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第5話 求婚されました

 その後、立食形式のパーティーが始まった。給仕の人から料理を取り分けてもらい、メリーナと一緒に食べ始める。


「おいしい!」


 私は感動して思わず声を上げる。


「よかったね。たくさんあるから好きなだけ食べるといいよ」

「はい。あ、あの……メリーナさんはこういう場にはよく来るんですか?」

「うん。貴族の子たちはだいたいそうかな。あたしも仲のいい友達や付き合いのある人に呼ばれたら行くし」

「そうなんだ……。貴族って、綺麗で華やかで……いいですね」


 私がポツリと言うと、メリーナが意外そうな顔をする。


「ん? どうして?」

「だって……平民とは住む世界が違うっていうか……同じ人間とは思えないくらいキラキラしていて……」

「あたしにはこういうのが普通だったからよく分からないけれど、確かに平民出身のフィーネさんが言うならそうなんだろうね」

「……」


 私は無言で俯いた。


「フィーネさんは……生まれた時から貴族の方がよかったと思う?」

「それは……」


 正直なところ、アイリーンのように私を見下してくる人がいる以上、貴族の娘として生まれていれば……という気持ちがないわけではなかった。

 でも、このパーティーに対する感動は、間違いなく私が平民生まれだからこそ味わえるものだということも分かる。


「……いえ。私は今の自分が好きですよ」

「そっか。うんうん、それでいいよ」


 メリーナはにっこりと笑うと、グラスを傾けた。

 それからしばらくメリーナと話していると、ルイスがやってきた。


「楽しんでいるかい?」

「はい!」

「それは良かった。フィーネさんに1つ話があるんだけどいいかな?」

「なんですか?」

「あっ、あたしも1つ話というかお願いごとがあってね……」


 ルイスの言葉に首を傾げる私を見て、メリーナも苦笑しながら言う。


「なんでしょう? お二人にはたくさんお世話になっているので、私にできることならなんでもします!」


 私の返事を聞いた2人はニヤリと意味深な笑みを浮かべた。

 メリーナは腕を背中の後ろで組みながら、身体をわざとらしくくねくねとさせてみせる。


「ほんとに〜? でも悪いなぁ、こんなことをフィーネさんに頼むのは……」

「言ってみてください。私、メリーナさんの役にたちたいです」

「……そう? じゃあ遠慮なく。実はあたしの家ってさ、伯爵家だからあまり発言力なくて……だからフィーネさん、あたしのお父さんとフェルグラント公爵の間を取り持ってくれないかな? 公爵家がバックについてくれるなら、お父さんももっと国のために働けると思うの」

「間を取り持つ?」

「うん。ほら、貴族ってやっぱり家柄とか血筋を重視するでしょ? だから、あたしのお父さんは公爵とのの仲が上手くいくようにしたいみたいで。それの手伝いをして欲しいの」

「えっと……つまり、メリーナさんのお家と、私の公爵家との間に婚約関係を結びたいと……?」

「ま、まあぶっちゃけるとそうなるね。あたしが公爵家に嫁いでもいいし……」

「……」


 私はメリーナの話を聞いて、ルイスの方を見た。すると彼は苦笑いしながら頬を掻いている。まるで、自分で考えろとでも言いたげだった。


「……フィーネさん、そんな顔しないで。あたしにとっては切実な問題なの。あたしと伯爵家の未来がかかっているんだから」

「で、でも……! そんな大事なこと、平民上がりの私が決めるわけにはいかないですよっ」

「そこを上手くさ……養女なんだからフェルグラント公爵にお願いしてくれない?」

「あ、あはは……」


 私は困惑した。

 メリーナの役に立ちたいというのは本心だったけれど、今まで顔もまともに見たことのないようなフェルグラント公爵にそんなお願いをするなんて、無理に決まっている。しかし、ここで断ればメリーナの立場が悪くなるかもしれない……。どうすればいいんだろう。


「メリーナさん、私……」

「あたし、フィーネさんのこと散々助けてあげて、色々面倒見てあげたのに、フィーネさんはあたしのお願いをきいてくれないのね……悲しいわ。よよよ……」

「……!?」


 メリーナは目に涙を浮かべると、わざとらしい口調で泣き真似を始めた。


(うぅっ……卑怯だよぉ……。メリーナさんを泣かせたくはないけど……)


 私が迷っていると、ルイスが口を開いた。


「まあ、メリーナの頼みはひとまず置いておいて……僕のお願いは簡単だよ。それに一つだけ。これならフィーネさんも喜んで受けてくれるはず」

「なんですか?」

「僕と結婚しよう」

「……へ?」


 私はぽかんとした表情で固まる。


「貴族の男性が女性にドレスを贈る意味を知っているかい? それは、『このドレスを着て欲しい』というメッセージ。──つまり、求婚の意味があるんだ。……僕はフィーネさんが好きだし、結婚できるなら嬉しいよ。だから、フィーネさんが嫌じゃないなら結婚しよう?」

「え、あの……?」


 私は混乱していた。

 ルイスが冗談で言っているのか、それとも本気で言っているのか分からないのだ。


「ふーん。ルイス、やるじゃん」


 メリーナが嘘泣きをやめてニヤリと笑う。そして、私の耳元に口を近づけた。


「フィーネさん、返事は今すぐしないとダメだからね。……まあ、断る理由もないし、返答は決まってると思うけれど」

「……あの」


 今の2人はなにかおかしい。2人とも、いきなり公爵家と縁を結びたがってきて……どういうことだろうか。


「フィーネさん、返事を聞かせてくれるかな? まあ、もうフィーネさんは僕が用意したドレスに袖を通してしまっているんだけどね」

「…………」

「まさか、まだ気づいていないの? ……鈍感にも程があるでしょ。ルイスはフィーネさんに求婚しているんだよ。『このドレスを着た君と結婚させて欲しい』って。そのドレスはそういう意味を込めてプレゼントされたものなの」

「えっ……!」


 私は思わず自分の身体を見下ろした。

 そこには、淡い水色を基調とした美しいデザインのドレスがあった。レースやフリルがあしらわれていて、とても可愛らしいデザインだ。私の好みにぴったり合っているし、こんな素敵なものをプレゼントしてくれたルイスには感謝しかない。

 でも……


 私には一つだけ引っかかっていることがあった。

 小さい頃に花畑で出会った『あの子』のことを、まだ諦めきれていないのだ。ルイスは、自分は『あの子』じゃないと言っていた。忘れているだけかもしれないけれど……でも、結婚するなら『あの子』がいいと私は心に決めていた。

 だから、ごめんなさいルイスさん……。


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