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16th stage

奥の部屋は明かりがついておらず、真っ暗だ。

それでも行くしかない。他に道はないし、戻った所で、ビルの8階の部屋にたどり着くだけだ。

部屋の奥には頑丈そうな扉がある。後は監視カメラが数台と、スピーカーが、設置してあるだけだった。

『さあ、遠慮なさらずに奥へどうぞ』

スピーカーから声が聞こえる。

私は、学生鞄を胸に抱きかかえて、ゆっくりと奥へ進んだ。

部屋の中央に来た頃、入って来た扉が閉まり始めた。

閉じ込められるもんか。

咄嗟に鞄を閉まる扉の間に投げ込んだ。

ぐしゃりと鞄の潰れる音がして、扉が閉まった。

普通の自動ドアなら、何かが挟まったら安全装置が働き、自動的に開く。しかしそのドアは、開くどころか中身の詰まった鞄をペチャンコにしてしまった。中の道具はボロボロだろう。

しかし鞄がつっかえ棒になったおかげで、指が入るくらいの隙間が出来ていた。指が掛かれば、プラネットレンジャーの力なら、こじ開けられるはずだ。

『お呼びしたのに、申し訳ありませんが、邪魔者が居なくなるまでそこでじっとしていて下さい』

邪魔者って?

赤城先輩の顔が浮かぶが、何も言っていないのに、来るわけがない。でも先輩達以外は、もっと考えられない。

とにかく長居は無用だ。さっさとプラネットレンジャーに変身して、脱出してしまおう。

「あれ?」

ポケットに入れていたはずの携帯がない。他のポケットも調べて見るが、やはり見つからない。

……どこかで落としたのかも。

これでは変身出来ない。扉を開けようとしてみるが、ビクともしない。

どうしよう……


赤城、青蘭、黄の3人が階段を駆け上がる。2階に行く前は、数人が追いかけて来ていたが、2階と3階の間の踊り場に来た時には、もう追って来る気配はなかった。

意外に諦めるのが早いな。

「さっさと変身するぞ」

赤城は二人に言う。

この先は何が起こるか分からない。とにかく変身しておかないと危険だ。

それぞれが別々の方を向いて、変身した。

「桃津さんを助けに行った方がよくないですか?」

黄が下り階段を振り返る。

「黄、ちょっと戻るか? 上は俺と青蘭で向かう」

黒木が上に居るかどうかも分からない。それなら桃津を助け、二手に別れて探すのもいいかもしれない。

しかし、そんな考えは中断された。

2階の階段近くの扉が、バンと開き、毛むくじゃらの何かが飛び出して来たのだ。

「何だ? ゴリラ? いや、猿か?」

青蘭がそれを分析する。それは身長3m程の猿のようだ。

「猿なら大人しいんじゃないか?」

「油断しないでください。猿は雑食ですから、肉も食べるんですよ」

青蘭の言葉に、黄が注意した時、猿と赤城の目が合った。

次の瞬間、餌を見つけた猿は、一気に階段を駆け上がってくる。

3人はパワーを上げて、構えをとった。

猿は赤城の拳を跳んでかわし、青蘭の剣を片手で止める。そして拳を振り上げ、黄のワイヤーを物ともせず、壁に大穴を開ける。

「こいつ、強い!」

赤城は相手の強さを感じ取った。まともに戦えば、3人がかりでも危ない。

「ここは足場が悪い。一旦逃げるぞ」

青蘭は相手を剣で牽制しながら、階段を登り始める。赤城と黄もそれに続いた。


上に行った皆を追っていったガードマン達は、桃津のいる場所にすぐに帰って来た。思っていたより早い。それまでに相手を2人KOしたので、これで2対5。

仲間を裏切って桃津に味方してくれている千葉と名乗った彼は、期待したほど強くなかった。それでも2人くらいを、相手にしてくれるので助かっている。

「ピンクレンジャーさん、後で、サイン下さい」

千葉が肩で息をしながら、言う。

「もちろん、構いませんわ」

桃津も荒い息を吐いた。プラネットレンジャーの力は疲れやすい。元々、体力に自信がある訳でもないし、相手を全員倒す前にこちらが力つきそうだ。

桃津は近くの敵に、ローキックを放つ。

「おっ、と」

相手は後ろにかわした。

「随分、お疲れの様子だな。段々、動きにキレが無くなって来ているぜ」

敵のリーダーがニヤついている。

……全員倒すどころか、あと1人倒すのも難しいかもしれない。


青蘭達は、4階で大会議室と書かれた部屋を見つけて飛び込んだ。

これまで全く人に会わなかった。今日はほとんど誰も出勤していないようだ。

巨大猿は、3人を追って、会議室に入って来る。

「黄は相手の左から、青蘭は右から攻めてくれ。俺は正面から行く」

赤城が言う。

「命令するな」

青蘭はそう答えつつ、相手の右側へ走った。

3人が一斉に飛びかかる。黄のワイヤーが相手の左腕に絡まり、赤城の拳が腹部を捉える。青蘭の剣は右腕を叩いた。

しかし猿は3人の攻撃を受けても、びくともしなかった。青蘭の剣は、銃刀法違反にならないよう刃はついていないが、プラネットレンジャーの力でぶっ叩けば、ゴリラでも骨が折れそうなものだが。

猿が身体をよじり、両手を振り回す。3人は一旦下がった。そのまま立っていたら、猿の両手を振る風圧に巻き込まれそうだった。

「どう? 私の作ったこの子、なかなか強いでしょう?」

青蘭達が入って来た扉の方、猿の更に奥から、女性の声が聞こえる。

ショートヘアのその女性を青蘭は知っている。この猿を見た時から、彼女が絡んでいる気はしていた。

水嶋洋子。以前、ワニの突然変異を船で暴れさせた張本人だ。結局、その件は事故ということで片付けられたらしい。

「今までの私の最高傑作よ。残念ながら、オツムは弱くて調教はしていないけど」

彼女が部屋に足を踏み入れる。デニムのショートパンツに白のYシャツという軽装だ。首元のボタンを2つ外していて、その胸の谷間には、大きな星の飾りが付いたネックレスがあった。

「あなた達のお姫様は8階に行ったわよ。あなた達の力で、この子と戦いながら、そこまでたどり着けるかしら?」

彼女は笑う。お姫様とは黒木のことだろう。8階というとあと4階上だ。確かに、この猿と戦いながら、そこまで行くのはキツイ。

青蘭は、猿を突きの連打で牽制する。猿は速度も力もかなりのものであり、赤城と二人がかりでも、まともに攻撃を仕掛けられない。

「わざわざ出てきたからには、何かあるんだろう。何を企んでいる?」

猿と戦いながら、彼女に聞いた。彼女に合わせて、黄が背後からそっと近づく。

「企みなんてないわよ、青蘭剣。ただ見物に来ただけ」

予想していたが、こちらの正体はばれている。

「さぁ、見せて頂戴。私をベッドの上で、縛っていた男の最後を」

そんな暴露話を始める。そのまま放置したのをかなり根に持っているに違いない。

黄が、彼女に後ろから駆け寄り、羽交い締めにした。

「キャッ、何すんのよ」

「言うことも聞かない凶暴な猿の前に出てくるって事は、襲われない何かがあるんでしょう。盾にさせてもらいますよ」

黄は、彼女をずりずり引きずって、猿に近寄っていく。猿は、黄達が近寄ると、顔をしかめて離れた。

やはり彼女には何かがある。

「少し臭いますね。これかな?」

黄は、彼女のネックレスを引き千切った。

「あっ、それはダメ」

奪い返そうとするが、プラネットレンジャーになった黄にかなうはずもない。

「当たりのようだな」

赤城が呟く。恐らくネックレスに仕掛けがあって、猿の嫌いな臭いを放っているのだろう。

「襲われないとしても、上までついてこられても面倒だ。その女を囮にして8階に向かおう」

赤城が黄に言った。

プラネットレンジャー3人でも、なかなか勝てない相手に、女1人を置いて行ったら……

「そんなことしたら、あの女、殺されるぞ」

青蘭が止める。

「まさか。ネックレス以外にも何かあるだろう。でなければ、わざわざ俺たちにも狙われる場所に出てくるわけがない」

赤城が黄からアンモニアに似た匂いのするネックレスを受け取り、猿の方に向けながら答えた。

確かに命綱がネックレスだけというのは、かなり無謀な気がする。

しかし……

「ちょっと、本当にそれしかないの。見捨てないでよ」

喚いている彼女は、嘘を言っているのだろうか。

「自分で蒔いた種だ。自分でなんとかしてもらおうじゃないか」

赤城は彼女の言葉に耳を貸さず、ペンダントを盾に、階段の方へ移動した。黄と青蘭も、水嶋を引きずって彼に続く。

「1、2、3で行くぞ」

赤城は、彼女を黄から受け取り、猿の方に向けた。

「ちょっと、ねぇってば」

青蘭の方を振り返る彼女の目には、薄っすらと涙が溜まっている。

「演技だろ。行くぞ。1、2、3」

赤城は、掛け声と共に彼女を、猿とは少しずれた場所に突き飛ばした。すぐに猿は彼女の方に向き直る。

「行くぞ」

赤城は、振り返って階段を駆け上がりはじめた。黄も後に続く。

「青蘭くんっ、助けてっ」

部屋では、彼女が壁際で腰を抜かしたように、座って震えている。

あれが、演技? よくわからない……

「先に行ってくれ」

青蘭は階段を登る2人に言うと、猿に向かって飛び出した。

女性を見殺しにするくらいなら、騙されてもいい。今、彼女を助ければ、最悪の事態は避けられる。

猿の後頭部に剣を叩きつけた。

猿が振り返ってうなり声をあげる。全然効いていない。

「やられるなよ」

赤城の声が聞こえた後、階段の下にネックレスが投げ捨てられた。

「水嶋、ネックレスのところに避難しろ」

青蘭は猿を睨みつけながら、叫んだ。彼女は慌ててネックレスのところに這いよる。

「さて、エテ公。勝負だ」

青蘭は猿に斬りかかっていった。


「青蘭達、大丈夫でしょうか」

7階位まで上がった時に、黄が言う。

「大丈夫だろ。なんていうか、あの女、ちょっと余裕がありそうだった」

赤城が答える。親に何度か犯人逮捕のビデオを見させてもらった事があるが、さっきの水嶋とかいう女性はまだ切り札を持っている時の犯人に似ていた。

どこがと言われても、説明出来ないが、敷いていえば眼つきだ。

「実は彼女からネックレスを奪った時、ポケットからもこれを奪ったんですが……」

黄はそう言って、小さな目薬のような入れ物を出した。

「なんだ、それは?」

「さぁ? まだ調べていませんが」

「確認しよう」

8階の入口で立ち止まる。黄はそれの蓋を開けた。

途端に、あのネックレスからしたアンモニアの臭いが、辺りを覆う。

「ちょっと待て、これがあの女の切り札だったんじゃないか?」

「そうかも……」

それを黄がこっそり奪って来たとなると、実は彼女は本当にヤバかったのかもしれない。

青蘭が残ってくれて助かった。

例え、元凶が彼女自身としても、死なれるのは寝覚めが悪い。

しかし、青蘭だけで大丈夫だろうか。彼女の切り札もあるから、問題ないと思い、置いて来たのだが。

「助けに行くか?」

赤城が黄と相談していると、8階の入口がバンと開いた。

「さっきから、何をゴチャゴチャ話していやがる。さっさと来やがれ」

そう言ったのは、火野啓介だ。全身にコンピュータ端末を思わせるデザインのプロテクターを着けている。

「ここから先は通さないぜ」

そう言うと左腕を2人に向けた。銃口のような筒状のものが見える。

「マジかよ」

赤城は慌てて横に飛びのいた。


黄は火野の腕についている銃口のデザインに見覚えがあった。ロボットアニメをモチーフにしたエアガンだ。トリガー部分がハンドルになっていて、回すだけで発射出来るらしい。連写速度はたいした事は無いが、威力が高く、ちょっと改造すれば、空き缶に穴があくとネットに書いてあった。金属製の弾を使っていれば、更に威力が倍増するとか。

それでも、本物の銃に比べれば、かなり威力は落ちるはずだ。

足場が悪く、逃げ場も少ない階段で、撃たれ続けるより、ダメージを負ってでも、突撃するべきだ。

「突っ込みます」

黄は腕を交差して、火野に向かって真っ直ぐ飛びかかっていった。

火野のエアガンから、金属製の弾が発射される。

頭に当たるが、ヘルメットが衝撃を吸収し、全くダメージはない。

火野に飛びかかろうとしたその時、左の太腿に弾が当たった。

「うっ」

金属バットで叩かれたかのような痛みが、脳に届く。

しかし歯を食い縛り、火野に体当たりを食らわせた。

火野ごと、部屋の中に転がり込む。

「大丈夫か?」

赤城が後から部屋に入ってきた。

黄と火野は、ほぼ同時に起き上がった。撃たれた脚が、ズキンと痛む。

「大丈夫です」

黄は強がる。ワイヤーを準備しながら、部屋の中を見渡した。

「黒木さんは、ここには居ないようですね」

会議室だろうか。その部屋は大きめで、壁際に折りたたみ式の長机と、パイプ椅子が積み重ねられていた。火野の他に、人の気配はない。

別の部屋にいるのか、8階というのは嘘だったのか。

「ブラックレンジャーなら、随分前にあっちに行ったぜ」

火野が全開の窓を指差した。

「お前、突き落としたのか?」

赤城が低い声を出す。

「ちげぇよ。向こうのビルだっつうの」

火野はため息混じりに答えた。確かに向かいのビルは同じくらいの高さに窓がある。

彼女は飛び移ったのだろうか。プラネットレンジャーの力なら、助走をつければ行けるだろう。

「向こうに渡ってから、かなり経つな。ここのボスがどういうつもりか知らねぇが、今更行っても手遅れだろう」

火野は高笑いをあげる。

「黄、行くぞ」

赤城が、窓に向かって走り出した。

「おっと、行かせるかよ」

火野が窓の方に走りながら、右腕を少し弄った。すると警棒のような棒が4本、腕の先から飛び出す。

赤城の邪魔をする気だ。火野を無視して、向こうのビルまで跳ぶのは難しい。

「させません!」

黄はワイヤーの端を投げつける。ワイヤーは狙い通り、火野の右腕に絡みついた。予想通り、突起物が多くて、絡まりやすい。

「赤城さん、行ってください!」

「すまん」

赤城は黄の叫びに答え、助走をつけたまま、窓のサンに足を掛ける。そしてそのまま向かいのビルまで跳んだ。

「こんなものっ」

火野はワイヤーの絡みついた腕を大きく振るった。鋼のように硬いワイヤーが、プチプチと千切れる。

どうやら彼の着ているプロテクターは、プラネットレンジャーのスーツのように、パワーアシストの機能もあるようだ。

「一匹逃げられたか。まぁいい。お前だけでも、ボコボコにしてやるぜ」

火野が、黄を睨みつけた。

まだ脚が痛い。ワイヤーも失い、相手には武器がある。

厳しい戦いになりそうだ……

黄は空手の構えを取った。


赤城はなんとかビルの窓枠に手を掛け、隣のビルに入った。

部屋の中には、2m程の人型ロボットが立っていた。動きの鈍そうな、しかしパワーはありそうな、ずんぐりした体型のロボットだ。

『これだけやっても、ここまで辿り着くとは、本当にしつこい連中ですね』

ロボットから声が聞こえる。

「それはこっちのセリフだ。ブラック1人を捕まえる為に、ここまでするなんて異常だぜ」

『そうですね。我ながら常軌を逸していると思いますよ』

ロボットの声がフフフと笑った。

『さぁ、決着をつけさせて頂きますよ』

ロボットの巨体が、その見かけとは裏腹に、高速で飛びかかる。

「てめぇらが何を考えているか知らねぇが、ブラックは返して貰うぜ」

赤城の拳とロボットの拳がぶつかり合う。次の瞬間、赤城の身体は吹き飛ばされた。

壁に強く身体を打ち付けられ、一瞬呼吸が止まる。

ロボットは、平然と立っていた。

……重量差がありすぎる。

敵のパワーは相当なものだった。まともに食らえば、命に関わる。

それに重量差。ただパワーを上げても、自分のパンチの反動で自分が吹き飛んでしまいそうだ。

「ヤバいな」

赤城が今まで出会った中で、最強の相手だと確信した。



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