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12th stage

風早勝からプラネットレンジャーの正体を突き止めろと言われてから随分時間が過ぎてしまった。

山地鉄也はワゴン車の中で、ヘッドホンを着け、モニタを見つめる。彼は毎回同じようにして、プラネットレンジャーの相手をする人員を確保していた。

それらはすぐ近くの喫茶店の窓際に座っている男に無線で繋がっている。彼の見聞きしたものは山地に伝わるし、山地の指示は彼のイヤフォンに届く。

『サツに捕まった後は、ちゃんと出られるんだろうな?』

喫茶店の彼は、同じ席に座ったチンピラと話している。

「約束通り殺しをしなければ、成功度合によってお前等のボスに金を渡す。後のことはボスに聞け」

山地の言ったことを喫茶店の男がチンピラにそのまま伝えた。喫茶店の男には詳しい話はしていない。意味も分からず淡々と伝言ゲームを続けている。彼は深く追求しないことが、自分のためであることを分かっていた。

彼を使ってしている相談は、当然プラネットレンジャー確保の作戦だ。殺しをしないように言っているのは依頼主の風早勝の要望である。プラネットレンジャーを怒らせたくないのが理由だ。戦うことも嫌がっているが、それは許容させた。

もう少し簡単に捕まえられると思ったのだが、なかなか思うようにいかない。特に前回の赤いプラネットレンジャーの出現は全く想定外だった。

今までの戦いから、胸のコントロールがパワーコントロールであることも、打撃にはそれほど強くないことも、確認済みだ。

特に前回の成果は大きい。

谷に落ちたトラックの荷台から彼女の髪の毛を何本かと血を採取している。それに暗視カメラでロボットとの戦いが撮れたのも大きな成果だ。

ロボットを倒したあと倒れるのが確認出来た。倒れたのは催眠ガスの可能性もあるが、少し効きが早い気がした。あれだけのパワーで戦うのだから、あっという間に疲れてしまったと考える方が納得いく。

それに彼女がパニックに陥る様も見ることが出来た。あそこまで追い詰めることが出来れば、勝ったも同然だ。

彼女は直情的で、困っている人を見過ごせない。

そこを上手く突けば勝てるだろう。相手が彼女だけだったら。

あの赤いプラネットレンジャーのことは何も分かっていない。また、彼のような存在が他にも居ないとも限らない。

今回も失敗する気がするが、とにかく仕掛けてみて情報を集めるしかない。

「もし作戦が失敗したと思ったら、プラネットレンジャーの胸のボリュームを右に最大まで回せ」

山地が言うと喫茶店の男はそれをチンピラに伝えた。

うまくいけば、パワーを最大にしたときにどうなるのか、見ることが出来るかもしれない。


ユミりんのスーツが完成した。

金曜日の夕方、ユミりんの試着のために、私の家に何故か全員が集まった。

ユミりんだけでもいいのに、青蘭先輩まで揃っている。

奥の部屋で変身した彼女が、魔法少女が持っていそうなデザインの弓を持って、皆の前に姿を表した。

「おおっ」

男達が小さく声を上げる。

ユミりんのバランスの取れたプロポーションにピッタリとフィットしたピンクのスーツ。ズボンの上に丈がかなり短めのミニスカート。そして胸元は大きくハート型に穴が空いていた。薄いメッシュの生地はあったが、胸の谷間がはっきり見えている。

ユミりんは弓を持った手を胸の前に置いている。隠そうとしているかもしれないが、全然隠せていない。

「皆、何見てるのよ」

私はとりあえず一番近くにいた赤城先輩の耳を引っ張った。

って、あれ?

「スーツで全身覆わないとエネルギー効率悪いんじゃなかったっけ? それにパワーコントロールはどこに?」

赤城先輩の耳を離して、おじいちゃんに聞いた。

「デザイナーの奴が胸のハートは譲れんとか抜かしおって、面倒じゃったが内側を肌色にする事で納得させた」

なるほど。かなりリアルな肌色のようで、内側の生地が完全に肌に張り付いていると、素肌にしか見えない。

「パワーコントロールはベルトに取り付けた。左の脇腹あたりにあるじゃろう」

見てみると確かにそれらしいボリュームコントロールがついていた。右は携帯をしまうポケットがあるから左にしたのだろう。

「弓、格好いいですね」

黄先輩が呟く。

「まだ矢は無いがのう」

おじいちゃんの言葉に空気が凍った。

「矢が無かったら弓なんてなんの役に立つのよっ」

私がおじいちゃんにツッコミを入れるが、おじいちゃんはマイペースで答える。

「普通の矢でも使えるぞ。ただ収納が難しくてのう。ベルトのような形で持ち運べるようにする方法が思い付かん」

「まぁ、犯行予告があった時なんかは使えるんじゃないか?」

赤城先輩が乾いた笑いを浮かべる。

犯行予告か。今のところなんの予告もないが、明日は平和な週末を迎えられるだろうか。


予告は無かったので土曜日は各自が自由な土曜日を過ごすことにしたはずだった。青蘭先輩は剣道の大会に行くとか言っていた。しかし他の皆は私の家に集まって来ていた。

皆、プラネットレンジャーに慣れたいからと私の家で稽古しに来たのだ。

ユミりんと黄先輩は二人でかけっこやジャンプをしている。

私は二回ほど赤城先輩と軽く組手をして、今はシャワーを浴びていた。

赤城先輩は確実にプラネットレンジャーに慣れていた。黄先輩も結構慣れたようだ。二人も戦ってくれると思うと、少しは楽になるだろう。ただユミりんは、まだまだだ。なんとか転ばずに走れるようにはなった程度だ。

シャワーを浴びながら、肩の傷に触れる。この間、巨大狼に引っ掻かれた場所だ。

「痕残るかなぁ……」

傷に沿って指でなぞる。痛みはもうほとんど無くなったが、まだしっかりと爪痕が残っていた。

「お姉ちゃん、大変だよ!」

突然、妹の栞の叫び声が聞こえた。慌ててシャワーを止める。

「何? どうしたの?」

お風呂から聞くと、彼女は扉越しに話してくれた。

「今テレビで小学生の大量誘拐事件が起きたって。10人くらい捕まっているって」

凄い事件ではあるが、栞がこんなに慌てているからには、やはりプラネットレンジャー絡みなのだろう。

「犯人からの要求は?」

「プラネットレンジャーに、4時に代々木と新小岩に来いってマスコミに匿名メールが届いたって」

4時というと1時間後くらいか。代々木と新小岩といったらまったく別々の場所だ。私と赤城先輩のプラネットレンジャーを分断しようとしているのだろう。

「教えてくれてありがとう。すぐ行くから」

私はお風呂の扉を開けて、栞にそういうと、バスタオルを手に取った。


相談の結果、私とユミりんが代々木に、赤城先輩と黄先輩が新小岩に行くことになった。色々揉めたのだが、プラネットレンジャーに慣れている二人が別れて、後はジャンケンで決めた。

代々木といっても広い。どこに行けばいいのかは指定されていない。

取り敢えずベルトをバッグに入れて、ユミりんと二人で普段着で目的地に向かった。

「私、喧嘩とかしたことありませんし、戦えるかしら」

電車の中で今さらなことを言う。

「戦うのは私がやるから、ユミりんは人質の安全確保。あとは私がピンチになったら助けて」

小声で話す。彼女はコクリと頷いた。


変身出来そうな場所を探しながらブラブラしていると、携帯が鳴った。栞だ。

『お姉ちゃん、新しい要求だよ。鳩林小学校に来いって。今から20分以内。10分遅れる毎に子供を屋上から突き落とすって』

「分かった」

新小岩でも似たような要求があったらしい。電話を切り、その内容をユミりんに伝えた。

携帯で場所を確認すると、ここから5分もあれば着きそうな場所だ。

「まずは行ってみようか」

「はい」

私の意見にユミりんが頷いた。


『関係ないヤツは引っ込んでろ。さもないと人質の無事は保障しねえぞ』

学校の放送が外まで聞こえてくる。

屋上に一人、周囲の様子を見ている男がいる。彼が放送をしているわけでは無いようだし、人質の姿も見えない。

犯人は一人ではないのだろう。

野次馬がかなり集まって来ていた。私たちより早く来た警官が犯人を刺激しないよう呼びかけている。

「屋上のヤツを倒すと人質がヤバいんだろうな」

「どうします? 人質もどこにいるのか」

ユミりんが私を見る。

「取り敢えず犯人の要求に従うしかなさそうね」

自分のサイドテールを弄りながら答えた。

「私が変身して出て行くから、ユミりんはなんとか裏口から潜入して、人質を助け出してくれる?」

この作戦はいうほど簡単ではない。人質がどこにいるか分からないし、どんな障害があるかも分からない。それをプラネットレンジャーに慣れていないユミりんに任せるというのは、ハードルが高い。

しかし私のことは全国に知られている。私が姿を見せないと相手も油断しないだろう。だが彼女の存在はまだ誰も知らない。私と彼女の役割を逆には出来ない。

彼女もそれが分かっているのだろう。コクリと頷いた。

「じゃあ私、変身してくるよ。ピンクって目立つから学校の中で変身した方がいいと思う。先に行って準備してて」

私は変身出来そうな場所がないか周囲を見渡す。

「もうですか?」

その声からユミりんの緊張が伝わる。

「時間が経ってもマスコミとか集まって来てやりにくくなるだけだからね。早い方がいいよ」

私が言うと彼女は覚悟を決めたようだった。


プラネットレンジャーに変身して、現場に戻った頃には、警官も増えており、マスコミの姿も見えた。

もっと人が集まってくるかもしれない。早くした方がいい。

私は野次馬達を飛び越えて、校庭に着地した。

屋上の男を見上げる。男は携帯で何かを話していた。

『よく来たプラネットレンジャー。お前一人で屋上まで上がって来い。他の者は来るなよ。こっちには人質がいるんだからな』

放送が流れる。

ユミりんが侵入しやすいように出来るだけ時間を稼ぎたい。その為には言い返す必要があるが、ここからじゃ叫んだって屋上にも放送室にも聞こえないだろう。

何かないかと見渡すと、警官が拡声器を持っていた。

「ちょっとすみません。それ貸してもらえます?」

彼に近付いてお願いしてみると、戸惑いつつも貸してもらえた。

屋上にスピーカーを向けて、拡声器に向って叫ぶ。

「まずは人質の無事を見せなさい。本当にそこに人質がいるんでしょうね!?」

屋上の男が携帯でしばらく話をする。そしてもう一人、男が顔を出した。彼は小学生低学年と思われる子供を抱いていた。

子供は白い布で猿轡をかまされている。腕も縛られているようだ。しかし生きていることは確認できた。

『こいつの他にあと4人子供を預かっている。分かったら早く屋上まで来い』

誘拐された子供は10人と聞いている。後の5人は赤城先輩達の方だろう。

私は再び屋上にスピーカーを向けた。

「屋上に行った後はどうするつもり!?」

『屋上に来てから教えてやる』

予想通りの答えが返ってくる。これ以上引き延ばす言葉が思いつかない。

「分かったわ。今から行くから。人質に何かあってみなさい。絶対許さないからね」

拡声器を警官に返して校舎へと向かった。


校舎の入り口は窓が割られており、鍵が開いていた。多分、犯人達もここから入ったのだろう。

ユミりんは無事に潜入出来ただろうか。校舎に入ってから携帯の着信履歴に気付いた。青蘭先輩からだ。

屋上を目指して歩きながら、掛け直してみるが、話し中になった。

「まぁ、いっか」

今日は剣道の大会とか言っていたから、その結果報告でもするつもりだったのだろう。気にしないことにした。

ユミりんにも電話しようかとも思ったが、敵の近くに潜んでいたりすると、着信音で見つかってしまうかもしれない。私はそのままどんどん階段を登っていった。

そして屋上に到着する。

そこには男が二人、一人の子供を挟むようにして待っていた。


屋上には子供は一人だけのようだ。

「よく来たな」

子供にナイフを突き付けている男が言う。

もう一人は携帯を持ったままだ。多分、あの携帯は放送室のヤツと繫がったままなのだろう。

「来てあげたわ。その子を離しなさい。他の子はどうしたの?」

私は一気に飛び掛かれるよう、少し前に出る。

「そんな簡単に離すわけないだろうが。他のガキは仲間が預かっている。返して欲しければ、まずはこっちの質問に答えてもらおう」

ナイフの男と私が話している間、携帯の男は携帯を耳に当てたままじっとしている。ナイフの男が続けた。

「名前は何だ? 仲間はどれくらい居る?」

意味のない質問を始めた。

「名前はプラネットレンジャー。そんな質問して、私が正直に答えたかどうか、どうやって調べるつもり?」

ナイフの男はクククと笑う。

「では、そのヘルメットを取って、素顔を晒して貰おうか」

予想通りの要求がされる。

予想していたが、素顔を晒すのは怖い。身元がバレるかもしれないし、そうなったら彼らに何をされるのか分かったものじゃない。

私が戸惑っているとナイフの男が大声で叫ぶ。

「早くしろォ!」

男は人質の子供のお腹に膝蹴りを入れた。かなり強烈な一撃だ。猿轡のせいか叫び声は聞こえなかったが、子供は目を見開いで激しくもがく。

「わ、分かった。分かったから、待って」

眼つきがイっちゃってる。コイツはヤバい。私が従わなければ、あの子はもっと酷い目にあわされるだろう。

私はヘルメットをゆっくりと外し始めた。

「早くしろっ!」

私のノロノロした動きにナイフの男が言う。

「仕方ないでしょ。このヘルメット、スーツとくっついていて外しにくいんだから」

本当は変身出来るように着脱しやすくしてあるが、それは内緒だ。

しかしゆっくりしていても、事態は変わらず、何も対策を打てないまま、ヘルメットを外した。スーツに繫がっているヘルメットは首の後ろにぶら下がった。

携帯の男が何時の間にか携帯をこちらに向けていた。カシャリとシャッター音が聞こえた気がする。

まだ鼻まで覆っているマスクがあるが、私をよく知っている人なら写真で私とわかるかもしれない。

「メール送信完了」

携帯の男が初めて口を開く。

「そのマスクも取ってもらおうか」

ナイフの男は子供の首筋にナイフを当てる。

脱いだ瞬間、また写真を撮られるのだろう。しかし何も策が思いつかない。今飛びかかっても目の前の子供を助けられるかどうか分からないし、うまくいっても、他の部屋に監禁されている子達がどうなるか、分かったものではない。

私はマスクに手を掛けた。

『なんだ、貴様! うっ』

放送が流れる。その瞬間、私は相手に飛び掛かった。直後に放送の声の主が変わった。

『プラネットレンジャー、子供達は助けたぞ』

男の声、青蘭先輩の声だ。いつのまに来ていたのか、ともかく助かった。

相手に飛び掛った私は、放送が終わる頃には、ナイフを握る手を捻じ上げ、子供を脇に抱えていた。

「形勢逆転ね。覚悟しなさい」

しかし、相手は下がらなかった。ナイフの男が私に向って唾を吐いた。

「ちょっ、汚いわね」

慌てて後ろに飛び退く。

「凄いのはパワーだけで、殴られりゃ痛いんだろ。子供守りながら二人を相手に出来るのか?」

男がナイフを構え直す。

……かなり研究されているようだ。思ったより大変かもしれない。

私は子供を後ろに降ろし、猿轡を無理やりずらした。

「歩ける?」

敵から視線を外さずに聞く。

「あしが……歩けない……」

子供が泣きべそをかく。恐怖で立ち上がれないようだ。

「分かった。お姉ちゃんが守ってあげるから、じっとしててね」

携帯の男も携帯をしまって構えを取っている。挟み撃ちのつもりか、二人は左右に別れてゆっくり私に向ってくる。

私は首にぶら下がっているヘルメットをかぶり直した。その瞬間に相手は飛びかかって来た。

そこまでは予想通り、予定では一人をかわして一人をカウンターで倒すつもりだった。

しかしナイフの男のターゲットは私ではなく、子供の方だった。

慌てて男の腕を掴む。後ろから携帯の男が抱きついてきた。

「取った」

男の手が私の胸に伸び、パワーコントロールを回した。

「右に、いっぱい回してやる」

ヘルメットの内側に表示されているパワーがあっという間に上がる。パワー出力の設定値が100倍を超えた。途中で右手でトマトを潰すようなぐしゃりとした感触があった。握り潰したのがナイフの男の腕だったと気付くのはずいぶん経ってからのことだった。

スーツに食べられる……

私の体温を少しでも奪おうと、スーツが私の全身を締め付けるようだった。冷たいを通り越して痛い。

叫び声を上げたいが、氷のようなマスクが肌に吸い付いてきて口も思うように動かない。

とにかく後ろから抱きついている男を振り払おうと、軽く身をよじった。それだけのつもりだった。

パワーアシストが想像以上に働き、後ろの男を屋上の隅まで吹き飛んでいった。私の方はパワーアシストされた自分の動きが止められず、足がもつれて倒れる。

先輩……助けて……

私には犯人の安否を気遣っている余裕はなかった。意識が薄れていく。

「お待たせしま……忍さん!」

意識が途切れる前にユミりんの声を聞いた気がした。


あの後、ユミりんが私を助けてくれた。私はまったく覚えていないが、すぐにパワーを落とし、校舎で彼女の服に着替えさせ、病院に搬送してくれたとのことだ。どうやったのか事件との関連性はうまく誤魔化してくれたようだ。

私は全身に軽度の凍傷を負っており、身体の至るところで水泡が出来ていた。顔も酷く荒れている。それでも医者の話によると自然治癒する程度だそうだ。ただ、全身が凍傷にかかるケースは珍しいので、大事を取って入院することになった。

「街中で凍傷って、あり得ない」

医者がブツブツと呟いていたのを覚えている。かくれんぼで冷凍車の荷台に隠れていたら閉じ込められた、という説明にはあまり納得していない様子だ。

青蘭先輩とユミりんは校舎に入る所で合流して、それぞれが同時に放送室の襲撃と人質救出をしたらしい。

赤城先輩と黄先輩も似たような状況だったが、赤城先輩は言われた通りに屋上に行ったりはせず、そのまま放送室に向かった。そして放送室の襲撃と人質の救出を黄先輩と同時にしたらしい。人質は皆同じ部屋に居たそうだ。

そして犯人達は全員捕まり、人質も10人全員の無事が確認された。

私が腕を握り潰したナイフの男は複雑骨折しており、治るかどうかは分からない。治ったとしてもなんらかの後遺症が残るだろうとの事だ。

「正当防衛だ」

赤城先輩は断言する。しかし私は悪くないと言われても、治らない傷を他人に負わせてしまったと思うと辛い。

今回の件はおじいちゃんもかなり衝撃を受けたようだった。

「安全性が甘かった。少し改良する」

元気のない声でそう言っていた。

スーツに殺されそうになったのは、これで2度目なのだから、多少は反省してもらわないと困る。しかし十分反省しているようだし、済んだことだ。

「おじいちゃん、よろしくね」

私が言うとはりきって研究に戻っていった。あの様子ならすぐに改良してくれるだろう。

「そろそろ、面会時間終わる頃だが、最後ぐらい顔見せたらどうだ?」

「嫌」

赤城先輩の言葉に私は布団を頭まで被ったまま即答した。今の私の顔は肌は荒れて、頬に水泡まであって、全然可愛くない。こんな顔を人に見せられない。

「目まで出すだけなら、平気じゃありません?」

ユミりんが言う。確かに荒れているのはマスクをしていた顔の下半分だ。

私はゆっくりと布団を鼻のところまで引き下げた。

赤城先輩、青蘭先輩、黄先輩、ユミりんが私の方を見ていた。その後ろで妹の栞がお見舞いの果物を物色していた。

「その傷は黒木君が正直で真っ直ぐな性格の証拠だ。私はそんな君が好きだな」

「あっ、俺が言おうとしたことを」

青蘭先輩のセリフに赤城先輩が突っかかる。

普段通りの雰囲気になんだか安心した。

「そろそろ面会時間終了ですよ」

ノックのあと、扉が開いて看護師さんが告げる。

「じゃあ、帰りましょうか。黒木さん、何かあったら僕達でなんとかするので、黒木さんは治療に専念してくださいね」

黄先輩に私はうなずいた。

そして挨拶をして部屋を出て行く皆の姿を見送った。

部屋に一人きりになってしまった。特にすることもないし、寝てしまおうか。

「入るぞ」

赤城先輩の声がして、扉がガチャリと開く。

「どうしたの?」

「わりぃ、忘れ物だ」

彼は病室の机に真っ直ぐ向かい、そこにあった携帯を手に取る。

携帯なんて使ってないのに、どうして忘れたんだろう。

私は顔を半分隠したまま、彼の様子を見ていた。携帯を持った彼は、くるりと私の方に向き直る。

「それと、これは頑張ったご褒美だ」

そう言うと私に近寄ってきて、私の額に唇を当てた。

彼は離れると、片手を上げた。

「じゃあ、また明日」

彼は、驚いて反応出来ない私を置いて、すぐに部屋を出て行った。

「なにがご褒美よ」

ご褒美のせいで、すっかり目が冴えてしまった私は、頭まで布団を被ってもなかなか眠れなかった。


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