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青艦ステラ  作者: 奈津
第三話
11/12

①安全基地

案内と紹介。

「……それで、ここが食堂」

『ふーん……』

「…食堂って、わかる?」

少し考え込んで、隣の彼女は首を横に振る。

この前訪れた時と同じように、深夜の食堂は薄暗く、常備された食事のコーナーだけが薄明るく照らされていた。

とりあえずイスカにはたくさんの情報に触れさせた方がいいということで、館内の案内から始めているのだけど、当然人の多い時間に敢行するわけにもいかない。

多少生活リズムが乱れるのを承知の上で、日勤の勤務時間からずらしてツアーをしていた。

ちなみに亜鷹さんは表立って姿を見せたら警戒されるだろうということで、少し離れて様子を伺っている。

数日休んで自分も普通に歩けるようにはなってきたけど、そういう保険がかけられているのは少し安心だったし、ちょっとだけ不甲斐なくもある。


(…ああ、じゃなくて)


ふと考え込んでしまっていた。少し不安そうにこちらを見ているイスカに慌てて意識を戻す。

「食堂って言うのは、みんなで食事をする場所。食事、は分かるよね?」

その質問にはイスカは静かに頷いた。さっきからずっとそうだけど、何もかもが興味深そうにじっと見つめている。体調もすこぶる良さそうで、それは素直に嬉しいことだ。


(…………)


自分も暫し、薄明りに照らされた炊飯器と、テーブルの一角を見つめる。

あの日以来だ、ここを訪れるのは。

でも今はまだ、何も言葉にできる気がしなくて、ただ少し乱暴に振り返った。


「…行こう」



*****


「…それで、ここが安全基地」

『あんぜん、きち』


イスカにはあまり耳慣れない言葉だったようだ。

まあ彼女がどんな環境で育ったのかは想像つかないけど、普通の企業か何かでもあんまりそんな場所は存在しないだろう。


(…機密上問題がある場所は紹介できないけど)

ここは紹介できるってのは、あまり重要視されてないってことだ。


『…何があるの?』

「えーと、ここにはね……」


説明をしようとする前に、低い機械音がしてドアが左右に開く。


「んにゃ……」


そこに立っていたのは、自分の背丈よりも大きいくしゃくしゃの毛布を引きずった、毛先がくるくるとした栗色の髪をツインテールにした女の子だった。眠そうな目を擦って、半分寝惚けている。


「…ナナちゃん」

『ナナちゃん?』

「うん、ナナちゃんって言うんだ」

「んえ……そのおねえちゃん、だれ……?」


当然の疑問に、慌ててナナちゃんの高さまでしゃがみ込んで答える。


「ええと、お客さんだよ。基地(アクイラ)のお客さん」

「ふーん……?」

しばらくぼんやりとした顔でイスカを眺めていたナナちゃんの瞳が、どんどんどんぐりまなこになっていく。

「おねーちゃん……羽はえてるの……!?」

『……?』

イスカは何か話しかけられているのは分かったらしい。困惑気味にこちらを見てくる。

「ええと…羽が珍しいみたい」

『ああ、そう…?』


イスカは戸惑いながらも、ナナちゃんに羽を見せてあげようと思ったらしい。控えめにその翼を広げてみせた。

「すごい!おねーちゃん、飛べるの!?」

ナナちゃんは興奮を抑えきれないみたいで、毛布をぎゅっと握りしめてまっすぐにイスカを見つめている。

『なんて?』

「えっと……その羽で飛べるのか?って」

(実はそれ、俺も気になってた)

それを聞いて、イスカは少し考え込んだ。

2、3回と羽が、躊躇うように羽搏く。


(あ、でも飛ばれたら俺じゃ捕まえられないんじゃ…!?)


遅まきながらその可能性に気づいてどっと冷汗が噴き出す。

けれど、その心配は杞憂だったらしい。


『……飛べないと思う。この身体は、飛ぶには重すぎる』

「……そうなんだ……?」

イスカは目を伏せて、そんなことを言う。

その諦め切った表情に、何故か少し胸が痛くなった。

すい、と綺麗な仕草でイスカはしゃがみ、ナナちゃんと同じ目線になった。赤い羽が床について、薄く輝く一枚一枚の羽根がよく観察できた。

『…あなたくらい小さくて、この羽があれば飛べるかもね』

ぽかん、とイスカを眺めるナナちゃんに、ひとりごとみたいにそう言う。すると、ナナちゃんの瞳がぱっと輝いた。

言葉はわからなくても、好意は伝わったらしい。

「おねーちゃん、いつかナナを載せて飛んでくれる!?」

「あっナナちゃん、そんな大声だと…」

多分止めるのが明らかに遅過ぎた。

ドアの向こうに続く廊下では、次々とドアが開いて、たくさんの瞳が興味深そうにこちらを覗いていた。


(ま、まずい)

このままだと子供たちがみんな起き出して、乳母代行(ナニーロボ)にも異変に気づかれるだろう。

 

「みんな起きてきちゃうから、また今度ね」

「えー?」

そう言いながら振り返ったナナちゃんも、みんなが起き出してきているのに気がついたらしい。

「あ、怒られちゃう……」

「うん、また絶対来るから、今はおやすみ」

「約束ね!バイバイおねーちゃん!」

ナナちゃんは満面の笑みで、安全基地のドアが閉まるまでずっと手を振っていた。



「…ごめんね、急に会わせちゃって……」

『…あれが、子ども?』

「ああ、ええと、そうだよ」

廊下を歩き出しながら、イスカの疑問に答える。

「安全基地には、色んな場所から集められた子どもたちが暮らしてるんだ」

『……どうして?』

「さあ……」


何故あの子達がここで暮らしているのか、は実際俺たちにも理由は説明されていない。

アクイラでは、変な実験に参加させられているという噂も囁かれている。

けど一応、たまに様子を見に行くと、あの子達は乳母代行(ナニーロボ)の庇護のもと、いつも平和に過ごしている。そんなのはただの悪い噂だと、信じたいけど。


『……よくわからないけど、また会えたらいいな』

「そう思ってくれるなら、嬉しいよ」


イスカの嬉しそうな顔に、こちらも素直にそう思った。


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