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vs狩人

 吹き飛ばした狐女を追いかけ、更に深いところへ入っていく日皆とうさぎ。

 鬱蒼とした視界の悪い森でリサを探してい

た。飛ばしたおおよその場所にアテはあるのだがなかなか見つからない。痕跡を探そうにも木々で月の明かりが遮られていた。

 

 「どうしましょう……コレ」

 「地道にやるしかないね、任しといてよ」


 この暗闇の中で私の権能ギフトについて色々探ってみた。

 始めは目、夜半程ではないにしろ、視界が悪い。目に梟の力をセットして辺りを確認していく。

 力についても色々わかってきた。まず、触れたことのある生き物については、殆どの特徴や力が使えるようになる様みたい。

 次に、触れたことのない生き物。力そのものを引き出すのは難しいけど想像と知識でそれっぽい組み合わせにする事で再現可能だった。

 次に、空想上の生き物について。これについてはよくわからない。私に想像力と創造力が足りないのか、それっぽい見た目は再現できそうだったけどうさぎが驚くと嫌だから保留中。能力まで再現できるのかはわからない。実物に触れられたら楽なのになぁ。ガーデンにはそういうの、いるのかな?

 そんな事を考えながら、周囲を観察している内に感じる違和感。蝙蝠みみはなが、この森は偽りだらけだということを警告していた。


 「ここから彼女のエリアみたい。警戒した方がいい」

 「そうですね。そう時間ありませんでしたが、気をつけた方がいいでしょう」

 

 臭いがした。強化した嗅覚から微かに感じる、触れた時に残った臭いはもう何度も嗅いだから覚えてる。

 逃がさない。うさぎから想いを取り上げようとするアイツを追い詰める。

 右斜後ろ、およそ五メートル後ろの茂み、誘う様に垂れ流されている獣の臭い。

 此方の出方を窺っている雰囲気はあるが、トラップの雰囲気などは感じない。

 だから、ここで一番大きいのをかましてやることにした。ノータイムでの突撃、さらに下半身を象の力で強化し、シャコの力でぶん殴る!日皆の全体重と戦車の装甲なら容易く破壊できる威力での不意打ち。


 「テメェ、勘がいいな!臭いか?音か?全部抑えたはずなんだがなァ!」

 「喧しいよ。そんなんじゃ、すぐバレるに決まってんじゃん!」


 突発的に繰り広げられた攻防にうさぎが驚いている。日皆の右ストレートは土壇場での所で躱された。敵ながらに凄い身のこなしだった。

 そのまま戦闘はスタートしていく。辺りに散りばめられたトラップに警戒しながら間合いを詰める。出会い頭でうさぎが鏃を浴びそうになっていたのと、隠れて機を窺っていた事から近距離は苦手なタイプだと判断した。恐らく離れられるとじわじわ削られてゲームオーバーだろう。


 「うさぎ!逃しちゃダメだよ!」

 「了解です!」


 リサの死角から、逃げられまいと行動を制限する立ち回りを選択するうさぎ。彼女の判断は流石と言わざるを得なかった。

 味方の動きを見て、即座に対応できる。その動きは、大規模戦闘で名も見知らぬ味方と背中を合わせの戦いを経なければ厳しい芸当であろう。

 流石は元三層、しかし、それでもうさぎが動き辛そうなのは、感知できないトラップを警戒しながら立ち回っているからだろう。

 仄かに匂う、火薬のツンと鼻をつく匂い。当たれば重症不可避のブービートラップ。

 目視で確認できる、足止め用のワイヤートラップ。

 単純に足を取られる落とし穴など、確認できる範囲のものは避けられるが、そうで無いものに当たってしまった場合のダメージは計り知れない。

 連戦の可能性も考えればここはなるべく無傷で突破したいなぁ。

 思考に生まれるノイズ、刹那のソレは命を奪う。

 カチリと何かを踏んだ日皆の背後から、ヒュルリと迫り来る矢尻。蝙蝠みみと肌で感じ取り最小限の動きで躱わす超反応。


 「あッぶないな!当たったらどうすんの!」

 「アハッ!ワタシの相手が一人減る!フェアじゃない?」

 

 なるほど、こういうのもあるのか。自身の認識を改めて、爆発しそうなトラップのおおよその設置位置をうさぎに伝えながら動き回る。

 止まると逃げられるし動いてると危ないし!ほんとに面倒臭いなぁ!


 「ふぅん?なんでわかったんだろ、鼻がいいのかなァ!」


 うさぎが確認の為に、周囲を見回した。リサはその隙をついて左手にあるクロスボウから矢を発射する。

 ほぼゼロ距離、直撃は免れない。じゃあせめて、と体を逸らし肩への直撃。怯んだところを見計らい、そのまま前蹴りを叩き込まれる。

 背に走る衝撃と共に、木にもたれへたり込む日皆。


 「ぁッ!痛ったぁ……」

 「あと一人」

 「日皆さん!大丈夫ですか!?」


 駆け寄ってくるうさぎ。あぁ、やってしまった。隙が生まれるなら警戒して然るべきなのに。それに合わせて、リサの動きも止まる。勝ち誇り、何かを提案していた。


 「今からでも降参しない?アイツ、腐っても幻想種のウェアウルフだし、アンタらのお仲間が勝てる相手じゃない、今降参すれば命ぐらいは助かるかもしんない。どお?」

 

 哀れみの目を向けながら、命だけは助けてやる。と、ふざけるなよ、私たちは勝つって言ったんだ。誰がこんなところで負けてやるものか。しかし、うさぎはそうはいかなそうだった。ウェアウルフという単語を聞いた途端顔から血の気が引いていく。


 「今夜は満月……なるほど、そういうことですか」

 「あんたは賢いねェ、アイツは強いよ」

 「日皆さん……分が悪いかもしれません……」


 うさぎの目が訴えかけていた。降参しませんか?と

 それでも、そんなのは嫌だった。

 うさぎの思い出が踏み躙られ、ただ一つ、残った大切なものまで奪われる。

 そんなのあんまりだ。

 例え、ここで命を繋いだとしても、そんなの死ぬほど悔いが残る。

 そんなのは死んだ方がマシだ。

 みんなでうさぎの名前を取り戻すって約束したんだ。その前に居場所まで奪われたら何も果たせなくなる!


 「信じてよ。御影も蒼も絶対勝ってくる!だから私たちが諦めちゃダメだ」

 「ですが……ですが!うさぎは皆さまに死んでほしくありません!うさぎの為に、こんな所に呼んでおいて!何も訊かず、うさぎによくして下さった皆さまには……」

 「違うよ。うさぎが此処に連れてきてくれた。退屈な世界から、頼れる二人と一緒に。出会いをくれた。だから、私が恩返しをしたい。みんなと一緒に色んなものを見て、感じて、共有したい。行けるところまで行ってみたいって、初めてそう思える仲間ができたんだ。だから信じてよ」


 力強く一切の迷いなく紡がれた言葉は、私の心を温かく包み込む。

 みんながいなくなってから十年、良くしてくれる人は沢山いた。けれど、あの温かさとは違う。どこかで感じていた独りぼっち。頼れる仲間はもう居ない。騒がしかったあの日々も、遠く昔の話。

 名前も失った、今思えばソレも浅はかだったんだろう。独りを埋めようと自分に騙されていたのかもしれません。

 いつか、帰ってくるだろうと信じて守ってきたこの居場所も、寂しさを感じるだけのものだと感じてきた。

 だったら、この懐かしい雰囲気を感じる三人に、全てを預けても、預けてもらってもいいのでないか。


 「わかりました。続けましょう」

 

 眼前の敵を見据える。御影と蒼が危ないのなら尚更、時間なんてかけていられない。

肉を貫通した鏃、熱を帯びた傷がズキリと痛む。のたうち回りたかったが、それもかなり治った。

 血が滲み、服で吸収しきれない血が、ぽたりぽたりと垂れてくる。

 

 「邪魔だ……」


 撃たれた左肩を押さえている、血に濡れた右手。その手でシャフトを握り、力一杯に矢を引き抜いた。生半な力では滑って抜くことの難しいであろうソレを一気に反対側から。


 「ああああああああッ!!!!」


 想像を絶する痛みが脳天にまで駆け巡る。溢れ出る脳内物質、今まで味わったことのない痛みに脳が覚醒していた。

 よろめきながら立ち上がる。覚悟は決めた、今は全力でアイツを倒すだけ。


 「動けますか?日皆さん」

 「もちろん!狩られる側の気持ちって奴、味合わせてやろうじゃないの」


 血に塗れたその手で、乱れた髪を掻き上げる。

 

 「まだやるんだ、まぁいいけど」


 平然を装っているがリサにも少し焦りが出ていた。

 通常の矢と毒矢を織り交ぜ、掠る程度なら大丈夫だろうと油断を植え付けた所に毒矢を使うというのが基本戦術。

 日皆に当てたのは毒矢である。掠っただけでも動きが取れなくなっていく筈だった。

 その毒を直撃で受けてなお、何故か立っている日皆に疑問を浮かべながらも次の手を考えるリサ。

 日皆は気がついていないが、毒を回す為に時間をかけ、降伏まで促した。

 降参すれば解毒してやり、続行ならば一人はリタイアという算段だったのだがそれもご破産。

 (コイツ、毒が効かないのか?なら狙うのはウサギのほうか……)


 見合う。

 一瞬の間、日皆が親指についていた血を舌で拭い取った。それをきっかけに三者三様に動きだす。

 うさぎと日皆は自然と挟撃の形になった。バックステップで大きく飛び退くリサにうさぎ特製トランプが追撃をかける。

 躱されてはずれた一枚のトランプが木を伐り倒して何処かへ飛び去った。

 うさぎ曰く、自動回収できるらしい。

 淡々と距離を取るリサ、追いかけるように走り回っていく二人。

日皆の蹴りをいなし、後ろからのうさぎの攻撃は風を読み切って回避された。

 意外と体術もいける口らしい。

 そのまま拳をぶつけ合う。衝撃で吹き飛ぶリサと日皆。

 追撃をかけるため、ウサギはリサを追いかける。

  

 (これなら当分アイツは追いつけない!)


 リサとうさぎの一対一。背後の木を利用して急旋回、そのままの勢いでうさぎの腹を蹴り飛ばす形で強襲に成功するリサ。

 しかし、それで体勢を崩すほどか弱くはないうさぎは跳躍、頭を目掛けた胴回し蹴り、勢いそのままにもう一回転で更に威力を高めて放っていく。

 リサの両腕ガードの上からでも響く衝撃、二十メートルほど後ろの木に叩きつけられた。


 「カッ……ハ!まだッ!」


 叩きつけられた木を支えに、飛び出していくリサ、突き出される右腕をうさぎは鼻先で躱し、回り込み体に捻りを加えた斜め上からの踵落とし。


 「それでは遅い、うさぎの足技を舐めない方がいいですよ」


 冷酷に響くうさぎの声をスルーしながら受け身を取りローリングで勢いを殺しながら距離をとっていくリサ、それでも身体に受けたダメージは大きい。

 精一杯体勢を整えて、追撃に来るうさぎを出迎える。


 「それを待ってたんだよ」

 「終わりです」

 「やっと一人だ。全く、割に合わねえ」


 左手のクロスボウから放たれる毒矢。咄嗟に飛び退くうさぎ。直撃は避けられた。が、脇腹を掠めていく致命の一撃。

 

 「は?」


 膝がガクガクと笑っている。

 身体から力が抜けていく。

 抜け落ちる思考。

 白く染まる頭の中。

 パタリと音をたてて崩れて落ちるうさぎ。

 日皆に対し、効かなかった毒を少し強めに塗り直しておいた。


 「殺しはなしだってお前らが言ったんだ。そこはフェアにいかねぇとな。暫く動けないはずだから、そこで寝てな」


 と、リサはポツリと呟いた。

 そんな事が追いついてきた日皆に聴こえるわけもなく。

 

 「うさぎに何をしたぁッ!!」

 「楽しいなぁ!こうでなくちゃ!」


 久しぶりの強者達に獰猛に笑みを浮かべる狐女。それは心底楽しくて堪らないというような表情だった。

 鬼気迫る表情で向かってくる少女。

 向こうで鳴り響く爆発音に日皆は気がつかない。

 こうして最終局面は始まった。

 



 

 

 

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