春 その三
標高が1000メートル近くなってきた。
標高が高まるにつれ、背の高い木も少なくなってきて、クマザサが目立つようになってくる。
くねくねくねくね、カーブを曲がってゆき。上り坂がゆるくなってくきて。
フラットになった。
それとともに、視界をさえぎるものがなくなり。360度のパノラマ風景が広がる。
丁度オレが道を譲ったバイクが発進して、向こうの下り坂を降りてゆくところだった。
そこは、都柱峠という峠区間だった。標高は1000メートルとすこしを超え。ここがこの区間で一番高いところで、ここから下り坂になる。
オレは車を停めた。
日曜日にしては珍しく、ほかの車がない。
デジカメで思い思いにパノラマ風景を撮る。
方角にして、道は南北に走り、東西に山々が波のようなうねりを見せる山地の様を見せてくれる。
「う、さむ」
やはりまだ肌寒く。オレはすぐに車に戻った。こんなんでバイクで走ろうというバイカーは、ほんとえらいと思った。
車を東に向ける。東にはひときわ高い山がそびえているのが見える。刀山という、オレの暮らす地方で二番目に高い山だ。今日の目的はその刀山越えだった。
東の山々を眺めながら、見物用にとっていた缶コーヒーをすすり。ひと時の休憩。
かつてここには、猪肉うどんやおにぎりを食わしてくれる簡易食堂があって、オレも何度かごちそうになったんだけど。ご主人の年齢の都合で閉店した。
地元の新聞でその記事を読んで。
「お疲れさまでした。ごちそうさまでした」
と、心の中でお辞儀をした。
缶コーヒーを飲み終えて、用意していたビニール袋の中に入れて。ミライースを発進させる。
ここは峠の最高峰であると同時に、県境でもあり、ここから隣の県に入る。
おれはとことことミライースで下り坂を下る。やはりくねくね曲がりくねった酷道の連続カーブ。
ハンドルを右に左に切りながら、心地よい緊張感を楽しんだ。
下り坂を下り切れば、そこに集落があり、学校もあり、自動販売機と公衆トイレもあり。自販機で缶コーヒーを買い足し。トイレで用を足し。
刀山へと続く酷道四百何十号を走り続けた。ここからしばらくは上がったり下がったりだ。
長い酷道ではあるけれども、ところどころ、2車線化工事がなされていて。走り始めのころより、ずいぶんと走りやすくなっていた。
が、一抹の寂しさも覚えてしまう。
酷道が整備されることに一抹の寂しさをおぼえるのは、よそ者の身勝手というもので、厳に戒めるべきことなんだけど……。