と共に、タンという軽快な打刻音が響き渡れば、それは彼を囲んでいる者達へと波の様、輪の様に広がり――何時しか大歓声へと変貌を遂げた。
――光あれっ、光あれっ、光あれっ、光あれっ……
その叫びは動きを伴い、白布が、荒縄が、花の様に、枝葉の様に揺れ動く――それを呆然と眺めながらルイクが息を吐き出すと、震える背中に温もりが触れて来て、
――ありがとう、ありがとうルイクっ……何もかも、貴方のおかげよっ……
視界一杯と、嬉しげに涙へと濡れるソフィの顔が広がって――続いて柔らかい感触と心地良い温度が唇全体に拡がれば、彼は暫しそれに浸ってから、ゆっくりと身を離し、
――どういたしまして……大した事はしていないが、そう言ってくれて嬉しいよソフィ……そこまで喜んでくれるだなんて思ってなかった……本当に……本当に、……
そう笑みを浮かべ、視線絡ませ、それからそっと瞳を瞑りながら、
――本当に……ごめんソフィ、許してくれ……
囁かれる謝罪が彼女の耳を付き、意識を突いたのと、正式にして正式では無い入口を抜かした三方の扉、開かれぬ筈のそれらが外より開け放たれたのは、同じ頃合いで――歓喜の絶頂を破る侵入者に、ルイクを抜かした全員が驚き、突然の日光を浴びた様に、その場へギクリと凍り付く。
現れたのは、眼にも痛々しい黄色の外套を身に纏い、太い腕に見合った太い棒状の機械を、電磁棒を握り込んだ屈強な体付きの男達――彼等が警邏省の人間なのは明らかで、次々に現れるその姿に、事態を半ば飲み込んだ者達が、怯えながら後ずさった。
けれど、最後に入って来た男、普通の身形の年嵩の彼が一体誰なのか、ルイク以外に知る者は居まい――その者こそ、彼の父のかつての友人にして元同僚であり、
――報告をありがとうルイク君……父上もお喜びになられる事間違いなしだな……
統括省の――今のルイクと黄衣の兵達の、最終的上官に当たる人物だった……
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