大晦日の過ごし方!
《登場人物》
・山野井 正 ……創歌学園創作部の部員。語り部。
・御影 朱里 ……同校同部の部員。創作部の最後の良心。
・青月 登 ……同校同部の部員。通称、アホ月。ウザい。
・倉橋 束 ……同校同部の高校部長。突っ込みどころ多々あり。
・四堂 二三人 ……同校同部の高校副部長。苦労人。
・霧谷 幸代 ……同校同部の高校副部長。姉御orお姉様。
・金田 みすず ……同校同部の中学部長。
・黒崎&野原 ……同校同部の部員。
十二月三十一日。
二〇一二年最後の一日。
俺──山野井 正は、この日一日中コタツに潜ってゴロゴロしているハズだった。
しかし、今。俺の目の前にいるのは、親しい家族ではなく、同じ創歌学園の、同じ創作部の先輩・同輩・後輩たち──。
俺は大きく溜め息を吐くと、隣に座っている創作部部長──倉橋 束部長の方を見る。
「……部長。少し聞きたいことがあるんですけど」
「何だ、山野井? 私のスリーサイズが知りたいのか?」
「そんなのはどーでもいいです」
「いや、君……私はこれでも女性なんだが」
「そんなことより、何で俺が家のコタツから引き摺り出されて、部長の家に連れて来られてるんでしょう?」
そう。ここは愛しのマイコタツがある俺の部屋ではなく、無駄にだだっ広い倉橋部長の自宅。
今ここには、男女合わせて二十人近い創作部員が集まり、狂乱の宴が開かれていた……。
□□□
「山野井先輩! 次は山野井先輩の番ですよ!」
「あ、悪いな御影、ちょっと待ってて」
地味に落ち込んでいる部長に先程の答えを聞こうとしていると、中等部二年の御影 朱里に声を掛けられた。
そう言えば、俺は後輩たちがやっている人生ゲームに参加していたのだ。
いつもは家族四人でやっているのだが、今回は後輩五人に、アホ月こと青月 登、創作部一の苦労人である部長の四堂 二三人先輩、そして俺の計八人でやっている。
大人数でやっているから中々順番が回ってこないが、やっばり皆でやるのは楽しいものだ。
「悪い、待たせた」
後輩たちに片手を上げながら謝ると、盤上のルーレットを回す。白い矢印が示した数字は、7。
「2、4、6、7っと。えーと……『埋蔵金を発掘。五十万ドルが手に入る』っと」
「うわ、山野井先輩また……」「これで五百万ドル突破だよ……」
俺が車を進めた瞬間、後輩たちからそんな声が聞こえてきたが、気にしない。
銀行係の四堂先輩から十万ドル札を五枚貰うと、再び部長の方に向き直る。
「で、何で俺はここにいるんでしょうか?」
「……楽しいんだから、文句はないだろう」
「確かに、人生ゲーム自体に不満はありません。俺が不満に思っているのは、人生ゲームの車がフェラーリじゃなくてベンツな所です」
「そこなのかっ!?」
「冗談です。俺が不満なのは、愛しのマイハニーがここにないことです」
「……今、変な当て字をしなかったか?」
「どこがですか?」
俺が真面目な表情で答えると、部長が大きく溜め息を吐いた。
しかし、すぐに気を取り直すと、話を続ける。
「……で。何故、君がこの宴に参加をしているかだったな」
「パーティーと呼べないことは、自覚してたんですね」
「………………」
「続けて下さい、部長」
「……いや、我が創作部は全員、強固な紫色の糸で結ばれているからな」
「それ、腐れ縁ですよね!?」
「その絆をより深めようと思って、この宴を催したのだ。……決して、両親が私を置いて旅行に行ったから、寂しくて皆を呼んだワケじゃないぞ」
「そっちが絶対、本音ですよねっ!?」
「家族より部員、部員より二次元のヨメだ!」
「最後ので台無しだよっ!!」
「………………」
「………………」
……この人の相手をするのは、凄く疲れる。
こうなったら仕方がないので、人生ゲームに集中しようとする。と、その時だった。
「おい、山野井! 俺に二千ドルを寄こせっ!」
突然、アホ月が俺にそう言ってきた。見ると、アホ月の茶色い車が、『バーで賭けに勝つ。好きなプレイヤーから二千ドル貰う』と書かれたマスに止まっていた。
「ほら、早く金を寄こすんだ、山野井」
アホ月が、しつこくそう言ってくる。仕方がないので、二千ドル札を一枚渡す。すると、アホ月が勝ち誇るように言った。
「ほらほら、山野井。悔しいだろう?」
気持ち悪い笑みで迫ってくるアホ月。
それを見た俺は、創作部中学部長をしている金田 みすずに聞く。
「ねぇ、次は俺の番であってるよね?」
「あ、はい。そうですよ」
金田の返事を聞いた時にはもう、俺はルーレットを回していた。
出た目は、1。
「ははっ、たったの1かよ、山野井?」
それを見たアホ月が、嘲るように言ってくる。が、盤を見ていた御影が、何かに気付いて声を上げた。
「あ、ここ仕返しマス……」
その言葉を聞いたアホ月が、一瞬にして凍り付く。
仕返しマス。それはメーカーによって異なるが、大概が特定のプレイヤーにペナルティを与えることの出来るマスである。
この人生ゲームの場合、特定のプレイヤーを十五マス後退させるか──、
「──十万ドルを貰おう。もちろん、アホ月から」
「NO────────────ッ!?」
アホ月は突然叫ぶと、頭を抱えて膝から崩れ落ちた。
四堂先輩が、俺に十万ドル札を一枚、アホ月に約束手形を五枚渡す。
それを見ていた女子部員たちが、小声で囁いた。
「……アホ月先輩も、アホ月先輩だけど」
「……山野井先輩も、山野井先輩だよね」
「「「だって、これで三度目だし」」」
俺はそのセリフを意図的に無視すると、陽気な声で皆に言った。
「さぁ、続けようか!」
□□□
その後も人生ゲームを続ける俺たち。
「五百ドルを寄こせ、山野井!」
「仕返しマス。十五マス戻れ、アホ月」
「またかよっ!?」
「あ、しかも『振り出しに戻る』って書いてますよ」
「NO────────────ッ!?」
「「「四度目……」」」
なんて会話が、あったりなかったり。
気が付くと時間はどんどん過ぎており、三時に始めたハズなのに、もう七時になっていた。
「今夜は泊まりでいいんですよね、部長?」
「あぁ、今夜は寝ずに、明日は皆で初詣だ」
当然の如く一抜けした俺と二位の御影、それに部長の三人は、まだまだ元気な部員たちを見ながら話をしていた。
「皆さん元気ですね~」
「うむ。野原たちはW●i、黒崎たちはツイスターゲーム。トランプや花札もあるし、猫耳着用の撮影会や、黒魔術の研究をしている奴もいるな」
「………………ア、アハハ」
「………………まさに混沌」
「どうかしたのか、二人とも?」
「「どうかしまくりですよ、部長っ!」」
真顔で聞いてきた部長に、俺と御影は大声で同事に突っ込む。……が、部長はただただキョトンとするばかり。
……素だったんだ、この人。
「あ、あの……、もうそろそろ紅白歌合戦が始まりますよ」
「あ、ああ。そろそろN●Kにチャンネルを変えようか」
御影が何とか話題を変えようとしていることに気付いた俺は、それに追従する。
しかし──、
「いや待て、二人とも」
「「?」」
「ここにいるのは、創作部員なんだぞ?」
「……? 部長の言っていることが、よく分からないんですけど……」
「だったらやることは一つ、ってことだ」
部長の言葉を聞いても御影は首を傾げていたが、俺はそれで気付いてしまった。歌と聞いてむ部長が連想するのは只一つ。
部長は、部屋全体に響く程の大声で言った。
「よし、皆! 第一回創作部アニソン合戦を始めるぞっ!!」
その言葉を聞き、遊んでいた部員の動きが一斉に止まる。
──それが、真の宴の始まりだった。
□□□
「……あー、疲れた」
四時間にも及ぶ大カラオケ大会も、先程ようやく終幕を迎えた。
俺は今、壁にもたれかかって息を整えている。
あまりにも凄絶な上に、著作権にも関わるから、文章には出来ないカラオケ大会だったが、とんでもない無秩序状態だったことと、紅組が勝ったことだけは言っておこう。
……因みに、白組の敗因となった音響兵器のアホ月は、先輩方の手によって天誅が下されている。
「なんせ、負けた方の罰ゲームが、『獣耳の着用』だもんな……」
プレンバスターを喰らっているアホ月を見ながら、俺はそう呟く。
狼耳という比較的マシであろう物を着用している俺はまだいい。だが、犬耳や猫耳、ウサ耳などを着けた先輩たちは……大惨事としか言い様がない。
と、そんな時、キッチンの方から美味しそうな匂いが漂ってきた。
「……これは」
「お出汁、ですか……?」
ついさっきまで酸欠で目を回していた御影ず、俺の横でそう呟いた。
それを聞いていた四堂先輩が、俺たちに教えてくれる。
「今、霧谷と倉橋が、年越しそばを作っているんだ」
「「「何いっ!?」」」
その言葉を聞いた瞬間、全員が驚愕の声を上げた。
四堂先輩が言っていた霧谷とは、創作部のもう一人の副部長である霧谷 幸代先輩のことだ。
この先輩は、創作部一頼りになる人で、姉御やお姉様と呼ばるような存在だ。だから、霧谷先輩がクラブ全員の年越しそばを作ってくれても、全然おかしくない。
むしろ問題なのは、圧倒的に後者である。
今年の初めに倉橋部長が、『新入生歓迎』と称してクッキーを配ったことがある。あの時は……大惨事では済まされなかった。
「おい、どうする? このままじゃ俺たち元旦の新聞に載るぞ」
「……もちろん、悪い意味で」
部屋の隅で、野原先輩と黒崎先輩がそんな風に話し始める。
部屋中に重い空気が充満する。
と、その時誰かが言った。
「いや、俺たちには四堂先輩がいるじゃないか!」
その言葉を聞いた瞬間、重い空気が払拭された。
「そうだ! 俺たちにはシール……四堂先輩がいたんだ!」
「忘れていたよ、スケープゴー……四堂先輩の存在を!」
「「「どうか助けて下さい! サクリファ……四堂先輩!!」」」
「皆さん『盾』とか『身代わり』とか、挙句の果てには『生贄』とか言いかけてますよっっっ!?」
創作部員たちの本音を隠しきれていない言葉を聞き、御影が心の底から突っ込みを放つ。流石、『創作部最後の良心』と言うのは伊達じゃない。
……誰も気にしていないが。
と、その時、霧谷の姉御が、両手にお盆を持ってリビングに現れた。
その場にいた全員が、一斉に居住まいを正す。
それを見た姉御は、男勝りな豪気な笑みを浮かべると、大きな声で言った。
「お前ら、年越しばが出来たぞっ!」
「「「おぉぉ──────っっっ!!」」」
その言葉を聞いた瞬間、一斉に歓喜の声が上がる。
それを見た御影が、苦笑いしながら姉御からお盆を受け取り、部員たちに配り始めた。
と、その時、倉橋部長が右手にお椀を持ってリビングに現れた。
その場にいた全員が、一斉に凍り付く。
それを見た部長は、恐ろしく怪しい笑みを浮かべると、大きな声で言った。
「お前ら、年越しそばが出来たぞっ!」
「「「ひぃぃ──────っ!!」」」
その言葉を聞いた瞬間、一斉に恐怖の声が上がる。
それを見た俺は、引き攣った笑みで部長からお椀を受け取り、四堂先輩の前にそっと置いた。
「お願いします、エクソ四堂先輩」
「何、祓魔師みたいに言ってるんですか、先輩!?」
「よし分かった、山野井。俺に任せとけ!」
「しかも、四堂先輩がノリノリっ!?」
「何、今回は前みたいな失敗はしてないさ」
御影が俺と四堂先輩に突っ込みを入れていると、部長が俺たちの前に来た。
どうやら、料理の感想を聞きに来たらしい。
「私も凄く頑張ったんだ」
「そうなんですか?」
「あぁ、今回はある物に賭けてみたんだ」
「「賭、け……?」」
「あぁ、今回は──」
スープを啜る四堂先輩を横目で見ながら、俺と御影は部長の言葉を反芻する。そちの背中に冷や汗が流れる
部長が、自信に満ちた顔で言った。
「──今回は、ビギナーズラックに賭けてみた」
「「何で、得意満面なんですか──っ!?」
直後、背後で何かが倒れる音がした。
□□□
犠牲者が一人出たものの、その他の部員たちはまだまだ元気のまま、十一時五十九分を迎えた。
「いよいよですね、先輩」
「あ、うん。そうだな、御影」
ボーッと時計を眺めていた俺は、慌てて御影に返事をする。
視界の端で、姉御が往復ビンタで四堂先輩を起こそうとしていた。……むしろ、ダメージを喰らっている気がするのは、俺だけか?
取り敢えず見なかったことにして、再び物思いに耽ることにする。
この一年、思えば沢山のことがあった。
楽しかったことも、悲しかったことも、どうでもよかったことも。
いろいろなことが、脳裏を過ぎる。
「みなさーん、そろそろですよー」
テレビを見ていた金田が、部屋に居る全員に声を掛ける。
それを聞いた部員たちは最初に決めていた通り、正座をして整列する。
そして時計の秒針が、残り六分の一に差し掛かったその時、全員が声を揃えて秒読みを始める。
「「「10! 9! 8!」」」
あと数秒で楽しかった今年も終わり、新しい年が始まる。
「「「7! 6! 5!」」」
だから、来年への期待を込めたこの言葉を。
先輩、同輩、後輩の皆──。
「「「4! 3! 2! 1!」
──そして、この小説を読んでくれている貴方に。
「「「──────0!!!」」」
「「「新年、あけましておめでとうございます!」」」