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10th stage

もうすぐ廃ビルに到着する。

赤城は黒木に電話をするが繋がらなかった。ちょっと前に電話したときは繋がったのに。

赤城の家の車で現場に向かっていると、大型のトラックが現場の方から走ってくるのを見かける。なんだか胸騒ぎがする。幹線道路でもないところなのに、20tだろうか大型のトラックが走っているものだろうか。

そのトラックは赤城の乗せた車とすれ違う。

「杉谷、止まれ」

赤城がいうと車は激しいブレーキ音と共に止まった。

「俺はあのトラックを追う。お前は現場に向かってくれ」

彼はそういうと相手の返事も確認せずに車を飛び出した。

黒木の話なら、プラネットレンジャーの力があれば、車にも追いつけるはず。パワーを上げて全力で追いかける。

お抱え運転手の杉谷にこちらを追いかけてもらうことも一瞬考えたが、万一トラックが当たりだった場合、それが分かった時にはかなり距離が離れているだろうから、とてもじゃないが追いかけるのは厳しい。

しかし何事もなく黒木が現場にいるのなら、すぐに引き返すことは簡単だ。

赤城はトラックに追いつき大きくジャンプをして、その荷台のヘリに掴まった。携帯の着信の振動がする。姿勢を整えると電話に出る。

杉谷だ。

『現場に着きました。黒木さんも居ませんし、ビルらしきものもありません。ビルが崩れたような跡はあります。少し聞き込みをしてまた連絡します』

「了解。サンキュー」

携帯を切る。

するとこのトラックの方が当たりか?

間違っていたらスマン。

心の中で先に運転手に謝ってから、パワーを調整し、缶詰の蓋を開けるかのように、荷台の扉を剥がす。

中からもう一つ頑丈そうな扉が出てくる。よく見るとそれは巨大な鉄製のコンテナの扉だった。扉の横には電卓のような入力パネルと鍵穴があった。

これは巨大な金庫か?

赤城はダメもとで耳を扉に付ける。

……かすかに、金属がぶつかる音が聞こえた気がする。

気のせいか? いや、また同じような音が聞こえた。

まさか、黒木はこの中で何者かと戦っている?

また携帯が震えた。杉谷だ。

『裏が取れました。ビルの中から大型トラックが出ていくのを見た人がいます。トラックは建物に埋まっている状態だったと思われます。走り去ると同時にビルが崩れたとか。残念ながらプラネットレンジャーの姿は見ていないそうですが、プラネットレン……を挑発する、が聞こえ……後……』

後半音が途切れ途切れになり、通話が切れてしまった。

「ちっ、圏外かよ」

随分町を離れたせいか、電波がまったく入らない。しかし必要な報告は聞けた。

報告から推測されることはこうだ。ビルにトラックを隠しておいた。そこに黒木を閉じ込め走り出す。後には廃墟だけが残った。

そして今赤城が掴まっているこのトラックこそそのトラックで、この巨大な金庫のようなコンテナに黒木は閉じ込められているに違いない。そして中で何かと戦っているのだろう。

まずい。相手の罠に完全にはまっている。

最初から黒木の側にいれば良かった。黒木が来る前に片付けてやろうとか、正義のヒーロー気取りの考えで多摩の方で警備をしていたのが裏目に出ている。

相手の目的はプラネットレンジャーなのだから、ずっと黒木と一緒に行動していれば良かったのだ。

後悔していても事態は好転しない。まずはこのトラックだ。

横から行くとサイドミラーで見つかってしまう。赤城はトラックの上に登った。雨で手が滑るが、なんとかしがみつく。

トラックは狭い道路をどんどん進んでいる。片側はガードレールはあるものの、結構な斜面になっていて落ちそうだ。対向車が来たらすれ違えないんじゃないだろうか。

赤城は運転席の上辺りまで来ると、屋根に手を掛ける。

一気に屋根を引き剥がす。フロントガラスが粉々に砕け、屋根が大きくめくれた。

「うわっ、なんだ?」

運転手が叫ぶ。赤城は空いている助手席に飛び込んだ。

運転手は左手でハンドルを動かしながら右手を懐にいれた。ナイフのような武器なら、助手席側である左手で出さなければ攻撃出来ないだろう。銃か?

赤城はハンドルを握り、強引にハンドルを山側に切った。運転手が抵抗するがプラネットレンジャーのパワーの前では微々たるものだった。

トラックは壁にぶつかり、激しく火花を散らす。

このままトラックを止める。

そこまでは良かったが、後ろの荷台がスリップし、ガードレールを突き破った。

やべえ。

荷台はそのまま斜面を滑り出す。運転席部分もそちらに引きずられて行く。

落ちる。

そう思った瞬間、地震が来たように大きく揺れる。しかし赤城の乗っているところは落ちなかった。荷台とのジョイント部分が壊れたらしく、荷台だけが坂道を落ちていった。

黒木っ。

すぐ駆けつけたい気持ちをぐっと抑える。今いっても鍵を開けられない。何も出来ないのがオチだ。

運転手の襟元を締め上げる。彼が懐から出したものを払い弾き飛ばした。小型のナイフだ。コイツは黒幕については何も知らない使い捨ての雑魚だろう。

「おい、知っている事を話せ。プラネットレンジャーはあの荷台の中だな」

「お、お前、何者?」

「俺の事はどうでもいい。話さないなら、腕の一本、二本は覚悟してもらう」

腕に力を入れる。相手の身体が簡単に持ち上がった。

「わ、分かった。プラネットレンジャーはコンテナの中だ」

男は素直に話した。

「コンテナの中はどうなっている? 開ける方法は?」

「コンテナの中にはロボットが3体居て、睡眠ガスが充満している……」

ロボットはともかく睡眠ガスなんて、対処しようがない……黒木は無事だろうか。毒ガスで無いだけましだが。

男は暗証番号を話し、コンテナの鍵を出した。

必要な事を聞いたので、男を突き放し、荷台の落ちていった方へ向かう。

坂を降り始めた時、車が走り去る音がした。

実行犯に逃げられるのは癪だが、今はどうだっていい。

雨でぬかるんでいる地面をどんどん下っていった。


日が暮れはじめ、辺りは薄暗くなっていたが、コンテナを見つけるのは容易だった。

横倒しになったコンテナの扉に向かう。電子ロックは壊れてはいないようだ。鍵を差して電子ロックを解除した。

扉が開く。中は暗かった。

横転した時に、壁側に寄ったのだろう。床と壁の間にゴチャゴチャしたスクラップと人影がうつ伏せに倒れていた。

「黒木!」

叫んでもピクリともしない彼女の元に駆け寄る。

最悪の状況が頭を過る。

いや、そんなことあるものか。

「黒木、しっかりしろ」

彼女に触れる。冷たい。冷水を触っているようだ。

「おい、冗談だろ……」

彼女を抱き上げるように仰向けにする。良かった。僅かながら胸が上下している。呼吸は止まっていない。

胸元のパワーコントロールが異常なほど高くなっていた。こんな状態で寝ていたら、間違いなく凍死してしまう。

赤城は急いでボリュームを最小にし、ヘルメットとマスクを外す。

肌はいつもより白く、唇は紫色になっていた。

「チクショウ、もっと早くなんとか……」

どっちにどれだけ行けば町があるのか……

暖かいところに連れていって上げたいが、赤城はトラックに掴まって来たため、ここがどこなのかもよく分からなかった。

更に携帯も圏外で、誰にも連絡が取れない。

せめて雨が降っていなければ……

……無いものねだりをしていても黒木は助けられない。助けるためには行動しなければ。

一旦黒木をその場に寝かせ、コンテナの上に登る。プラネットレンジャーの力で大きく跳躍した。

近くにプレハブのような屋根が見えた。あそこならコンテナのような冷たい金属の箱よりマシだろう。


黒木を背負い雨の中を駆け抜け、プレハブについた。

プレハブは長年使っていないらしく、ボロボロだった。

とにかく雨風をしのげるだけでもいい。

扉を開ける。鍵がかかっていたが、簡単に壊れた。

中は3畳くらいの広さで、ノコギリやスコップなどの工具が置いてあった。

床は木を並べてあって凹凸はあったが、雨で濡れたりはしていないようだ。明かりはなく隙間風が酷い。それでも外よりは随分いい。

黒木をとにかく休ませたい。大きめの板切れを数枚見つける。赤城はそれを床に敷き、そこに黒木を寝かす。布団には程遠いが直接寝かすよりはいいだろう。

黒木の様子は良くない。暗くて顔色もよく見えないが、呼吸が弱っている気がする。

まずはプラネットレンジャーのスーツを脱がさないと。

このスーツはパワーを最小にしていても冷たいし、雨でビショビショに濡れている。こんなもの着せたままだと彼女の体温がどんどん奪われていってしまう。

意識がないうちに脱がしたらまた怒るだろうな。

変身用のアプリを黒木のスーツの設定に切り替える。そんなことをする事はないと思っていたので、少し手間取った。

怒られてもいい。死んでしまったら、嫌われることも出来なくなる。

赤城は躊躇う事なく、スーツを収納する操作を行った。

変身時に比べれば全然対した事のないが、強力な風が巻き起こりスーツが少し浮き上がる。風船を膨らますようにスーツの中に空気を送り込んでいるらしい。

直後にスルスルと布が巻き取られ、ベルトに収納された。

彼女はまだ起きる様子はない。スーツが無くなってマシにはなっただろうが、まだ彼女の身体は濡れているし、裸で体温を維持出来る訳がない。

毛布かタオル、せめてハンカチだけでもあれば、拭いてあげられるのだが。

もう一度プレハブの中を調べるが、使えそうなものは何もなかった。

「落ち着け……身体が冷えた時は……」

赤城は応急手当の知識を必死に思い出す。空手で怪我を見る事も手当てをする事もよくあったし、警官を目指すなら応急手当ぐらいは覚えておけというのが父親からの教育でもあったので、それなりの知識はある。

しかしそれは打撲や骨折などの話で体温の低下についてはよく知らないし、医学と呼べるほどの知識は無い。

出来る事といったら、身体で温めるくらいしかないが……意識を失うほど冷えている時は、それは逆に死に至ると何かで見た気がする。

今、黒木は冷えて意識がないのか、睡眠ガスで寝ているのか。赤城には診断が出来なかった。当然こんな状況で医者に見せるのも無理だ。

かといって濡れた身体のまま、たいして暖かくもないこの場所に放っておけば、間違いなく彼女は死ぬ。

……少しでも生き残る可能性が高い方のは、抱きしめる方だ。

「黒木、死ぬなよ……」

赤城は心から祈った。


暗い……寒い……

身体の芯から寒気を感じる。

私は目の前にある暖かい物体をしっかりと抱きしめた。まだ身体の震えが止まらない。

寝転がったまま、顔をそれに擦り付ける。

……そういえば、私、どうしたんだっけ?

ゆっくりと目を開ける。かなり暗い場所だったが、なんとか見えた。

間近にすこし凹凸のある物体がある。さきほど私が顔を擦り付けた物だろう。その物体をゆっくりと観察した。

!!

男の人の胸。顔の方をそっとみる。赤城先輩だ。彼は服を着ていなかった。眠っているのか目を閉じている。

その後、自分も何も着ていないことに気付く。先輩の腕が私の背中をしっかりと抱きしめていた。

ちょっと待って……何、この状況……一体何があったんだっけ。えっと確か青蘭先輩とデートして……

順を追って思い出していく。暗闇の中でロボットと戦った後は覚えていない。多分ガスにやられて気を失ったのだろう。スーツがかなり冷たかったのをうっすら思い出した。

多分パワーを上げ過ぎて……

ここがどこなのかはさっぱり分からないが、赤城先輩が助けてくれたことは容易に想像出来た。

きっと私をあの中から助け出し、温めてくれていたのだ。

まだ身体の芯が冷えているのを感じる。手足の先が凍えて感覚がない。

赤城先輩、温かくて気持ちいいな……先輩も寝ているようだし、もう少しこのまま……

私は赤城先輩を抱き締め、胸に顔をうずめた。


くしゅん。

背中に隙間風が当たる。

「さむ……」

私が呟くと先輩がピクンと動いた。

「黒木、気がついたのか?」

「え、あ、う、うん。先輩、起きていたの?」

彼の顔を見ると、さっきまでつむっていた目を開いてまっすぐこちらを見ている。

「……大丈夫か? 頭がぼうっとしたりとか……」

「大丈夫。寒いし指先は冷たいけど」

はっきりと答えると、彼は私の頭に手を添えて、しっかりと抱きしめた。

「良かった……良かった……」

ほとんど聞き取れない声で呟いている。

「先輩? 泣いているの?」

「そ、そんなワケあるかっ」

先輩に頭を抑えられているので顔を見ることが出来なくて、本当のことは分からない。しかし私の無事を心から喜んでくれていることが、私を抱きしめる太い腕から伝わってくる。私は相当危険な状態だったのだろう。

「先輩」

「どうした?」

先輩は私の頭を開放し、真剣な顔で私の顔を覗き込む。

「助けてくれてありがとう」

先輩の腕の中がなんだかとても安全な場所に感じてきた。

「礼なんていい。当然のことをしただけだ」

彼は顔を背けた。照れてる。可愛い。

安心したら急に疲労が全身を襲う。

「先輩」

「どうした?」

さきほどと同じ会話。彼はきっと何度でも私を心配してくれる。

「お腹空いたね」

「ああ、そういえば夕食抜きだな。ここには……」

私は話を最後まで聞くことは出来なかった。彼の胸を枕に眠ってしまったからだ。


目が覚めると日の光が少し差していた。夜明け頃か。

先輩は眠っているようだ。私を軽く抱いたまま規則正しい呼吸をしている。

昨晩は暗くてよく分からなかったが、ここは小さな物置小屋のようだ。板を敷き詰めただけの場所に寝かされており、寝心地は最悪、我ながらよく眠れたものだ。

お腹空いた……

先輩を起こさないようにそっと彼の腕を持ち上げ抜け出る。

改めて自分と先輩が全裸なのを思い出した。

昨晩は暗かったし、抱きしめられていたので先輩の上半身しか見えなかったが、部屋が明るくなって先輩から離れると、お互いプラネットレンジャーのベルトすらつけていないことが確認出来た。

異性の裸を初めて見た。

……あんなふうになってるんだ……って、私何見てるのっ!

慌てて後ろを向き体育座りする。

ヤバい。私、先輩とハダカで抱き合って、一晩過ごしちゃった……

顔が熱い。ほどけてしまっている髪を弄る。何かしていないと恥ずかしくてどうにかなってしまいそうだ。

先輩にも全部見られちゃったんだろうな。ベルトも外してあるし……

でも彼がいやらしい気持ちでそうしたのでないことはよく分かっている。

彼が寝返りを打った。何か悪いことをしたわけでもないのに、心臓が飛び出そうになり、思わず立ち上がる。

バタン。

立ち眩みでよろけ、立てかけてあったシャベルを倒してしまった。

「ん?」

物音に先輩が目を覚まし、こちらを向いた。慌てて胸を手で隠し、その場にしゃがみ込む。

「お、おはよう」

先輩と目が合う。どんな顔をしていいか分からず、なんとか笑顔を作った。

先輩はまだ寝ぼけているらしく、あまり反応がない。ゆっくりと大きなあくびをする。つられて私もあくびが出そうになり、慌てて横を向く。

「おはよう」

彼がそういって上半身を起こす。私は彼の斜め後ろに居るが、彼は首をひねり私の方をちらちら見ている。

「具合はどうだ?」

「だ、大丈夫。ちょっと疲れてるのと、お腹が空いているくらい……」

答えた後、私は座ったままくるりと先輩に背中を向けた。

「どうかしたか?」

先輩はやはり普段通りに話す。

「……あっち向いてて欲しい」

「ああ、すまん」

先輩が完全に後ろを向く。私はゆっくり近づくと、彼の背中を背もたれにして座った。彼の背中が一度だけピクンと動いたが、避けることなく背中をかしてくれた。

こうやって背中合わせに座っていると落ち着く。あまり恥ずかしくもないし、一人でないと実感できる。

「先輩、ここはどこなの? 昨日何があったか、教えてくれない?」

「ああ、そうだな」

彼は昨日のことを話し始めた。


先輩が話し終わった時もまだ雨は降っていた。

「また借りが出来ちゃった」

「気にすんな」

私が呟くと彼の手が私の髪をくしゃりと掴んだ。

「ちょっと、どうしてこっち見てるのよ」

私がいうと、また背中合わせになって、わりぃとか言って笑う。

彼の話で大体の状況は分かった。雨は止みそうにないし、私の体力もかなり回復したし、プラネットレンジャーのスーツを着て、町の方角に進んでいればすぐに帰れるだろう。

「……先輩、今回の借りの話だけど」

彼がそんなもの求めていないのを承知で続ける。

「お返しは、……私の……キスとか……」

大胆なことを口走ってしまった。先輩が私を吹き飛ばしそうな勢いで振り返る。

「や、やっぱ、今のなし。私、その……初めてだし」

乾いた声であははと笑ってみたが、先輩は止まらなかった。

私を押し倒すように抱きかかえると、彼の太ももの上に仰向けに寝かせられた。私は両手で胸を隠すので精一杯だ。

「黒木、一晩中好きな女を目の前にして我慢していた男が、そんなこと言われたら、やめられるワケないだろ」

え? 好きな女って……

彼は私をしっかり抱き締めた。

先輩が暴走した。に、逃げられない。

「キ、キスだけだからね……」

なんとか声を出す。心臓が爆発しそう。

「考えておく」

それってどういう……

先輩の答えに私は何も言えなかった。私の唇が先輩に塞がれたからだ。


翌日の月曜日の昼休みになっても先輩とのキスの余韻が残っていた。

あの後、プラネットレンジャーのスーツを着て、町に向かったすぐに、ユミりんの自家用ヘリコプターが私たちを見つけて助けてくれた。

そして食事とお風呂……その後は今朝まで爆睡していた。

ヘリコプターで助けられた直後より、余裕がある分今の方が昨日のことを思い出してしまう。

今回のお返しはキスだけで止めてくれたけど、かなり濃厚なのをしてしまった。

赤城先輩に会ったらどんな顔をすればいいんだろう。

「忍さん、今日はなんだか変ですわよ。笑顔かと思えば、苦しそうな顔をされたり」

別のクラスの女子が口を挟む。

「恋よ、恋。そうでしょ」

やっぱりそうなのかな……

突然、教室がざわめく。誰かが教室に入って来たようだ。

誰? 生徒会長じゃない?

皆の声が耳に入る。

青蘭先輩が、カバンを持って真っ直ぐ私の机の場所に来た。しまった。青蘭先輩のこと忘れていた。荷物も預かってもらっていたんだっけ。

「黒木、携帯はどうしたんだ? 何度かけても繋がらなかったが」

「連絡しなくってごめんなさい。携帯壊れちゃって」

笑顔を作る。教室の皆の視線が痛い。

「土曜日に預かった荷物だ」

カバンを私の机の上に置く。

「ありがとう……」

周りの視線が気になって、ちょっと上の空で答えてしまった。……さっきまで赤城先輩のことを考えていたせいもあるかもしれない。

その様子に青蘭先輩が目を細める。

「黒木君、覚えておいて欲しいことがある」

「え?」

先輩の様子に緊張が走る。

「私は欲しいと思ったものは、強引にでも自分のものにしないと気が済まないんだ」

突然、何を言い出すんだろう。そう思っているうちに、先輩の手が私の顎をクイと持ち上げた。何が起こっているか把握する前に、先輩の唇が私の唇に重ねられた。

周りから、おおっとどよめきが起こる。

数秒間だけだったと思う。しかし私にはとても長い時間に感じられた。

「いつか君も私のものにしてみせるよ」

先輩は私を離すとそう宣言して教室を出ていった。

私は髪を弄るのも忘れて、完全に固まっていた。



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