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23 全裸2

 僕は子供の頃、本が好きだった。


 フィクションの物語を特に好んだ時期もある。


 現在、こうして語り部をやってみるから気付くこともあった。事実の羅列と異なり、物語は恣意的である。語るべきこと、語るべきでないこと。そうした取捨選択の末に、何かしらの意図を持った物語は完成する。


 そう、物語には目的があるのだ。


 何かしらのゴールが存在する。


 だから、僕の目的にも行き着くべき場所はあるはずだ、と――。


 そんな風に思ったりする。


「ルーシー、どういうつもり?」


 僕が尋ねると、彼女は首を横に振った。


「ああ、ヤダヤダ」


 ねえ、マリア――、と。

 ルーシーは悪戯っ子のような笑みで云うのだ。


「私のこと、他人行儀に、そんな風に呼ぶの?」


 返り血が乾き始めて、糊で固めたようにパリパリと音のする銀髪。


 三つ編みをほどいて、ルーシーは雨に濡れた犬のように頭を振った。それから、おもむろに上着を脱いだ。湿気の立ち込める脱衣場は、普段一人で使う場所だから非常に狭い。ここまで強引に手を引っ張ってきた彼女は変わらない笑みのまま、肌の触れ合うような距離でぴたりと、器用に半裸になっていき、舐めるような上目遣いで僕をじっと見つめ続ける。


 透き通る瞳の奥に、ゆらりと揺れる炎が見えるようだった。


「ほら、降参して。万歳して。私が脱がしてあげる」


 語り部のルール。


 僕はそれに則り、嘘は吐かない。


 物語に対して、語り部は神のような立場であるけれど、僕は神様のような万能の存在ではないのだから。完璧な嘘を作れない以上、真実のみによって物語を作る方法しか知らなかった。


 詰まる所、僕は真実のみを語るということだ。


 語り部としての責任から逃げることはしないと、ここに宣言しておこう。


 そんなわけで――。

 ありのままの現状描写。


 僕とルーシー、只今、入浴中。


 実は水着を着ていました、なんて――。

 そんな風に、お茶を濁すような真似はしない。


 裸である。


 繰り返そう。


 僕らは、全裸である。






 銀の少女、ルーシー。


 ここで改めて、彼女について語っておこうか。


 シオス・アーゲラの奴隷のご多分に洩れず、容姿は非常に良い。活発な体力馬鹿であるけれど、その反面、現在の屋敷では一番小柄だったりする。銀髪を一本の太い三つ編みに束ねて、スカートは履かない主義。基本的にショートパンツ。ブーツが好き。眠そうな半眼がチャームポイントであるけれど、本人曰く、別にいつでも眠い訳ではないらしい。


 御主人様以上に、僕との付き合いは長い。


 遙かに長かった。


 ある意味で、最も親しい。

 そして、最も通じ合っている。


 さて――。


 昼下がりの晴天。


 青空と白い雲を眺めながらの温泉も悪くない。シオス・アーゲラの屋敷に備え付けられた露天風呂は源泉掛け流し。それだから、時間を選ばず、いつでも思い立った時に入れる。


 先程、僕が「きゃー」と悲鳴を上げるのにも構わず、ルーシーはむしろ喜々として裸にひん剥いてくれたものだ。「さあ、先に入っておいてね」と、僕の背中を突き飛ばすようにして風呂に押し込んだ後、彼女の方はゆっくりじっくりと服を脱いでいた。


 僕がため息を吐きながら長い黒髪をたっぷりの泡で綺麗にしている頃、ようやく、ルーシーは洗い場に足を踏み入れてきた。しかし、脱衣場で風邪を引いた子供のように頬を紅潮させながら、僕の抵抗を抑え込んでいた時の威勢の良さや堂々とした態度は何処に行ったものか、静かに、タオルで前を隠しながら歩み寄って来る。


 なんだか、一瞬の間が空いたことで落ち着きを取り戻したみたいだ。


 それにしても、元々の性格である陽気さを忘れるのはどういうことか。


 僕は珍しく、怒った声で「わあ。そっちだけズルいぞ」と云ってやった。


 湯船からお湯をすくい、パシャンと勢いよく掛けてやれば、それだけであっさりと、いつもの調子でキャーキャー笑い合える。そうして束の間、無邪気に戯れ合っていたものの、ちょっとした絡み合いともつれ合いのハプニング――タオルを奪い取りながら、僕が強引に彼女を押し倒すような体勢となった瞬間、再び奇妙な沈黙と静寂が訪れてしまったものだから、なんだか居場所を失ったような気持ちになる。赤面して横を向いた彼女に対して、僕はため息を吐くのみ。やれやれ。

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