43話目
43話
その人一人しかいない裏路地に入りかけているその場所に腰を掛けている人物は静かであった。その様子はただ暇をつぶしているようではなく、なにか真剣に一点を見つめている。
決して邪魔をしては駄目そう。
駄目そうなのだが、何でこんなところに居るのかは外見だけではわからない。そんなに集中しているならもっと最適な場所があるだろう。
なのに、こんな場所にいるのはなんでなのか……それは、ただ一つの理由があるからだ。
「腰痛い。」
お金がないのだ。
ひと目見ただけで平民のような人物には買えないとわかるくらい高価な服を着ているにも関わらず、その懐には一銭も入っていない。
だから、宿も取らずにここに座っているのだ。
……僕自身この、金無し、宿無しの状況は嫌だけど、今は帰ることができないからしようがないということは分かっている。
分かっているのだが……ジェームスくんに少しばかりお金をもらっておくべきだったと後悔している。毎日ふかふかの椅子に座っている僕にとってこの硬いベンチは腰に負担がかかりすぎる。
そろそろ腰痛にでもなってしまうのではないだろうか。
それにしても………
「この術式、解読が難しすぎる。」
現在僕はジェームスくんからお願いされた空間干渉の術式を解読しているのだが、その解読に苦戦していた。出来れば、構成要素だとかを纏めてある資料を持って欲しかったな。ジェームス君も研究者だからそう言う記録とかはちゃんとしているはずだから。
・・・まあ、ジェームス君の事だから、興奮して忘れてしまったとかありそうだけど。
正直そういった詳細が書かれている資料が無いと解読が困難なのでやめてしまいたいが…暇なうえにジェームス君が今頑張っていると考えると、やらなければいけないと思ってしまう。
しょうがないと思いながら僕は胸ポケットからあるものを出した。それは一般的に奥の手と呼ばれるものだ。
☆
ジェームズ(手品のアルトラ)
俺がその光景を見たのはこのS級討伐者としての地位をもらってから幾度とあった。だけど、それは見慣れるなんてことは一切なく反対に、それを見ただけで怒りが湧いてくる。
……それはこの国の現状だ。
スタンピードが来るとわかり、逃げ惑う人びと。ときには押され、ときには転ぶ。そんな状態でもできるだけスタンピードが来る場所から逃げようと足を止めない。
俺はその光景がすごく嫌であった。だから……震える手を押しとどめ、その嫌悪感をせき止める。それが俺の今の心情を物語っている。
「ギルド長。準備が終わりましたので、指示するまで絶対に城壁から誰も出させないでくださいね。」
俺はこのスタンピードを終わらせる罠を設置し終えたので一応であるが、その事をギルド長に注意しておく。間違って魔物を狩ろうと城壁から一歩でも外に出た暁にはその罠が起動してしまい、簡単に死んでしまうからだ。
だから、外に出てほしくない……まあ、正直無差別に発動してしまう俺の戦法はこういう戦いではちゃんとした情報の伝達が無くてはこちらが損害を被ってしまうから、やすやすと使うことが出来ないととある国の王様がぼやいていたけど、、、でもこれで救える命は多いのだから。
「分かりました……おい!お前ら!門を閉じろ!」
すると、その指示の意味が分かってくれたのか迅速に対処してくれた。現在門外には俺が作業するため最低限の人しかおらず、その人たちはこの後もスタンピードの様子を伺うために情報収集をしてくれるみたいなのだ。
さらにその人たちには俺が、どの範囲に入ってはいけないかをちゃんと教えているので、万が一にも命の危険性は無いだろう。
そう思っていたのだが、反論は簡単に出るものだ。
「どういうことだ!!!」
それは門の近くに居た豪華な装飾が入った装備を付けている人である。その人の事は一目見ただけで、どこに所属しているのか分かる。・・・騎士団だ。
その鎧の胸に第一と大きく刻印されていることから、第一騎士団と呼ばれる所の人間なのだろう。・・・そんな人が突っかかって来るなんて。。。嫌な予感しかしない。
だけど、そんな状態を放置するわけにもいかないので、俺が前に出て説明をする事にした。ギルド長に信頼が無いと言う訳では無いが、今は住民の避難などで忙しそうなので、やる事は終わった俺が対応する。
・・・出来れば何もなければいいけど。そんな期待を胸に話しかけに行く事にした。
その騎士はなぜか門番に突っかかっているようであった。
「どうして門を閉める!俺たち第一騎士団が直々にこのスタンピードを絶やしてやると言っているのに!」
「どうされましたか?」
俺はその様子に思わず顔をしかめてしまう所であったか出来れば穏便に対処したいのでこちらも嫌悪感を見出されないように出来るだけ慎重に対応する事にした。
「あ゛!!!誰だ貴様!この俺が誰か分かっているのか!!」
「・・・私はギルドから依頼を受けてこちらに来ました、S級討伐者アルトラと言います。それで、何か言っているようでしたが分からないことでも?」
俺はその騒ぎぐわいにストレスがどんどん上がっていくが、心の中で「穏便」「穏便」と呟く事で何とか返上の状態でいようとしていた。もしここで騎士団の人に何かしたとしたら、それはこの後の士気に関係してきていしまうと思うので、手は出せない。
それでも、なんで門の外に出ることが出来ないかを説明する事は俺しかできないので、しょうがない。
「・・・貴様がアルトラなのか…そんなふうには見えないな!覇気が無さ過ぎる!名を偽って出てくるのならもう少し真面な実力になってからにしろ!!ワハハハ!」
あ、ダメ。拳が出そう。
俺は何とか握りこぶしを作るだけですんでいるが、S級のライガだったら消し炭になってただろう。……ライガは俺と同じように強者の気迫がないくせに短気だから、こう言う奴を見逃すことは出来ないのだ。
だけど、俺はそこまで短気ではないのでこんな事では怒らない。
「…それでどの様なご用件でしょうか。」
怒ってはいないが苛立ちのあまりこんな奴に敬語を使ってしまった。出来れば目上の尊敬している人にしか使いたくないのだが、それでもこういう時の敬語は俺の感情が表に出ないから使いやすい。
「だから、お前程度では話にならん!なぜ門を閉めているのかギルド長に説明させろ!」
あ~あ~あ~あ~。
俺はその様子に思わず頭に血が上ってしまいそうになるが、、、でも「穏便」と心の中で響かせることで怒りを抑えようとしている。だからなのか、真面に思考を回すことが出来ずずっと、あ~っと言っていなければ、こいつを殴ってしまいそうだ。
「・・・門を締めさせていただいたのは私の戦術の影響が味方にまで及ばないように、するためです。なので、私が合図を出すまではこの門は空く事はありません。」
…ふぅ。説明できた。こんな奴にでもちゃんと説明できたよ。
俺は何とか解決に持っていくことが出来たと思い安堵している。だってこれ以上何も聞く事は無いだろうから。
「それなら早く開けろ!」
「は?」
すると、予想とは違う答えを言ってきた。今さっき危険だから空けることは出来ないよって言ったばっかだよね?それなのになんで開けろ何て言ってくるんだよ。思わずどす黒い声がこれてしまったじゃないか。
「だから開けろと言っているだろう!今回のスタンピードは我々第一騎士団が制圧させるから余計な事はするなと言っている!」
「・・・」
「さあ!早く!これでは出撃が遅れてしまうじゃないか!」
それはあまりにも楽観視しすぎており、前回のスタンピードを忘れてしまったのではないのか?と思ってしまうくらい、脳味噌がお花畑で会った。それに、この人は気持ちが前に出すぎていて、スタンピードを第一騎士団だけで制圧して、成果を独り占めにしようとしているではないか。
なぜここまで自己中な人間が騎士団と言う重要な職についているのか疑問を持たなくてはいけなくなる。最低限誰がこの場で指示権を持っているか考えてから発言してほしいのだけれど。
このスタンピードを対処するのに指揮を取っているのはギルド長だ。これは国のお偉いさんから任された役目で、俺はその指示権を少しだけ分けてもらっており、このスタンピードを治めるためであれば、門外に人をおかないなどの対応をさせることが出来る。
だから、騎士団と言う立場菜のならそう言う誰が上なのかくらい知っといてほしい。そもそも騎士団ってそう言う上下関係が強いはずだけど…もしかして、第一騎士団って脳味噌がお花畑な人だけなのかな?
だって、そろそろ戦いが始まると言うのにこの人は1人でここにいるのだから。
「それは出来ません。」
「俺は第一騎士団のヶ・ノ・ラ騎士だぞ!お前のような小市民が口答えをしてはいけないんだ。わかったら俺の指示に早く従え!」
・・・あ、無理だ。
これ以上この人と喋っていたら、集中できない。無理やり切り上げよう。
「それでは私は準備をしなければ行けないので離れさせてもらいますね。」
「おい!どういうことだ!」
そう言い俺はその騎士から離れて行った。
すると、俺では話が通じないと分かったのか、その矛先は門番へと移っていた。・・・門番さんごめん。でも、これ以上は無理だったの、殴ってしまうよりいい選択だとおもうの!
俺はそう自分の行動を正当化して、ギルド長の所に行くのであった。
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