51話目
51話
そののど越しは最悪な物である。改良をしようと思っていなかったおかげで魔力回復薬と比べて魔力本来の味をダイレクトに感じてしまい、思わず嗚咽をしてしまう。だが、吐くことは出来ない。
もう結合が始まっているからだ。
最初に出てきた症状は全能感ある魔力回復。どこまでも回復されるその魔力に体が軽くなったような、満たされた感覚で気持ちがいい。だけど、これは後に来る障害の前兆だ。
ゆっくりと、だけど早く。その結合は進んでいく。
「あ゛!」
飲んでからたったの数秒、体に異変が訪れた。痛みにより思わず出てしまったその濁音はいつもの僕の声より数段高い声である。第三内魔力の変質により声帯が変形してしまったみたいだ。
痛い痛い……そんな、言葉で雲散出来ない状況だからこそ、今まで感じてきた感覚よりも数倍痛く感じる。
……飲んだ時の魔力量が少なかったせいか、想定よりも早く症状が出てくる。これは想定よりも症状が悪化してしまうかも知れないと、嫌な予感を持ちながらも、後戻りが出来ない事を頭に入れ収まるのを待つ。
今は待つしかできないのだ。
すると、僕の腕や脚に異変が生じ始めた。
ゆっくりとではあるが右腕に鱗のような物が生え始め、左腕は感覚が無くなって来る感じがありながらも筋肉が増大している事が見て取れる。脚は変態しており野生の動物のような形になっている。
これでは目の前で僕を探している魔物と見分けがつかないだろう。その体はまるでキメラのようであるから。
明らかな症状に僕は混乱しながらも、体の活動に必要不可欠である臓器は第四内魔力の特性である安定によって守られているため、大事には至らないと信じている。そして、激痛の中数分がたった頃、その結合による症状が終わったようで体の変態は終了した。だが、変質した第三内魔力の攻撃は終わらない。
それでも普通に動ける程度の痛さになったので、そのあふれ出るほどの魔力を使って騎士団の人たちを撤退させることにした。
「撤退しろ!」
僕はその声を皮切りに、魔力操作の応用である魔力投射を使い周辺にいる魔物たちの攻撃を妨害する。幸いにも、妨害には成功したようで数十体の魔物に隙を与える事が出来た。だが、その魔力投射の威力では魔物に対しては妨害する程度の殺傷能力しかなく、倒すことは出来ない。
もっとも魔力を込めれば、倒すほどの貫通力を持たせることも出来るかも知れないが、今はそれほどの魔力を込める程の時間はない。出来るだけ早く、騎士団を撤退させたいのだ。
それは、騎士団が危ないからと言う理由ではなく魔力増強剤を飲んだ僕の体が心配だからだ。今この瞬間でも、第三魔力の変化による身体の破壊は進んでいる。だから出来るだけ早くスタンピードを解決して治療をしなければ行けない。
だから、騎士団には早く撤退してもらわないといけないのだ。
「うわぁぁぁぁ」
すると、その騎士団の中から恐怖に錯乱した人が走り逃げて行ったではないか。全身がボロボロの様子からさっき倒れてしまった人だろう。魔法で回復してもらった事で逃げる程度の力は戻って来て門の方に走っている。
もちろんその行動自体は僕が望んでいた事ではあるが……そんなふうに逃げてほしかったわけではないのだ。騎士団とはあくまで統制の取れた兵士たちだ。つまり統制がとれていなかったとしたら、それはただの戦える程度の人なわけでそこに騎士としての力は存在しない。
つまりだ、逃げ出してしまった人がいるということは、今目の前にいる騎士団は統制が取れていないと言う事。と、いうことは・・…
「こんな戦いやってられるか!!」
「俺は逃げるぞ!」
「まて!!お前ら逃げるな!」
騎士団の連携が取れなくなった。
リーダーと思わしき人はいまだ戦っているが、その後ろでは人がドンドンと逃げている。カバーが欲しい時でも人がいないから自分で何とかするしかなく、なけなしに大量の傷を折ってしまう。
これでは直ぐに誰かが死んでしまう。
僕自身こんな軟弱な精神で騎士と言う物をやっている人を見たことが無いので、撤退と行ったら騎士全員で後ろに下がるのかと思っていたが……このような無様に逃げ怯えている様子はあまりにも想定外であった。
こんな事なら、ここまで前線を上げないで適当に魔物を倒していてほしかった。それに、統制の取れていない騎士たちがここまで弱かったなんて思ってもいなかった。
「早く逃げろ、魔物は僕が抑えるから!」
しょうがないが、僕は回復された魔力を使い大量の魔力投射を顕現させ対抗する事にした。これで撤退させることが適わなかったらどうする事も出来ないだろう。
だが、そんなとき一つの声が聞こえた。
「ふはははははっは!!俺は最強だ!!」
騎士団の中で一人の男がこの状況に錯乱したのか前に出て戦い始めた。そんな事をされてしまっては、僕が守る事が敵わない。魔物の攻撃を何とか妨害することは出来るが……それを利用し戦い続けられると、いつまで立っても撤退させられない。
その人の戦闘だけ僕が手を下さない事を考えたが、その騎士は騎士と名乗っているのに、戦闘力はそこら辺のC級討伐者よりも低く、何もしなければ勝手に死んでしまっているだろう。それでは、ダメだ。何とか考えて撤退させなければいけないだが……
「ノ・ラ!早く撤退するぞ!これ以上ここにいたら死ぬのは俺たちだ!」
「ハハハ!何を言っている!今この状況を見えないのか!この俺が魔物たちを蹂躙している様子を!」
「そんな事はどうでもいい!上官命令だ!撤退しろ!」
「却下だ!!!はははは!」
ダメみたいだ……
いまこの考えている時も時間は進んでいる。早く撤退させたいと思っていたが……その行動がこのような裏目に出るとは思ってもいなかった。そもそも、真面に現実を直視できない奴を騎士団なんかに入れるなと言いたいが……こんな奴が騎士になれる国がそもそも終わっているのではないのだろうか。
あの暗部総隊長が国王の代わりに言葉を出せたように、もう国の内部はボロボロなんだろう。改めて認識させられる。
こんな様子を見せられると、しっかりとした訓練を行っている、おじさんがいるアルンガルド王国がどれ程優れているのかが分かる。
「くそ……無理やり、押し飛ばすか?」
だから、僕は無理やり強硬手段に出ようと考えた。だけど、ここから門まで押し飛ばすと言う行為を、魔力増強剤によって劣化した魔力で出来るのだろうか……いや出来ないだろう。そもそも、僕は劣化した魔力の精密な調整が出来ない。それ用の訓練を詰んでいないからだ。
今も、魔物たちの攻撃を妨害するために魔力投射を操作しているが、それもいつもより精密性に欠ける。偶に失敗している場面が見られるし。
だから、失敗したら見るにも耐えない程の肉片になってしまう操作をやろうとは思えない。
だが、それでもやらなければ騎士団を撤退させることは出来ないだろう。それを騎士団の隊長も分かっているようで、死人一人でないように今も行動している。
「……」
僕は無言で一つの魔力投射に対して魔力を溜めていく。その騎士を門まで飛ばすためだ。
劣化している魔力の操作に戸惑うが、それでも魔力はちゃんと溜めれて行っている。
「ふぅ」
僕はその一瞬のために、一度深呼吸をして心を整えるのであった。まずはその魔力投射を第二外魔力で硬化させ、その後劣化第三外魔力で性質を変化させる。やわらかく、そして、どこまでも飛ばせるように。形状を変化させる。
チャンスは一回だけだ。
3.2.
僕はカウントダウンをおこない、飛ばす機会を伺う。
だが、そんなとき、その騎士団を全体囲うように大量の魔力が発生した。なんの魔力かはわからない。でも、その魔力の性質は攻撃のための物ではない事は分かる。なので、今は自分の事を心配してその範囲から思いっきり離れる。
体が変態しているが、それでも事前に発動していた肉体強化のおかげで、横に移動することは出来た。
ズザザ……と、地面をすりながらその魔法から避けるが、その跡地には誰もいなくなっていた。僕は思わず目を疑ってしまうがそれは現実である。目の前には魔物以外誰もいない。
そこで一つ考察が出来た。一つはキング級の魔物の魔法だ。その魔物は召喚魔法を使うと言う事だったから、範囲指定をすればこのような召喚はできるだろう。実際に僕自身出来る魔法を知っている。
だが、それはあまりにも難易度が高い為……本当にその方法ならば、キング級の魔物を倒すのに気合を入れなければ行けないだろう。
すると、そんなときとある声が聞こえてきた。
「「騎士たちの転移に成功しました!」」
それはジェームス君の声だ。
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