EX5 結論
勿論ガシャールの意図は、それだけではないだろう。
並列思考を幾つも使って、ガシャールの意図を考えている。
今回の決闘でガシャールが負けた際は、住民を改宗させてトサハタを譲り渡すことになっていた。
ガシャールが勝った際については考えなくていい。
勝つつもりは元々無かったようだから。
勝って、私がトサハタを手に入れた場合、ガシャールに何かプラスになるようなことがあるのだろうか。
そう考えているのと別の並列思考が、私に注意を促す。ガシャールの当初言っていた決闘事由についても考えろと。
書状では、
○ 私が領地の住民ほぼ全員に魔法を付与したこと
○ その領域がミョウドー、フカシュー、セート海域の島嶼部に広がった事
について、脅威を感じたことが理由となっていた。
また決闘前に、ガシャールはこうも言っていた。
『理由はコトーミ殿が領地に導入した、住民の誰もが魔法を使えるという制度にある』
『魔法が使えることで、住民一人一人の力は他と比べ圧倒的に高い。月日が経つごとに、領地と領民が力をつけていくだろう。十年程度で、他の土地神では対抗できない状況となるだろう』
そうだ。キーワードはきっと魔法、それも『住民が魔法を使える』ことだ。
そして勝つつもりが無かったということは『他の土地神では対抗できない状況となる』部分は無視していい。
そしてガシャールが決闘に負けてトサハタが私の領地になった場合。
私はトサハタの住民も、魔法を使えるようにするだろう。
今までの領地もそうしてきたし。
少なくともガシャールは、そう考える可能性が高い。
ならガシャールが決闘を持ちかけた理由は、『トサハタの住民が魔法を使えるようにするため』だ。
自分が負けて消えることは覚悟の上で。
なんだよそれ、惚れてまうやろ。
というのは置いておいて、それならどうするかを私は考えなければならない。
ガシャールを出来るだけ今のままにして、かつトサハタの住民が魔法を使えるようにする方法を。
この決闘の結果を無しにするだけでは駄目だ。
ガシャールは土地神のままでいられても、住民は魔法を使えない。
キンビーラやアルツァーヤに薪を消費して魔法を使う知識を教えて、使えるか試して貰った時のことを思い出す。
直接接触を使って、知識をほぼ全部送り込んだのに使えなかったのだ。
キンビーラはこう分析した。
『おそらく神界においても規定外の方法であったのだろう。禁止となってはいなかったが故に、最初に思いついたコトーミは使用を認めた。しかし全ての神がこの方法を使った場合、世界のバランスが崩れてしまう。故にそれ以外の神には使用を認めなかっのだろう』
一方で、私の領地の住民は魔法を使える。
勿論それは私が授与したからだ。
私が授与しなければ、薪を消費するタイプの魔法は使えない。
その為には私が、ガシャールやトサハタの住民に魔法を授与できる立場にある必要がある。
そういえばタケヤと会った時、何か使えそうな方法があった気がする。
そう思うと同時に、全知が解答を引っ張り出した。
『領地を2国以上持った土地神は、主神として副神を従える事が出来ます。これにより主神は、他の土地神を副神として配下にする事が可能となります。
副神は主神の配下ですので、領民と同様に魔法を授与することが可能です。副神の領民も主神の領民ですので魔法を授与可能ですし、副神に魔法授与の顕現を与えることも可能です』
方法は見つかった。
あとはガシャールが受け入れてくれるかどうかだ。
「正直なところ、私の領地は今の範囲だけで充分以上です。これ以上増やして管理の手間を増やしたくはありません。
ですので住民を改宗してトサハタを私の領地にするつもりはありません。
ですので住民の改宗ではなく、トサハタの土地神ガシャール殿に降伏を勧告します。降伏した場合は、副神として私の代わりにトサハタを治めていただくつもりです。勿論領地を治める為に必要ですから、住民への魔法の授与権も付与します」
おそらくガシャールはアルツァーヤに聞いて、副神のことを知っているだろう。
仮に知らなくとも、今ここで聞いたことによって、全知で情報を得られるようになった筈だ。
あと、これも付け加えておこう。
「領地の権利の割合は、0対10で結構です。先程言ったとおり、これ以上管理するべきものを増やしたくないですから。
この条件でどうでしょうか?」
これならトサハタの住民も魔法を使えるようになる。
私が管理する領地も、実質的には増えずに済む。
私はケカハでうどんをすすりつつ、ロシュやブルージュと一緒に暮らせればそれでいいのだ。
実際にはそんなのんびりした状況、まだまだ遠いようだけれど。
モ・トーの影響のせいでまだまだボロボロなフカシューの援助とか地形再構築なんて作業をしたりとか。
洪水が多いミョウドー南部の河川に手を入れたりとか。
ついにケカハの街その2を作ろうという話になったり、なら今のケカハの街の名前を決めなければという話が出たりとか……
これ以上、業務過多になるのはごめんなんだ。
同時に顕現を幾つも出して同時並行的に作業をするのが普通だなんて日々は、一刻も早く終わらせたいのだ。
今日は決闘ということで、久しぶりに顕現は此処とケカハの街の2箇所だけだけれども。
だから頼む、トサハタの管理まで押しつけないでくれ!
ガシャールは私の方へまっすぐに向き直り、深々と頭を下げた。
「かたじけない。いきなり決闘を申し込むという無礼を働いた我と我の領地に対し、これほどまでの措置を講じていただけるとは。ならば我はこれより先、コトーミ様の副神として日々力を尽くすことをここに誓おう」
いや、そこまで誓う必要は無い。
私はトサハタまで管理したくなかった、それだけだから。
そう思ったところで、通知が入った。
『ガシャールが副神となり、トサハタがコトーミの領地になりました』
とりあえず大急ぎで、面倒事は排除しよう。
「それでは土地神ガシャールを、トサハタの管理者に任命します。管理割合は私が0、ガシャールが10です。同時に私が使用可能な魔法をガシャールに授与します。また住民に対し、トサハタを含む私の領域内で使用可能な魔法を授与する権限も、授与します」
『トサハタにおける管理権の設定と、副神ガシャールへの魔法使用、及び魔法授与権の授与、設定完了しました』
設定という言葉が気になるけれど、これで私の業務は増えずに済んだ。
あ、でもトサハタが領地になるのなら、早明浦ダムを造れる。
あと鰹節も入手出来るようになるかもしれない。
うどんの出汁はいりこが正義だけれど、時に鰹節の強い香りと味が欲しくなることもあるのだ。
今のうちにガシャールに頼んでおくべきだろうか。
そう思ったところで、アルツァーヤとキンビーラの気配を感じた。
私とガシャールの勝負がついたのを知り、戻ってきたようだ。
状況を説明する必要はないだろう。
アルツァーヤは此処の土地神だ。此処で起きたことは全て把握出来る。
ただこの結果に、何か言いたいことはあるかもしれない。
何せガシャールとは夫婦同然の間柄なのだから。
多分この決着で問題ないだろうと、そう私は思っている。
でも大丈夫だろうか、本当に。
アルツァーヤが、口を開いた。
「コトーミに降伏すれば、私とセキテツの住民が魔法を使えるようになる。それでいいのでしょうか?」
えっ!?
◇◇◇
この時の私は気付いていなかった。
一年後には四国だけでなく本州の中国地方部分、更には九州、沖縄までが名目上私の領地になってしまうことを。
(とりあえずEOF)




