表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/24

7 身だしなみ

 7 身だしなみ


 俺の『解散』宣言に、驚きを隠せない男達。こんな事やってても将来的に良い事なんか何もない。捕まって監獄送りか、討伐隊を出されて死ぬか、上の盗賊団にこき使われて死ぬかのどれかだろう。

 

 足抜け出来るなら早い方がいい。


 俺はそう思って解散宣言をしたのだが、男達は納得出来ない様だ。


「オイオイ、グランジ。それ、本気で言ってないよな…?」


 テジーが俺に確認を取る。無言のまま、俺は首を横に振った。


「皆、よく考えてみてくれ。俺が『盗賊やろうぜッ!!』って誘ったからって真面目に働いているお前達を巻き込んでまでやる事じゃないだろう?」


 俺の言葉に、ヒュージが真剣な顔で言う。


「…アニキ。そもそも俺達が集まったのはアニキが誘ってきたからってだけじゃないんだよ」


 ヒュージに続いてテジーも話す。


「お前は記憶を失くしてるから、俺達の使命についてこれから話す。良く聞いてくれ…」


 そしてテジーが、事情を話し始めた。



「そもそも、俺達が盗賊の真似事を始めたのはフィネスの掴んだ情報からなんだ。村長がその情報の裏を取って確かである事を確認した」

「…で、その情報って何だ…?」


 俺の質問にテジーが答える。


「リフレ村襲撃の情報だ。それを聞いた村長、うちのオヤジを含む村の衆とお前と俺とヒュージが集まって対策を考えたんだ」

「…で、どうなったんだ?その結果がこれか?意味が分からんぞ?」


 俺の言葉に、ヒュージが説明をはじめた。


「…アニキ、オヤジは村での防衛戦を考えてたんだ。リフレ村襲撃の急先鋒は、森の中でも縄張りが一番近いグリッド盗賊団なんだけど50人程度しかいないからね。防衛及び撃退出来ると踏んだらしい」


 更にテジーが話をする。


「でもグランジと俺が村での防衛戦に反対したんだ。グリッド盗賊団のバックには更に大きいカニング盗賊団がいる。グリッドを撃退しても今度はカニングが出て来るだろうしな…。そうなると300人を超える規模になる。そうなると村人の総員数を簡単に超えてしまう」


 テジーの言葉に、俺が言葉を返す。


「あぁ、言いたい事は解かるよ。いくら盗賊が統制の取れない集団だったとしても非戦闘員がいる村側はかなり苦戦するだろうな。しかも囲まれたら終わりだ…」

「そこでアニキが作戦を提案したんだ。村とグリッドの縄張りの真ん中に当たるこの場所で盗賊団を作る。その後、グリッドに従属して村に直接グリッド達が接触しない様に、物資を俺達が仲介して上納する…ってね」


 ヒュージの話を聞いた俺は、それが有効な作戦とは思えなかった。


「それだと時間稼ぎにしかならないだろ?ヤツらも、いつか痺れを切らせて襲ってくるぞ?」

「…あぁ、村長とうちのオヤジは今のグランジと同じ事を言ったよ。でもグランジは譲らなかったんだ。時間稼ぎの間に、村人を他に移すなり村自体を別の場所に移すなり出来る…って言ってな…」



 …ふむ。コイツ(グランジ)はアツいんだか、バカなんだか…。村人を移動させるとか村自体を移すとか言ってるがそれは至難の業だ。


 長く住んでいればいるほど、そこから離れるという選択をする者は少ないだろう。村人全員を説得出来るとは到底思えないしな…。


 しかし、盗賊業に片足突っ込んでる今の状況を考えると、時間稼ぎは案外悪くないかもしれん…。

と言うか、それしかないよな…。


 俺としては巻き込まれる前に、早く神様が来てくれる事を祈るばかりだ。取り敢えずそれまでは出来る事をやるか…。


「…今の状況は解った。けどな、あくまでも俺達は問題が解決するまで盗賊のフリをするだけだからな!!」


 俺の言葉に、男達は頷いた。



 状況が分かったので、とにかくまず、俺は臭いのを何とかしたかった。


「この辺りに湖から流れる川があるか?」


 俺の問いに、フィネスが答える。


「そこにあるでやんすよ」


 見ればすぐ傍に、湖から流れ出る川があった。


「…お前ら付いて来い」


 俺の言葉に、全員が川のほとりに集まる。


「今すぐ装備と下の服を全部脱げ!!」


 俺の言葉に、全員顔が『!?』になった。


「ちょっ、ちょっと待ってくれグランジ。何で今俺達が全裸になる必要があるんだ?」


 テジーの言葉に俺が答える。


「…お前ら良く聞け!!まずは身の回りを清潔にする事からだ。今日び盗賊やギャングだって清潔で健康でないとやってはいけねぇ。良いか?俺達ギャングの世界はなぁ、信用が第一なんだよ!!身なりの汚い奴は信用されねぇんだ!!」


 カッコ良く言い放った俺に、ヒュージが突っ込んだ。


「…アニキ…俺達はギャングじゃない…」

「正直どっちだっていいんだよ!!盗賊もギャングも似たようなモンだろ!!」


 今度はテジーが、俺の言葉に突っ込んだ。


「…いや、グランジ。盗賊とギャングはだいぶ違うぞ…?」


 俺はそれを無視したまま、続けて話す。


「とにかく、まずは身の周りから綺麗に清潔にしていかないと、大きな事には取り組めないんだよ!!どんな仕事だってそうだ、小さなことから。まずは雑用を丁寧に熟す所から始まるんだからな!!」


 いまいち、男達は納得がいかない様だったが、俺は構わず指示を出した。

まずはアウターの革装備だ。


 とにかく俺を含む全員が川に入って、装備を洗う。洗うと言っても川の水で流すだけなんだが…。


 次に装備の下に着ているインナーだ。白い布地の胸元が編み上げになっているロングのTシャツ。そして白いレギンスだ。


「…ガイ、今度フィネスを村にやってインナーの替えを三枚づつ持って来てくれ」


 俺の言葉に、ガイが頷く。


「解りました。各三枚づつ、フィネスに持って来て貰いましょう」

「フィネス、悪いが明日ガイの使いで村に戻ってインナーを三枚づつ取って来るんだ」

「ヘイッ、ガッテンでやんす!!」


 次に俺はヒュージに指示を出す。


「ヒュージ。後で、細目の木を伐採して物干しを作ってくれ。洗濯ものは全部そこに干すからな」

「解った、任せてくれ」


 続いてスネアとラスツに小屋の中のベッドシーツと掛け布団、それと腰巻に使える布を持ってくるように指示した。


 全員分の装備、インナー、ベッドシーツ、掛け布団を洗い、先に木材を伐採したヒュージが、木材を組んで簡素な三角の物干しを作る。


 洗濯ものを全て干した後、テジーのカイゼル髭以外の全員の髭を剃る。雑ではあるが伸びて汚い髪も短く切った。


 更に俺達は、川の中に入ると、全身をしっかりと川の水で綺麗に洗い流す。


 下流の人には申し訳ないが、このまま不潔なのは病気を誘発する可能性もある。何より潔癖気味の俺にはこのままの状態が許せなかった。


 全身を洗い、川から上がる。全員、フリ〇ンなままだとアレなので、スネアとラスツに持って来て貰った布を腰に巻く。 


 俺は空を見上げる。太陽の位置から、今が大体昼前である事が解かる。この陽射しなら夕方までには乾くだろう。


 次に、俺達は小屋に戻る。


「…カシラ、次は何をするんだ?」


 俺はスネアの問いに答えた。


「この小屋の中を綺麗に掃除する。全員良く聞け。まず窓を開けて小屋の中の空気を入れ替えろ。その後、小屋の中の家具類の上から埃を落として行け」

 

 俺の指示に、ヒュージが疑問を口にする。


「…アニキ、何で突然、掃除なんか始めるんだ?」


 ヒュージの疑問に答える。


「さっきも言ったが、普段から綺麗で清潔にしていないと信用されない。人間第一印象が大事だからな。その為には普段から住んでいる所を綺麗にしてないとダメさがバレバレになっちまうんだ」


 続けて俺はヒュージに言い聞かせる様に言う。


「掃除をすると気持ちが切り替わる。気持ちが切り替わると思考がクリアになるんだ。そうなると問題解決にも繋がる事もある。ついでに言うと掃除してると運が向いて来るんだよ」

「…うーん、そんな話、聞いた事ないけどなぁ…」

「まぁいいから黙って掃除しろ、ヒュージ」


 ヒュージは肩を竦めると仕方なしにと言った感じで掃除を始めた。掃除をしつつ、良く見ていくとボロ小屋ではあるが、手に負えない程ではない。

 

 箒があったのでそれで下に落とした埃を外に出す。


 一日かけて何とか、俺達は見れるように身体、装備、インナー、シーツと賭け布団、小屋を小奇麗にした。


 あの強烈な臭いも、何とか我慢出来る程度に抑える事が出来た。これから毎日、ルーティン化していけばかなり清潔な生活が出来るだろう。



 充実した一日を終えた俺達は、夕食に取り掛かる。スネアが罠で捕えた森の動物(ウサギっぽいヤツ)をヒュージが捌き、テジーが焼いていく。


 ガイとラスツ、フィネスは森の中で食べる事が出来る薬草やキノコ類を取って来た。

さすが森の村の元住人達だ。手際が良い。

 

 小屋の前でテジーが起こした焚火の上に、各材料を入れ込んだ簡素な鍋を掛けて煮込んでいく。


 調味料は無かったが、焼いた肉と甘い薬草や辛い草などと一緒に食べると、悪くはなかった。おかげで野性的な食事ではあったが、俺の空腹は満たされた。


 俺は皆を見回して、満足して頷く。


 ………。


 …ハッ!!しまったアァァ!!思わず一生懸命になり過ぎてのめり込んでしまった…。ま、まぁ、これは神様が来るまでだから…。


 そう自分に言い聞かせながら、小屋に入って行く。明日からの活動に備えて見張りを一人づつ交代で置いて俺達は眠った。


 俺は一番最後で、朝方の見張りだ。少し残った臭いを気にしながらも、何とか眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ