17 想定外
17 想定外
盗賊の身柄を引き渡して賞金を貰い、装備諸々を売った後、俺達は街の大衆食堂に向かった。装備屋を出る前に、店主の爺さんに昼飯が食える店を聞いたのだが、安いし、そこそこ美味いらしい。
大きな平屋の建物に入る。かなり大きい店だ。しかし時間的に昼を過ぎていたので、客はそう多くはなかった。まずはカウンターにいるおばちゃんに馬と荷馬車を表においても良いか聞いてみる。
「すぐそこの角に厩舎があるからそこに預けてきな」
と、おばちゃんに言われたので、まずは厩舎に向かう。厩舎に馬と荷馬車を預けて、改めて食堂に向かった。全員、テーブル席に着いてメニュー表を見る。
大衆食堂で、各メニューの金額を見ると、地球より少し安いくらいでほぼ変わらなかった。
良いね。あんまりレートが違い過ぎると、慣れるまで時間が掛かるからな…。俺は焼き飯の様な物を注文したが、味も悪くはない。と言うか普通に美味かった。
いつも山の中で、ワイルド定食しか食ってないので、まともな食事は久しぶりだ。
「…アニキ…ビール飲んでも良いかな…?」
ヒュージの言葉に、俺は少し考えていたが、テジーから待ったが掛かった。
「帰りの道中もあるし、まだ荷車に大量の水を積んでいるからな…。酒を呑むのは帰ってからにした方がいいだろう」
テジーの言い分は最もだな。他のメンツも飲みたかったようだが、ここは少し我慢して貰う事にした。その代わり、各人の好きな酒、ビール。ワインなどを多めに買って帰るという事になった。
酒の話も落ち着いたので、俺達は荷台に乗せた樽の中の水をどうするかを話し合う。このまま持って帰っても荷物になるだけなので俺としては売りたい所だ。地球でも水、売ってるし…。
「あの水の事なんだが、俺はこの街で売ろうかと思ってるんだが…」
俺の言葉に、皆一様に懐疑的な表情だ。
「…グランジ、あれはただの水だぞ?水が売れるのか?」
テジーの言葉に、皆うんうんと頷く。
「お前ら、ここの食堂の水、飲んだか?」
「…あぁ、飲んだけど…それがどうしたんだ、アニキ?」
…フッ、コイツら、解ってねーな。毎日、小屋で俺達が飲んでいる水だ。身体に悪いという事はないだろう。
地球にも天然ミネラルウォーターがある。
「…よく思い出してみろ?毎朝飲んでる湖の水をな…。それから次にそこのグラスに入ってる食堂の水、飲んでみろ?」
全員が半信半疑で、グラスの水を飲む。
「…確かに。違う気はするよな…」
テジーの言葉に皆、頷く。
「…カシラ、ただの水をどう売ります?」
スネアの言葉に、ラスツが提案する。
「キャッチコピーがあった方が良いでしょうね。売りになるコピーですが『森の天然水』とか『山の泉の美味しい水』とかですかね」
「おっ、それいいな。それでいこう!!取り敢えず初回だし、お試しの格安で売ってみるか」
俺の言葉に、全員頷いた。
お昼を食べ終えた俺達は、おばちゃんに酒を持ち帰りで欲しいと頼んで七人分大きい徳利に入れて貰う。
ビールやらワインは、酒屋に行けば高いが売っているとの事だ。情報を貰って俺達は食堂を出る。
酒屋に寄ってからビールとワインも何本か買った後、厩舎に行って馬と荷馬車を引き取り、俺達は街の広場へと向かった。
◇
街の広場で俺達は樽の水を『山の泉のおいしい水』として売り始めた。木製のコップ一杯で十ゼニーに設定する。
街の広場なのでかなりの人がいる。しかし興味を持って集まってくるものの、わざわざ水を買うという事に、手が出ないようだ。
そこで俺は、試飲させてみる事にした。
「ただなら、飲んでみても良いよ」
そう言ってきたのは、街のおばちゃんだ。木製のコップに一杯、注いでやる。山の水を飲んだおばちゃんは暫く、ワインを試飲するかのように口の中に水を含み、舌で水をティスティングしている。
しばらく無言で水を味わってみるおばちゃん。その様子を街の皆が固唾を飲んで見守っていた。
「…これは…街の水とは違うね。なんと言うか…浄水した水と違って自然の湧き水って感じで余計なものが混ざってない気がするよ…」
そのおばちゃんの感想に、集まった皆が並び始めた。
予想以上の反響で、樽一杯だった水は全部なくなってしまった。一度飲んだ住民の中には、家から瓶や水筒を持って再び並ぶ者もいた。
安いのもあったが不純物のない山の水源の水なので、下流の水しか飲んだことのない街の住民達は本当に美味しい水だと驚いていた。
◇
なんとか荷物だった水を売って小銭稼ぎも出来たので、山の小屋まで戻る事になった。大量の水がなくなった事で馬車が軽くなったので、荷馬車のスペースが空いた。
「グランジ、このまま手ぶらで帰るよりバズリンで色々買ってフォレス村で売ろう。その方が商会らしい活動になるしな…」
テジーの提案に乗る事にした。
「何を買って行けばいい?」
俺の質問に、テジーとフィネスが答えてくれた。
「日用品とかだな。あそこは木材伐採で生計を立てている人が多い。東へ行けば領都もあるが物価が高いからな。ここで買って持って行けばそこそこ売れると思う…」
「そうでやんすね。酒、お菓子、米辺りは結構売れるでやんすよ」
二人の意見を聞いて、小屋に戻る前に街で買い物をしてから、フォレス村で日用品等などを売る事になった。そこで俺達は街を廻り、改めて酒類、調味料、米やらパンお菓子などを買い込んでバズリンの街を後にした。
◇
暫く馬車に揺られ、俺達は街道を東へと進む。俺は御者をするガイの後ろに座ってうとうとしていた。 昼飯を食ってお腹が満たされたのでかなり眠い。暫くうとうとしていたが、ガイの声で目が覚めた。
馬車は徐々にスピードを緩めている。
「…グランジさん、どうします…?盗賊の一団が前を塞いでいます…」
どうやらアンビーとは別の一団の様だ。ヤツらに接触する前に、ガイからの報告で俺は目を覚ました。数十メートル先を見ると、ニヤニヤと笑いながら、如何にもと言った感じで待ち構えていた。
どうするか…俺はすぐに考えを巡らせる。
「…ガイ、すぐに御者を俺と変わってくれ…」
無言で頷くガイが俺と入れ替わり後ろに座る。馬車の後部で同じくうとうとしていた皆に俺はすぐに指示を出した。
「お前ら、今すぐ全員馬車から下りて草むらの中に身を隠せ!!俺がアイツらを無力化してくる!!」
突然の俺の指示に、全員ゆっくり進む馬車から降りてすぐに身を隠す。
それを確認した俺は鞭で思いっ切り、馬の尻を叩いた。数十メートル先にいたヤツら目掛けどんどん鞭を入れて馬を走らせる。
「…ぉっ、オイッ、そこの馬車ッ!!止まれッ!!」
最初は余裕の笑みを浮かべて待ち構えていたヤツらも、スピードを上げて突っ込んでくる馬車に焦りを見せ始めた。
「オイッ!!止まれッ!!止まらねぇとオマエッ、どうなるか解ってんのかァ!!」
そんなの知るかッ!!俺はヤツらが威嚇して叫ぶのも構わず馬に鞭を入れて走らせる。
「…クッ、コイツッ…!!」
一切止まる気のない馬車に、ヤツらは慌てて両側に散って避けた。俺は手綱を緩めて、馬の速度を徐々に緩めていく。暫く進んでから馬車を停めた。
…チッ、避けやがったか…。
俺が馬車から降りると、ヤツらは走って追い掛けてきた。
「オイッ、テメェッ!!どういうつもりだッ!!止まれって言ってたのに何で止まらねぇんだッ!!俺達を轢き殺す気かッ!!」
開口一番、お得意の威嚇から始まる。
バカの癖に良く解ってんじゃねーか。あのまま轢き殺してやろうと思ったんだが…。そもそも止まれって言われて律儀に止まるヤツがいるからコイツらが調子に乗るんだよ…。
リーダーらしきヤツが俺に剣を突き付ける。俺はふわぁぁぁっ、とあくびをしながら答えた。
「…あぁ、すいませんね…。何もない街道なもので…退屈で居眠りをしてしまいましてねぇ…見えていませんでしたよ…」
「居眠りかよ?気を付けろッ!!危うく俺達が轢かれる所だったじゃねぇかよッ!!」
顔真っ赤にしてイキリやがって、うるせぇヤツだな…。こっちは轢き殺すつもりだったんだよ!!このボケがッ!!
…などとは言わない。
「オメェ、見ねぇ顔だな?どうやら俺達が何者か知らねぇようだな?」
「…わたし達は新規参入した商会のモノでして…お宅様がどちら様かは解かりかねますね…」
「チッ、見りゃ解かんだろうがッ!!俺達は盗賊団だ。よく覚えとけ!!」
「…へぇ、さようでございましたか…」
「…しかし、この時間帯に新規の商会が通るなんて聞いてねぇぞ?しかもアンビーのヤツらどこで遊んでんのかどこにもいねぇし…」
ああ、そいつらなら今頃、監獄で遊んでるけどなw
「…オメェら何やってる商会だ?荷は何運んでる?」
「日用品、香辛料、菓子、米、酒などを運んでいますよ。その傍ら、別の仕事も請け負っていますがね…」
「…ほぅ、そりゃ良いな。その積み荷は全部、俺達が貰ってやる。次回からは少し残してやるからよォ…大人しくしてろよ?」
俺の腰が低いのを良い事に、ヤツらは笑いながらさも当然のことのように言う。
「これから長ーい付き合いになるからよォ、俺たちの事をよく覚えとくんだな」
いいや。これからお前らが長ーい付き合いをするのは俺達じゃなくて、看守の方だよ。さて、そろそろ絶頂からどん底まで突き落としてやるか…。
「…オイお前ッ、他に仕事を請け負ってるって言ったな?他に何をやってる?商会名を教えろ!!」
「へぃ…」
男の言葉に返事をしつつ、俺は背中に背負っていた箒を取り出す。
「…わたしは『スカベンジャー商会』の商会主でしてね…。貴族屋敷の清掃から…屑の様な人間を片付けるのを生業としているんですよ…」
俺は箒で空間を掃く。
「…特にお前らみたいなどうしようもない屑をな!!」
完全に口調が変わった俺の言葉に、男達の表情からサッと笑みが消えて強張る。
「テメェッ!!何言ってやがっ…ァッ、ァグッ…!!」
その瞬間、ヤツら全員の肺の中から一気に空気が出ていく。ヤツらは酸欠を起こして倒れ、暫く全身を痙攣させた後、、気絶した。
今回、俺は巨大イノシシの時とは逆の事をやってみた。高濃度酸素を送り込むのではなく、ヤツらの肺の中の空気を全て外の空間に掃き集めた。
結果、ヤツらは全員、俺の目の前で転がっていた。
◇
「グランジ、やったな!!」
「一人で全員、無力化するなんてさすがだな、アニキ!!」
隠れていたテジー達が集まる。
俺達は、アンビーの時と同じく、コイツらの身ぐるみ剥がしていく。その後、目隠しをして、猿轡を噛ませて荒縄で縛り上げた。
フィネスによるとコイツらもアンビーと同じくグリッド盗賊団らしい。俺に剣を突き付けていたリーダーはメキシスという幹部だそうだ。
メキシスは他のヤツらの稼ぎからおこぼれを貰って楽して金を集める姑息なヤツらしい。恐らく今回、アンビー達に協力する振りをして、少し分け前を貰おうとしていたのだろうとフィネスが言う。
ハイエナみたいなヤツだな…。
俺達は身ぐるみ剥いだ装備諸々を馬車に乗せていく。フォレス村へ売りに行く物資があっても充分、空きスペースはある。
メキシス達五人は、目隠しと猿轡を噛ませて荒縄で縛り上げる。そして馬車の後ろに括りつけて引き摺りつつ、再び俺達はフォレス村へと向かった。




