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13th stage

22時20分発、八丈島行きの大型フェリー。

金曜日の夜、赤城はそれに乗るため、青蘭、黄、桃津の3人と一緒に待合室に居た。

待合室は他にも人がいっぱい集まっている。テレビ局の名前が入った本格的なビデオカメラを持った人や、秋葉原に居そうなリュックを背負った人たちの姿が目立つ。

目的は明日土曜日の朝7時までに御蔵島という島に行くこと。伊豆七島の一つでミクラジマと読む。空港はなく、交通手段はフェリーくらいしかない。金曜日の夜10時20分のフェリーで、朝6時に到着する予定だ。

そんな時間にそんな場所に行くのは、例の如く謎の組織からの犯行予告があったからだ。

連休でもない普通の週末にも関わらず、フェリーの空席が満席になっているのは、プラネットレンジャー目当ての人達のせいだろう。現場に行けばプラネットレンジャーに会えるかもしれないなんて考えた連中が、この便に集中した。

黄に4人部屋の予約を取ってもらうことは出来たが、特等室は取れなかったらしい。

待合室に放送が流れる。船の準備が出来たらしい。皆、一斉に立ち上がり、支度を始めた。

「ベルト、忘れてないな?」

赤城は小声で皆に確認する。

「当然だ」

先日、スーツを受け取ったばかりの青蘭が答えた。

『じゃあ、行ってくる』

赤城は黒木にメールを送る。船に乗る順番待ちの列に並んでいる間に返事が返ってきた。

『おみやげ、忘れないでね(^_−)−☆』

「旅行じゃねぇっつうの」

呑気なメールに赤城は、緊張がほぐれるのを感じた。


山地は特等室に入り、メガネをくいっと直した。

今度こそ、プラネットレンジャーの正体を掴む。前回で、顔半分は見ることが出来た。直接出会えば、彼女だと分かるに違いない。

もうすぐ風早勝の命令通り、彼女の正体を突き止められるだろう。

しかし、待合室にはプラネットレンジャーブラックらしい人物はいなかった。ぎりぎりに来るのか、見逃したのか。今までの行動から、来ないということは無いと思うが。

レッドっぽい体格の男が一人居た。男3人女1人で来ているようだったが、その女はブラックとは顔も体格も違う。

もしかして、船が苦手とか? 今まで考えていなかったが、酷い船酔いをするなら、仲間に任せて、彼女は来ないという可能性もあるかもしれない。

そうだとすると、今回の計画は既に失敗していることになる。フェリーの乗客を全員調べれば、正体を掴めるかと思ったのだが、そもそも乗っていないのなら、意味がない。

ともかく、あのレッドと思われる男とその連れをマークしよう。まだいないと決まったわけではないし、彼らからなにか掴めるかもしれない。


黄の予約した部屋は、客室の中では一番上の階にある。この船で2番目にいい部屋だ。それでも広くはない。左右に二段ベッドがあり、奥にソファと机があるくらいだ。

「シャワー、無いんですね」

桃津が部屋の奥まで入って言う。

「すみません。特等室以外はシャワーは共同しかなくて」

何故か黄が謝る。

「共同があるんですね。なら問題ありませんわ」

彼女はにこりと微笑んだ。


ベッドの割り振りを決めたあと、自由行動となった。桃津はシャワーを浴びに行き、黄はその道案内に着いて行った。

部屋にいてもつまらない。赤城は特にお腹が空いている訳でもなかったが、下の階層にあるレストランに向かった。青蘭もする事がないのだろう。何も言わずに着いて来ていた。

赤城がレストランを見ると、見覚えのある人物が自販機の前でウロウロしていた。名前は確か、火野啓介。放火魔で、黄を誘拐した男だ。

赤城は咄嗟に廊下に身を隠す。

「どうした?」

青蘭が立ち止まって聞いた。

「あの金髪の男、いかにもゲーセンでたむろしてそうな、そうあいつだ。あいつ、例の部室棟の放火魔だ。一度、俺と黄とプラネットレンジャーで懲らしめてやった事がある」

赤城が説明する。

「恨まれているのか?」

「おそらく」

答えて火野の様子を見る。彼は自ら観光をするタイプには見えない。プラネットレンジャーが目当てと考える方が妥当だろう。買っているのはポテト、焼おにぎり、ビール……

「遅いわね」

と、そこにショートヘアの女性が現れた。肩が大きく露出した服に、ショートパンツを履いている。ラフな格好だが、銀のネックレスと、ピンクのルージュのせいか、大人びた雰囲気を出していた。

「注文が大雑把なんだよ。酒とツマミじゃ、何買えばいいかわかんねぇって」

どうやら火野は彼女に頼まれていたようだ。火野はパシリをする性格とも思えない。あの女性とは何か特別な間柄に違いない。

「大体、これからって時に酒なんて飲んでていいのかよ」

「大丈夫よ、これくらいで酔わないわ」

女性は火野からビールを奪った。

これから? 何がこれからなんだろう?

赤城は青蘭に向き直る。何を言いたいのか分かったらしく、彼はうなずいた。

彼女らが何をしようとしているのか、調べたい。しかし赤城は顔を知られている。青蘭に調べてもらうのが一番だ。

「後は任せろ」

青蘭はそう言うと、女性の方へ歩いて行った。


火野とかいう男は丁度、枝豆を買いに食券を持ってカウンターに行った所だ。

「お姉さん、観光ですか?」

青蘭は彼女に話し掛ける。

「あら、美味しそうな男の子」

彼女は青蘭の顔を見ると、ビールを一口飲んだ。ここに来る前にも飲んでいたようだ。

「観光よ」

コップから口を離すと、ようやく最初の質問に答えてくれた。

「御蔵島ではイルカが見られるそうですね」

青蘭は差し障りのない話題からはじめる。

「そうらしいわね。でも私が来たのはプラネットレンジャーショウの方よ。あなたはイルカを見に来たの?」

予想通りの答えだ。

「いえ。私は、お姉さんのような、魅力的な女性と出会うために」

青蘭は微笑む。

「若いのに、こんなところまでガールハントしに来るなんて、そんなに女に飢えているの?」

彼女がクスクス笑った。無論、青蘭が真面目に答えていない事は分かっているはずだ。

「お姉さんと親しくなれるなら、この船に乗った甲斐があるというものです」

青蘭はそう言うと、彼女の手を握った。

その時、火野が酒のツマミを買い揃えて戻ってきた。

「なんだ、お前」

火野は戻って来てすぐに、青蘭を睨み付ける。

「おっと、彼氏が居たんですか。これは失礼」

青蘭は彼女の手を離し、お辞儀をする。

「コイツが彼氏? 違うわよ。コイツはタダの下僕。気にしなくていいわ」

彼女はケラケラ笑う。ヤケに陽気なのは、酒が入っているからなのか、そういう性格なのか。

「火野啓介、私はこの子と話があるから、後は任せるわ」

そう言って火野から追加の酒とツマミを奪う。そして火野の事は無視して、青蘭の腕に手を回した。

「話の続きは私の部屋でしましょう? お互いもっと親しくなるために」

「いいですね」

青蘭が答えると彼女はもう一度、火野の方を見た。

「そういうわけよ。黙って部屋に入って来たら殺すからね」

そのまま火野を尻目に歩き始めた。


彼女の部屋は特等室だった。部屋の場所は青蘭達の部屋の隣だ。

部屋に着くまでに名前は水嶋洋子で、火野とは従兄弟だという所まで聞き出した。

この部屋はツインルームで、かなり設備が整っていた。シャワー、トイレ、湯沸かし器まであった。ホテル並だ。

「ベッドにでも座って」

青蘭は言われた通り、ベッドに座る。

「明日の7時でしたっけ。何が起こるんでしょうね」

おもむろに切り出した。これからどうやって話していくか、ちょっと難しい所だ。

そう思っていたが、相手の回答は予想の範囲を超えていた。

「そんなに待てないわ」

彼女はイヤリングを外しながら、ふふふと笑う。何か企んでいる。いかにもそういいたげだ。

「待てないって、どうするんです? 催促しようにも相手が居ませんし」

「待ってて始まらないなら、先に始めちゃえばいいのよ」

彼女は意味深げな言葉を言うと、湯沸かし器のところでカチャカチャと食器を用意する。

「どういう事ですか?」

青蘭は質問する声に思わず力が入る。

「もうすぐバシリスクが現れるハズなんだけど」

彼女は青蘭にコーヒーの入ったコップを渡す。彼女自身はお酒の入ったグラスを持っていた。

「二人の出会いに乾杯」

彼女はグラスをチンと青蘭のコップに当て、グラスに口を付けた。

「バシリスクって、何ですか?」

青蘭は一口、コーヒーを飲んだ後、聞いてみた。

「これ以上は、教えられないわ。もっと、親密になったら、考えてあげてもいいわよ」

彼女は青蘭の隣に座り、青蘭の頬を突つく。

「……誘っているんですか?」

部屋に二人きりで、ベッドの上で話をしている。確認しなくても、誘っているのだろう。そう思いつつも聞いてみる。

「どうかしらね」

彼女は青蘭に身体を寄せ、腕を彼の首に絡みつかせ、その手で彼の鎖骨をなぞる。

あまり思い出したくない初体験のことを思い出し、コーヒーを一口飲んだ。

当時、彼がどこかの少女漫画のキャラに似ているらしく、言い寄って来た同級生と付き合っていた。そして中学3年で関係を持ったのだが、その直後、その漫画では女の子を凄く気持ちよくしてくれてたのに、という訳の分からない理由で振られたのだ。

中学3年でテクニシャンって、どんな変態だよ。心の中で見たこともない漫画に、突っ込まずにはいられなかった。

「思春期の男にそういうことしてると、ヤケドしますよ」

青蘭はコーヒーをベッドの脇に置いた。

「私、アブナイ遊びは大好きよ」

彼女の顔が急に近付き、彼女の唇が青蘭の唇に重なる。そしてその勢いのまま、二人一緒にベッドに倒れた。


水嶋洋子は、出会う前から青蘭剣の顔は知っていた。

彼女のケルベロスを、モップ一本で倒した男だ。ビデオで何度も見ているので、間違えるはずがない。なのでプラネットレンジャーの関係者だろうということは予想していた。

最初、部屋に誘ったのは、プラネットレンジャーの情報が聞き出せるかもという期待、ケルベロスを倒す力への興味、それとなぜ彼女に目を付けたのかの確認のためだった。

男なんて、少し遊んであげれば、すぐに自由に出来る。特に高校生なんて、簡単に手なずけられるハズだった。

しかし、もう彼の姿は部屋になかった。彼女は、ベッドの上で、彼のYシャツで腕を縛られている。

キスのあと、彼が縛りたいと言い出し、彼女は抵抗しなかった結果だ。

「バシリスクとは、何か教えてください。さもないと……」

縛ったあと、彼はやや手荒に彼女の顎を掴んだ。

「拷問プレイ? 初対面の相手に、なかなかマニアックね」

そう言ったあと、彼に合わせて答えた。

「そう簡単に話せるものですか。好きにすればいいわっ」

どんなことをされるのだろうと思っていると、彼はまったく予想外の行動を取った。

「確かにあなたの口を割るのは大変そうだ。バシリスクとやらが現れるまでに、有益な情報を聞き出せるとは思えない。すまないが、失礼させてもらう」

そう言うと、あっという間に部屋を出ていってしまった。

彼の本当の目的が、ナンパなどではなく、彼女の企みを聞き出す事だということは気付いている。

それにしても、お楽しみはこれからだというのに、無防備な彼女を無視するなんて。

手を出すほどの女ではない。そう言われている気がした。

「あいつ、許さない。絶対、落としてやる」

縛られた腕を解こうともがきながら、何度も呟いた。

水嶋洋子のターゲットは、プラネットレンジャーのパワーから、青蘭剣個人に変わりつつあった。


青蘭が部屋に戻ると、皆はもうベッドに入っていた。

青蘭は大きく安堵のため息をついた。年上の女性に、あんな風に迫られたのは初めてで、緊張した。おかげで、流されずに済んだ。

今頃、縛られて放置された水嶋は怒っているだろうが、それくらいは当然の報いだ。彼女の企んでいる事は、もっと酷い悪事に違いない。

青蘭は皆を起こす。といっても皆眠りが浅かったようで、声を掛けただけで起きてきた。

「お前、上の服はどうしたんだ?」

赤城は上半身を起こすと、いきなり聞いてくる。

「気にするな。説明すると長くなるし、重要じゃない」

青蘭はそれしか答えなかった。

こちらから手を出してはいないし、知られて困るわけではないが、説明するのは面倒だ。もうすぐ起こるだろう事件の対処をするのが先決である。

青蘭はバシリスクのことを、皆に報告した。

「バシリスクですか」

黄が呟く。

「何か知っているのか?」

「バシリスクというと、8本足のトカゲの怪物が有名ですね。またそういう名前のトカゲも実際に居るらしいです」

赤城の問いに黄が口を開く。

「トカゲ型ロボットでも、出て来るんでしょうか」

まだ何かうんちくを語る黄を無視して、桃津が呟く。

「そうだな。少なくとも船の中で戦闘になると覚悟した方がいい」

青蘭が彼女に同意した。水嶋が対プラネットレンジャー用に用意した相手だ。かなり強いと想定しておいた方がいい。

「そいつも問題だが、戦った後のマスコミも問題だな。変身解除のときに、この部屋に戻るところを見られたりしたら、正体がバレる」

赤城の言う通りだ。

この船にはプラネットレンジャーに興味津々の人が沢山乗っている。バシリスクを倒した後も、彼らはプラネットレンジャーを追いかけて来るに違いない。

スピードでは負けないが、逃げ場が船内しかなく、相手が大勢となると逃げ切れるかどうか。

四人は作戦会議を始めた。


深夜3時を過ぎた頃、バシリスクが出現した。その正体は、巨大なワニだった。

乗客のエリアの最下層には、和室の大部屋があった。その隣は乗客は行くことが出来ない貨物室だ。

大人数が寝ている部屋の壁をブチ破り、姿を現したのだ。後から聞いた話だと、激しい音で寝ていた人達も目を覚まし、すぐに避難したおかげで、誰も怪我もしていなかった。

騒ぎを聞きつけ、青蘭は赤城と一緒に変身して現場に駆けつけた。黄と桃津は退路の確保に向かっている。

「でけぇ~」

赤城が思わず呟くのも無理はない。そいつは全長8mほどもあった。

「普通にはここまでは育たないな」

青蘭はそういって剣を構えた。この剣は黄のワイヤーや桃津の弓と同様、変身時にベルトから出てくる彼の武器だ。

銃刀法に引っかかると面倒という理由で刃はない。しかしプラスチックメタル製で、普通の木刀より硬い。刃がなくても十分だ。

「犬っころの仲間か?」

「かもな」

赤城が言っているのは、学校に侵入してきた犬だか狼だかのバケモノの事だ。学校で放火したらしい火野とその従姉妹の水嶋と考えると、関係があると考えた方が自然だろう。

話している間に、ワニはのそのそと歩み寄って来る。一般人は全員とっくに遠くに逃げていた。といっても部屋の端っこで、カメラやらビデオやらを構えて、青蘭達とワニの戦いを見ている。

「先に行くぞ」

「噛まれるなよ。ワニは顎の力が凄いらしいぞ」

前へ踏み出す赤城に注意を促す。

「了解」

赤城はそう言うと、ワニに向かって飛び出す。足を上げて、踵をワニの鼻に叩き込んだ。

「硬っ」

声を上げる赤城に、ワニはそれまでにない機敏さで、大きな口を開けて襲い掛かる。彼が一歩後ろに飛びのいた。一瞬前まで彼が居たところで、ワニがバクンと口を閉じる。

「危ねえ。思ったより速いな」

彼は更にワニから離れ、安全な場所に逃れた。

「じゃあ、次、行かせてもらおう」

「あいつの鱗、鉄みたいに硬いぞ。気をつけろ」

ワニに向かおうとする青蘭に、赤城がアドバイスした。

「OK」

鱗を貫通させるのは厳しそうだ。そうすると鱗が無い部分を狙うべきだろう。口か目か。口はかなりリスクが高いし、目は狙いにくい。機敏さはないかと思えば、瞬発力はかなりあるようだ。

とはいえ、ここでじっとしていても、事態は好転するはずがない。青蘭はワニに飛びかかっていった。

彼の狙いは目だ。失敗してもリスクが少ない。

ワニは彼を敵と認識し、頭を振るいながら、大口を開けた。

青蘭は剣でその口を横になぎ払い、相手の側面に回る。そして剣を握り直し、目を狙って斬りかかった。

ワニは前に進み、その攻撃をかわす。剣は背中に当たり、ボンと弾き返される。地面に置かれた剣道の胴を竹刀で叩いているような感触だ。

「尻尾!」

赤城の叫び声で、ワニの攻撃に気付き、その場を飛びのいた。ワニの尻尾が、畳ごと部屋の床をぶち壊す。

強い。

油断しなければ相手の攻撃をかわし続けるレベルではあるが、一撃でも食らったら、どうなるか分かったものではない。それに対して、こちらの攻撃はまるで効いていない。

口を狙う手も考えたが、あの瞬発力を考えると、リスクが高すぎる。あるいは、パワーを限界まで上げれば、相手の鱗を叩き斬る事も可能かもしれない。

しかしそれは最後の手段だ。パワーの上げすぎは危険だ。黒木の祖父が安全装置を作ったらしいが、まだ実験段階と聞いている。

「次は二人がかりだな」

赤城が青蘭に並んだ。

「表は硬い。裏返せ」

青蘭は手短に作戦を言う。

「命令すんな」

赤城はそういいつつも、再びワニに飛び掛った。青蘭と同じく、側面に回り込んだ。

ワニが尻尾を振り上げた。

「おっと」

赤城はそれを難なくかわすと、ワニの腹にタックルする。そして、その勢いのまま、ワニを力任せにひっくり返した。

青蘭は大きく跳躍し、ワニの首めがけて、剣を構える。

彼の体重にプラネットレンジャーの力を上乗せした突きは、ワニの鱗を突き破り、喉に刺さった。

ワニはひっくり返ったまま、激しくバタバタと暴れ出した。青蘭と赤城は、たまらずワニから離れる。

しばらくすると、段々と動きが鈍くなっていく。

赤城が片手を青蘭に向けた。勝利を確信した青蘭は、赤城とハイタッチする。

後は、正体がバレないように戻るだけだ。


黄は、シャワールームの前に立っていた。中からはシャワーの音が聞こえる。桃津がシャワーを出しているのだ。

そこへ、赤城と青蘭が走ってきた。

「こっちです」

黄の誘導で二人はバスルームに入っていった。バスルームの扉が閉まるかどうかのタイミングで、彼らを追いかけてきた他の乗客も駆けつけてきた。

「ここにプラネットレンジャーが来ませんでしたか?」

先頭を走っていたマイクの男が、黄にマイクを向けた。通行人に聞くのにマイクを向ける必要はないだろうに、職業病だろうか。

「知りませんよ」

黄がシラを切る。しかし後から来た人が、バスルームの扉に手をかけた。

「この中じゃねぇか?」

そして扉を開ける。

「キャーッ」

狭い脱衣所で、バスタオルを巻いただけの桃津が、大声で叫び声を上げた。赤城と青蘭は、更に奥のシャワールームに隠れているはずだ。

「何やっているんですかっ」

黄が扉を急いで閉めた。内側からカギを掛ける音がする。最初は掛けないでおいて、桃津の姿を見せた方が、見た側に罪悪感が生まれ、引き下がりやすくなる。彼女は、黄のその提案を平然と受け入れた。お嬢様らしい見た目で、繊細なイメージだが、意外と肝が座っていることが分かった。

「失礼な人達ですね。僕の彼女がシャワーを使っているだけですから、さっさとどこか行ってください」

扉の前で腕を組んで、周りの人達を睨みつけた。

集まって来た人達は、散り散りにその場を去っていった。


少なくともプラネットレンジャーのレッドは彼だ。そしてあの四人組は、関係者で間違いない。

山地は確信を持った。似たような体格、プラネットレンジャーを見失った所にいた四人組の一人の小柄な男。船を降りる彼はかなり眠そうで、部屋で寝ていたとは思えない。しかし、あの騒ぎの中、野次馬の中に彼の姿はなかった。

気になるのはやはりブラックの姿がなかったことだ。

ブラックは来ていないと見て、間違いない。この時点で、山地の作戦は失敗が確定している。

これからどうするか。

山地は頭を抱えつつ、ホテルへ向かった。


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