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白兎と異世界

 先ほど前の文明的な風景とは打って変わり、公園などの整備された自然ではない原始的な森の中の開けた場所に三人は立っていた。

 「なにここ!みて~見たことない鳥飛んでる~」

 状況を意に返さない少女は独特なペースを展開している。

 「こいつ見てると焦る気も失せてくるな…」

 「そうか?実はトラックに撥ねられて死んでる可能性だってあるだろ」

 「物騒なことを…」

 「冗談だ」

 こいつも特殊だった…二人のペースにのまれないよう、周囲を観察する。が少女の提案を聞き行動は中断された。

 「ねえ、自己紹介しない?」

 「いいな。もう遅刻とかそういう次元の話でもなくなったし、一度落ち着くのもいいだろ」

 「まあ確かにそうかもな…」

 二人の行動ペースにかなりのまれてきていることに苦笑いしながら話し始める。

 「誰からすんだ?」

 「じゃあ私からね!」

 「よろしくたのむ」

 「私、型置日皆かたおきひみな!好きなものは動物!好きなことは食べること!苦手なのは考えること!高校一年生!よろしく!」

 「みんなそうだろ」

 エッヘン!と誇らしげな彼女に突っ込みを入れたがえへへと笑っている。対象的に眼鏡の彼は少し驚いたような気がしたがすぐに元に戻った。

 「次どうする?」

 「俺は最後がいい」

 「じゃあ俺だな!園守御影そのもりみかげ、好きなことは楽しいことで嫌いなのは楽しくないこと。よろしくな」

 「随分と抽象的だな」

 「こんなもんじゃないか?」

 「そうなのか…?」

 「私も好きだよ!楽しいこと」

 他愛のない話が進んでいく。

 「俺か…南雲蒼なぐもあおい好きなものは特にない。苦手なのは曲がったことだ。よろしく」

 「かわいい名前だね」

 「よく言われる」

 「きれいな響きでいいじゃんか」

 「ね~」

 一通り自己紹介を終えた三人は一分ほどの沈黙ののち、蒼が話し始める。

 「いるだろ。俺たちをここに呼んだやつ」

 「まあいるだろうな。魔方陣に人為的なものを感じたし問題は…」

 「なんで呼ばれたんだろうね?」

 「そこだ。なぜ呼ばれたのか目的が分からん」

 「お答えしましょう!」

 「は?」「わあ!」「ッ!?」

 茂みから、うさ耳を生やした愛くるしい純白を思わせるような少女が飛び出してきた。

 何が起きてもアクションをとれるように警戒はしていた御影と蒼。しかし不覚をとるような形で、音もなく飛び出してきた少女に対して臨戦態勢をとる。

 「マジかよ、結構気は張ってたつもりなんだけどな!」

 「動きの大きさ対して音がないしモーションにも無駄がない。強いぞ」

 「待ってください!別に取って食おうなんて気はありません!」

 「そうだよ~殺す気なら御影の自己紹介の時に全員始末したほうが楽だったもん!」

 「気づいてたなら教えてくれよ!」

 「変に動いて刺激するよりは自分から動いてくれるの待ったほうがいいかな~と思ってさ」

 「一理ある。賢いな」

 「意外と考えてんだな~悪い」

 「いいよ~そんな事より話きこ?」

 うさぎの少女は待ってました!と言わんばかりに表情が明るくなる。

 「本題に入る前に一つききたいんだが、いいか?」

 「どうぞ!なんなりと質問してください!」

 「実際、いつから俺たちのこと見てたんだ?」

  少女は驚いたように少し背中をのけぞらせ、ばつの悪そうな表情をしている。

 「そうですねぇ…恥ずかしながら召喚の座標が少しずれてまして…お出迎えする予定だったのですが探し回る羽目になりまして…自己紹介のあたりでうさぎはスタンバイさせていただきました」

 己の不手際を恥じるように目を泳がせるうさ耳の生えた美少女。その愛らしさに三者三様に悶えている。もじもじと小動物のように体を動かす姿は、特に罪のない三人の罪悪感を搔き立てるには十分だった。

 「ほとんど最初からじゃねえか…」

 「いい…」

 「待たせてごめんねぇ~」

 同性同士であることを免罪符にするかのように少女の頭を撫でくりまわし、思う存分にふわふわを堪能する日皆。なすがままにされている少女はあうあうといいながら困っている。

 「これはこれでいいな…」

 「それでいいのか蒼さんや」

 「ああ」

 「みなさまぁ~そろそろ本題に入りたいので場所を移しませんか?」

 少女の困った感情の混ざる一声に目的を思い出す一同。日皆は名残惜しそうに少し距離を置く。

 「撫で心地よすぎて忘れてたよ」

 「ご満足いただけたなら、お手入れの甲斐もあるというものです!」

 すこし自信を取り戻した少女。なぜか勝ち誇りげな日皆。それを見てなぜか悔しさがこみ上げる二人。負け惜しみをぐっと抑えて話を進める。

 「ちなみにどこへ行くんだ?」 

 「はい!この森を抜けた先に大きな町があります。そのはずれにうさぎたちの活動拠点がありますので、この世界の説明がてら徒歩で移動しようと思っています!」

 「たち?他に誰かいるのか?」

 「いえ、昔はいたのですが今は一人で…」

 蒼の質問を悲しそうに受け止める少女。その瞳は少し潤んでおり、それに気が付いた三人は彼女に隠し事は無理だろうと完全に警戒を解いた。

 「傷つけたなら謝る。すまない」

 「いえ、大丈夫です!気にしないでください。そろそろ行きましょう!」

 四人は歩を進めていく。

 「えーっと何からお話しましょう。まず、疑問などはありますか?」

 「そうだな。じゃあこの世界についておしえてくれ。」

 「わかりました!」

 うさぎは御影の疑問にこたえるためどこからともなく眼鏡を取り出し、くいっと装着する。

 「それはどこから…?」

 「気分は大切でしょう?」 

 驚きの質問をはぐらかし話を進めるうさぎ。

 「じゃあまずは、この世界の名前についてですね!この世界に決まった呼び名はありません。信仰の聖地、神々の箱庭、果ての塔、レプリカヴァース、ガーデンなど、いろいろあります。よく耳にするのはガーデンですね。庭と称するにはスケールが違いすぎますが皆さん短いほうがお好きなのでしょう。」

 「なるほど、呼び方から考察すると、この世界はこの世界の神が創造したって解釈でいいのか?」

 「それはかなり違います。本来このガーデンに固有の神はいません。稀にイレギュラーでガーデンから神が生み出されることはありますが、ガーデンを創造したのは皆様の世界の神々です。」

 「んん~?じゃあ私たちの世界は何のためにあるの?」

 「そこが大切なポイントなのです!」

 うさぎはまた眼鏡をくいっとあげる。

 「本来、神というものは人の信仰なしでは成り立ちません。皆さまの世界がなければ神々は存在しえないのです!しかし、皆さまの世界に神が降り立とうとするとなると、地球のスケールではかなり小さすぎます。皆さまの世界にも降り立つことはできなくもないのですが依り代が必要になりますし、かなりの弱体化になるわけですね!」

 「ここまでは大丈夫ですか?」

 「あぁ」「なんとなくね~」「問題ない」

 「皆さま理解が早くないですか?優秀で先生やりやすいです!」

 冗談交じりに話を進めていくうさぎ。日皆は若干、はてという表情をしている。

 「実際この世界に来て、うさぎとお話ししてみて疑問に思ったことや違和感はありませんか?」

 「う〜ん、どうだろうね。私にはわかんないや」

 「違和感か…」

 「俺も、うっすらと感じているが何かまでは辿り着けんな…」

 日皆があ!と大きい声を出しながら誇らしげに言葉にする。

 「わかった!言葉だよ!みんなも異世界だって薄々気付いてたけど完全に文化や文明が違うなら言葉も通じないはずだもん!うさぎちゃんとお話できるのが普通すぎてスルーしちゃってたなぁ〜」

 「あ…」

 「確かにそうか」

 「日皆さん正解です!」

 「文字は少し異なったりしますが、言語という形態自体は、皆様の世界とあまり変わりありません!文明により話す言葉は英語や中国語などで変わるかもしれませんが、ガーデンパワーで自動翻訳が可能なのです!」

 三人からおぉ〜という声が漏れる。今の多文化で多様な人間と会話するにはあまりにも言語が多すぎる。その負担がないと考えればかなりいい世界なのではないかと思いはじめた。

 「この通り、信仰や文化は皆さまの世界がベースになっているので異世界だからといっても皆さまに合う文化は存在するのです!」

 「ベースになっていることはわかった。じゃあ俺たちの世界との違いはなんだ?」

 「大きな違いは二つほどあります。まずは、神々が《《物理的》》に存在することです。スケールが神格に合う様調整された世界なので、本神がその辺を歩いてることも稀にありますね。次はギルド制です。信仰や文化文明が皆さまの世界ベースなのは理解してもらったと思います」

 「あぁ大まかにね」

 「ギルドといってもかなり種類があるのです。神話を元にした集まり、例えばギリシャ神話のアルゴノーツあたりが有名ですね。そのアルゴノーツですら大元はギリシャ神話というカテゴリのギルドの一つに過ぎません。この辺はわかり難いことが多いのでおおまかで大丈夫です。自らが所属する団体であるとだけお覚えください!」

 「言い忘れていましたが、ギルドと信仰と文化文明は深く結びついていることが基本です。ここまで理解できた皆さまなら、察しはつくと思います。」

 ここまで話し、やっと町が見えてきた。

 「次はこの世界の物理的構成についてですね!」

 「少し情報を整理したい。五分ほど貰っていいか?」

 「キリもいいですし少し休憩にしましょうか!」

 切り倒されている大木に腰掛け少しばかり休息を取ることにした。

 

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