春 その七
が、油断は禁物。事故と言う魔物は、安心しきったときにぬっとあらわれる。
走りやすくなった2車線区間を、安全に気を付けて走る。
まだ花冷えも残るが、周囲の景色はすっかり春めいて。朗らかさが空気中ににじんでいるように見えた。
家屋も人も車も、一気に増えてくる。それまで走ってきた酷道区間とつながっているなどにわかに信じられない感じだ。
集落から町へ、町から街へ、街から都市へ。という変化の中を、車を走らせる。
隣県の県庁所在地に入った。
そのまま、標識にしたがって、高速道路に乗って。帰路につき。パーキングエリアで、雑貨屋で買い求めたリンゴジュースを飲み、アンパンとジャムパンを食って、休憩し、自動販売機でペットボトルの飲料水を買い求めて。
再スタートで、一気に自宅まで突っ走った。高く昇っていた太陽が紅くなって沈んでゆこうとする。
こうして、今日のドライブは終わり。
夕食後の夜食に、心地よい疲れにひたりながら、エビせんべいをたいらげた。
翌週、先週と違う県道のルートで都柱峠を下りきった、学校のある集落にオレはいて。
自動販売機で缶コーヒーを買って、一服して。ミライースで走り出す。国道四百何十号に入り、しばらく走れば。
墜合峠と県道を示す標識がある。
オレは標識にしたがい、県道に入る。ここも狭いくねくねの県道だった。県道の場合は、険道と呼ぶ。この呼称はあまり広がらず、マニア用語になったようだ。
県道、もとい険道のくねくね道の上り坂を上る。対向車ももちろんある。地元の人の車や、猫印の宅急便の軽バンと、何度かすれ違う。
最初こそ民家があり、森林区間を走ったが。やがて人気がなくなり、木も背が低くなり、岩山のごつごつさが目立つようになった。それにともない、落石も多い。
道の真ん中にそこそこに大きい石が転がっていたりしている。
「こういう道はドノーマル万歳だな」
カスタムをしてサスを固めたり車高を下げたりとかしたら、この道は走れない。かといって本格四駆までは求めない、ライトドライバーなオレ。
ミライースで行けるところまでで十分なオレ。
幸い跨げる程度の大きさなので、落石をまたいでゆく。
さっと、何かが動いた。
「カモシカだ」
体毛に覆われて、角の生えた、ニホンカモシカが左手の山を下って目の前に現れた。車を見て驚いて逃げてゆくが、よほど慌てたのか道をひた走る。が、いかに俊敏でも生身の動物、ミライースでも十分に追いつける。が、もちろん野生動物を煽る真似はしない。