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4 ミス発覚

4 ミス発覚


 俺は男達に話を聞こうと、湖を背にしていた。しかし男達の顔は蒼褪め、何故か後ずさりをしている。


「…なんだ?お前らどうしたんだ…?」


 俺が尋ねると、男達は顔を蒼褪めさせて震える声で俺の後ろを指さす。その手も震えていた。


「…あ、アニキ…う、後ろだ…」

「…後ろ?後ろがどうかしたのか?俺はシ〇ラじゃねーぞ…?」

「…か、カシラ…何言ってるか分かんねーけど…とにかく後ろに…」


 後ろ後ろってド〇フのコントじゃあるまいし…。後ろに何があるってんだ…。そう思いながら、俺は振り返った。


「…アッ!!」


 その瞬間、俺は声を上げてしまった。


 目の前の湖面の上に、半透明の女が立っている。その顔を見た瞬間、俺はその女を思い出した。天界で転生手続きをしてくれた人だ。

 そして転生ボードでの、…あっ…という声…。


「…アンタ、俺が転生する時にいた人だよな…?」


 俺の呼び掛けに、目の前の女は苦笑いしつつ額をポリポリと搔いている。


「…あ、アニキ…幽霊と話しちゃダメだ!!あっちの世界に連れて行かれるぞ!!」


 俺は背後から聞こえる声を無視したまま、目の前にいる天使に、再び呼び掛ける。


「…黙ってないで何か言ってくれ!!アンタ、あの時にいた人だろ…?」

「…は、はい…」


 俺の強い口調に、(ようや)く返事をする湖面の女。


「…アンタ、これは一体どういう事なんだ?ちゃんと説明してくれるんだろうな…?」

「…ぁ、はい…。取り敢えず…怒らないで頂けると助かります…」

「…それは話の内容によるな…」


 湖に向かって半透明の女と喋る俺を見て、後ろの男達はひそひそと話している。


「…アニキ…女の幽霊と何を話してるんだ…?」

「この女の幽霊、カシラに憑り付く気じゃないか…?」


 後ろで話す男達の声が聞こえたが、今の俺はそれを気にしている場合ではなかった。俺は湖面の上に現れて、もじもじしている女に聞いた。


「…これ、絶対おかしいよな?ちゃんと転生出来てないだろ?アンタ、あの時一体何やらかしたんだ…?」


 目の前の赤面もじもじ女がぽつりぽつりと話し始めた。


「…まずはですね、転生パネルには幾つか機能がありまして…」

「いや、そんな説明は良いから!!単純に今の俺はどういう状況なんだ?」


 転生パネルの説明から始めようとした女の言葉を遮る。俺が知りたいのは今がどういう状況なのかの確認だ。


「…は、はいっ…夏目さんは本来、この王国の第一王子として誕生する予定だったのですが…。その…パネルの操作ミスで『憑依転生』ボタンを押してしまったんです…」


 『憑依転生?』なんだそれ?そんな転生、聞いた事ないぞ…。何でそんなモノがあるんだよ…。


「その憑依転生とやらの説明は後で聞くわ。簡単に言うと今の俺はこのズタボロの山賊か盗賊か分からんヤツに憑依させられているって事か…?」

「…そうです…」


 俺は更に疑問をぶつける。


「…なんで転生パネルに『憑依転生』(そんなモノ)があるんだよ?」

「…それはですね、近年、この星で昇華されない魂が増えていまして…。地上では低俗な魂を持った者が溢れていてですね…」


 そこで一呼吸間を置いて、話を続ける女。


「低俗な魂が地上に溢れ返ると、人々の心は荒み犯罪が増えてその生涯を全うした時、また魂が昇華されず、荒んだ世界への転生という悪循環になるのです。

 

 その解決の為に近年、天界で研究されているのが、『余りにもダメな人間に他人の魂を憑依させて、その人生を立て直す事によってお互いの魂の昇華を早める』


 …というものでして、これを実行するとその実行者の魂も高速で昇華するのです…」


 俺は、そこまで話した女の言葉を遮る。


「…一旦、話を整理するからちょっと待ってくれ…」


 そう言って、俺は自分の中で整理した今までの話を、確認して貰う。


「この星は昇華されない魂が多い。つまりレベルの低い魂が増えている。レベルの人い魂は碌なこと考えないから転生しても犯罪を繰り返す。そしてそんなヤツが溢れると世界がカオスになる。だからそれを止める為の、『新たな実験転生』という事で良いのか…?」

「…はい、その通りです…」


 俺は『憑依転生』がどういうモノなのかを大体、理解した。


「…で、それを踏まえて改めて質問する。何でそんな『実験段階の転生』が実行されたんだよ…」

「…実はですね、こちらの転生はまだまだ実験段階なので…。間違えてボタンを押さない様に『間違い防止カバー』が付いてたんですが…」

「…間違い防止カバーが付いてたのに、何でアンタは実験段階の憑依転生ボタンを押しちゃったワケ?」


 再び、女は湖面の上でもじもじしながら、恥ずかしそうに話す。


「…あの時、少し残業が長引いていましてですね…目が疲れたので眼鏡を外してパネルの上に置いたんです…」

「…で?」

「その時、袖の端が間違い防止カバーを引っ掛けていたらしく、開いちゃってたんです…。それで後ろの棚にある目薬を取り出そうと、コマの付いた椅子でそのまま滑って棚の所に行ったんですが、管制塔から転生準備が整った、と指示がありまして…。わたしは慌ててパネルの前に戻ろうとした所、何もない所で躓いてしまったんです…」


「………なんでw?」


「それでパネルに捕まったんです。管制塔から早く転生しろ、と催促が来たもので、わたし必死で立ち上がろうとパネルの上にある『ボタン』を掴んでしまったんです…」

「…あぁ、それで押してはいけないボタン押したんだな?」

「…はい…」


 項垂れる女。


「…それでアンタは天界ではどういう階級…と言うか役職なんだ?」

「…転生課に所属する役職なしの天使です…」

「ふーん、天使さんね。そのおっちょこちょいのドジ子天使さんがあり得ない奇跡みたいなミスしてくれちゃった訳ね…」

「…そうです…」

「アンタの直属の上司は、転生課の課長天使さん…?」

「…そうなんですが…今は他の星に出張してまして…」

「…じゃその上の役職者は誰?」

「…神様になります…」

「…ふむ、そうか。じゃあアンタは今すぐ神様と一緒に、その盛大なミスを謝りに早くここに来いッッ!!」

「…ひっ、ひいぃぃっ、わわわっ、わ、解りましたぁっ!!す、すぐ神様呼んでそちらに向かいますぅーっ!!」


 そう言うと、天使は慌てて湖面の上から消えた…。一時はどうなる事かと思ったが、これで何とかなるだろう…。


 俺は天使が神様を連れて来るまで、後ろで俺を見ていた男達に改めて話を聞く事にした。

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