EX4 決着
瞬間移動では無く駈け寄りを選んだ理由を、私はすぐに理解した。
瞬間移動では、先手を取ることが難しい。
出現の兆候に気づかれた時点で、相手が攻撃を準備可能だから。
同じ理由で、私も瞬間移動を使うべきではない。
かといって単なる正面突破は避けるべきだろう。
相手の神器は有効距離が短い代わりに何でも斬れる刀。
ここで槍と化して突っ込む攻撃を繰り出すのは、自殺行為だ。
『花さそふ嵐の庭の雪ならで』
更なる石礫攻撃を仕掛けるとともに、私は全力を出す事を決意する。
本当は時間をかけて戦いつつ、ガシャールの真意を確認するつもりだった。
しかしガシャールの戦闘能力は、そんな悠長な策を許さないようだ。
今まで戦ったナハルやモ・トーと違い、隙がまるでない。
同じ神力であっても、気を抜いたら間違いなく負ける。
私の全力で勝負を決めてから、改めて詰め寄るしかないだろう。
『ウラン235が23kgで臨界に達しました。発生エネルギー量は神力換算200万程度』
禁断の核エネルギーを起動し、そして私は金剛杖を構える。
この金剛杖も一応は神器だ。
特殊な攻撃は何もないけれど、それでも私の身体の一部で、私の身体同様にエネルギーを伝える事が出来る。
石礫攻撃を受けつつもガシャールが迫ってくる。
『ガシャールの神力は148,798です。石礫で減少する分を見込むと、此処に到着時には148,118相当と予想されます。ですので金剛杖から放つ熱エネルギーは、神力147,000相当に設定します』
私の意思を受けて、全知と全在がエネルギーを調整。
此処で私はガシャールを倒すつもりはない。
ただしぎりぎりまで追い詰めるという形は必要だ。
神に筋力はいらない。身体を神力や魔力で動かせるから。
必要なのは、神力または魔力と、どういう結果を生むかという具体的なイメージ。
難しい剣術や棒術はいらない。
今の私は、身体を両断されても即座に回復できる魔力があるから。
必要なのは金剛杖をガシャールに届かせることだけ。
ガシャールが走りながら、刀を横に構える。
私も金剛杖を前に向けて構えた。そして有り余る魔力の一部を使って、前へ。
ガシャールを正面から見ている為だろうか。
構えの意図や狙っている刀筋が全知でわかる。
なるほど、私は理解した。
やはりこの戦いの意図は、口上と大分違っていたという事を。
並列思考でそんな事を考えつつ、私の身体は前進しながら金剛杖を軽く左に振って。
金剛杖にガシャールが触れる。
金剛杖に込めていた魔力が熱エネルギーとしてガシャールを襲い、火柱が出現した。
『ガシャールの残り神力は1,127。着地に失敗しても消滅はしません』
良かった。そう思いつつ私は距離をとった後、金剛杖を収納し服装を修復。
ガシャールの刀が白衣の裾に切れ目を入れていたから。
元々私の左側を掠める位の刀筋を狙っていたのが、私の急接近で狙い通りにいかなかったようだ。
つまりガシャールは、私を倒すつもりはなかった。
それでもまだ、彼の意図はわからない。
わからないけれど、それでも今、私はすべきがある。
決着がついたという宣言だ。
「これで勝負はついたと思いますが、どうでしょうか」
「確かにその通りだろう。これだけ神力差が出てしまえば、どうあがこうと我に勝ち目はない。
それでは約束通り、領民を改宗させる事にしよう」
「待って下さい」
そのつもりは無い。しかしどう説明しよう。
わからないから、とりあえず材料をひとつ出してみる。
「今の最後のやりとりで確信が持てました。貴方はこの決闘で私を倒すつもりはなかったことを。倒すつもりなら、あの時点で刀筋をもっと私の方へと寄せた筈です。
ですがあの時点での狙いは、私を斬る為では無い、左側を掠めるだけの軌道でした。私が急接近した結果、私の服の裾部分を刀が切りましたが、それすら貴方の意図ではなかった。違いますか」
「ぎりぎりで外す事を狙ったのは、作戦のひとつ。斬られても神力で治せると気づくより、あと一歩で斬られると思わせた方が恐怖として意識するだろう。後にまた近接戦闘の間合いとなっても、斬られることをおそれて積極的な攻勢に出にくくなる」
なるほど。そう思ってしまうくらい説得力のある返答だ。
それでも私は、追及を続ける。
「ですがあの時点で、私が目一杯に魔力を増やしたことには気付けたでしょう。それでも外すことを狙うというのは考えにくいと思うのですけれど」
「神力については勝負を左右する為に注意していた。しかし神が魔力を使用することは、通常ではあり得ない。だから魔力までは気にしていなかった」
嘘だろう。ナハルやモ・トーならともかく、あんな戦い方が出来るガシャールが、そんなお間抜けな見逃しをするとは私には思えない。
更に戦闘中や今の追及で、湧き上がった疑いもある。
「貴方がこの決闘を提起した意図は、まだ私には完全には理解出来ていません。ですがその意図のひとつに、私への戦闘方法の教示というのがあったような気がします。たとえば不用意に瞬間移動を使う事の危険性や、敵から目を離さないことの重要性などのような。違いますでしょうか」
「それはあくまで結果としてそうなったということ。ただ、もしそう貴殿が感じたのなら、この戦いの意味はあったということだろう」
ガシャールは骨太な笑みを浮かべた。
まずい、これはなかなか格好いい。
アルツァーヤが惚れたのも理解出来る。




