14話
14話
あ~疲れた。僕は授業ですり減らされた精神を回復するために少し休んでいた。次の受け持っている授業までは少し時間があるから休むことが出来る。・・・それにしても、なんでさっきの授業の生徒はあんなに質問をしてくるんだろう。
さっきぼくがやっていた授業は「魔導基礎」という、この学院では僕以外教師がいない授業なのだ。だから、僕が休むと、その授業が出来なくなってどうしようもなくなる。だから休むにも休めないのだが・・・知識欲高い人が多いから辛い。
だって、教えるのにも優先順位があるから、ある程度端折って教える事があるけど、その端折った場所を質問してくるから・・・それを教えないのもダメだと思って、何とか教えるんだけど・・それに、まだ授業が始まったばかりで間違った情報を見てしまう事があるから、困るんだよね。
いやね、魔導に関してはまだ研究が進んでいないから、間違った情報が出回ってしまう事が多々あるんだよね。中でも詐欺師の様な手口を使って間違った知識を売っている人がいるのを知っている身としては、あまり僕以外の情報を取り入れないでほしいんだよね。
だから、「魔導基礎」の授業では出来るだけ質問に受け答えしているんだけど・・・。まあ、それが疲れる疲れる。
・・・はぁ。
僕はその事を思い出して思わずため息が出てしまう。
あっ!そう言えばそろそろ飲んどかなきゃな。
僕は何かを思い出し懐から質のいい布に包まれた瓶を取り出した。その瓶はどこかの商品なのか、瓶の側面に凹凸がついており、その凹凸は何らかの模様のようであった。だが、その凹凸は中の液体によってあまり目立っていない。その中の液体は紫色でドロドロしているようであったからだ。見るだけでは気持ち悪い物が入っている事しか分からない。
すると、僕はその瓶の中に入っている物質をちゃんと知っているので躊躇なく飲み干した。
「ふぅ。やっぱ効くね。」
その瓶の中身は「魔力回復薬」である。僕の呪いである、「制限」の対策のためにやっとの思いで最近完成させた技術の集大成。この魔力回復薬を作るのにかかった期間は優に5年は超えている。それくらい頑張った代物だ。
最初に、この魔力回復薬の構想が出来た時、やっと「制限」の呪縛から解かれるんだと興奮したよね。
まあ、だけど想像よりも回復量が少なくて大量に魔力を消費したら回復しきれないだろう。それに、この魔力回復薬って意外と制作のに時間がかかっちゃうから、頻繁には使えないんだよね。・・・加えて僕しか作れないし。
その制作難易度が、僕くらいの魔力操作レベルまで行かないと製薬のせの字も見えてこないくらい作るのが難しいのだ。そのおかげで、この魔力回復薬の商標登録をしたとき机上論だと馬鹿にされたくらいだ。
まあ、それくらい作るのが難しい。その割には回復量が物足りないから作ろうと思う人も少ない。・・・魔法界隈にとっては重大な出来事だと思うんだけどな。。だってこの魔力回復薬が一般化されれば好きなだけ魔法を使えるんだから。・・・好きなだけ魔法が使えるようになったら、法律関係の整備とか大変そうだよな〜。
僕はそんなふうに呑気にしていると、横から声をかけられた。
「ミツキ先生こんにちは。」
「こんにちは。」
そこには先ほどの授業で何度も質問をしてきたミルナさんがいた。ちなみに、質問をしてきたからと言って嫌な人だとかは思っていない。ただもう少し静かに授業を聞いていてほしいなと思っているだけだ。
だけど、なまじ成績はいいから静かにしろとは言えない。だって僕が静かにしろと言って成績が落ちたら責任取れないもん。
「今お時間は開いていますでしょうか?少し先ほどの授業での疑問を質問させていただきたいのですが。」
・・・また質問か~。まあ、生徒一人にしか聞かれていないと考えたらさっきよりはストレスが少ないけど。それに授業時間とかも考えないでいいからね。
「何かな?」
「先ほどの第四内魔力の「安定」が沈下する条件と、第一内魔力の性質である「全て」に関して聞きたいです。」
「あ~。」
僕は思い出すように頭を回し、一息置いた後話し始めた。
「第四内魔力に関してはまだ研究途中の所が多いからぼかすところもあるだろうけど・・・「安定」はその物質をその環境その状態の中で最適な状態にしてくれるんだ。例えば、暑かったら汗をかくでしょ?それは体のシステムがそうしてくれているんだけど、偶にそのシステムが弱ってしまっている人がいるんだ。後天的にも先天的にも。
ただ、そんな時に第四内魔力が体の中に存在していると、その魔力を使って修理。元言い安定した状態にしてくれるんだ。
それが、基本的な第四内魔力の性質。」
「はい。だから稀に魔力を使っていないはずなのに減っている状態があるんですよね。」
数週間前に授業をしたから覚えていたのだろう。こういう風に自然と覚えてくれているのは嬉しい。授業で聞いても、実際に思い出せる人とか、そもそも使えないは多くいるからそう考えると、ミルナさんは優秀なんだろう。
「そう。それでなんで「安定」が沈下するかだったよね?それは・・・簡単に言えば、「安定」の性質では治すことが出来ない事が起きたからだ。例えばさっき言った、風邪。風邪は体の中にウイルスという物が入ってきて、悪さをするんだけど、その状態は「安定」した状態ではないから、第四内魔力が出てくるんだ。
だけど、さっきも言った通り「安定」の性質では治すことが出来ない。それはなんでか分かるかな?」
「えっと・・・分かりません。」
「うん、「安定」の性質は基本的に回復する事で治すんだ。だから、ウイルスをどうにかする事は出来ない。もしウイルスに悪さをされた場所を治してもその元凶がどうにもなっていないなら、それは安定とは言えないんだ。
だから、と言うべきか。第四内魔力の「安定」は一度活動を停止する。それは第四内魔力の機能として存在しているんだ。そして安定が停止すると、もう一つの性質である「破壊」が出てきて、ちゃんと破壊する対象を選別した上で破壊をする。
「一種の免疫機能だと思えば良いのかもね。ここまでは理解した?」
「はい。安定が沈下するのは第四内魔力の機能なんですね。」
「そう、そしたらなんで第一内魔力と結合した時「安定」が沈下してしまうかと言うと・・・その機能が発動したからだ。」
「?」
・・・ここに関しては結構感覚的に受け取らなければいけないから分からなければしょうがないだろう。
「そもそも結合という現象は本来人間に与えられた現象ではなく、自然に環境に与えられた現象なんだ。だから、僕たち人間はその環境に与えられた機能を勝手に使っているだけ。そして、人間から生成されている内魔力はこの現象を知らなかったおかげで、風邪の様な物と勘違いしているんだ。だから、第四内魔力はこの現象に対しての正しい対処法が分からず、治すのではなく「破壊」をして対処しようとしているんだ。」
つまりだ。結合とはいわばハッキング的な行動。本来はありえない挙動をしているからそれに対して、正しい処置が出来ずに誤作動が起きている。今はそんな状態。
「・・・なんとなくですが理解出来ました。ありがとうございます。」
「うん。今は何となくでもいいよ。今度魔力の実験を授業で皆とするからその時にちゃんと理解できるんじゃないかな?」
僕はそう伝えると、次の話題へと移った。次の授業まではまだそれなりに時間が残っているので余裕を持って質問に回答できる。
「それで、第一内魔力の性質についても聞きたいんだっけ?」
「はい。あまり理解できていないところが合って・・・。」
そこで僕は一つ疑問に思った事があった。いや、今疑問が出来たわけではない。ただ前からあるその疑問が今明かされるのではないかと思っているんだ。
「・・・そういえばさ。ミルナさんは「魔力Ⅵ」は履修したんだよね?」
「はい。魔導基礎を取るのに必須だと聞きましたので。」
ミルナさんはなんでそんな当たり前のことを聞いているのかと疑問に思っているようであった。魔導基礎の教師である僕が言ったのだからしょうがないが・・。
「その「魔力Ⅵ」では今僕の授業でやっている内魔力とか自然魔力とかは習わなかったの?」
僕が聞きたいのはこれだ。だって、今は僕の授業で魔力に関して教えているが・・そもそも魔力に関して教えるのは僕の授業ではなく、「魔力Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ、Ⅵ」の教科だ。確かに内魔力とか外魔力は割と考え方として難しく魔法では使わない事が多いので、Ⅳまでの授業では教えない事が多いのだが・・・ⅤⅥは、ちゃんと授業の内容に入っているはずなんだ。
だから、ちゃんと教えられた上で僕の「魔導基礎」の授業を取っているはずなんだけど。・・・ちゃんと覚えてきていた人はいなかった。まあ、生徒の中には僕のファンです!みたいな人で論文を熟読してきました!という人は居たがそれは例外として。
まあそんなわけで、僕の授業に来るはずがない人が来ているのが問題なのだ。最近できた分野とは言ったが魔導基礎は教える事が多く、魔力に関する事に時間を割く事は難しいのだ。これでは本来の授業に入るまで数か月かかってしまう。
でも先年はしょうがなくやってきたが・・・流石にダメだ。このまま無駄な時間をかけるのは僕の精神的にも辛くなる。
「・・・教えられた覚えはありません。教科書には最初の方に書いてあったので重要なのかと思っていましたが、授業では飛ばされていました。」
僕はその言葉を聞いたとき頭に血が上ってしまった。だが、これはしょうがない。あちらの契約違反なのだから。
「・・・少し用事が出来た。質問はまた今度答えるから僕が空いている時に声をかけてよ。」
その怒り有り余る声でミルナさんにそう言って、僕はとある所に歩いて行くのであった。その声はもう耐えられなくなった事を忠実に理解できなくなるようなものである。
「あ、分かりました。」
最後に聞こえた声は少し寂しそうな物であった。だが、その声は僕には届いていなかった。
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