22 図鑑
Gラットの項目だけで、まだまだ数ページは続いている。
イラスト付きで何処に攻撃を加えるのが適切か、念入りに解説してくれている箇所もあった。そうかと思えば、明らかな私情混じりのコラムと思しきものや、肉をどのように調理すれば美味しくなるか等、有益なのか何なのかよくわからない部分も沢山ある。
詰まる所――。
これは、データベース。
あるいは、〈モンスター図鑑〉と呼ぶべきか。
「どうニャ? 我が教えた通りに、地下1階クリアで報酬が手に入ったでしょう。これからも特定のフロアを乗り越えれば、色々な特典がもらえるニャよ。いきなり地下100階を目指すのは難しいけれど、ひとまずの目標としてそれらを……」
リリィが小声で、いつものように迷宮攻略の勧誘をしてくる。
彼女が道端で声を掛けて来て、御主人様の屋敷で飼われるようになってから一週間。それからと云うもの、僕に対する迷宮への誘いは見境無く続いている。僕はまったく興味がなかったため、ひたすら無視していたのだけど――。
そうしたら、リリィも考える所があったらしい。
地下1階をクリアするだけで〈特別なアイテム〉が手に入ると、そのように餌をちらつかせ始めたのだ。彼女は立場上、本来はそうした情報を漏らすことはタブーなのだとか。しかし、僕が思ったよりも頑固だったためか、背に腹はかえられないということで妥協したらしい。
妥協点として、〈特別なアイテム〉が何なのか、そこまでは明かしてくれなかったけれど。
何はともあれ、僕は釣られてやることにした。
結果として面白いものが手に入ったのだから、万々歳という所か。
「そうだな。褒めてやっても良いぞ、リリィ」
「おお。それニャらば、今後は迷宮の奥を目指して……」
「こいつで色々と面白いことができる。数ヶ月は遊べるね」
にやりと、僕は笑みを隠すことができなかった。
リリィは一瞬黙り込む。
それから、僕の頭に猫パンチを連続してきた。怒るのは勝手だけど、僕だって騙した訳でもない。ある意味で、公正な取引みたいなもの。リリィは餌を出して、僕はそれに食い付いた。餌はまだまだあるものの、僕は最初の餌で満足し、それ以上の深追いをすることはなかったというだけである。
そうこうしている内、屋敷に帰り着く。
玄関を前にして、御主人様はくるりと振り返った。
「さて、お前達」
僕とルーシーに対して、至極もっともなことを告げる。
「先に、風呂に入っておいで」
そう云われて、僕らは改めて自分達の状態を確認する。
頭から爪先まで、互いの汚れを指摘し合って笑う。
まさに、バケツ一杯の絵の具を頭から被ったような有様である。〈モンスター図鑑〉を埋めるため、地下5階までの魔物に対して通常とは異なる戦い方をしなければいけなかった。そのため、このような悲惨な格好になってしまったのだ。
「そうですね。屋敷を汚す訳にはいきません」
僕が頷きながら云えば、ルーシーも笑いながら同意する。
「うん。お風呂でキレイにしないとね」
当たり前のことを云う声色で、そのままさらに続けた。
「よし、マリア。一緒に入ろうよ」
……ん?
「……んん?」
僕は、言葉にならない言葉を漏らした。
その戸惑いは無視されて、御主人様が続ける。
「ああ。そうして来ると良いよ」
……んんん?




