53話目
53話
その弾丸は異様に早く気が付いたころには避ける事も出来ない距離に存在していた。だが、僕の速度も相まってそのまま直撃すると怪我程度では収まらないだろう。よくて致命傷。最悪そのまま死んでしまう。
それはキング級の魔物を倒そうと思っている僕にとってはあまりにもむごい結果だ。だからそんなふうにならないためにも、その瞬間だけ残力で魔力を使う。
……前に、魔力だけを使うならば【制限】によって魔力が徴収されないと言ったが、あれには一部例外がある。それは大量の魔力を一度に一瞬で使うということだ。だが、その量は普通の人間が出せる量ではない。
僕だから気が付いた量だ。
そして、今僕はその魔力を使ってある事をしようとしている。
第二内魔力と第一自然魔力の疑似結合による魔力爆発だ。
その瞬間僕の左半身からあたり数キロにまで聞こえるほどの大爆発が起こった。その爆発は僕が自分自身で生徒たちにやるなと言った魔力結合だ。本当に少量で体が抉れてしまうほどの爆発が起こるから、なんの対策もしていなければ簡単に死んでしまう。
さらに、今回は【制限】が反応してしまうほどの魔力を使った爆発だ。
僕の体はその爆発によって右側へと投げ飛ばされた。その体は見るに堪えない肉塊へとなり替わっている。そんな様子ではなんで爆発を起こしたのか分からない。魔法の銃弾を喰らったとしても同じ、もしくはそれよりも少ないダメージ量だっただろう。
ならなんで爆発を起こしてまで銃弾を避けたのか?
その瞬間、周りに散らばっている僕の肉片はおびただしい動きで一番大きい肉塊に集まっていく。それは元の形に戻っていくようで……どこかで見た事が有るような光景だ。
そう、僕の体にはまだ残り湯のように【肉体硬化】の魔術を残しておいたのだ。その魔術の効果で僕の肉体は元に戻っていく。その様子はまるで奇跡のようで転移した時とはまた違う残酷さが垣間見える。
だが、もう【肉体硬化】は使えない。それは効果を発揮するのに大量の第二内魔力が必要になるうえ、僕はさっき爆発を起こすのに第二内魔力を使ってしまったからだ。さらに、【肉体硬化】は何度も使っているとエラーを起こしやすい魔法なのだ。
元に戻すと言ってもその作業はあまりにも複雑で、容易くできるものではない。それを魔力と言う特別な力で無理やり再現している。だが、その再現は完璧なものではない。少しの劣化が強いられているのだ。そして、その劣化は繰り返すほど大きく反応を見せる。
だから、魔力不足で再度肉体硬化を使うことは出来ない。もしこれ以上使うと、対応できないエラーを出すかもしれない。
僕は肉体硬化に消費していた魔力の供給を止めて、周りを確認する。
同じような魔法は飛んできていないようでひとまずは安堵する。……あの魔法に何の魔力が使われているかはあの一瞬では解析できなかったが、もしあの速度で僕とぶつかってしまうと魔力の疑似結合がおこってしまう。
すると、今僕やっている魔纏が強制的に解除されてしまったり、さらにはその魔法の中に第一外魔力を使用している場合、【肉体硬化】に回している第二内魔力と疑似結合して魔力爆発を起こしてしまうからあの時は自分で魔力爆発を起こした。
あの一瞬の間ではあったが、メリットとデメリットを対比したうえで判断したのであった。
「ふう……」
僕はここでひとまず心を落ち着かせる。少々調子に乗ってしまってキング級の魔物に不用心に直行してしまったが、何の反撃もして来ない事は無いだろう。考えなしに突撃して魔法を喰らってしまったのは、あまりにも恥ずかしい失態だ。ジェームス君には見せられない。
そう言う風に羞恥心の踏んでいるが、ひとまずは落ち着いて今の状況および相手の手札を解析する。
それにしても、あの弾丸の様な魔法……あんな魔法は僕の知っている限りは知らない。
小さい球を回転させながら真っすぐ発射させる・・・それに類した物を知っている。だが、それはこの世界ではなく前の世界つまり前世の事だ。
【銃】
この世界ではまだ存在しない武器であり、魔法でも存在しない。そもそも銃を作るのであれば魔法で対抗した方が強く、そして容易く威力を出せる。だから、銃なんてものは存在しても脅威にはならないと思っていたのだ。
……完全な予想なのだが、この魔法を授けた神は地球の知識を持っているのかも知れない。
確信に近い予想をもとに僕は再度動き始めるのであった。
☆
さっきのような速度で近づいてはいけないことが分かったので、今度は少し速度を落として近づく事にする。だが、あの魔法で分かったのだが、相手は僕の事を気付いている。それも位置をちゃんと把握している。
だから、無神経に走ったりしたら何をしてくるか分からない。
魔物たちが門にたどり着くまでにキング級の魔物を倒したいのである程度の速度は維持したいと思いながらも、さっきの事を思い出して警戒しながら前に進むのである。
タッタッタ
そんな軽快な音を鳴らしながら魔物の間をすり抜けていく。
魔物たちは僕の事に気付いて攻撃をしようとするが走っている僕をわざわざ追う事はせずに、一定の距離を離れると催眠にかかったように門へ向かっていく。それはあまりにも奇妙で、魔物の石で動いているようには見えない。
いつもの魔物なら獲物を見つけたら無我夢中で追いかけてくるのに……これは多くの魔物が要るから起きている現象なのか、もしくは誰かに操られているのか。まだ分からないが、キング級の魔物の所に行けば分かるだろう。
そう信じて走っていくと、どこかを境に魔物が強くなってきているような気がしてきたさっきまでB級の中級なら倒せる位の魔物たちが多かったが、今周りにいる魔物たちはさっきよりもが強そうな……B級の上位の人出なければ倒せないような魔物まで出てきている。
これは前回のスタンピードと比べて明らかに魔物の総力が上がっており、本気でメソミア王国を破滅させようと言う意気が伝わって来る。
早く倒さなければという気持ちがこみあげて来た。
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