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06 ギルド

 さて、ギルドの説明である。


 厳密に云えば多少の差異はあるけれど、元の世界とこの異世界で、ギルドのイメージは似たようなものだ。僕の胡乱な世界史知識を披露すると、ギルドとは本来、職人の集まりである。労働組合と云い換えたりすると、ちょっとはわかり易いだろうか。


 技術を持った親方マイスターを師事して多くの弟子が集まり、そうして、まるで会社のような規律ある組織が生まれていく。ギルドはもちろん、商売の上でも重要な意味を持つし、技能をスムーズに継承するという意味でも役立つ。


 ハーレルアの冒険者ギルド。


 一般的なギルドが、職人達の日々の仕事をやり易くし、技能を途絶えさせない機能を有するものならば、この冒険者ギルドも似たようなシステムを有している。


 迷宮の探索をやり易くし、冒険者の腕っぷしを全体的に向上させる。


 冒険者ギルドの存在意義は、そうした部分にあった(過去形)。


 残念ながら、現状、問題は山積み。


 正直な話、崇高な存在意義は、雑多な諸問題に埋もれて見えなくなっている。


 ギルドの受付嬢を始めてから、僕は幾度もため息をついたものだ。


 根本的な問題として、冒険者ギルドはこの街だけの小さな寄り合いみたいなもので、国中に広がる大組織というわけではなかった。それもそのはずで、ハーレルアのダンジョンは異世界でもオンリーワンの特別な場所であり、他に類を見ない。


 迷宮を攻略するための冒険者ギルドが、ハーレルア以外に生まれるわけがなかった。


 僕は気になって、ギルド発足の経緯も調べてみた。

 国(行政)が運営に絡んでいるのか、そこを疑問に思ったのだ。


 結果は、拍子抜け。何てことはなかった。


 ギルドはそもそも、実力のない冒険者や奴隷がどうにか暮らしていくための集まりだったらしい。すなわち、私設の組織に過ぎなかった。もちろん、ただの弱者の集まりならば、長続きはしなかっただろう。現在まで存続しているからには理由がある。


 冒険者は大体、荒っぽい無法者だ。


 それだから、迷宮の中には、長らく秩序と呼べるものは存在していなかった。例えば、宝物を発見した冒険者が居たとして、欲深な他の者がそれを不意打ちして横取りするなど、割合に日常茶飯事だったらしい。


 ギルドという組織の誕生で、自治や自警の機能も生まれ始める。冒険者同士が繋がりを持つようになれば、情報は迅速に共有されるようになり、他人の手柄を横取りするような輩は徐々に排他されていく。結局、人間は群れを作る生き物であり、群れのルールには縛られるしかない。


 ギルドの成長、それに伴う迷宮の秩序。


 うん。良いことだろう。


 ただし、今はもう、秩序は崩壊している。

 冒険者ギルドのそうした機能は停止しているからだ。


 なぜだろうか。


 まず単純に、新参者が増えたことが原因としてある。


 一時期から、冒険者として成り上がる事を夢見る若者が、ハーレルアに大量に流入してくるようになった。その頃、冒険者ギルドは既に大きな組織となっており、所属している冒険者の数でも、新参者を遥かに圧倒していたわけだが――。


 権力を得ていたから、むしろ驕っていたのかも知れない。


 ハーレルアに新たにやって来た若者達は、ギルドに積極的に加わらない傾向にあった。ギルドもまた、彼らを積極的に勧誘する事をしなかった。最初はそれでも、ギルドの勢力の方が大きかったため問題なかったけれど、うかうかしている内、次々とやって来る若い冒険者達はギルドの勢力を上回ってしまったのだ。


 そうしたならば、もはや云うことは聞いてくれない。やがて好き勝手が始まり、ギルドは立場を失くし、加速度的に衰退してしまった。


 さて、そもそも――。


 諸悪の根源は何だろうか。

 すなわち、ハーレルアに新参者が増えた原因である。


 僕は、残念なお知らせをしなければいけない。


 もちろん、原因は単一のものではなく、様々な要素が絡み合っているはずだ。調べた所に寄れば、この迷宮都市を抱える国は、数年前から国王の跡目争いでどうにも政情が不安定であり、それらが民の暮らしに暗い影を落としている。そのため、本来は生まれた土地で平穏に暮らすはずだった若年層が食い扶持に困り、ダンジョンという博打に出てしまったりする。


 まあ、そうした事情もあったりするのだけど――。


 やはり、一番の原因はこれだろう。


 認めなければいけない、〈白剣姫〉シオス・アーゲラの影響力というものを。

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