9 激おこぷんぷん丸、参上
9 激おこぷんぷん丸、参上
俺は叫んだ後、天を仰いだ。そして再び、叫んだ。
「…うおぉぉぉっ…こんなのあんまりだぁ~っ…」
そう叫んではいたが、あの漫画のあの人みたいにボロボロ泣いてはいない。まぁ、泣くとスッキリするそうですがw
明け方に差し掛かる頃の、俺の叫びに、びっくりして起きたのだろう。男達が小屋から慌てて飛び出してきた。
「…グランジッ、何があった!?どうしたんだ?」
「アニキッ、大丈夫かッ…?」
テジーとヒュージが顔を強張らせて俺を心配する。他のメンツも一様に心配そうだ。
「…スマン。本当にスマン…。けどな、叫ばずにはいられなかったんだよオォォォッ…」
俺は、地面に蹲り、思いっ切り両拳で地面を叩いた。男達は顔を見合わせて、不安の表情だ。
昨日は雷に撃たれて記憶を失くし、天使からのお告げがあったと言った次の日に、今度はまだ暗いうちから叫んでいるのだ。
そりゃ、心配にもなるだろう…。今まで仲が良かったメンバーなら尚更だ。しかし、俺はどうにも怒りを抑える事が出来なかった…。
考えれば考えるほど、腹が立ってくる。
どうして何もしてくれないんだ!!この状況を作ったミスの原因は天界にあるだろう!?それが何も出来ないと言われて、挙句に新開発中の転生システムのモニターやってくれだと!!
いくらなんでも酷すぎるわ!!
ドジ子は俺の怒りの叫びに、姿を消して俺を見ていた。男達には見えて居ないようだったが、何故か俺には半透明で見えていた。
ドジ子は申し訳なさそうに俯いている。
俺は地面に蹲ったまま、怒りのボルテージを下げられずにいた。考えれば考えるほど、怒りしか沸いてこない。
こうなったら、何としてもこの世界で生き延びて、この人生を全うしてやる!!もう一度死んで、天界に逝って暴れてやるからな!!
こんな悲劇しか生まない、転生なんてすぐに止めさせてやる!!強く、決意を固めた俺を、強い眼差しで見てうんうんと頷くドジ子。
≪…そうです。その意気です!!二人で頑張って天界を見返してやりましょう!!≫
直接脳内に響くその声を聞いた俺は、血走った眼でドジ子を見る。
「元はと言えば全部お前のせいだろうがアァァァァァッッ!!」
再び、叫びつつ、視えないモノに向かって暴れようとする俺を、男達が必死に、抑える。
「ア、アニキッ、落ち着いてくれッ!!何があったんだ!!」
「そうたぜ、ヒュージの言う通りだ。とにかく落ち着け!!落ち着いて何があったか話してくれッ!!」
ヒュージとテジー、そして男達が藻掻き暴れる俺を取り押さえようと、必死にしがみついていた…。
◇
俺は男達を前に、怒りを抑えられないままだったが、強く宣言する。
「お前ら、良く聞け。今日から本気で行く!!村を救うだけじゃねぇ。毒を以て毒を制す。盗賊どもは、片っ端から俺達で片づけて行くからな!!」
突然の宣言に、戸惑う男達。
「…それは良いんだが、さっき何があった?こんな時間から叫んだり、見えない何かに向かって暴れようとしたり、何か変だぜ?」
テジーが俺に聞いてくる。
あった事を正直に話しても信じてはくれないだろう。まさかの転生ミスでグランジの中身が別人になっているなど…。
そしてこのまま生きて行け、と神様に言われたんだって話をして誰が信じる?
俺は覚悟を決めた。
これからは記憶喪失で押し通していく。グランジ・スクアードとして人生を全うして何としても天界にもう一度逝く。
「…あぁ、暴れて済まなかったな。見張り中についうとうとして怖い夢見ちまったもんでな(嘘)。寝ぼけてたんだ。さっきの事は忘れてくれ…」
俺の言葉に、男達は顔を見合わせる。
「また見張りを続けるから、お前らは寝てくれ」
そう言うと俺は再び、焚火の前に言って座る。皆が小屋に入って行く中、テジーが俺の隣に座った。
「…昨日、雷に撃たれてから、お前は人が変わったな…。さっきの事もあるがお前が言いたくないなら、俺達は聞かない。俺達がやらなければならない事は変わらないからな…」
「…あぁ、そうしてくれると助かる」
暫くの間の後、再びテジーが口を開いた。
「…グランジ、さっき盗賊どもを片づけていくって言ったな?具体的にはどうするんだ?」
テジーの言葉に応える。
「ゴミを片付けるのに、正面から当たる必要なんてない。グリッドは50人規模だって言ったな?」
「あぁ、そうだ。俺達みたいに小さな盗賊団が集まってるんだ。それを仕切ってるのがグリッドだ」
「統制の取れた集団なら難しいだろうが、寄せ集めの集団なんて少しづつ削って行けばすぐ片付く。まずはグリッド盗賊団からだな…」
俺はテジーに、考えている事を話した。
◇
「…ふむ。面白そうな作戦だな。いつからやるんだ?すぐやるのか?」
「いや、まずは情報収集からだ。フィネスに周辺の盗賊の動きを探らせろ。必ず逐一報告する様に指示してくれ…」
俺の言葉に頷くテジー。
「それから今日からこの小屋の改修を始める。ここを難攻不落の恐怖の砦にするからな」
「…あぁ、解った。今日から取り掛かろう」
俺は頷きつつ、騒いで済まなかったなと謝りを入れて、テジーに小屋に戻って寝るように言った。
◇
俺は再び、焚火の番をしつつ見張りを続けた。焚火の向こう側にドジ子が立っていて何気に不気味だ。
暗い中、下から炎にメラメラと照らされているからだ。俺はドジ子と脳内で喋っていた。
≪アンタは天使だって言ってたけど、何が出来る?どんな能力を持ってるんだ?≫
≪…わたしは対象の能力開示スキルを持ってます。どんな人でも見れば対象のステータスを見て、それを他人に表示する事も出来るんです≫
≪…他には?何かあるのか…?≫
俺の問いかけに、無言のドジ子。
≪………いえ、特には無いです≫
ステータスを見る能力だけで、どうやって俺のサポートするんだよ…。俺は思わず溜息が出る。…絶望的な能力だな。でも、何かしらやって貰わない事には、怒りが収まらんな…。
ドジ子の仕事は後で考えるか…。
≪そう言えば、まだ聞いてなかったな、アンタ名前は…?≫
≪…ミスリエルです。夏目さん、改めて、よろしくお願いします…≫
そう言って頭を下げるドジ子…いやミスリエル。しかし、如何にもやらかしそうな名前だな…。
…もうドジ子でいいか。
≪…解った。ドジ子と呼ばせてもらうよ。改めてよろしく…≫
≪えぇぇっ、何ですかその呼び方~。ちょっとそれは無いですよ~≫
ドジ子と言う呼び方に、本人がやんわりと拒否を示したが、俺はそれをスルーした。