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11th stage

火野啓介は従姉妹の水嶋洋子のところに来ていた。

二度も痛い目を遭わされた鳳凰院高校の赤城と黄に復讐するためだ。放火に気付いたのも奴ららしいし、二度目などはプラネットレンジャーとやらも出て来て手下をボコボコにされて、舎弟達は皆離れてしまった。

「そんなわけで、鳳凰院高校の連中に復讐したいんだ。水嶋ねぇさんのところの動物数匹貸してくれよ」

水嶋洋子は火野の姉では無いが、そう呼ばないと怒る。

彼女は生物学を研究しており、今年で24という若さだが、その筋では日本のトップとも言われているらしく、業界で名前を知らないものは居ないそうだ。

しかし彼女が道徳倫理に反する動物実験を繰り返していることはほとんど知られていない。多分、親類しか知らないだろう。彼女の研究の目的は、究極生物を作ること。

究極生物とはなんなのか、火野は全く理解していないが、彼女がその実験の失敗作を何匹も飼っているのを知っている。その中から比較的強い奴を鳳凰院高校に放てば、大混乱は間違いない。

「そうねぇ。貸してあげてもいいけど、条件があるわ」

彼女はショートヘアをかき上げると、ソファーに座ったまま脚を組み直す。ミニスカートの中が見えそうになるが、気にする様子はない。

彼女はいつもこんな感じだ。

「金か?」

火野が聞くと彼女は笑った。

「バカね。アンタのお小遣いじゃ、実験の一回も出来ないわ。戦闘データを取って来て欲しいの。出来損ないでも実戦のデータは貴重だわ」

「分かった」

彼女が付け加えた。

「但し、絶対足がつくようなことはダメ。盗撮カメラや盗聴マイクはNGよ。わかっているわよね」

「分かった。自分でビデオ撮ればいいんだろ。それくらいやってやるよ」

待ってろよ、赤城、黄。


昨日、携帯を買いに行ったのだが、すぐには手に入らなかった。私の欲しい機種の在庫がなく、入荷は週末になるそうだ。それまで代替機を借りたが、その機種ではプラネットレンジャーの変身アプリは動かない。

次の土曜日か日曜日までプラネットレンジャーはお休みだ。黄先輩のスーツも出来たし、何かあっても赤城先輩と二人でなんとかしてくれるだろう。

黄先輩のベルト、昼休みの間に渡すべきかな……

携帯に連絡先を登録しながら考える。家では友達や先輩達の番号が分からなかったので、ユミりんの携帯を借りて、写させてもらっている。

部活に行くときでもいいか。……でも赤城先輩とどんな顔して会えば……

「忍さん、青蘭さんがいらっしゃいましたよ」

一緒にお弁当を食べていたユミりんが小声で教えてくれる。

教室の入り口の方を見ると、青蘭先輩が真っ直ぐこちらを見て、教室に入って来たところだった。

う、また皆の前で恥ずかしいことしそうな気配。

「ちょっと、こっち」

私は食べ掛けのお弁当を放り出し、先輩を教室の外へ押して行く。

「いってらっしゃい」

ユミりんののんびりした声を後に、私達は教室を出て行った。


人の少ないところへ行くつもりで、階段の踊り場まで来たが、私のクラスメイトが何人も後を付けて来て、二人きりにはなれなかった。

まぁ、教室よりはマシだ。

「先輩、今日はどうしたんですか?」

「いろいろ忙しくてね。昼休みくらいしか、あいに来れない」

彼は平然と答える。

彼の言う「あう」とはやはり逢瀬の逢だろうか。積極的なのは嫌いではないが、皆の前では恥ずかしすぎる。

一人でドキドキしていると、彼が続けた。

「明日の放課後なら時間が作れそうだ。君の家にも行けるだろう」

ああ、そうか。そういえば、おじいちゃんの実験のために来てくれる日を決めていなかった。

「明日ね。分かった。おじいちゃんにも伝えておくわ」

私が微笑むと彼は静かに私の肩に腕を回す。

「よろしく頼むよ」

そう囁くといきなり彼の顔が近づいて来て……間一髪、私は指で唇をガードした。

少し離れて見守っていたクラスメイト達のざわつきが聞こえる。私の唇と彼の唇で私の指を挟んだ状態だ。離れてみればキスしているように見えるかも。

私は慌てて先輩を押しのけた。

「ちょっと、もう。やめてよね」

「ああ、すまん。君があまりに可愛くて」

さらりと言う。恥ずかしいセリフなのに青蘭先輩が言うと、格好良く見える。

「……なに言ってるのよ。これから連絡は携帯でしてよね。とりあえず携帯復活したから」

長く一緒にいたら、どんどん彼にはまっていく気がして、私はそそくさと逃げ出した。


放課後、私はユミりんと一緒に部活に向かう。一番の目的は黄先輩にベルトを渡すことだが、身体を動かしたい気分でもあった。

ただ赤城先輩に会ったらどうするかは何も思い付かなかった。

きっと なるようになる。

部室の前に行くと、ちょうど黄先輩も部室に入るところだった。

「黄先輩、いいところに。渡したい物があるんです」

私はブンブンと手を振る。

「やぁ、何かな?」

黄先輩はこちらに気付くとにこやかに微笑み、私達の目の前まで来る。

目の前に立っていると彼が小柄な事がよく分かる。私は158.3cmと女子の平均ぐらいだが、彼は私よりも5cmくらいは背が低い。メガネを掛けていると勉強しか取り柄がない男の子という印象を受ける。

しかしそれは見た目だけで、実は敵にはまったく容赦ない男である。そしてかなりのオタクであり、プラネットレンジャーのファンクラブ会員でもあるらしい。

「先輩、これ」

カバンからベルトを出し、彼に渡した。

「おおっ。これは! 僕の分が出来たんですねっ」

予想通り、彼は興奮して受け取った。いきなりベルトを装着しはじめる。

「変身なさるんですか?」

ユミりんのいつも通りの口調に、黄先輩が苦笑する。

「まさか、さすがに僕でもそこまではしないよ。でも何処かで変身してこようかな」

学校で普通にプラネットレンジャーが歩いていたら目立つので、出来れば帰宅してからにして欲しい。目の前で変身されるよりはいいけど。

「あれ? そういえば赤城先輩は?」

私はキョロキョロとあたりを見渡すが、居ないようだ。

「うん。青蘭に話があるとか言っていたから、生徒会室に行っていると思うよ」

彼はベルトと携帯のおそらく変身用アプリを交互に弄りながら答える。

赤城先輩と青蘭先輩、嫌な予感がする。

「ちょっと、私、見てくる」

私は校舎に向かって駆け出した。


「青春ですねぇ」

黄はベルトを弄りながら桃津に聞こえるように言う。

「そうですわね」

彼女は黒木の後ろ姿を見送ってうなづいた。

「桃津さん、だっけ。君はどんな人がタイプなの?」

黄は携帯のモニタをタッチして、メモ帳を動かす。

「私ですか? 好きなタイプは……青蘭会長みたいな方かしら」

イケメン好きなのかな。

「でも彼は忍さんのことが好きなようですし、忍さんも彼のことが好きなら、応援してあげたいですわ」

「ふぅん。友達想いなんだね」

黄は今の話を簡単にメモし、携帯をしまった。

桃津とはほとんど会話をしたこともないが、ちょっと天然な大和撫子の存在は結構気になっていた。


生徒会室のある2階まで駆け上がる。

生徒会室の前には5、6人の生徒が中を覗き込んでいた。私のクラスメイトも混じっていた。彼女は私に気が付くと、手を上げる。

「黒木さん、凄いことになっているわよ」

嫌な予感が強くなる。

「何があったの?」

「空手部の先輩と生徒会長が言い合いを始めちゃって、最初は風紀がどうの、不順異性交際がこうのって」

嫌な予感が的中した。争いの原因は私だ……

「で、私達は青蘭先輩に外に追い出されちゃって」

彼女達は生徒会に参加していたようだ。

「中には、赤城先輩と青蘭先輩だけ?」

「あと3年生が数人。上級生は面白がって見てるみたい」

人前で喧嘩なんて、しかもその原因が私って。

私はため息をついて、扉を開けた。


「失礼し……」

「それくらいで威張れるか。俺なんか、黒木からしようって言ってきたんだぜ」

私が部屋に入った挨拶を終える前に、そんなことを喋っている赤城先輩の背中が見えた。

な、なんてこと話してるのっ!

きっと私とどんなキスしたか言い争っていたのだ。恥ずかしさを超えて怒りを覚える。

私は迷いもなく足を振り上げた。

「なんだ?」

青蘭先輩や周囲の視線が私にいっているのに気がついたのだろう。赤城先輩が後ろを振り返る。

が、もう遅い。一撃で仕留める。

私の渾身のかかと落としが彼の顔面を捉えた。赤城先輩は、鼻血を出しながら後ろに倒れた。


「く、黒木君、誤解だ。これは赤城が……」

「うるさい!」

青蘭先輩のみぞおちに問答無用の一発を繰り出し、よろめいたところに顎に肘を叩き込んだ。

彼は赤城先輩の上に倒れ込む。二人してうめき声を上げている。

「二人とも恋人でもないのに、なに無意味な自慢をしちゃってるわけ?」

私は倒れてる二人に向かって啖呵を切る。

「……悪かった。調子に乗りすぎた」

赤城先輩が青蘭先輩の身体を押しのけ、立ち上がった。鼻を押さえた手の隙間から血が流れる。

「おい、お前も謝れ。あと人前でいきなりキスとかやめろよな」

赤城先輩は爪先で、倒れている青蘭先輩の頭を数回突つく。

「蹴るんじゃない。……黒木君、すまなかった。これからはもっと場所を選ぶことにする」

青蘭先輩も上半身を起こして言う。その言い方だと、いきなりキスすることはやめないつもりかもしれない。

「二人とも嫌い」

私達の喧嘩の一部始終を見ている人達の視線が気になって、私はプイとそっぽを向いた。


「なんだ、あれは!」

突然、校庭の方が騒がしくなる。私は窓際に駆けつけた。後から赤城先輩と青蘭先輩も来る。

校庭を見ると、犬のような生き物が歩いていた。ただ、犬よりも明らかに大きい。頭から尻尾までで2mを超えていそうだ

「なに、あれ? 狼?」

「狼でもあそこまではデカくないぞ」

話しているうちに獣が一人の女子生徒に歩み寄る。

女子生徒は後ずさりを始めた。

ヤバい。

私は変身もしないまま、窓から外に飛び出した。携帯がスマートフォンじゃないから変身したくても出来ない。

「おい、ここ2階……」

赤城先輩に言われなくても、もちろん分かっている。この高さならプラネットレンジャーで慣れている。着地はパワーよりタイミングだから、変身していなくてもさほど変わらない。ただ制服のスカートがふわりと広がって、地面が見えにくくなったのは予想外だった。

なんとかタイミングを合わせ、両脚のクッションを効かせて着地する。少しよろめいてしまったが、そのまま獣に向かった。

獣が女子生徒に向かって走り出す。彼女はカバンを投げつけ、真っ直ぐ逃げ出した。カバンは獣の顔に当たるが、獣は物ともせず、彼女を追いかける。

ほんの数秒で、10mほどあった距離を詰め、彼女に飛び掛った。

「このっ」

私はその獣の横っ面に飛び蹴りを浴びせた。

獣は空中で衝撃を受け、地面に倒れた。

「今のうちに逃げて」

獣に視線を向けたままいうと、女子生徒はお礼を言って走り去った。

獣はゆっくり起き上がると、真っ赤に充血した目で私を睨みつけて来る。狙いは私に移ったようだ。

さて、この後どうしようか……

全力の飛び蹴りも予想通りあまり効いていないようだ。力、体力、速度、おそらく全てで相手が優っている。まともに戦えば勝ち目はない。

しかし私は一人じゃない。粘っていれば、赤城先輩や青蘭先輩、先生方や他の生徒達も助けてくれるだろう。特に赤城先輩がプラネットレンジャーになれば、こんなに心強いものはない。

獣が低い声で、ガルルッと吼えると、真っ直ぐ私に向かって来る。

それを横に飛んでかわした、つもりだった。獣の腕が私の動きに合わせて振るわれる。三本の爪が、私の右肩をかすめる。触れた程度のはずが、その爪は服を大きく引き裂いた。

一瞬遅れて激痛が脳に届く。

気がつくと私はありったけの声で悲鳴を上げていた。


校庭にバケモノのような大きさの犬がいるらしい。危険な雰囲気を感じる。

青蘭は武器を探し、ロッカーを開ける。柄の部分が木で出来たモップを見つけた。

「おい、ここ2階……」

赤城の声が聞こえ、窓の方を見ると、黒木が窓から飛び降りたところだった。慌てて青蘭も窓際に駆けつけた。

黒木は平然とバケモノに向かって駆け出していた。

「あれがプラネットレンジャーの力か」

青蘭が赤城にしか聞こえないように呟く。

「違う。プラネットレンジャーの強さはスーツにある。着替えてなければただの人のはずだ」

着替えてなければって、青蘭も一度見せてもらった黒ずくめの格好か。2階から飛び降りて平気なのをただの人とは思えないが。

「俺は変身してくるから、お前は黒木を守ってくれ」

赤城は青蘭にいうと、返事も聞かずにどこかへ走り出した。

変身って、分かるように説明しろよ。

まだ赤城もプラネットレンジャーになれることを知らない青蘭は、心の中で悪態をつきつつも、持っていたモップを窓の外に放り投げると、自分も窓から身を乗り出した。

流石に黒木のように飛び降りれる自信はない。窓のサンにしっかり捕まってぶら下がった状態から、地面に降りる。

モップを拾った時に、黒木の悲鳴が辺りに響き渡った。

黒木の肩から上腕部までの服が破れ、そこは血で赤く染まっていた。かなりの出血だ。

それでも彼女は逃げ出そうとしなかった。

全速で彼女の方へ走る。彼女が一瞬青蘭の方を向き、目が合った。彼女はバケモノと青蘭の間に入るように位置をずらす。

いや、バケモノの視界から青蘭を隠したのか。きっと彼の攻撃を確実なものにするために。

青蘭は彼女を信じ、モップを槍のように構えて、真っ直ぐ突進した。

バケモノの雄叫びが聞こえたかと思うと、彼女が大きくジャンプする。突進してくるバケモノを高跳びのように背を下にして、バケモノの上に乗った。

「食らえっ」

視界を防いでいた黒木が居なくなり、目の前に出現したバケモノの口の中に、モップの柄を突き刺した。

柄はバケモノの喉を大きく突き破り、後頭部まで到達した。脳に致命的な損傷を与えられたのだろう。

バケモノの背に乗った黒木が、くるくると転がって尻尾の辺りで落ちた。直後にバケモノはその上にばったりと倒れる。

「おい、黒木君!」

青蘭は慌てて彼女の元に駆け寄る。バケモノはその間に何度か痙攣すると動かなくなった。

「お、重い」

彼女の下半身にバケモノが倒れこんでいて、身動きが取れないようだった。

「今出してやる」

青蘭がバケモノを押しのけようとしたとき、彼女が校門の方を見て、青ざめた顔をする。

「先輩、あれ……」

「どうした?」

そちらを見ると、先ほど倒したのと同じようなバケモノがもう一体、明らかにこちらに向かって走ってきていた。

モップを手にしようとするが、倒したバケモノに深く突き刺さり抜けない。

「ちっ」

青蘭は対策もないまま構えた。素手での戦いは得意ではないが、彼女を放って逃げるわけにはいかない。

バケモノが口を開けて迫ってくる。かわそうと思った瞬間、目の前が真っ赤に染まった。

やられた?

相手の攻撃が届く前だと思ったのだが。しかしこんなに血が……って、どこも痛くない……

「待たせたな」

聞き覚えのある男の声。

「赤城、なのか?」

「声が大きい。俺だってことは秘密なんだから、プラネットレッドと呼べ」

青蘭は間違いなく正体が赤城だと確信した。

赤城は黒木に乗っているバケモノの死体を蹴飛ばす。それは軽々と吹き飛んだ。

「彼女を連れて下がってな」

青蘭は言われた通り、彼女を抱きあげて離れた。

「ちょっと、歩けるって」

彼女が抗議するが、青蘭は無視した。赤城のあの自信を見る限り、バケモノは任せておいて問題ないだろう。ただ逃げ遅れて、巻き添えにあうのは御免だ。


黒木達が戦っている間、もう一体、同じ種類の獣が校内に放たれていた。

裏手の弓道場の中にそれは居た。

桃津由美は、道場に入る。そしてその姿を見たとき硬直した。

弓道場の真ん中で、何か肉を食べている。獣を誘導するのに使われた兎だ。

獣は顔を上げ、桃津を見つめる。

ハラヘッタ。ナニカ、食ワセロ。

桃津には獣がそう言っているように感じられた。そしてヨダレを垂らしながら、ゆっくり向かってくる。

彼女は、矢を手に取り、急いで弓を引き絞った。

「なに、あれ!」

その時、道場に入ってきた同じ弓道部の生徒が叫ぶ。

「分かりませんが、肉食動物のようですわ」

桃津が答える。いつものんびりしている彼女だが、流石に放し飼いの肉食動物に睨まれて焦りを感じていた。

桃津は獣に狙いを定める。急所にでも当たらなければ、相手を怒らせるだけだ。急所らしい場所といえば、目かこめかみか、いずれにせよ的は小さい。しかも動く的を射たことなんてない。

当てる自信などまったく無かった。

後から来た弓道部の生徒も、桃津に習って弓を構える。

桃津を入れて、4人の生徒が道場に集まった。皆、訳も分からず、弓を構えた。

獣が弓矢を理解しているとは思えないが、何かを感じ取っているのか、左右にうろつくばかりで、ほとんど近寄ってこない。

「私、先生呼んでくる」

最後に来た生徒が、くるりと振り返り、出口へ向かった。その瞬間、ガウッと一声吼えると真っ直ぐ彼女達の方へ駆け出す。

「こないでっ」

誰かの叫び声と同時に数本の矢が放たれた。全て獣に当たったが、当たりどころが悪く、一本も突き刺さることなく弾き飛ばされる。

急いで次の矢に手を伸ばす。

間に合わないっ。

桃津は恐怖のあまり目をつむった。

しかし恐れていた攻撃は無かった。他の生徒の悲鳴も起きなかった。

「間に合った」

小さく聞こえたその声に目を開けると、弓道場の的のある方に黄色い服を着た小柄な人が立っていた。

両手に何かの取っ手を持っている。よく見るとその取っ手から釣り糸のような細い針金が出ていた。その針金は獣にまで伸びて、その後脚にしっかり絡まっている。

そのおかげで、桃津達は皆無事で済んだのだ。

「プラネットイエロー、只今参上!」

彼は獣を捕まえたまま、元気な声を出した。


すぐに帰宅していなくて良かった。

誰かの悲鳴が聞こえてすぐ変身して駆けつけてみると、狼を大きくしたような怪物が桃津達を狙っていた。

あと十秒遅ければ、誰か犠牲が出ていただろう。

黄は怪物に巻き付けたプラネットワイヤーを引く手に力を込める。

プラネットワイヤーとは黄が勝手に命名したこの武器の名前だ。黒木のおじいさんに注文しておいた武器で、変身する時に一緒に出てくる。持ち手の操作でワイヤーの長さはある程度調整出来る。ただ巻き取る力は強めの巻き尺程度の力しかないので、自分で頑張るしかない。

黄の引っ張るワイヤーが怪物の後脚に食い込み、赤い血が滲む。

不意に怪物は向きを変えて、黄の方に向かって来た。

「おっと」

プラネットワイヤーが急に緩み、バランスを崩したが、そのままワイヤーを巻き取りにかかる。

そして怪物が大きな口を開けて飛びかかって来たとき、横に身をかわしつつ、ワイヤーの端を投げた。

「わっ」

プラネットレンジャーのパワーコントロールに慣れていない黄は、ただ横にステップするつもりが、大きく跳ねてしまい、バランスを崩して転倒した。投げたワイヤーも見当違いの方向へ飛んで行く。

「大丈夫ですか?」

桃津の声に手を振って答えた。ただ転んだだけで、怪物にやられた訳ではない。

怪物は再び黄に狙いを定めて、彼が立ち上がる前に飛びかかった。その攻撃を無視してワイヤーを振るう。

どうせ、避けられない。相手の攻撃が先か、こちらの攻撃が先か。

ワイヤーは今度は狙い通り、怪物の首に巻き付いた。怪物の牙が黄に迫る。黄は思いきりワイヤーを引き、同時に巴投げのように怪物の腹を蹴り上げた。

怪物は黄に噛み付く寸前で腹を蹴られ、地面に口から激突する。黄はさらに怪物の首を締め上げた。

怪物がゲホッと血を吐き出す。

もう少しでトドメだ。

「少し、可哀想ですわ」

桃津の声が聞こえた。

瀕死の怪物のことを言っているのだろう。

「だって、この子はただ生きているだけですもの」

自分を食べたかもしれない相手に甘いことを言っている。

「それでも、殺さなきゃいけない」

黄はそのまま怪物を締め続けた。怪物の身体から力が抜ける。まだ気絶しただけかもしれない。

「この怪物は自然に生まれたものじゃない。誰かの手で本来の姿を失ってしまった哀れな生き物だ」

怪物の息の根が完全に止まったのを確認し、ようやく力を抜いた。

「それに生かしておくと、僕の大切な人達を傷付ける。殺すことが最善とは言わないけど、僕の思いつく最良の策だよ」

黄は怪物に絡みついたワイヤーを外し、桃津達の方を見た。

桃津以外は腰を抜かしている。

「強いですわね」

彼女が微笑んだ。

「正義の味方プラネットレンジャーだからね」

黄は手を上げて別れの挨拶をすると、弓道場の外に跳び去った。着地に失敗して尻もちをついたのは、内緒だ。


色が名字にあるからだと?

バケモノが現れた翌日、青蘭は他のメンバーと一緒に黒木の家に来ていた。

バケモノは3匹とも死んでしまった。赤城も思わず力を入れ過ぎたらしい。黒木の怪我も対したことはなく、数日で完治するとのことだ。その他、ほとんど被害は出なかった。

しかし誰の仕業かは分からずじまいだった。

青蘭は頭を抱えた。バケモノのことでではない。彼はプラネットレンジャーに選ばれたのは自分だけかと思っていたが、赤城や黄も選ばれたと知ったためだ。

いや、他にもプラネットレンジャーが居ても、頭を抱えたりはしない。頭を抱えたのは、彼がプラネットレンジャーに選ばれた理由を聞いたからだ。

忙しいと宣言している青蘭を強引に勧誘した理由が、強さでも性格でもなく、ただ名前に青の字が入っているからだと。

「そんな下らない理由で……」

「嫌なら辞めてもいいぜ」

赤城がニヤニヤしている。青蘭が苦悩しているのを楽しんでいるのだろう。

青蘭は黒木に視線を移した。

彼女は彼を見つめ、たりはしておらず、桃津と今日の宿題の話をしている。彼女自身はどうやら5人目のプラネットレンジャーにあまり関心はないようだ。

「辞めるものか。お前には負けないぞ」

青蘭は赤城を睨んだ。ここで辞めたら本当に名前だけで終わってしまうし、何より黒木に近づく機会を大きく減らしてしまうからだ。

青蘭は、他人のために2階からでも平気で飛び降りる女性に、惚れ込んでしまっていた。


火野啓介は依頼主の水嶋洋子にビデオを見せに来ていた。弓道場に放った一体はまったく撮れていないが、残り2体の戦闘はバッチリ写っている。

「面白いわね」

静かに見ていた水嶋姉さんが、再生が終わったあと、そう言った。

「赤い服の、プラネットレンジャーだっけ? この男も面白いし、素手でケルベロスにかかっていくこの女の子も興味深いわ。まさかケルベロスがモップの一撃でやられるってことも新しい発見だわ」

彼女はもう一度ビデオを最初から回しはじめる。

「これ、何度かやりたいわね」

彼女は狂気の笑みを浮かべた。

今回、火野が思っていたより、被害は少なかった。彼女がその気になってくれたのが、最大の成果だろう。



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