16 魔物
戦闘開始。
敵は、ハーレルアの迷宮における初歩の初歩〈Gラット〉。
地下一階に巣食う魔物は、基本的にGラットだけである。猫よりも一回り大きいぐらいの化け鼠であり、性格は獰猛。迷宮で出くわした冒険者に対しては積極的に攻撃を仕掛けてくる。とはいえ、最弱の魔物と云われることも多いGラットは大した脅威ではなかった。
ハーレルアの迷宮に限らず、レベルの低い魔物はそこら中に生息している。
若くて体格の良い農夫が鍬や鎌を武器にして、Gラットを田畑から追い払っていたりする光景は、あちこちの農村で日常的に繰り広げられているものに過ぎない。
もちろん、最弱と云っても魔物である。
戦闘を生業にするような者でなくとも簡単に撃退できるのは、それだけ魔法の技術が世間に浸透している証拠なのだろう。云い変えると、魔法がまったく使えない僕にとっては、Gラットでも恐るべき魔物になってしまうということだ。
そんなわけで――。
僕は、暇人である。
ルーシーの戦いを観戦することしかできない。
手出しができないから、安全圏でぼんやりしているしかない。
うーん。
本当に、暇。
仕方ない。
この時間を利用して、ハーレルアの迷宮についてもう少し説明しておこうか。
不思議なダンジョン。
そう云うと、なんだか某ゲームが思い起こされる。
困ったことに、特徴の一部がぴったり当てはまるのだ。
改めて、ハーレルアの迷宮は普通ではない。「そりゃそうニャ」と、唐突にリリィ。「何度も云っているけれど、ここは迷宮なんかじゃあニャくて、正確には防衛機構で……」「だから、僕のモノローグを邪魔するなよ」と、互いに小声でやりとりする。
Gラットを弄んでいるルーシーには聞こえないだろうけれど、念のため。
さてさて。
まず、特徴の一。
地下一階のフロアに足を踏み入れて間もなく、僕らがGラットとエンカウントしたことからも明らかだけど、迷宮には階層毎に多種多様な魔物が生息している。それに何の不思議があるのかと問われたならば、僕は敢えて、そこに疑問を抱かないのはゲームの常識に捉われているだろうと、辛辣に答えるしかなかった。
平原や野山のような場所に、魔物が生息しているのは不思議ではない。
しかし、ハーレルアの迷宮のように入口が一つしかなく、そこからは冒険者が入り込むだけという閉鎖系に、多種多様な魔物が共存し続けるのは明らかに変である。
わずかに一年、迷宮の動向を聞き及んできた程度でわかった顔をするのも愚かかも知れない。それでも、僕は続ける。例えば、地下一階のGラットが分かりやすい。ハーレルアにやって来る冒険者の数が年々増加傾向にあるのは、以前にも云った通りである。新参の冒険者が何処まで深く潜れるか、それは実力次第であるけれど、少なくとも地下一階にチャレンジするのは確実だった。
冒険者の数は増えている。
すなわち、駆逐されるGラットの数も増えている。
それなのに、冒険者の行く手を阻むGラットの出現率はまったく変わっていない。
何が云いたいかと云えば、ハーレルアの迷宮に生息する魔物はどうやら、野生の魔物とは別物であるらしいということだ。街の外でばったり出くわすような魔物はどこかに巣を持ち、繁殖して種として生き長らえている。一方で、ハーレルアの魔物にはそのような生物としての活動の跡が見られなかった。
さらに云うならば――。
いや、こちらの方が本題であるけれど――。
これこそ、特徴の一。
――ハーレルアの迷宮にいる魔物は無限に湧き続ける。
「いや、だから……」
リリィがまた、口を挟んだ。
「この世界における魔物と呼ばれているものは、そもそもこの施設で生産されたプロトタイプ型の生態系防衛装置が流出し、野生化するニャかで普通の動物のような生殖能力を獲得したり……」
「はいはい、次の特徴に行くぞ」
「我を無視ニャ!」




