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第4話 初めて貴族のパーティーに招待されました

 *



「……っていうことがありまして」

「あはは、それは災難だったね。アイリーンはその……少し頭が硬いところがあるんだよ」


 週末のパーティー会場で、アイリーンとの出来事を話すと、ルイスは苦笑いしながらそう言った。


「……そうなんですか?」

「うん。だから、あまり気にしない方がいいよ。君は何も悪くないんだからさ」

「はい……」


 私は返事をしながらも、彼女のことを思い出していた。彼女の言動や態度からは、単に私に対して意地悪をしてやろうとか、平民をバカにして楽しんでやろうとか、そういうのとは少し違ったものを感じた。

 確かにルイスたちや『あの子』を貶した彼女のことは許せないけれど少し引っかかることがあるのも事実だった。


「それよりフィーネさん、ドレス似合ってるね。とても可愛いよ」

「ありがとうございます。これも、全部招待してくれたルイスさんのおかげなんですよ」


 私は改めて彼にお礼を言う。

 今日の私は、淡い水色のシンプルなワンピース型のドレスを着ていた。胸元に小さなリボンが付いていて、スカートはふんわりとしたデザインになっている。

 普段着慣れていないせいか、なんだかくすぐったくて落ち着かない。


「うんうん、とっても綺麗よ。これなら誰もフィーネさんが元平民だって分からないね」


 ルイスの隣でメリーナも頷く。


「それにしても、ルイスさんってやっぱりすごい人なんですね。貴族なのに平民の私にまでこんなに良くしてくれるなんて」

「えっ、そんなことないって。──実は僕のオッペンハイム家だって、元は商人上がりなんだよ。貴族とか平民とか関係なく、困っている人は助けてあげたいし、喜んでくれる人の笑顔を見ると僕だって嬉しいからね」


 ルイスは爽やかな笑みを浮かべてそう言った。彼の言葉を聞いて、私は心の底から感動した。


「私、もっと頑張ります! これからも貴族としてこの国のために尽くしていきたいと思います!」

「う、うん。その調子だよ。一緒に頑張っていこうね」


 私の勢いに押されながらも、彼は優しい声で励ましてくれる。

 ……今なら聞ける。ルイスに『あのこと』を。

 私は胸の前で両手を握ると、覚悟を決めて口を開いた。


「あの……ちょっと聞きたいことがあるんですけどいいですか?」

「ん? どうしたの?」

「……ルイスさんって小さい頃、私と会ったことありませんでしたか?」

「僕が君と……?」


 ルイスはよく分からないとばかりに首を傾げる。


「はい、花畑で一緒に遊んだ庶民の子……覚えてませんか?」

「花畑……?」


 ルイスはメリーナと顔を見合せて、2人は苦笑する。そしてメリーナが私に訊いてきた。


「フィーネさんは、小さい頃にルイスと会った記憶があるの?」

「い、いえ……ルイスさんだったという確信はないんですけど、ルイスさんみたいに優しくてかっこいい貴族の子だったので……!」


 私が慌てて言うと、ルイスは「あー」と呟くと、頭を掻いた。


「ごめん。僕は全然覚えがないよ。小さい頃はずっと屋敷で勉強してたし。……貴族は皆そうなんだよ。作法を身につけるために遊んでいる時間なんてない。だからきっとフィーネさんの勘違いだね」

「そっか……。すみません、変なこと聞いて」


 私はがっくりと肩を落とした。忘れているのか、本当に彼ではなかったのか。でも仕方ないかも……。私も『あの子』も小さかったのだから。


「まぁでも、もし君が小さい頃の僕に会っていたとしても、仲良くなってたかもね」


 そう言って笑うルイスの顔を見て、私はなぜか胸がズキリと痛んだ。どうしてだろう。別に何もおかしなことはないはずなのに。


「じゃあそろそろ行こうか。もうみんな集まっているはずだから」

「は、はいっ」


 私たちは会場へと歩き出した。



 *



 パーティー会場では、大勢の貴族たちが集まっていた。


「わぁ……!」


 私は思わず感嘆の声を上げた。煌びやかなシャンデリア、豪華な食事、色とりどりの花々。そして、楽しげに談笑する人たちの姿。

 まるで夢の世界に迷い込んだようだった。


「パーティーは初めて?」


 メリーナが私の顔を覗き込むようにしながら尋ねる。


「は、はい。今まで誰もこういう場には連れてきてくれなかったので……」

「あら、それは残念だったね。今日は思う存分楽しんでね。……あたしが言うのもなんだけど」

「はい。ありがとうございます」


 そう言いながら、私も少しだけ笑ってみた。



「……ふぅ」


 私は小さく息を吐くと、緊張しながら辺りを見回した。ルイスとメリーナは知り合いの貴族の方々と挨拶をしている。


「こちらが公爵家の養女になったフィーネさんです」


 ルイスに紹介されて私は彼の前に立っていた恰幅の良い中年の貴族に頭を下げる。


「初めまして。フィーネ・フェルグラントと申します」

「おお、あなたが噂の公爵令嬢様ですかな。私はギルベルト・フォン・シュリーフェン。お会いできて光栄です。いやはや……これは可愛らしい方ですね。ルイス殿が羨ましい」

「あ、ありがとうございますっ?」

「もう、僕とフィーネさんはまだそういう関係ではありませんから、からかわないでください、ギルベルトおじさん」


 ルイスが苦笑すると、貴族は私の手を握り、愛想良く微笑んだ。その様子からは、ルイスやメリーナに劣らず、私にも好意的に接してくれているのがよく分かった。



「それでは、また後ほど」


 そのようなやり取りを何度か繰り返し、貴族との会話を終わると、ルイスは広間の前方に設置された壇上へ向かった。


「皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます。これより我がオッペンハイム子爵家主催のパーティーを開催致します」


 ルイスが開会の辞を述べると同時に大きな拍手が巻き起こった。


「今日は皆様にご紹介したい方がいます。──フィーネさん、おいで」

「えっ!? は、はい!」


 突然ルイスに呼ばれ、驚いて返事をする。彼は私に向かって手招きをした。


(ど、どうしよう……!)


 私のような平民がこんな公の場で話すなんて……! しかし、そんな私の様子を察したのか、ルイスは優しく笑いかけてくれた。


「大丈夫だよ。軽く挨拶をしてくれればいいから」


 その言葉に勇気づけられ、私はルイスの隣に立つと、貴族たちに向けて礼をして口を開いた。


「は、初めまして。フェルグラント公爵家のフィーネと申します。ルイスさんとは同じ学校に通い、共に学ぶ仲です。あ、あの……よ、よろしくお願いしますっ」


 ……うわぁー!! めちゃくちゃ噛んじゃったよぉ~!! 恥ずかしさで泣きそうになるが、必死に堪える。貴族たちは皆温かい目で見てくれていた。それが余計に恥ずかしかったけど……。


「フィーネさんはとても一生懸命な生徒です。きっと皆さまとも仲良くできると思います」


 ルイスはそう締めくくり、私は赤面しながら壇上を後にした。


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