14th stage
黄は、出発前にバンガローを予約していた。
この島では自然を守るために、野宿は禁止だ。そのため、宿泊施設を予約していない人は、島に入ることも許されていない。そのためにどこか予約が必要だった。それに拠点があるほうが何かと動きやすい。
ワニ騒動で水嶋女史は、現地の警察に連れて行かれたが、黄達は事情聴取も何もなく、おかげで犯行予告の時間までは、まだ少し時間がある。
今のうちに4人はバンガローに行ってみることにした。
バンガローは雰囲気のある綺麗な丸太小屋だった。中は6畳一間で、ベッドも何もなかった。
「ここに、4人で泊まるのですか?」
桃津の笑顔が少し引きつっている。かなり神経の太い彼女だが、さすがにお嬢様が狭い部屋に、男3人に囲まれて寝泊まりするとなると、当然の反応かもしれない。
「すみません。ここしか予約出来なくって。ここもアウトドア派の方々には人気の場所らしいんですが」
黄が頭を下げる。
赤城は部屋に入って中を見渡した。
「泊まりのことは後でいい。それより、コンセントがないな。ベルトの充電が出来ないぞ」
「あっ」
ここにはコンセントはない。それは知っていたが、ベルトの充電のことまで考えていなかった。携帯の充電器は電池式のものを人数分用意したのだが。
赤城と青蘭は、船で変身したので、もう変身するだけの電力は残っていない。
「やっぱり無いんだな。じゃあ、俺と青蘭はこの小屋でプラネットレンジャーに着替えて待機。黄と桃津で周辺の警備だ。携帯は通じるよな?」
赤城が皆に指示をして、携帯の電波を確認する。電波は問題ないようだった。
「あと10分で7時か。島のどの場所とも指定されていないが、どうする?」
青蘭が携帯の時間を見て言った。
次の予告はインターネットにでも上げられるか、マスコミに手紙でも届くか。
「僕はインターネットを調べてみます。インターネットが出来る所があるので、そこに行ってみます」
黄は自分の予定を決めた。当然、携帯でもインターネットは出来るが、せっかくパソコンが借りられる場所があるのだから、使わない手は無い。それに同じように考えた人達が、情報収集しているだろうから、情報も集まりやすいはずだ。
「私はどうしましょう?」
桃津が自分を指差して、誰へともなく尋ねた。
「単独行動は危ない。黄と一緒に行動してくれ」
赤城が答える。
皆の行動は決まった。黄はベルトを確認し、桃津と一緒に村へ向かった。
ブラックは来ていない。山地はそう推測した。
思った通りに計画が進まないのは苛つくが、関係者の素顔を見ることが出来たのは収穫だ。それにやり方によってはこれはチャンスだ。
今、東京で事件を起こせば、少なくともレッドとブルーには邪魔されない。他にもプラネットレンジャーは居るようだが、こちらに来ている残り2人がそうかもしれない。
ここから帰る手段は、昼過ぎの船か、その少し前のヘリコプターで大島に行って、飛行機に乗り換えるか、どちらかだ。
船に乗っても到着は夜になる。ヘリコプターならうまく乗り換えをすれば、午後2時前に着く。その前に決着をつけられれば、こちらに来ている連中は手が出せないはずだ。
あまり手の混んだ作戦をしている時間はない。今回は力技で攻めよう。
山地はガイアフォースの管理担当者に電話をかける。
燃料の補充やパイロットの調整をいれても昼過ぎには出撃出来るだろう。
私、黒木忍は三日ほど前に退院していた。
まだ凍傷の痕が残っており、肌荒れが酷く、赤い肌をしている。
肌を冷やすのは厳禁だそうだ。
クーラーくらいなら良いが、冷水のシャワーも避けるように医者に言われた。プラネットレンジャーになるのは、とても無理だろう。
そのため、御蔵島には行かずに、犯行予告時間頃から自分の部屋のベッドで、テレビを見ていた。
動きがあったのは7時半頃。プラネットレンジャーの特番を組んでいたチャンネルで、生放送の中継に切り替えて、一部始終を放送している。
犯人は二人組で、村人を人質に何処かの家に立て籠もっているらしい。
ユミりんが、プラネットレンジャーに変身して前に出ている。手には弓と矢を持っていた。
『人質を解放して、大人しく投降してください』
大きな声で、呼びかける。もっともそんなことで投降する犯人ではない。そんなことはユミりんにも分かっているはずだ。作戦だろう。
しばらく彼女が時間を稼いでいると、犯人の立て籠もっていた建物から、何かが飛び出した。
ユミりんの前に転がり出たそれは、ぼろぼろになった犯人の一人だ。更にもう一人、窓から外に放り出される。続いて窓から出て来たのは、イエロー、黄先輩だ。
「楽勝ね」
私は犯人が警察に連行される映像を見ながら呟いた。
『待て』
警察に手錠を掛けられた犯人の一人が突然叫ぶ。
『今日の12時丁度。ここ御蔵島と、川崎市。プラネットレンジャー、その両方を守って見せろ』
犯人は大声でそう言うと、くくくと笑った。
『その時間に何を起こそうとなさっているの?』
『俺たちみたいな下っ端が、そこまで聞かされてねぇよ。せいぜい、頑張ることだ』
ユミりんの問いかけに、犯人は声をあげて笑った。
テレビに写っている時間は、8時23分。まだ3時間以上あるが、皆が御蔵島から帰ってくる時間はない。出発準備の整った自家用機でも無ければ無理だ。
あ、そういえば、ユミりん、セスナを持っているって言っていたような。
とにかく皆と相談しよう。
私は携帯を取り出し、赤城先輩に電話を掛けた。
山地はヘリポートに来ていた。
再度時刻表を確認する。
11時のヘリコプターで大島に行き、そこで飛行機に乗換、調布には13時半に到着の予定だ。飛行機を降りる時間も考えると、川崎には早くても2時くらいか。
今はレッド達の姿は見えないが、例え来たとしても、邪魔出来ない時間だ。あとは東京にまだ仲間が残っていないことを祈るだけだ。
犯行予告には間に合わないが、山地は東京に戻るつもりだ。捕まえた後の処理など、いろいろある。
「早く来すぎてしまったな」
出発までまだ30分ほどある。山地は缶コーヒーを買うと、ベンチに座った。
その時、四人組がやって来た。レッドを含むあの四人だ。
「だから、俺たちが行くまで、お前は休んでいろって」
レッドは電話をしながら歩いていた。多分、相手はブラックだ。
山地はメガネをくいと持ち上げ、ふっと笑った。
最速で戻っても間に合わない。今度こそ邪魔されないはずだ。
だんだん近づいて来て、声がはっきり聴こえる。
「連中の狙いはお前なんだから、お前が行かなきゃ、相手も待ってくれるって」
いや、ただ待つなんてことはしない。人質を取ったり、街を破壊したり、プラネットレンジャーが出て来たくなるよう暴れるだけだ。ブラックの性格なら黙ってみていられないはずだ。
「だいたい、お前、その身体で行ったら、治るものも治らないぞ」
ブラックは具合が悪いのか?
そうであれば、ここに来なかったのも納得できる。それだけでなく、この後も来ない可能性がある。状況を詳しく知りたい。山地は思い切って話しかけることにした。
「失礼。何か困りごとですか?」
電話をしていないブルーに話しかける。
「いえ、お気になさらずとも大丈夫です。ちょっと血の気の多い友人をなだめているだけですので」
ブルーは平然と答えた。
「しかし、その友人はどこか具合が悪いようですが、病院には行かれたのですか?」
山地は続けて尋ねた。少しでも情報が欲しい。
「ええ。先週骨折しまして、でも医者からは安静にしていれば大丈夫と聞いております」
先週、骨折か。本当かどうか、確かめるのは難しいが、フルパワーで動いたせいで、骨が折れたということは十分考えられる。
「とにかく大人しくしてろよ」
レッドがそう言って電話を切った。
「大変な友人をお持ちのようで。申し遅れました、私はこういうものです」
山地は名刺を差し出す。もちろん偽の名刺だ。
「ああ、どうも。俺はイガラシケイスケ。まだ学生なんで名刺は持ってないので、ご了承願いたい」
レッドは名刺を受け取ると、一瞥し、あまり話をしたくなさそうにぶっきらぼうに答えた。
「ヘリコプターの搭乗手続きはあちらですよ」
山地がカウンターを示す。
「あ、いや、俺たちはもうすぐセスナが迎えに来るんで」
イガラシと名乗ったレッドが意外な回答をする。
セスナ?
「私の家の飛行機ですの。着陸許可は取れているはずですので、ご心配には及びませんわ」
ピンクと思われる女性が微笑む。
「でも僕たちからも言っておいた方がいいかもしれません」
イエローっぽい背の低い男が仲間にそう言うと、一行は頷いてカウンターに向かった。
セスナを持っているなんて、こいつら一体なんなんだ。
まだ10時40分。セスナで行けばどの位で着くだろうか。1時間程度? もう少しかかるか? セスナの性能にもよるだろうが、今までの想定より早くつくことは間違いない。
また失敗の予感がする。
山地は携帯を取り出した。彼が今出来ることといったら、ガイアフォースの出撃を急がせることだけだ。
11時50分。私は川崎の駅にいた。ジーパンにTシャツとラフな格好だが、大きめのサングラスと大きめのマスクは怪しすぎただろうか。
変身ベルトは持って来ていない。今、変身したら、凍傷は悪化するだろうし、医者の話によると癖がついて凍傷になりやすくなるらしい。
それに今日は衣服を回収してくれる妹がいない。妹は御蔵島に行った四人分のベルトの電池を持って、ユミりんのセスナで皆のところに向かった。
セスナはパイロットの他は2名しか乗れないらしく、妹は島に残り、赤城先輩と青蘭先輩が戻ってくる。まだ空港についたという連絡もないし、予告時間には間に合いそうにない。
私から見える場所に、大きなトラックが停まった。と、後ろのコンテナがゆっくり開く。
なんだろう。まだ予告時間になっていないけど。
コンテナの中で何かが動く。ロボット?
それは身長5m程の四本足のロボットだった。人間の上半身のようなボディがついている。平たい頭部は黒み掛かったガラス張りになっており、パイロットのシルエットが見える。
『プラネットレンジャー、出て来い。このガイアフォースイプシロン様が相手だ』
ロボットのスピーカーからダミ声が聞こえた。
今回は登場が早い。イプシロンというと確かギリシャ文字でεと書いて、5番目の文字だ。
『予告時間の12時までは待ってやる。それまでに現れなかったら、ガイアフォースの力、見せてやろう』
ロボットから、がははという笑い声が聞こえた。
まずい。もうすぐ12時だが、まだ先輩達は空港にもついていない。空港には、赤城先輩のお抱え運転手、杉谷が迎えに行っているが、車で急いでもここまで30分はかかるだろう。
その時、私の携帯が震えた。赤城先輩からの着信だ。
「もしもし?」
『今、空港に着いた。セスナじゃテレビも見れねぇ。状況は?』
赤城先輩が早口に言う。走っているのか、息が荒い。
「ロボットが現れて、プラネットレンジャーが現れなかったら暴れるって」
『暴れさせておけ。警察だって多少は頑張ってくれるだろ。いいか、くれぐれも無茶な真似はするんじゃないぞ』
赤城先輩が忠告してくる。
「分かっているわよ。そう思って、ベルトは家に置いてきたんだから」
サイドテールを触りながら答えた。一応、髪染めで紅くしているが、髪型はサイドテールにしているのが一番落ち着く。
『置いてきてって、お前、いまどこだ?』
「現場よ。私から見えるところにダサいロボットが立っているわ」
じっとしているロボットを眺めながら答えた。あ、パトカーがロボットを囲み始めた。
『なんで、そんなとこに居るんだよ。家でじっとしてろよ』
先輩のため息が聞こえる。
『もうすぐそっち行くから。とにかく、危ないことはするなよ。一回、切るからな』
電話越しに車のドアの音が聞こえた後、電話が来れた。
先輩達が来るまで、あと30分程度だろう。
ロボットはすでに数台のパトカーに取り囲まれている。先輩達が到着するまでくらい、時間を稼いでくれそうだ。もしかしたら、その前にロボットをなんとかしてしまっているかもしれない。
これならきっと大丈夫。
『プラネットレンジャーはまだか!』
私の考えが甘かったことを思い知らされた。
ロボットが、バリケードがわりに配置されたパトカーを全て叩き潰すのに5分も掛からなかった。
警察は拳銃で対抗したが、なんのダメージも与えていない様子だ。パイロットが言うには、コクピットのガラスも防弾ガラスらしい。
ロボットは、丸いすの脚のような4本の爪が付いた手を振り回し、ビルのガラスをバリバリと割った。
『血を見せねぇと出て来ないのか?』
ロボットは近くにいた警官を一人、手で地面に押さえつけた。爪がアスファルトを突き破り、地面に突き刺さっている。
「うわ……」
ロボットが空いている手を振り上げるの見て、警官がうめき声をあげた。
『まずは腕を潰すとするか』
ロボットが残虐なセリフを吐いた時、私はもう走り出していた。
「待ちなさい」
ロボットの正面に立って、大声で叫んだ。
……やっちゃった。後で先輩に怒られる。
『なんだ、てめぇは』
予想通りの言葉が返って来る。
「プラネットレンジャーよ」
空手の構えを取る。
『いつもの格好じゃねぇな』
「あなたを倒すぐらい、変身なんて必要ないわ」
なんの役にも立たないと知りつつ、強がりを言う。
もちろん素手でロボットがどうにかなるわけがない。なんとか先輩達が来るまで、時間を稼ぐしかない。
『おもしれえ事を言うじゃねぇか。ならば手加減抜きでいかせてもらうぜ』
ロボットは警官を押さえつけていた手を地面から引き抜いた。腕を振り上げ、私に向かって振り下ろす。
私は横に跳んでかわす。ロボットの爪が、アスファルトを叩き割った。あんなの一撃でも食らったら、死んでしまう。運が良くて複雑骨折だ。
反対の手が、振り下ろされた。私はそれも跳んでかわす。続いてまた振り上げた手での攻撃。ロボットは駄々っ子のように両手を振り回し、攻撃してくる。
プラネットレンジャーの力が無くても、ひとつひとつはかわしきれない速度ではないが、こう連続で来ると、いつまでも避けていられるものではない。このままでは先輩達が来る前にミンチにされてしまう。
後ろに下がって相手の手が届かない所に逃げようとするが、ロボットの機動力にあっという間に追いつかれてしまった。
車ほどは早くはなさそうだが、プラネットレンジャーの力のない今の私では、走って逃げ切るのは無理だ。
私は作戦を変えて、ビルの間の路地に向かって走り出す。
『逃がすか』
ロボットは私の動きを予測して、路地の入口にパンチを繰り出した。
予想通り。
私は、逆上がりをするように、ロボットの腕に捕まり、身体を回転させる。そしてロボットの腕の上に着地した。
今までの攻撃から見て、ロボットが地面から手を抜くまで、約一秒。ロボットの腕の長さ約2m。余裕だ。
着地してすぐに、ロボットの腕を飛びつくように駆け上がり、頭部に張り付く。
「ここなら攻撃出来ないでしょ」
ガラスの向こうはパイロットの頭だ。私を殴ろうとすれば、自分の頭を潰すことになる。防弾ガラスらしいが、ロボットの腕力に耐えられるかどうか。普通なら試したりしない。
そしてその予想通り、ロボットは身体をよじったり、腕を振り回したりするが、直接攻撃してくる気配はない。
もしかしたら、そもそも腕がそこまで曲がらないのかもしれない。
『おのれ~』
スピーカーは頭部についているようで、パイロットの叫び声がかなりうるさい。しかし平らな頭部にしがみつくので精一杯で、耳を塞ぐ余裕はない。サングラスが外れたが、放置するしかない。
とにかくこのまま先輩達が来るまで、時間が稼げればよいのだが、他に出来るは何かないだろうか……
無茶苦茶に暴れるロボットにしがみつきながら、何かないかと見渡す。すると、首のあたりにスイッチがあった。コクピットのハッチを開けるスイッチだろうか。もしコクピットが開いたら、直接パイロットをぶん殴れる。
暴れ回るロボットに必死にしがみつきながら、スイッチに手を延ばす。あと少しのところで手が届かない。
「もう、少し……」
少しずつ、しがみつく位置を変えてスイッチに近く。
あと数ミリ……届いたっ。
指先がスイッチを押したその瞬間、ロボットに振り落とされてしまった。
「あっ!」
私の身体は、5m程の高さからロボットの胸を滑り落ちる。私は両手で頭を覆い、なんとか頭だけはガードした。そしてロボットが暴れてデコボコにしたアスファルトの上に転がった。
アスファルトの破片が、服を裂き、肌を傷つける。気がつくと私は口から血を吐いていた。
ロボットのハッチは……開いていない。違うスイッチだったのか、ロックが掛かっているのか……
ロボットの手が、私の方に伸びる。
……逃げなきゃ。
しかし痛みですぐには動けない。
ロボットの手が、私を地面に押さえつけた。四本の爪が私の顔と腰の横に突き刺さっている。あと30センチ、ロボットが手を動かしたら、潰されてしまいそうだ。
『死にたくなけりゃ、まずはマスクを外して顔を晒しな』
ロボットから笑い声が聞こえる。
ロボットの手と私との間に隙間は多いので、相手がなにもしなければ、抜け出すのは容易だ。しかしそれを黙ってみていてくれるとは思えない。こいつは当たったら、即死するような攻撃をしてきた奴だ。従わなければ、容赦無く殺すに違いない。
死への恐怖で涙が滲んでくる。私は震える手で、マスクに手を掛けた。
その時、私を抑え込むロボットの腕の側を青い何かが横切った。その腕は、肘のあたりで切断されていた。
「まったく、無茶しやがって」
聞き慣れた声が聞こえる。赤いプラネットレンジャー、赤城先輩が、青蘭先輩に切り落とされたロボットの腕を、蹴飛ばす。ロボットの腕が地面から抜けて、私の身体は自由になった。
「ブルー、後は任せたぞ」
赤城先輩はそう言うと、私を両手で抱き上げる。
「仕方ない。面倒だが、こいつは引き受けた」
青蘭先輩が、ロボットの前に立ち、剣を構えた。
赤城先輩は私をお姫様抱っこしたまま、6階建てビルの上まで大きく跳躍した。
先輩は私を抱いたまま、いくつもビルを越え、屋根付き駐車場に入った。多分、そこに車があるのだろう。そこで私をおろしてくれた。
服はボロボロ、肌は傷だらけ、凍傷も治りきっていないので、肌荒れも酷い。それに先輩の忠告を無視して飛び出してしまった。
どんな顔をしていいのか分からない。
黙ってうつむいていると、先輩は私の顎を掴み、彼の方に顔を向かせた。プラネットレンジャーのヘルメットとマスクだけ取った彼の顔は、明らかに怒っていた。
パンッ、という響きと共に、頬にヒリヒリとした痛みを感じる。
叩かれたのだと気がついた時、彼は私をギュッと抱きしめた。
「馬鹿野郎。いつもいつも無茶しやがって。そんなこと繰り返してりゃ、いつか死んでしまうぞ」
プラネットレンジャーのスーツは冷たいのに、暖かさを感じる。そういえば人に叩かれたのは何年ぶりだろう。お父さんが死んでから、お母さんも働きっぱなしだし、ずっと叩かれた記憶がない。
「ごめん、なさい……」
彼の胸に抱かれていると、なんともいえない安心感が私を包み込んだ。死闘から抜け出せたからか、別の理由か、自分でもよくわからなかったが、涙が自然と溢れ出した。
ロボットは青蘭先輩が関節を次々切り落とし、勝利した。
御蔵島の方は、チンピラを一人片付けて終わりという小さなものだった。
赤城先輩に家まで送ってもらった後、傷の手当てを済ませると、ベッドに入って安静にする。先輩の命令だ。
彼は夕食まで準備してくれた。といっても出前だけど。
今はもう彼も帰ってしまい、部屋に一人だ。私はなんとなくユミりんに電話した。
「もしもし、元気~?」
『はい、元気ですわ。忍さん、また無茶をされたようですね』
もう彼女にも私の行動は伝わっているらしい。
「まぁ、済んだことは気にしない」
のんきに答える。もちろん、ちゃんと反省しているつもりだ。
「それよりそっちはどう?」
『今、黄先輩と今回の件を話していたところですわ。何故、相手はわざわざ交通機関の乏しい島に私達を呼び寄せて、東京で事件を起こされたのか。もしかしたら東京にはプラネットレンジャーが残って居ないかもしれないのに』
何故って、プラネットレンジャーの居ないうちに……ってあれ?
『相手の目的はプラネットレンジャー以外に何かあるのでしょうか……』
今まで、いくつも事件が起きたが、それらは明らかにプラネットレンジャーをターゲットにしていた。あまり感じなかったが、目的が変わったのだろうか。
「てっきりプラネットレンジャーの技術を盗もうとしているんだと思っていたけど」
ロボットなどを持つ犯罪組織なら、プラネットレンジャーの力を欲しがるのは、理解出来る。しかしそれなら今回は東京を襲うより、御蔵島を島狩りでもした方が、プラネットレンジャーにたどり着きやすい。
『黄先輩に伺ったのですけど、あのロボットを購入しようとすると億は超えるそうですわ』
相当な投資だ。それだけあれば御蔵島から帰る船ごと強奪もできそうだ。
ユミりんと電話の向こうの黄先輩と、3人であれこれ考える。ふと、私の頭にある考えが浮かんだ。
「あ……分かった、気がする」
勘だけど……連中の狙いは、多分……私だ。
狙いはプラネットレンジャーではなく、プラネットレンジャーブラック、私ただ一人。
『忍さん?』
「あ、ごめん。多分、勘違い。ちょっと疲れちゃったから少し寝るね」
挨拶をして、電話を切った。
たった一人を確保するために、億単位の金を投資して、次々に事件を起こす組織が私を狙っている。
もし、その予想が当たっていたら……
電話を切ってしばらくしたあと、ジワジワと恐怖がこみ上げてくる。私は頭から布団を被り、肩を抱いて震えた。
あいつら、一体何者なのよ。




