24 虐殺。
ロキシアファミリーからの刺客、シャドーマン(仮)を返り討ちにした翌日。俺達はスネアの案内でグリッド盗賊団のアジトへと向かっていた。
いつもの月一の上納金とは別に、上位組織であるミニング盗賊団へ上納する為の金の催促が来ていたので、俺達は挨拶がてらグリッドに会いに森の中を西へと進んで行く。
「…グランジ、そろそろグリッドの砦に着くぞ…」
テジーに言われて俺は気を引き締める。街のギャングの方もそうだがこっちはこっちで根こそぎ金を毟り取ってやるつもりだ。
能力を使って叩き潰すだけじゃ、勿体ないからな。金になるモノを奪って徹底的に弱体化させ、確実に締め上げてやる。
俺が考えていると、前を歩いていたスネアが急に後ろに掌を見せて俺達を止める。
「…カシラ、テジーさん。何かヤバいです…。砦の中から血の臭いが流れて来てます…」
俺とテジーが顔を見合わせる。
「…グランジ、何かは分らんが警戒した方が良さそうだ…」
「…だな。テジーもスネアも気を付けろ。テジー、ミニング盗賊団傘下同士で抗争はあるのか?」
「…いや、そんな情報はないな…。何か別の不測の事態を考えた方が良いだろう…」
俺はテジーの言葉に頷く。三人背を向けてお互いの背後を守りつつ、周囲を警戒し、砦へと近づいて行く。
砦の門を見ると、見張りをしていたヤツらが二人、無数の裂傷と共に倒れていた…。まるで全身、カマイタチでやられたような傷痕だ。その見張りの男二人は全身から血を流して死んでいた。
…一体どうやったら全身にこんな傷が付くんだ…?
俺達は更に警戒しながら、門の中へと入る。
「…うっ…!?」
俺はその光景に思わず吐き気を催した。血の臭いが凄まじい。それもそのはず、砦の中にはグリッド盗賊団と思われる死体があちこちに転がっていた。
そのすべての死体に深い裂傷が無数にあり、血が溢れ返って地面を黒く染めていた。
…正に血の海だ。
「…これは…どうなってる!?何でこんな事に…」
思わず呟いた俺はテジーとスネアを見る。どうやら俺達が来る前に、グリッド盗賊団に何かあったようだ…。
俺がしゃがんで死体を調べていると、後ろからスネアが静かに声を掛けてきた。
「…カシラ、前から何者かが来ます…」
スネアの声と同時に、丸太を組み上げて作られた館?の扉が開く。顔を上げた俺が見たのはずんぐりとした体型で皮の装備を付けて腰に剣をぶら下げた目付きの悪い男だ。
「…グランジ、アレがグリッドだ…。あの様子だとただ事じゃなさそうだな…」
テジーに言われて改めてグリッドを見る。慌てた様に飛び出して来たグリッドの髪はバンダナが外れてボサボサに乱れていた。
装備もかなりの箇所が斬り込みを付けられ、血塗れで這う這うの体と言った感じだ。グリッドは俺達を見るなり、よろけながら助けを求めて来た。
「…ぁ、あぁッ…グランジッ!!た、頼むッ!!助けてくれッ!!」
死体の山に足を取られ、よろけながら歩いていたグリッドが突然、その動きを止めた。
「…ぁ、あ、あ…た、た、たす…け…」
その言葉を最後に、グリッドは全身をスパッと切られた様に血を噴き出す。輪切りにこそなってないが、螺旋状に深く切り込まれていた。
暫くして絶命したグリッドがその場にドサッと倒れた。他の死体と同じく全身から大量の血を流し地面を黒く染めて行く。
そしてグリッドが倒れたその向こう側に盗賊ではないヤツが一人、立っていた。
そいつは江戸時代の浅黄色の着物に草履を履いて、バスケットハットを被った細く鋭い目で色白の少年だった。
顔付を見る限り十代後半辺りだろう。その少年は江戸と大正が混ざったようなファッションで、手に赤い番傘を持っていた。
◇
「…あらら、まだ生き残りがいたのか。隠れていたのかな…?まあいいや。全員殺しちゃうと対象の居場所が分からないもんね」
少年は一人ブツブツ呟きつつ、俺達に近づいてくる。
「こんにちは。盗賊さん…いや山賊かな?アンタ達はスカベンジャー商会のグランジ・スクアード知ってるかな?」
どうやらコイツは俺を探していたようだ。俺達三人は視線を合わせる。俺は二人に下がる様に指示した後、大正ロマン少年に向かい合う。
「…あぁ、そいつなら知ってるけど?君はどうしてグランジを探してる?」
「いや~僕ね~、ダムドさんからその人、殺って来いッ!!て言われて来たんだけどね~…」
…やっぱりそうか…。コイツがロキシアファミリーが雇っている最後の刺客か…。
考える俺の前で、大正ロマンが説明を続ける。
「…僕ね~そうでなくても方向音痴なのにさ~、山の中だから余計に迷子になっちゃってね~(笑)。見付けたと思ってこの砦に入ったら皆怖い顔して襲ってくるんだもんな~。びっくりしちゃったよ。弱すぎてさ~(笑)」
「…そうか。それは大変だったな…」
俺はそう言いつつ、背負っていた箒を取り出す。
「…俺が案内してやっても良いけど…君、名前は…?」
「…あぁ、ありがとう!!僕は傘切 レイン。よろしく~。オジサン、名前は…?」
「…俺か?俺の名は…」
そう言いつつ、俺はゆっくりと箒を回す。
「…俺の名前は…グランジ。君が探しているグランジ・スクアードは俺だ!!」
「―!!―」
その瞬間、俺が箒で薙いだ突風がレインを襲う。しかし、すぐに番傘を開いて隠れるレイン。俺が放った強烈な突風は、レインをそのまま、数メートル後退させた。
その隙に俺はテジーとスネアに指示を出す。
「二人ともすぐに戻れ!!戻ってドジ子にここに来るように伝えてくれ!!まだ領都には向かってないはずだ!!お前らは危険だから来るなよ?良いな!?」
「…解かった。気を付けろよグランジ!!」
「…カシラ、これも使って下さい!!すぐに天使ドジ子様を呼んできます!!」
そう言ってスネアが麻痺玉の入った袋を差し出す。俺はそれを受け取ってすぐにレインに視線を戻した。レインは傘の向こうからひょっこり顔を出す。
「…ふむ。黒いボサボサの髪で瘦せぎす、褐色に日焼けした目付きの悪い箒を持った男…だったかな~。…ていうかアンタ、そのまんまじゃんっ(笑)!!」
レインは笑いつつ、傘を下げる。
「仲間を先に逃がしたのか~。まぁどっちにしろアンタを殺した後にお仲間さんも全員死んでもらうけどね~…」
そう言いつつ、レインは番傘を畳んで持ち手から何かを引っ張り出す様に引き抜いた。
「…さぁ、アンタには僕の能力が視えるかな~…」
俺は咄嗟に危険を感じて箒を回し、『ダストストリーム』を発動させた。俺の周りをに砂嵐が巻き起こる。
その瞬間、前側のダストストリームに何かが激しく斬り付ける。しかし砂嵐がレインの謎の攻撃を完全に弾いた。
「おーッ!!オジサン、便利な能力持ってんね~。じゃ、少し強度を上げてみようかな~」
そう言うと、レインの攻撃が俺のダストストリームを先程より激しく攻撃する。それは鞭を叩き付ける様な攻撃だ。
レインは最初にいた位置から少しも動いてはいない。だからどんな武器を使っているのか?どんなスキルなのかが全く分からなかった。
現時点で判っている事は、グリッドと男達が無数の裂傷によって切り刻まれて死んでいる事、レインが番傘の持ち手から何かを引き抜いて、離れた位置から俺を攻撃している、という事だ。
相手が使っている武器と能力が判らなければ俺には対処のしようがない。
…仕方ないドジ子が来てくれるまで待つか…。
しかし、そんな悠長な事を言っていられなくなってきた。レインの攻撃が俺のダストストリームを押し込んできたのだ。
「…オイオイ、マジかよ…?」
同時にダストストリームの威力も落ちてきている事に気が付いた。
…どうした?どうしてダストストリームが弱まって来てる…?このままだとマズイッ…。俺の唯一の防御スキルなんだ。それがレインの能力によって押し敗けたらアイツに勝てる気がしない…。
…どうするか…?
必死に考える俺の前で、レインが笑う。
「…そのスキル、便利だけど長くはもたないみたいだね…」
そうか。このスキルは持続時間が短いのか…。これだと次にスキルを発動させるまでの間に狙われてしまう。
そうこう考えている内に、完全にダストストリームが解除された。瞬間、レインの攻撃が俺を襲う。
しかしスキル解除前に退避行動に入っていたおかげで間一髪、横に転がって攻撃を躱した俺は、すぐにレインに向かって麻痺弾を投げ付ける。
「…うわっ…何これッ!!」
麻痺弾は武器を持っているレインの腕に命中した。そこを中心に麻痺剤が飛散していく。すぐにレインは着物の袖で口元を覆うと、そこからゆっくりと下がる。
「…オジサン、やるね…。こんなものまで持ってるなんて…。これは…麻痺効果か…なんか手が痺れて来た…」
その間に、俺は急いで砦の建物の陰に隠れる。
「…隠れても無駄だよ…」
そう言いつつ、再びレインが手に握った何かを振ると、俺が隠れていた建物の一部をスッと切って破壊する。
俺はすぐに転がってその攻撃を避けると箒で空間を掃いた。瞬間、突風がレインを襲う。しかしレインはすぐに腕をグルグル回すと、エネルギーの渦を創り出して突風をかき消してしまった。
…オイオイ、冗談だろ…。俺の攻撃を打ち消しやがった…。俺は更に建物の影に隠れると、箒を振り回す。
無数に発生させた俺の突風攻撃を、レインが打ち消していく。その間に、俺は残りの麻痺弾二個を用意した。俺の突風攻撃を全て打ち消したレインが再び俺の隠れる場所を攻撃してくる。しかし俺は既にそこから退避していた。
すっぱりと斬り落とした建物の一部に、俺がいない事に気が付いたレインが周辺を見渡す。
「…オジサン、どこに隠れても無駄だよ。僕の攻撃から逃れる事なんて出来ない…」
そう得意気に言い放った直後、上空からレインの頭に麻痺弾が炸裂した。
「…くそっ、何で上から麻痺の玉が降ってくるんだよぉっ…」
ゲホゲホと咳をしながら、口元を着物の袖で覆いブツブツ文句を言いつつ、エネルギーの渦を起こすレイン。
しかしその頭に、最後の麻痺が炸裂した。
「…グハッ、またかよっ…くそッ、やってくれるね~…」
その声に苛立ちが聞き取れる。レインを中心として麻痺効果が濛々と拡がっていく中、漸くドジ子が現れた。




