17 退場
はい、特徴の二。
――ハーレルアの迷宮は一週間単位で内部構造を変化させる。
どのような仕組になっているか、誰にもわからない。
わかっているのは、シンプルな事実だけである。
七日間が経過する毎に、ハーレルアの迷宮はリセットされる。
この特徴を評して、ハーレルアの迷宮は『生きている』とも云われた。
リセットの期日が訪れた瞬間、迷宮の内部にいる者は全員が強制的に〈退場〉させられる。この〈退場〉と呼ばれる現象がどんなものかと云えば、僕自身も実際に体験したことがないため、あくまで又聞きの話になるけれど――そうだな、瞬間移動をイメージすると分かりやすいかも。
リセットの瞬間、迷宮の内部は目を開けていられない程に輝くらしい。
強烈な光に瞳を閉ざした冒険者はさらに、ふわりと不思議な浮遊感を覚える。
それで、ゲームオーバー。
彼らが〈退場〉という異変に巻き込まれている時、ハーレルアの街もちょっとした騒ぎに包まれる。迷宮の入口から流星のように、幾つもの光が飛び出してくるからだ。それらの光は大抵、ハーレルアの下層域に着弾し、花火のように爆ぜる。見た目は派手であるけれど、幸いにして熱を帯びている訳ではないため、道行く人々がその光を浴びて怪我をするようなことはない。
そして光のヴェールが払われた後には、パチパチとまばたきする冒険者が現れる。
彼らに云わせると、一瞬の出来事らしい。
それこそ驚きの声を上げる間もなく、気が付いた時には、迷宮の内部からハーレルアの街中に戻されているということだ。何はともあれ、〈退場〉とはそのような一連のイベントである。もちろん、どのような原理が働いているのかはわからない。おそらく、相当に高度な〈魔法〉による仕掛けなのだろうけれど――まあ、それは別に良いさ。
仮に、〈退場〉が魔法による現象だと理解できても――。
理解できただけでは、まったく意味がないのだから。
さて。
冒険者が強制的に〈退場〉させられた直後、ハーレルアの迷宮はその姿を変える。
迷宮はフロアにも依るけれど、大部分が迷路状の複雑な造りとなっていた。そのため、マッピングは不可欠であるけれど、冒険者のそんな一週間の努力はあっさりと水泡に帰してしまうわけだ。リセットされたならば、全ては一からやり直しである。
僕は冒険者ではないけれど、想像すると気が滅入るね。
某ゲームのように、足を踏み入れる度にリセットされる訳ではないものの、一週間が経てばそれまでの探索が全て無駄になるのだから十分に非情だろう。ハーレルアの迷宮にはそもそも、深い階層に潜る程にレアな宝が発見できるという原則があった。そのため、冒険者は何処まで行けるかを競い合うものだけど、悲しいかな、一週間のリセットという特徴があるため、それぞれの実力に見合った分しか進むことはできないのだ。
例えば、普通の洞窟や砦であったならば、先人の作った地図を利用する等の知恵を凝らして、危険区域を避けるように進むこともできるだろう。だが、ハーレルアの迷宮は一週間毎にまったく未知の構造となるため、常に危険な魔物や罠との遭遇を想定しなければいけない。
ああ、そうだ。
云い忘れていた。
この特徴にはメリットもある。
宝箱もリセットされるのだ。ハーレルアの迷宮には誰が仕掛けたのか、あちこちに宝箱が置かれており――「誰かが設置している訳ではニャくて、迷宮は魔物や罠、宝箱を含めたシステムとしてデザイン……」――リリィが何か云っているけれど無視しつつ、とにかく、一週間のリセットによる宝箱の再配置は、冒険者に幾度もチャレンジするための動機を与えてくれる。
そしてまた――。
一週間という時間制限は、最強の冒険者である御主人様、シオス・アーゲラにも大きな影響を与えている。御主人様はソロで地下五〇階を踏破できる化け物だが、それでも、到達した階層の最高記録は地下六八階に止まっていた。
この原因はもちろん、地下五〇階を越えた後の〈地獄〉と称されるエリアに登場する魔物のレベルが尋常ではないことも大きい。例えば、〈地獄〉の代表格である〈ミノタウロス〉を一匹倒すためには、王国の屈強な騎士団の中隊規模が準備万端の状態で、それでも壊滅することを覚悟して戦わなければいけなかった。御主人様はそんなミノタウロスも単身で倒してしまうが、さすがに易々という訳にはいかないらしい。戦闘には相当の時間が掛かるし、勝利した後には休息も必要となる。
詰まる所、深く潜る程に時間はたっぷり必要になる。
一週間という時間をじっくり使わなければいけなかった。
そして、そのためには――。
ルーシーというサポート役が必須になるのだ。




