おじいちゃんのオルゴール
祖父が亡くなった日、親戚たちは葬儀そっちのけで遺産の話ばかりしていた。
遺言書には土地の分配などが書かれ、最後にこうあった。
『その他の遺産五千万円は隠した。見つけた者に権利を与える』
大人たちは狂ったように家中を探し回った。僕はその光景が嫌で仕方なかった。祖父がいなくなった悲しみより、金への執着。特に叔母の目は血走っていて怖かった。
「僕、オルゴールだけもらっていい?」
祖父が大切にしていた古いオルゴールだ。一緒に聴いた優しい旋律が好きだった。
「勝手にしろ」
叔母が鼻で笑った。だが、どこにも遺産は見つからなかったのか後日、彼女はオルゴールに仕掛けがあると疑って中をくまなく調べたが、何も出てこなかった。
結局、五千万は見つからなかった。
二十年が経ち、僕は三十歳になった。
就職してからは昇進と給料のことばかり考えた。同期を蹴落とし、上司に媚びを売った。
儲かる話には目がなかった。彼女より接待。友人より取引先。
そして投資詐欺に遭い、全財産を失った。
手元に残ったのは、あのオルゴールだけ。部屋の隅で埃をかぶっていた。
久しぶりにゼンマイを回した。
懐かしい音色が響く。
涙が溢れた。
十歳の僕は、こんな大人になりたかっただろうか。
気づけば、あの時醜いと思った叔母と同じ目をしていた。
暗闇の中、オルゴールを眺めると、オルゴールに小さな文字が浮かび上がっているが見えた。
『翔太へ。人生で本当に大切なのは金じゃない。辛い時、このオルゴールを聴け。お前を想う誰かの気持ちを思い出せ。それが一番の財産だ。愛する孫へ。追伸、五千万は慈善団体に寄付済みだ』
笑ってしまった。祖父らしい。全て見抜いていたんだ。
叔母たちの醜い争いも僕がいつか道を踏み外して暗闇でこのオルゴールを見ることも。
でも、不思議と心が軽くなった。オルゴールの音色が、まるで祖父が隣にいるように感じさせてくれた。
僕には、五千万より価値のある遺産があったのだ。
世界が反転したように、全てが違って見えた。
優しい音色が、静かに部屋を満たしていく。




