45話目
45話
ジェームスくん
その報告が来たのはギルド長がガタガタと焦っているような、もしくは願っているような時であった。
さっき、偵察に行ってくれたその人は出来るだけ迅速に最短距離で行ってくれたおかげで、魔物たちが【空間魔法 質量操作】に慣れる前に帰って来てくれた。さっきと同じように魔物の進行を止めるため【空間魔法 質量操作】】を使えるように調整できるほど、魔力を残していない。なので、早く帰って来てくれたのはありがたい。
「それでどうだった?」
やはりギルド長は焦っている。なぜ焦っているか分からないけど、その声色があからさまである。さっきは無視をしたが、流石に聞いておいた方が良いのだろうか?でも、俺はスタンピードの対処に集中をしなければ……そんなジレンマに悩まされる。
すると、その偵察に行ってくれた人は息を切らしているようで、喋れる状況ではなかった。・・・でもなぜかその状態でも喋ろうとしている。
「城壁から・・約数キロ離れた地点の・・・・開けた場所に召喚魔法を使用しているとみられる・・魔物が存在しました。」
「「!!」」
……。
俺はその報告に思わず絶望をしてしまった。それはギルド長も同じようで、俺と同じようにかおっを竦めている。だから、偵察に行ってくれた人も急いでいたのか。そう納得せざる負えなかった。
……魔法を使う魔物。そんなのあれしかないじゃないか。俺の思考はそれで釘付けになっていた。
キングの魔物だ。キングの魔物がいるんだ……それも、神から魔法を授けられた特別な魔物が。
それら魔法を授けられた魔物たちは一つの共通点がある。それは、無尽蔵の魔力を持っているということだ。その魔力がどこから来ているかは解明されていない……
その情報だけでS級と言う立場を持っている俺が逃げ出したくなっていた。…それは見つからない戦略と、使ってしまった魔力。
そして、魔法を使うくらい強力な魔物。
「……召喚魔法って言ったよな」
それはギルド長の言葉だ。勝ち筋があるのか俺にはわからないが、たとえ近距離最弱と言われている召喚魔法を使っているとしても、キングの魔物まで数キロ距離がある。
つまり……もう最弱といえる時間ではなくなっていたんだ。この距離があれば俺は魔法の【条件】によって簡単に手は手を出せない。
それなら、討伐者たちを向かわせればいいと思うかもしれないが、この距離では近づく間に新しい魔物が召喚されて、先にこちら側が力尽きるだろう。
……始まった時点で終わっていたんだ。
近距離最弱。又の名を時間をかければ最強。そんな言葉を思い出すくらいにはこの状況を挽回する手立てが思いつかない。
「だから、スタンピードが多発していたのか。」
それはギルド長も同じなんだろう。対策方法を考える前に過去を思い出しているではないか。確かにここ最近この国でスタンピードが多かった。
その原因が魔法によるものなら納得してしまう。
だが、今考えるべきは別だ。過去を見るのではなく今を考え、未来を見据えなくてはならない。それが、ギルド長の役割なのだ。だから、考える。どうすればいいのか。何をすれば助かるのか。
……だが、それは一歩遅かった。
その時突然門の前で大きな音が聞こえた。それはさっき聞いた……そう、開く音だ。いま、門が開いている。
開けてはならない。
そうギルド長直々に命令をしていたはずだ。それなのに何故……その状態にギルド長は脳みそが回らなくなった。
ただでさえ魔法を使う魔物がいると報告を受けたばかりなのに、それと同時に門が開いたのだから。
これでは俺の魔法が発動できなくなると危惧して、慌てて門を見に行く。ギルド長は放心状態だ。これでは何も出来ない。
☆
そこには騎士団が並んでいた。
このスタンピードが始まってからその姿を見る事は無かった、騎士団が全員そろって門の前に並んでいるではないか。それはまるで「私たちが倒しに行く」と宣言しているようである。
だが、その行動は明らかな指揮官命令違反であり、規則を守る騎士団として合ってはならない事だ。騎士団は規則は守ると信じていたから、俺が魔法を使う前に門の前で合ったあの、騎士を無視する事が出来たのに。
「これより第一騎士団スタンピード殲滅作戦を決行する!低俗な国民どもはその眼球に焼き付けるがいい!」
その声の元はあの門番で騒いでいた騎士の人だ。その人はまるで自身が指揮を取っているかのように騎士団を動かしている。・・・それに、この言い方は……大丈夫なのだろうか?このような事を言うと、もしスタンピードを治めることが出来ても騎士団が無くなってしまうのでは?
そんな疑問をよそに騎士団の連中はドンドン門から出ていく。…もうこれで俺は【空間魔法 転送】を使う事は出来なくなった。こうなったら、俺に出来る事はない。
魔力はほとんど残っていないし、その少量の魔力で発動できる魔法は俺は持っていない。
そんな現状を見返してみて……もう諦めてもいいのかなと思ってしまった。だって、相手は無尽蔵に魔物を召喚してくる上に、それに対処する方法は俺は持っていない。付け加えて、この国に存在している討伐者にその魔物を倒せる奴は居ないだろう。
もし倒せると言う奴が要るならそいつはS級だ。だから、騎士団がその魔物を何とか出来るなんてこれっぽっちも思えないし、もし何とかしたと言われたら初めから手伝えと怒ると思う。
まあ、これは諦め時だ。
教授が折角守ったこの国を何とか存続させたいと思ていたけど…非常に残念だ。
だけど、先に言っておきたい事が有る。今回の敗因は情報不足だ。もしこのスタンピードが始まる前になぜこの頻度で起きるか調べれば分かったことかもしれないのにそれをおこたって、そのうえ魔物の総数を見誤って。
さらに、魔法を使える魔物がいると言う情報を一時間たとうとしている時にやっと知る。これでは勝てる戦いも勝てない。
もし、初めに魔法を使える魔物がいるということが分かっていたら、俺は【空間魔法 転送】なんていう防御特化魔法は使わず、先に仕留めれるようにガンガン前に出て倒しに行っただろう。
俺にはそれが出来た。出来るからS級と言う立場を貰っている。だけど、今はそれをする為に魔力は存在せず、さらにもう俺が使える魔法は存在しない。魔力がないからだ、
・・・そんな事は国民の奴らは分かっていないみたいで、やっとスタンピードを対処し始めようとした事に声を上げている。これは俺の魔法を国民の皆さんに見せることが出来なかったのと、討伐者たちが城壁内に残っているから誤解してしまったのだろう。
討伐者は何もしていない。と。
それに門を閉じているから、魔物の様子も見れない。これではどの位の規模なのか実感できないだろうそうなってしまえば、ここまで大々的に自信を見せている騎士団がいい活躍をしているのではないのかだろうか?と言う考えが生まれてくる。。
ここでやっと自分の作戦のだめだったところが見えてきた。
はぁ。終いだしまい。魔力が回復したらギルドにお願いして帰らせてもらおう。もちろん違約金はかかるだろうけど、こんな所にいたら死ぬだけだ。早く逃げるに限る。
俺はそう自分に言い聞かせて振るえる体を抑えてその場を後にしようとした。もちろんその場にいる討伐者たちには知られないように。コソコソと。
だけど、その時僕はとある事が気になった。
・・・あ、そう言えば教授はどこに居るんだ?
教授だ。術式を見てくれている教授を見つけなければ。そう思い周りを見渡すと……
「あ!ジェームスくんいた!」
何故か隣に教授がいた。
これからどうしようか考えていて、声をかけられるまで気づかなかったから、結構驚いた。
「え、、きょ、教授。どうしてここに?」
「ジェームスくんならスタンピードをもう殲滅出来たんじゃないのかなって思ってね。」
それは俺への期待があったからこその言葉なのだろう。だけど、失敗した今は強く心をえぐってくる。もしかしたら殲滅できたかもしれないという疑惑があったからこそ。
体がずっしりと重くなった気がする。
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