春 その五
オレは駐車場にミライースを停めて。食堂でそばをいただくことにした。
そばをすすり、お汁もいただく。温かい。まだ寒さの残る今の時期に、五臓六腑に温かさが沁みる。
ごちそうさまでしたと、食堂を出て、ミライースに戻り。エンジンをかけて、発進させる。
駐車場を出てすぐの短いトンネルを抜ける。抜けて、待避所にミライースを停めて、外に出る。
眼下に広がる山々の風景。まるで空を飛んでいるような錯覚も覚える。
「あー、このために走ったなあ」
ここらへんは、標高が高いとはいえ、見晴らしがいいところは限られていて。ここが一番見晴らしがいい場所だった。
トンネルは東西に走り。集落や神社にお寺のある西側は、木々や草花が生い茂ってその中に迷い込んだように思えたりするが。東側は、岩盤がむき出しで、木や草花もあるが、うってかわってごつごつした印象を受けるし。
ここで生活をするのは、不可能だろうと思われた。
この、景色の変化も、こんな酷道を走る面白みだった。
デジカメで、青い空や波打つ山々の風景を撮り。しばらく眺めて。ミライースに乗り込んで。
延々と続く、くねくねの下り坂を下ってゆく。崖に張り付いたようなくねくね道だった。
ところどころに落石もある。拳大の石がごろごろ転がっている。それ以上に大きな石が1車線から1.5車線の狭い道の真ん中に落ちていることもある。そんな時は、車を停め、石を道端に寄せることもあった。
刀山は観光地でもあるので、標高が高く交通の便が悪いとはいえ、けっこう通行量がある。多くの人々が、難所を乗り越え、刀山に集うのだ。
オレもまたその中のひとりだった。
岩盤を切り抜いた切り通しもある。
崖側の岩盤はぶっきらぼうにノミで削ったような、先の鋭い多角の角錐の様相を呈している。そこに背の高い松の木が、岩盤に張り付くようにして生えている、奇観を見せてくれる。
そこを抜け下ってゆく。
下るにつれ、沢も姿を現す。ところどころから水が集まり、沢をなし、滝をなし、川をなす。道の下には口径の大きめのパイプがあり、水は底を抜けて流れてゆく。
その中のひとつの沢というか小さな滝は、位置のよさから常に虹もなしていた。オレはこの小さな滝を、虹の滝と呼んでいた。
車を停め、その滝を覗く。日当たりの良い場所にあり、落ちる水の中に虹が見える。それをデジカメで撮り、車に戻る。
しばらく下れば、森林区間に入る。道には落ち葉や木の枝が落ちている。大きめの木の枝が道の真ん中に落ちている場合もある。