27 棘
冒険者ギルドが機能不全に陥っていることは、いつか述べた通りである。
杜撰な経営体質と御主人様を皮切りにした新興勢力の大量流入を原因として、冒険者ギルドは以前のような勢いを失った。利益を貪っていた者達は凋落する組織から一目散に退散し、仮にも頭であった所を失った組織は加速度的に崩壊してしまった。
レオン・ガーランドという数十年前の英雄を長に据え、一応の体裁は整えて存続はしているものの、僕がアルバイトとして雇い入れられた際には、御年輩の方々の寄り合い所ぐらいの意味しか残っていなかった。
もちろん、過去には一大勢力であったギルドだから、ハーレルアを初めて訪れる冒険者志望の若者達は一度ぐらいギルドホールに顔を出すのだけど、大抵はがっかりとして帰っていく。なお、一部のがっかりしない者というのは、受付嬢である僕に惚れた者である。
そう、僕が受付嬢になったことで――。
若干、人は増えた。
まあ、僕は可愛いから。
超可愛いから――。
僕を目当てにして、来訪者が増えるのは当然である。
ただし、その効果は一時的なもので長続きはしない。ハーレルアにおいて、僕は有名人でもある。僕に限らず、シオス・アーゲラの寵愛を受ける金銀黒の奴隷の存在は広く知れ渡っていた。三者一様に人目を引き付ける素晴らしい容姿をしていることも、ハーレルアで有名になっている原因だけど、それ以上に、決して手を出してはいけない相手として、ちゃんと認識しておかなければ生き残れないという所が大きい。
要は、ハーレルアで暮らす上でのルール。
暗黙の約束事。
シオス・アーゲラの奴隷に手を出すことは、自殺に等しい。
そんなルールを覚えた者ならば、この僕がどんな風に見えるか。
綺麗な薔薇には棘がある。これまで花弁にばかり気を取られていた者でも、裏側にこっそり隠れた棘に気付くようになるわけだ。しかも、僕らの棘は一刺しで死に至る。どのような棘――真実が潜んでいたとしても、僕の可愛さは損なわれるものではないが、死がちらつく中で、それでも歩み寄ろうとする者は滅多にいなかった。
詰まる所――。
僕自身を餌にしても、ギルドを訪れる者が劇的に増える訳ではないということだ。
……ん?
肝心な部分が抜けている?
ああ、なんだ。
僕の性別か。
何も知らずに一目惚れした者が、御主人様という最強の庇護者を恐れて来なくなるのではなく、一目惚れした相手が実は男と知ったから来なくなるのではないかと――。
なるほど、そう云いたい者もいるかも知れない。
だが、僕は堂々と主張する。
男だから、なんだ。
男だからという真実で、僕の可愛さのいったいどこが損なわれるのか。
確かに、胸はないさ。
なんか付いているさ。
しかし、その程度のことだ。
僕は、可愛い。
繰り返す。
僕は、可愛い。
僕は、可愛い。
さあ、御一緒に――。
超可愛いよー。
……何の話だっけ?
えっと――。
そうそう。ギルドの話だったね。
何はともあれ――。
僕が受付嬢を務めるようになって、それ以前に比較すればギルドの利用者は増えたものの、まだまだ最盛期の足元にも及ばなかった。そんな感じにずっと停滞していたのだけど、起死回生の一手を打ったことで、状況が激変したのはわずか一ヶ月までのことであり――。




