46話目
46話
ミツキ教授
「ムムム!」
僕は1時間たったがいまだに、その術式を解読できていなかった。それは適当なベンチで解読を進めていた障害であると思っている。想定ではもう解読が終わっているはずだからだ。まあ、それはしょうがないと集中しきれないその頭を回転させ解読を進めようと思う。
だけど、そのとき僕の前に誰かがきた。
それは突然の出来事で、このベンチがおいてある場所の周りには誰もいなかったはずだ。だから…普通に歩いてきたのではないのだろう。この、、、爺さんがここに来るまで何の気配もなかったのだから。
そして、その爺さんがいる場所には少量であるが、魔力痕がある。それは何らかの魔法でここに来た証拠であり、歩いてきたのではないと言っているようである。それにしてもどうやってこんな所に来たんだろうという疑問が浮かんでくる。
「こんにちは。ミツキ・アトラスコール教授でございますね?」
すると、その爺さんは何ら不思議な事をしていないと自信満々に挨拶をかましてきた。それは僕にとって違和感が強く……決してマナーがなっていないと思える好意である。
なぜなら、
「えっと?3秒以内に所属と氏名。目的を言わなきゃ殺すよ?」
僕はその爺さんの周りに魔力で作られた矢のような形状をしている物を大量に浮かせている。もし爺さんが変な行動でもしたら、この大量の矢が『魔力投射』で一斉に体を突き破るだろう。僕はそれほど警戒をしていた。
そして、それが理解できたのか爺さんは額に汗をにじませながら口を開く。その姿には先ほどまでの紳士的雰囲気はなく、出来るだけはやく僕の不機嫌を鎮めようとしている。
「メソミア王国暗躍部隊 不死鳥所属 アラス・ケルン・ヶ・アーロランドリルでございます。この度はミツキ・アトラスコール教授にスタンピードの対処を手伝ってもらいたく参上いたしました。」
「・・・うん。そっか。」
僕はその言葉を聞いたが、いまだにその矢を構えている。
「それなら答えは拒否とさせてもらうよ。こんな無礼な事をされたら流石の僕でも怒っちゃうよ。」
なぜ、僕がその爺さんに対して攻撃性を含んでいるのか。それは爺さんの行いが酷く無礼だったからだ。…何が無礼だということなのか?それは、爺さんが魔法を使った事にある。
まあ、この国では魔法を日常的に使う事は普通なのかもしれない。だけど、それは魔法学院では違うのだ。魔法学院は魔法を教える学校だ。だから、魔法に関しては最新の注意を払って接している。
そのため、魔法に関しての規則は多い。例えば、宣言なしに魔法を使用してはいけない。だとか、その魔法によって影響が出た対象に対しては謝罪を行う。だとか。まあ、一般的だと思うかも知れないが、それを破るのはご法度だ。
だから、もし学生が僕の前で宣言なしに魔法を使うようなら即時拘束のち、学園の治安を担当している教師に渡すだろう。
…そして、そんな人間の前に宣言なしに当たり前のように、魔法を使ったのだ。それも謝罪の一つもせずに。
常識が違うと言うのはあるだろうが……この爺さんは僕が学院の教授だということを知っていた、それなら無礼と言うほかない。
「な、なぜでしょう!」
「・・・」
すると、爺さんは異議申し立てを行ってきた。
「爺さんはさ、目の前で魔法を使われても何も思わないの?……もしかして、魔法の危険性を理解していない脳味噌空っぽな人なのかな?」
魔法の危険性。それは学院で一番最初に行われる授業だ。
例えば、炎の魔法。
その炎の魔法によって起こされる現象は何を軸にして起こっているのか。例えば、燃やすと言う概念を魔法によって創造しているとき、その魔法はただの水によって消化する事はかなわず、特別な方法でしか魔法を沈下する事が出来ない。
もし、炎を魔法で創造した時その魔法は水によって消化できるが、もしかしたら他の魔法と
共鳴してしまいその規模が大きく成ってしまうかも知れない。例えば風を起こす魔法を使うと、その規模は大きく成る。
そして、この爺さんがここに来た魔法。それは何か分からないがもし転移系の魔法だとしたとき、僕がその転移する場所に干渉してしまったら転移の際、空間曲解により解消していた僕の体の一部が消えてしまうかも知れないのだ。
魔法ならそれが出来てしまう。
だから、僕は怒っている。もしかしたら僕は死んでいたかもしれないから。
「そ、そんな事どうでもいいじゃないですか!いまは国が滅んでしまうかも知れない危機なんですよ!」
「・・・はぁ?僕にはそんな事関係ないんだけど。というか、そもそもさっきS級のジェームス君が討伐に行ってくれたじゃん。頼るならそっちにしてくれない?」
あ~無理無理。こういう自分の意見だけを押し付けて、思い通りに進めようとする老害。年取って来て、慕われる事が多くなってきたから勘違いしているのかも知れないけど、この爺さんの主張に苦悩してしまうよ。
もう少し、ちゃんとした言葉を喋れたなら何か手伝おうと思ったかもしれないのに。最低限謝るとかさ、魔法のマナー以前の常識を学んできなよ。
「今回は規模が大きいので、お願いさせてもらいたいのです!」
「いやいや、ジェームス君S級だよ?キングの魔物が出ない限り大丈夫だよ。ていうか、そもそも僕に頼らないでくれない?一応討伐者としての席は持っているけど、君たちが頼るべきはA級以上の討伐者だよ?
僕のような他国の人間に頼らないでほしいんだけど。」
「それでも、出来る限りの事をしたいと思い!」
「・・・もしかして、ジェームス君の実力を疑っているの?」
僕はそこでやっとこの爺の事が見えてきた。・・・この爺ジェームス君の実力を疑っているみたいだ。
確かに、ジェームス君は世間的には目立った痕跡を残していないから、他のS級討伐者に比べて劣るように見えるかも知れない。それはC級の討伐者のなかでよく噂されるから、僕も知っている。
まあ、それに関してはジェームス君自身気にしていないようだから何も言わないけど……でも、国ならジェームス君の偉業くらい調べといてほしいよね。それもギルドと提携を取っているのならばさらに。
だって、ジェームス君ってこういう籠城する戦いにおいては類を見ないくらいの戦闘力を見せるんだよ。S級に上がった時にたおしたキング級の魔物もとある国を守る時だったみたいだし。
君たちがちゃんと協力すればどうにでもなると思うんだけどな?
「まあいいや。僕は拒否の姿勢を維持しようと思うけど、何か弁解はある?」
「・・・国民を安心させるため、出来るだけ多くの戦力を用意しておきたいのです。お願いします。」
すると、爺さんは何を思っているのか矢を気にせず動き、その場でどけ座をしたではないか。その様子に僕は思わず驚いてしまったが……その行動に政治的思想がにじみ出ていて嫌気がさしてくる。
そもそも僕が呼ばれている一番の理由はこのスタンピードを治める事が理由ではないだろう。それはさっきジェームス君が対処に向かった事から分かる。この爺さんの事は分からないけど、国の中核ならジェームス君の実力位分かっているはずだ。
それなら僕を呼ぶ理由が無い。
だから、他の理由で読んでいることが分かる。でも、それならなんで呼んでいるのか?…それこそ政治的な物だろう。前回のスタンピードを一瞬で対処した僕を味方に出来ていると言うのならば、この国のお偉いさんの信頼は上がるだろうし、それに僕を呼べるほどの事も出来ると言う示しが付く。
だから、この爺さんは土下座までして僕に依頼をしているのだろう。
「はぁ。」
僕は思わずため息をついてしまった。こんな政治的な事をしたくないんだけどな。と思いながら、でもそれを断る事で僕に対する不評を広められるのは嫌だなと同時に思う。前回のスタンピードの後に、僕の評判を上げてくれたのはこの国で……もしかしたらその反対に評判を下げるくらいは出来るかも知れない。
だけど、僕はこの国に来てから、滞在していた証拠を残すようなことはしていないと思うから…大丈夫と思うんだけど、なぜか嫌な予感がする。
「しょうがない。……それで僕はどこに行けばいいの?」
「!!!ありがとうございます!」
僕はいやいやながらもその依頼を受けようとおもう。
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