10 始動
10 始動
夜が明けて、男達が起きて小屋から出て来た。今は午前6時頃だろうか。季節は夏っぽいので、夜が明けるのが早いようだ。
「…おはよう、アニキ…」
「カシラ、おはようございます」
「あぁ、おはよう。昨日は騒いで悪かったな…」
男達に謝りつつ、俺は早速、今日から始める事について話す。
「お前ら、起きたらまずは顔を洗え。その後、小屋の中を軽く掃除だ。それから、身体を解す為にストレッチをするからな…。その後、朝食の準備だ。良いな?」
「あぁ、解った、アニキ。テジーから聞いたけど砦の増築はいつからやるんだ?」
「それは、朝メシ食いながら話す。まずは身だしなみから整えろ」
男達は湖の下、川の傍に行くと、顔を洗い戻ってくる。俺は男達を前に、ストレッチを教える。
「普段から、身体を動かす前に筋肉を良く伸ばしておけ。身体が硬いと怪我する元だからな…」
男達は黙って、俺の動きを真似て身体を伸ばす。基本的なストレッチを終えると次は、朝食の準備だ。
ヒュージ、スネア、ラスツの3人は、昨日中にスネアが森に仕掛けていた罠を見て周る。俺はテジーとガイに火起こしを任せて、食べられそうなキノコや野草を探した。
昨日、夕食の時に皆が採集して来た物を、俺は見て覚えていた。とにかく見た覚えがあるものを採っていく。
それとは別に、明らかにヤバそうな色をしたキノコ、腹を下しそうな植物も採集した。色々な用途で使えそうだしな。特に麻痺や錯乱、幻覚を引き起こすようなものがあれば良い。
とにかくひたすら採集して帰ると、もう調理の準備を始めていた。俺はスープに入れるキノコと野草を渡す。
豪快にざく切りしたガイが、沸いた湯の中に食材を放り込む。その後、罠に掛かっていた動物を解体したスネアが、肉を細切れにしてスープの中に入れる。
串に刺して焼いていた肉と、スープの中に味付け用の葉を刻んで掛ける。
程なくして朝食が出来上がった。
朝から結構な食事だ。干し肉とかジャーキーみたいなのより格段に良い。ただ、何の肉かは敢えて聞かなかった…。
◇
皆で朝飯を食いながら、小屋の増築について話す。このままのボロイ小屋だと格好も付かないが、盗賊団と敵対した時に対抗出来ない。
ここは村を護る為の前衛基地みたいなものだからな…。
「この小屋を中心にして砦として増築したいんだが、まずはこのボロ小屋の補強が先だ。支柱になっている部分を残して全て板を剥がす。その後、板を新しく張り変えて外側に補強材として角材を積み重ねていけ…」
男達は俺の言葉をふむふむと聞いている。
「フィネス、テジーから聞いたと思うが、お前は皆が増築している間に、グリッド盗賊団の情報を集めろ。行動人数、森を通過するルート、どこの街道で盗賊行為をしてるのか…その辺りを探ってくれ」
「へい、解りやした。今日から早速始めます」
「いや待て、まずガイの使いで村に行って上下インナー三枚づつ貰ってこい。その後から情報集めに行け。帰ってきたら毎日、報告だ。良いな?」
「へいッ!!」
女風呂の覗きをして見つかる様なヤツに情報探らせるのもどうかと思うが、試しにやって貰おう。
「ヒュージ、小屋の補強用の木材を伐採してくれ。後からどこに何本使うかは指示する」
「解った。任せてくれ」
「ヒュージが伐採した木は残り全員で運ぶからな。朝メシが終わったら開始だ」
俺の言葉に男達は頷いた。
朝食を終えた後、軽く口の中を水ですすぐと、まず小屋をぐるっと周って木材の必要数を確認する。
次にフィネス以外は山の奥へと入り、木材が取れそうな木を探す。
「ヒュージ、この辺りにケヤキとかヒノキはあるか?」
「あぁ、ケヤキもヒノキもこの辺りだと結構あるよ。どっちも耐久性は良いね」
俺もそれは知ってる。CSのテレビ番組で製材して小屋作ってるのを見たことあるからな…。
「よし、ヒノキで行こう。とにかくヒノキを伐採してくれ」
「あぁ、解った。皆はちょっと離れててくれ」
そう言うとヒュージは持って来た巨大な斧を背中の荷物入れの袋から取り出す。そして腰を入れて構えると、豪快にスイングする。
ガッ、ガッ、と斧を入れていくヒュージ。なんと二回程で一本、切り倒した。
ヒュージが切り倒した木の枝を、俺達が鉈を使って切って落とし、丸太にしていく。
それを繰り返し、数十本の丸太を作った。それを皆で運び、小屋の傍に積んでいく。続いて、鉋、鋸を使って丸太を製材し、板と角材を作っていく。
この作業が中々、労力のいる仕事だ。しかしこれからの事を考えると、手を抜かずにきちんと強固な砦を作らないと、俺達の身が危ない。
取り敢えず一日では終わらないので、とにかく補強材、板、角材と材料を先に揃えていく予定だ。
昼で一旦作業を止めて、昼からはこの辺りの地形と街や村へ行くルート、その他、縄張りの境界などを聞いておいた。
◇
俺達のいる小屋は元々、村の猟師が使っていたものだそうだ。
猟師たちは山の森の中に罠を仕掛け、動物達を捕まえると、皮と肉、内臓や分泌物などに取り分けて皮は売り、肉は食料として活用するそうだ。
日を跨いで猟が出来るように、この小屋を建てたそうだ。大黒柱や支柱、梁などはしっかりしていて修理などの必要はない。
しかし、数年ほど前から盗賊団の勢力が増えた為に、襲われる危険性を感じて使わなくなったそうだ。今では村の猟師達は、村の周辺でしか猟が出来ない状況だった。
俺達がいる小屋から東へ行くとリフレ村がある。逆に西に進むと、グリッド盗賊団の縄張りに入り、拠点がある。
小屋も村も、標高500メートル程の山の中腹にあり、村から東は、森林が鬱蒼と茂っている無人エリアの様だ。
村から山を下りて森を抜けると、街へと続く東西の街道がある。街道を東に行くと、フォレス村があり西へ行くとバズリンと言う街に出る。
問題は盗賊団の勢力が、山や森の中に拡がってきた為に、リフレ村からの毛皮と木材、フォレス村からの木材と鉱石などの交易での帰り道に襲われるケースが増えてきたという事だ。
全く、賊というヤツらは働きもせずに、人の上前跳ねようなんて太ぇ野郎共だ…。周辺状況などを聞いた後、俺達は昼食にした。昼飯を食いながら、俺は考えていた。
少しづづ、片っ端から潰してやる…。
しかし、そう考えているものの、俺が持っているスキルは『掃除』だけだ…。魔法も使えないし、強力な範囲攻撃もない。
期待できるのはスネアの罠を設置する技術と、テジーの戦略・戦術だろう。ラスツは交渉をやって貰い、フィネスは情報集めが出来る。
ヒュージは力があるから斧振り回せばそこら辺りの賊なんて一蹴できる。ガイは衣装などで変装アイテムを用意できる。
自分に問いかける。俺は何が出来る?グランジの建築の技術の記憶でも引き出せれば砦づくりに役に立てるだろう。
しかし今は俺の人格が入っている状態だ。グランジ本人の意識は眠っているのかどうなのか解らない…。
大口叩いても、役に立たないのは俺だけか…?
昼食の肉を食いながら視線を落とし、自虐の溜息を付く。しかし、地面に転がっている石ころを見て、俺はハッとした。
転がっているのはゴルフボールサイズの石だ。
…石、投げ付けてやるか…w?
俺は小学から高校まで野球をやっていた。ずっとピッチャーをやってたんだ。流石にエースで四番などという二刀流は出来なかったが、ピッチャーだけはずっと続けてた…。
夏の地方予選大会二回戦で負けたけど…。
俺は自分の掌を見る。グランジはゴツイ筋肉質ではなかったが、建築現場で鍛えていたせいか引き締まった筋肉を持っていた。
物は試しだ。やってみる価値はある。俺は早速、午後から石投げをやってみる事にした。
◇
午後からも二時間ほど、製材して板と角材にしていく。二時間ほどで切り上げ、後は自由時間として夕食まで過ごして貰った。
俺は作った角材と板でプラカードの様な的を作る。その後、小屋の周辺を歩いて回り、大小色々な石を拾った。
まずは的から18メートル程離れて立つ。ピッチャーマウンドからホームベースまでの距離が大体それくらいだったはず…。
俺はまず、クイックモーションで投げてみる。勢い良く投げた石は的に当たらなかった…。
的を掠めただけだ。うーん、投球なんて何年振りだろうか?まだまだ俺の記憶がグランジの身体とリンクしてないのかもしれんな…。
取り敢えず、俺は何度も投げてみる。3回ほど投げると、何とか的に当たるようになってきた。男達が集まって、石を何度も投げる俺を見ている。
「アニキ、さっきから何やってんだ?」
「あぁ、遠くから投擲で有効な攻撃が出来るか試してるんだよ」
「グランジ、お前コントロールかなり良いな?それ、いけるんじゃないか?」
テジーの言葉に、スネアとラスツ、ガイも頷く。
「カシラの投げた石、ほぼ命中してますからね。これがリンゴくらいの石だったら当てられたヤツはたぶん頭から流血してますよ…」
スネアの言葉に、俺は石を投げつつ話した。
「確実に一発で仕留めたいからな。動きを止めるにしても気絶させるにしても目指す所は一発必中だ」
男達は俺の石投げを飽きる事無く、夕食の時間まで見ていた。的に当てる度に、拍手が起こる。なんか恥ずかしくなってきたが、ほぼ石は的に当たるようになってきた。明日からは重さを変えて練習してみるか。
俺は石投げ練習を終えると、男達と夕食の準備を始めた。その頃になると情報集めに出ていたフィネスも戻って来た。




