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超短編小説『千夜千字物語』

『千夜千字物語』その34~ユートピア

作者: 天海樹

“穏やかな人生を「ユートピア」”という看板が掲げられているここは、

謳い文句通り不安定な現代社会に疲れた人が

穏やかな人生を過ごせる異空間の世界。

未来が見えなく不安しかない今、

連日入園希望者が絶えない。


「入園ご希望ですか?」

支配人がその女性に尋ねると、

「特に夢も希望もあるわけではないので」

と答えた。

「ご希望があれば理由はどうあれ

お断りすることはございませんので、ご安心ください」

支配人はそう答えると、園の説明を始めた。


この園の最大の売りは環境。

常に温暖な気候で、最適と言われる湿度を保ち、

とても過ごしやすい環境が整えられている。

さらには、衣食住についてはすべて園から

無償で支給されることになっている。

まず“住”に関しては、園内に様々な家が建ち並び、

空いていれば誰でも住むことが可能である。

“衣”と“食”に関しては、ショッピングモールやデパート、コンビニなど

好きなものを好きなだけ手に入れることができるようになっている。

「生活にかかる費用は一切かかりませんので、

働く必要もありません」

支配人は得意げに話した。

また、レジャーも今の世界と同じようにあらゆるものが用意されているので

存分に楽しんでいただくことができることも付け加えた。


そこまで聞いた女性は

あまりにも素晴らしすぎて逆に不安になった。

「相当高いんじゃ…」

「いえ、お金は一切いただきません」

支配人の言葉に驚いたが、

そうなると余計に信用できなくなってきた。

その様子を見て支配人は

「じつはカラクリがあるんです」

と言った。それは、園内の住人は皆温厚で親しみやすく、

この世界で言うヘンな人は一切いないのだと。

それは、住人の“怒”と“哀”をすべてAIで管理して

湧き上がったと見るやドローンにて回収していくのだと。

その時の取り除いた負の感情をエネルギーに変換して

この世界に売ったりしているので、

すべての運営費は住人の感情で賄えるのだと。

それを聞いて安心して

「本当に名称通りのユートピアですね」

と言うと

「ただ一点だけ注意点があります。

一度入園されたらもう二度とこの世界に戻ることができませんので、

そのことだけご了承ください」

支配人はそう告げた。


すると、園内の方から大きな声が聞こえてきた。

「この先は行けません!

これ以上抵抗すると命にかかわりますよ!!」

スタッフが強い口調で言うと、

「もうウンザリ!

辛くても苦しくてもいいから刺激がほしい!!」

と喚く声が聞こえた。

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