8 対話
主人公のスキルを少し変えました。
8 対話
充実した一日を過ごし、ボロ小屋で寝ていた俺はヒュージに起こされて外に出た。焚火の番をしながらの見張りだ。
俺は一番最後だったので、既に明け方に近い。ボロ小屋の前には、昨日肉を焼いたり、キノコ野菜鍋を作った焚火がある。
その傍に座り、周りを気にしながら、火が消えない様に薪を追加していく。
まだ少し眠い。しかし良く見張っていないと森の中の危険な動物が寄ってくる事があるらしい。
あくびをしながら、焚火をじっと見ていた。
暫く火を眺めていると突然、耳元で囁くような声が聞こえた…。俺はハッとして顔を上げる。
周りを確認するが誰もいない…。
ドキドキしながら、薪を片手に持つ。再び耳元で、囁くような声が聞こえた。草むらは揺れていない。という事は風のせいではないし、動物の啼き声でもない…。
ガサッ…
背後の草むらから音がしたのが聞こえた…。俺は薪を持つ手に力を入れる。俺はすぐに振り返り、薪を振りかぶって殴ろうとした瞬間…。
「…ぁ、夏見さんっ、わたしです。先日は大変ご迷惑をおかけしました…」
目の前には、転生ミスをしてくれた天使ドジ子がいた…。
「…うぉっ、ドジ子かよ!!紛らわしい登場しやがって…危うく殴り掛かるとこだったぞ?」
「…す、すみません。神様と話が付きましたのですぐにでもお伝えしようかと思いまして…」
恐縮して、話すドジ子。確かに早い方が助かる。しかし…。
「…何でこんな時間に来たんだよ…?まだ明け方の時間だぞ?」
俺の問いに、ドジ子が昨日からの経緯を話す。どうやらミスをしたのは今回が初めてではないようだ…。ドジ子はあれから、転生ミスの報告を迷いに迷って眠れず、ついに夜中過ぎに神様に話をした。
…そんな時間に起こして失敗報告するのもどうかと思うが…。余計に怒られそうな気がするが、この目の前の天然ドジ子はそんな事、解っていないだろう。
案の定、だいぶお怒りを喰らったようだ…。
「…取り敢えず神様からお話があります。湖まで来て下さい…」
そう言われて、ドジ子に付いて小屋から少し離れた湖のほとりに行く。
「…神様…。夏見さんをお連れしました…」
ドジ子の声に反応して、湖のしたからスゥーッと姿を現す神様。
イメージ通りの、白髪もじゃもじゃロン毛、もさもさ長い髭を垂らし、白い法衣を纏っている。
手には杖を持っていた。
「…うむ。この度はこやつのミスで迷惑を掛けて済まぬ事をした…」
そう言って軽く頭を下げる神様。俺は緊張しながら、この状態を何とかしてもらう為に話す。
「…神様。今の俺は実験段階の転生とか…。もう一度、本来あるべき形に戻して欲しいんです。何とか転生のやり直しをお願いします」
俺の言葉に、うぅむと唸る神様。
「…その事なんじゃが、こやつのミスを聞いてからすぐに憑依転生について調査したのじゃが…」
「…何か問題でもありましたか?」
俺の問いに、無言で頷く神様。
「まず、お主も知っておると思うが、今回のこの転生は実験段階で確立されたシステムではないんじゃ。天界転生開発課の面々に聞いたんじゃが…」
そこで言葉を止めて、言いにくそうな表情だ。
「普通の転生失敗なら、すぐにでも魂を回収してやり直しが出来る。しかし今回の憑依転生は実験段階であるが故に…非情に言いにくいんじゃが憑依させた人間から、魂を回収する方法がまだ開発されておらんでな…」
その言葉に、俺は思わず天を仰ぐ。
「…つまりどうする事も出来ない、という事ですか?」
「…そうじゃな…」
暫くの沈黙の後、俺は諦めきれず、神様に問い質す。
「…あの、申し訳ないんですけど、神様なんですよね?神様の超パワーみたいなのがあれば俺の魂を引き剥がす事なんて造作もないのではないですか?」
俺の中でイライラが募ってきたのが解る。神様なんだから、実験転生だったとしても何とか出来るだろう?いや、何とかして貰わなくては困る。
こんな森の中で、ボロを着てこんな盗賊ごっこなんてやってたらコイツ(グランジ)と共倒れだ。
俺の目の前で、すまなそうに話す神様。
「悪いんじゃが、ワシとて『奇跡』という名の力を持ってはおるが、転生はおろか実験転生には対応しておらんのじゃ。それは転生開発課の天使達が解決策を確立出来るまではどうにもならんのじゃよ…」
俺は項垂れる。そして大きな溜息を吐いてしまった。
「…ハァ…。神様でも、どうにもならないんですか…。では、俺はこのまま盗賊として生きていく他ないのですか…?」
その言葉に、暫くの沈黙のあと、神様が俺に提案をする。
「すまぬが転生開発課が解決策を見つけるまで、憑依転生をモニターして貰いたいんじゃ。この転生に関しては、お主が初じゃからのぅ…」
俺は納得がいかず、顔を顰める。当たり前だ。そっちのミスでこうなっているのに解決策はなく、何とかなるまで俺にモニターしろだと…?
俺の表情から、神様は何かを感じ取ったのか、憑依転生のモニターのメリットを続けて話す。
「お主からの定期的なモニターの報告があれば解決策が早く見つかり、今後の為にもなる…。そして何よりお主の魂の昇格が早くなる」
納得のいかない俺は、顔を顰めたまま無言を貫く。
「申し訳ないんじゃが、どちらにせよ、今のお主に選択肢はないんじゃ…」
「…そうですか…」
俺は項垂れたまま、呟くしかなかった…。
◇
不満露のままの俺の前で、神様が今回この世界で生きて行く為の説明を始めた。憑依転生は今回が初である為に、サポートとしてスキルを付けてくれるようだ…。
…スキルなんかより、早く魂戻して転生やり直して欲しいものだ。
「お主は前世での活動により、固有スキル『掃除』が付く」
相変わらず無言のまま、不満表明している俺に、今まで黙っていたドジ子が、必死に俺を持ち上げる。
「夏見さん、その掃除のスキル凄いですよ!!」
唯一のスキルが『掃除』って何だよ?そんなスキルよりもっと凄い攻撃系のスキルくれよな…。大盗賊団を一気に殲滅出来る範囲スキルとか…。
…俺は溜息が止まらなかった。
「…お主、夏見とか言うたな。今回は本当に済まなんだ。最後にワシからもう一つ、サプライズがあるんじゃ…」
…サプライズ?
そして神様は、衝撃の一言を放った。
「今回の転生ミスの原因である、この天使をお主のサポートとして付ける!!」
「…えっ?ええぇぇぇぇぇーっ!!神様ぁ、わたしそれは聞いてませんよぉっ!!」
…どうやら、ドジ子もこの事は知らなかったようだ…。
「今回は、お前が原因なんじゃから、被害者をサポートするのは当たり前じゃろうが!!暫くの間、下界で修業し反省するが良い!!」
その言葉に、溜息を吐きつつ項垂れるドジ子。
「では、夏見、お主の健闘を祈るッ!!ではさらばじゃッ!!」
そう言うと神様は消えてしまった…。
俺はチラッとドジ子を見る。恥ずかしそうに照れながら「よろしくお願いします」とか言ってる…。
よろしくお願いされたくない!!神様の意図にすぐに気付いたからだ。膝から崩れ落ちる俺…。
衝動を抑えられずOrzの体勢で俺は叫んでしまった。
「…何がサプライズだよ!!体よく厄介者を押し付けられただけじゃねえかァァァァッッッ…!!」
森に俺の悲痛な声が木霊した…。